夜勤病棟 Karte.9

 ストーリー・取調べを受けた児玉は比良坂と関係をもった看護婦の一人として藤沢亜子の名前をあげた。早速、一人の若い刑事が彼女の実家に乗り込もうとする。彼が門をくぐろうとしたその時、警部が彼の軽率な行動に歯止めをかける。上からの圧力がかかったのだろうか?刑事は納得いかない顔をして、藤沢の身辺操作を諦める。一方、藤沢亜子は、刑事たちの行動にまるで無関心であるかのように、一人竹林の茂みの奥深くでオナニーをしていた。




 ・夜勤病棟シリーズの第9作目。この作品はKarte. 7に匹敵する、あるいはそれ以上の駄作である。思えば、夜勤病棟シリーズほど、シリーズ毎の出来の浮き沈みが激しいシリーズはない。Karte. 4(傑作)→Karte. 5(駄作)→Karte. 6(傑作)→Karte. 7(駄作)→Karte. 8(傑作)→Karte. 9(駄作)と私はみなしている。これは偶然であろうか?Karte. 4以降、偶数番号が傑作で、奇数番号が駄作という法則が成り立つ。もし、夜勤病棟シリーズ全体が奇数番号のクオリティーでしかなかったならば、私はこのシリーズに見向きもしなかっただろう。ちなみに、第2部最後のKarte. 10にはこの法則が適用されず、残念ながら、それは駄作である。アダルトアニメの興隆を根本から支えてきた大作シリーズの第2部が、このように尻つぼみで終わってしまったのは非常に残念である。最近のアダルトアニメ市場の惨状を考えると、夜勤病棟シリーズの見るも無残な衰退のありさまは、その伏線だったのかもしれない。
さて、なぜ、私がKarte. 9を駄作とみなしているのかというと、製作者はエロに重きをおかず、すでに破綻したストーリー展開のつじつま合わせに躍起だからである。刑事たちの捜査はどのような顛末を迎えるのか、比良坂の過去には一体何があったのか、製作者はKarte. 9及びKarte. 10で必死になってこれらをまとめようとしたのだろう。しかしながら、1時間弱の短い時間で強引にまとめようとした結果、見事に玉砕したように見える。そもそも、私はKarte. 5で七瀬が比良坂を殺したことに納得していない(私
のKarte. 5のレビュー参照)。だから、七瀬が警察に捕まった後のKarte. 6以降のストーリーなんてどうでも良かった。Karte. 8は、ストーリー展開は散々でも、エロシーンのすばらしい出来により、アダルトアニメ史上、指折りの傑作になったのだ。アダルトアニメはエロシーンさえすばらしければ、ストーリーなんてどうでも良いことを夜勤病棟シリーズの製作者は自ら証明したではないか。それに比べて、Karte. 9のエロシーンはエロくなく、時間も短い。これは一体どうしたことだ?エロくなくても、ストーリーがまあまあというアダルトアニメは確かに存在する。このようなアニメは、それらがエロアニメであるという以上、褒められるべきではないが、見て、後悔することはない。一方で、エロくなくて、ストーリーも駄目なアダルトアニメは弁解の余地がない。残念なことに、私はこれらにしばしば遭遇する。Karte. 9は、はっきり言ってその類である。
それでは、Karte. 9の内容について具体的に順を追って説明する。Karte. 9をまだ見ていない人はネタバレに注意してもらいたい。一人の若い刑事が藤沢亜子の身辺捜査を始めようとする。やる気まんまんな彼とは対照的に、警部は彼の行動をたしなめる。どうやら上層部から圧力がかかったらしい。亜子の父、藤沢製薬の社長が裏で手を回したのだろうか?それにしても、こいつら、なぜ自殺した神宮寺成美の名前をあげないのだろうか?これも上層部からの圧力なのか?また、新城礼美が医療ミス隠蔽により捕まった今、彼女の方面から七瀬恋による比良坂竜二殺人事件を掘り下げていってもいいんじゃないか?医療ミス隠蔽は、いくら彼女が婦長であるといえども、彼女だけの責任ではないはずだ。病院ぐるみの犯罪に決まっている。そして非常勤にすぎない比良坂がなぜ一部の人間にしか知られていないはずの医療ミス隠蔽の事実を知っていたのか?これらを紐解いていけば、自ずと、比良坂殺人事件だけでなく、聖ユリアンナ病院の深い闇が明らかになるはずである。医療ミス隠蔽事件は、いくらなんでも上層部の圧力でどうにかなるものではないだろう。ちんたら、ちんたら捜査を進めているこいつら、刑事たちは一体何なんだ?正直、こいつらが出てくる度に、私は不快になってしまう。
場面は変わって、藤沢亜子が久しぶりに登場する。いつの間にか、彼女は看護婦を止め、しかもどこかの坊ちゃんと結婚するらしい。亜子とその坊ちゃんのエロシーンがちょっとの間続くが、Karte. 8のエロシーンに比べると、普通すぎて全くエロくない。最後に、亜子が浴槽内で脱糞するが、このシーンも手抜きで、お約束だから仕方なくといった印象を受ける。私はこの時、嫌な予感がした。なぜならば、これはKarte. 7の展開と非常に良く似ていたからだ。Karte. 7は、新城礼実の脱糞シーンの後、ずるずると惰性でストーリーが展開した。残念なことに、私の予感が的中してしまったことは言うまでもない。
亜子の脱糞シーンの後、再び刑事たちが登場する。こいつらはどうやら今回のメインキャラであるはずの亜子を差し置いてまで、自分たちの出番を獲得したいらしい。そして、私が前述したように、比良坂殺人事件の手がかりは十分にあるはずなのに、彼らは手がかりがない、手がかりがないとわめき散らす。礼美の医療ミス隠蔽に関しては、警部の「新城礼実に関しては思わぬ展開になったが・・・」という一言で一掃され、今後、礼美が物語に絡むことは一度もなくなる。結局、殺人事件の真相を知っているのは、比良坂を殺した張本人、恋しかいないと勝手にこいつらは結論付ける。そして、女刑事が、衝撃的なことを言う。「彼女は妊娠していたのよ。」と。最初、私がこの言葉を聞いた時は、結構衝撃を受けた。しかし、よく考えてみれば、不思議でもなんでもない。比良坂はコンドームもつけず、恋の膣内に中出しばかりしていた。彼女がいつ妊娠してもおかしくないのは当然だ。恋以外の看護婦、礼美、亜子及びひかるだって妊娠している可能性は十分にあり得る。Karte. 8の恋の嘔吐の原因は決して胃衰弱であったからではなく、妊娠によるつわりのためだったのだ。アダルトアニメの男は女の膣内に容赦なく中出しするやつが多いが、妊娠ネタはほとんどない。夜勤病棟が妊娠ネタをまさか使ってくるとは思わなかったので、そう言った意味で、私は衝撃を受けた。
物語は再び、亜子のシーンに戻る。彼女は自宅の竹林の茂みの奥深くでオナニーをしていた。そして過去を回想し始める。針金でそれが肌に食い込む程きつく縛られた亜子が痛みに苦しみながらも、性的興奮を覚えるというシーンである。斬新ではあるが、どうも退屈に感じる。やはり、夜勤病棟の醍醐味は脱糞に尽きる。脱糞の無い夜勤病棟はただのアダルトアニメにすぎないことを実感した。
亜子のつまらないエロシーンの後、刑事たちが再々登場する。Karte. 7以降、どうも場面が短時間でころころ変わって、落ち着かない。刑事たちの捜査シーン(主に、恋の取調べ)と女たちの回想シーンが交互に展開し、しかも、それらの時間軸があいまいなので、全体の流れがつかみにくい。Karte. 6以降の刑事たちの登場自体が夜勤病棟シリーズにおいて大きな過ちだったと私は考えている。その刑事たちがとんでもなく滑稽な発言をする。取調べ中の恋が神宮寺医局長の名をあげた時、彼らは驚いたそぶりを見せ、「医局長!?あの比良坂が屋上から飛び降りた時に自殺した!?」と言った。彼らの態度から察するに、彼らは今回の事件の比良坂に次ぐ最重要人物、神宮寺成美の存在自体すっかりと忘れていたようだ。彼らが成美方面から事件を捜索しなかったのは、上からの圧力ではなく、ただ単に彼女を忘れていただけだったからのようだ。マヌケすぎるぞ、刑事!現実ではあり得ない失態だぞ、刑事!比良坂に毒を飲ませ、彼の肌をメスで切り裂き、挙句の果てに彼を屋上から突き落とした狂気の殺人未遂犯、成美の存在を忘れていたとは!馬鹿な刑事はひとまず置いといて、恋は比良坂の自宅で成美と会話をしたらしい。実は、成美が比良坂の自宅を訪れるシーンがKarte. 5でほんの数コマではあるが、存在する。
意識していなければ、見逃すくらいの短いシーンだ。Karte. 5でまさかKarte. 9の伏線を用意していたとは、AT-2 PROJECT、恐るべし。
恋と成美の会話の回想シーンが終わると、またところ変わって、亜子のシーンが始まる。毎回、何か珍しいことをやらかしてくれる比良坂先生は今回、屍姦に挑戦する。亜子は心停止の仮死状態であったわけだから、正確には屍姦ではないと言えるのかもしれない。だからこそ、ビデ倫の審査を通過できたのであろう。心停止の女とのセックスというかなり珍しいシチュエーションではあるが、残念ながら、エロくない。端的に言ってしまえば、比良坂は全く表情を変えない亜子とセックスをするだけである。鬼畜物において、残虐なだけではエロさをかもし出せないことをこのシーンは教えてくれる。犯される女の表情の変化、これはエロの度合いにおける重要なファクターであるということを認識した。もちろん、亜子はその後、比良坂の荒療治のおかげで命を吹き返すことになる。
恋はKarte. 6で、礼美はKarte. 8で、ひかるはKarte. 8で大活躍した。Karte. 9の残り8分弱で、今まで不遇な待遇を甘んじてきた亜子を大活躍させてくれと私は心から願ったが、残念ながら、製作者は私の期待を見事に裏切ってくれた。亜子はもう二度と出てくることはなく、静かに自分の幕を閉じた。シーンは再び恋の取調べに移った。恋の取調べシーンを私は一体何回見せられたことか。もううんざりだ。
いい加減にしてくれと画面に向かって叫びたくなった。私の苛立ちをよそに、刑事は大川直也について言及し始めた。大川直也、なつかしい名だ。彼は恋の元恋人のプロボクサーである。彼は夜勤病棟シリーズで最も不遇な登場人物のうちの一人だ。彼は、ヤクザに犯されそうになった恋を救うために、ヤクザをこてんぱんにした。あごを割られたヤクザの仲間は、直也本人ではなく、恋を脅して、彼女から口止め料をせしめていた。直也は彼女がヤクザに脅されていることに全く気づいていなかった(彼はかなり鈍い男であるようだ)。比良坂はプロボクサーが素人を殴った犯罪性に着目し、これをネタに恋を脅して、彼女を自分のものとした。直也は自分の恋人を守るために罪を犯してまでも戦った。それにも関わらず、肝心の守った女は他の男が好きになり、しかも彼女は今では殺人者だ。ところで、恋を脅していたヤクザは、今はどうしているのだろうか?今度は直也の通っているジムを相手に金をせしめているのだろうか?また、直也は現在恋のことをどう思っているのだろうか?ひかるは恋を相当憎んでいたが、直也もまた彼女を憎んでいるにちがいない。自分の将来をぼろぼろにした疫病神とさえ彼は思っているだろう。直也がマネージャーを通して、刑事に送ってきた簡素な内容の手紙、「(私は今回の事件について)何も知りません。」は彼の心境を如実に語っている。直也の話が終わった後、女刑事がマヌケなことをぬかす。「神宮寺の自殺理由は不明です。」いくらなんでもそれはないだろう。比良坂が血まみれで倒れていた、そしてその隣で彼女が死んでいたという状況証拠はいくら何でも残っているはずだ。比良坂と神宮寺がただならぬ関係であったことはその証拠だけでも十分に察してあまりあるだろう。製作者は
サスペンスドラマをかなり意識して、ストーリーを作っているようだが、サスペンスドラマにしてはあまりにも粗が多く、出来が悪すぎる。夜勤病棟を擬似サスペンスドラマにした製作者の罪ははかりしれない。
恋の取調べシーンが終わった後、なぜか時間が後戻りし、恋との会話を終え、比良坂の自宅を去る神宮寺の回想シーンが始まる。そこには、学生時代の比良坂と神宮寺がいた。学生時代の比良坂がどのような変態野郎であったか、結構興味深かった。6分弱でどのようなエロシーンが展開されるか、最初はわくわくしたものだ。しかしながら、エロシーンは一つもなかった。サスペンスドラマの次は青春群像を描くメロドラマにでも製作者は挑戦したかったのか?また、エロシーンがない代わりに、解剖実験の死体や飛び降り自殺をして死んだ女の死体が描かれている。このアニメはいつからエロアニメではなくて、グロアニメになったんだ?学生時代の比良坂は、予想外にも生真面目な好青年であった。彼は神宮寺に向かって「僕は女性を大いに尊敬している。なぜならば、人は全て女性から生まれ出る。人類の歴史は女性が作ってきた。絶えることなく生命を生み出す神秘的な存在に僕は心から敬意を表する。だから、僕は婦人科を選んだ。」と真顔で話した。まさか彼からこんなセリフが飛び出てくるとは夢にも思っていなかった。彼はフェミニスト(生殖、出産及び母性を重要視する古典的なフェミニストではあるが)だったのだ。この設定にはかなり不満があるが、彼は学生時代にはそのような考えを持っていたと無理やり納得しよう。では、彼はいつから豹変したんだ?あのような変態になったのには何らかのきっかけがなければ、説明がつかない。Karte. 10で、彼の豹変について何らかの説明があることを期待したが、残念なことに、全くなかった。それならば、彼は神宮寺を油断させるために思ってもいないウソをついたのだろうか?彼のフェミ発言の後、偶然にも女が彼らの近くで飛び降り自殺を図って死んだ。救急車が彼女を連れ去った後、彼は涙を流しながら、「馬鹿だ!自ら命をたつなんて・・・精子と卵子の奇跡のような出会いを経て生まれてきた命なのに・・・」と言う。このセリフも涙も全て演技なのか?私はそうとは思わない。彼は豹変後、嘘はよくつくが、人を騙せるような器用な人間ではなかった。彼は学生時代、間違いなく変態野郎ではなかったのだと私は思う。製作者が学生時代の彼を生真面目にした理由が私には分からない。私は、学生時代から彼を変態にしていたほうが良かったと思う。なぜならば、比良坂が生真面目だった場合、彼が変態になった理由を説明しなければならないからだ。製作者はKarte.10で彼の豹変の理由を説明することを放棄した。彼はいつの間にか変態になっていたのだ。ならば、製作者がKarte. 9で6分弱の貴重な時間を使って、エロシーンも一切放棄して描き出した学生時代の生真面目な比良坂の描写意義は一体どこにあったというのか?Karte. 9後半の神宮寺の回想シーンは全くの蛇足であったとしか言いようが無い。
最後に、私のとりとめのない文章に付き合ってくれた皆様に感謝したい。このレビューは夜勤病棟の欠点をあげつらっては、貶しているだけに見えるかもしれない。しかし、これは私が、辛口レビューが好きなのと、夜勤病棟シリーズに対する愛に起因する。夜勤病棟シリーズのいくつかは、間違いなく数あるアダルトアニメの中でもダントツのクオリティーを誇っていると私は思う。しかしながら、シリーズ化は、たとえどんな作品であろうとも、絶対に一つは駄作を生んでしまう。どんなに好きなシリーズでも、駄作は駄作と断言するのが私のポリシーである。Karte. 9の抜ける度は2である。
(りぷとー)


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