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序章
一握りの特権階級者が多くの平民を支配化におき続ける上で、その支配の絶対性が疑われる事があってはならない。景気が低迷すれば税を搾り取られる平民の反感も自ずと高まる。手詰まりになった政府は悪魔との取り引きを交わす。―――ドラッグの密造―――そしてその犯人役として少数民族(マイノリティー)の一つであるバドールを利用した。薬漬けのジャンキーにしたバドールを使ってドラッグを売買し資金を確保すると共に民衆の怒りの矛先をそらす効果的なやり口であった。バドールをいわゆるスケープゴートに仕立て上げたのだ。結果バドールは政府と民衆の両方から迫害を受ける事となり、国中に散ってひっそりと隠れるように生きていた。そんな中政府が影で糸を引いていた事実を突き止めたバドールはとうとう反撃を開始、テロによる独立戦争に突入した。だがそれまでのバドールに対する民衆からの差別は根深く、全て政府の差し金だったという主張もほとんど受け入れられなかった。国全体を敵に回しながらも、バドールは民族の誇りをかけて戦っていた。
バドールの諜報員フェリアは弟のリイスと共に帝都ディトレに潜伏していた。感謝祭の騒ぎに乗じて総統襲撃の準備を進める中、宿の主人の密告で治安維持軍が深夜にかけつけた。帝都ではテロ因子であるバドール逮捕に貢献した者には多額の報酬が出る事を重々承知していた二人だったが、退役軍人の主人が一枚上手だった。兵が二人の部屋を包囲した時リイスは眠っていて、フェリアは見張りとして起きていた。薄明かりの中、フェリアは穏やかに眠る弟の顔を見遣った。こんな所に連れて来たくはなかったが、仕方のない事だ。弟も民族の使命を背負い、覚悟を決めて来ているのだ。
次の瞬間、ドアを蹴破って兵士たちが飛び込んできた。フェリアは素早い反応で腰の銃をとった。だが銃を敵に向ける事はできなかった。複数の銃口に包囲され口唇を噛み締める。背後で声がした。
「こっちだ！」
ハッと振り返ると、リイスが立ち上がって爆薬を手にしていた。左手の中の危険物を掲げる。
「一緒に消し飛びたくなかったら…」リイスは全て言い終える前に包囲している兵の一人に額を打ち抜かれた。
「…ッ」
弧を描きリイスはベッドに仰向けに倒れた。
「リイス！！」
爆発はなかった。兵士たちは爆発の恐怖に惑っていた。
「撃つな！」
指揮官らしき女が叫んだ。フェリアは弟に駆け寄ると、放心したように肩を落とした。即死だった。フェリアがとっさにリイスの爆薬を取ろうとした時、今度は指揮官らしき女が発砲した。
…背中から撃たれ、弟に重なるようにしてフェリアは倒れた。
「何を考えている？！」女が最初に発砲した兵の胸座をつかんだ。
「爆死するのは貴様の勝手だが、他の兵を巻き込むな！…」
フェリアの意識は途絶えた。
本編
気が付くとフェリアは石造りの部屋にいた。窓はあるが光が入らないのは地下だからだろうか。仰向けに寝ていた身体を起こそうとしたができなかった。四肢をほとんど動かせない。正確には手首と足首に鋼鉄の輪がかけられ、それが身体を大の字に拡げるように鎖で４か所の楔(くさび)に繋がれている。
「身の潔白を明かせるかしら」
声の方にはフェリアを撃った女がいた。室内の明かりはランプのようなものが使われていて少し離れると相手が見えない。にわかに昨夜の事を思い出す。背中を撃たれた筈だが傷の感触が妙だ。
「…麻酔…銃？」
「捕まえた方が色々便利だもの。彼氏は不運だったけれど」
そうだ、リイスは…。フェリアは険しい顔をした。どっちにしても助かった見込みはなさそうだ。
「部屋にあった大量の爆薬の理由をうまく説明してくれたら解放してあげるけど」
女は微笑した。その場にいる二人の兵士より帽子が少し豪華で、軍服も黒みがかっている。長い黒髪を首のあたりで束ねて、手の中では煙草を遊ばせていた。
「黙秘権を行使する？」
「……」フェリアは女を睨んだ。
「悪いけどバドールに権利なんてないのよ。傷付けるには勿体無い身体みたいだけど、国の治安を守る為よ。潔くあきらめる事ね」
体付きなら女の方が勝っているだろうが、確かにフェリアは外見的には恵まれた方だと言っていい。どちらかというとリイスの方が母の美貌を受け継いでいたが、髪や瞳の赤茶は母親譲りだ。
「帝都治安維持軍大尉、レセキア＝クラインよ。もっとも、あなたをうまく料理できれば佐官への道が開けるかも知れないわ」
そう言って彼女は煙草の煙を吐き出した。
とにかくフェリアは身動きが取れない。そして、この後あまり楽しい展開が待ってるとも思えない。
助かる見込みは？
一瞬だけレセキアを見た。限りなくゼロだ。バドールは奴らには悪の化身でしかない。命乞いをしてまで生き残るつもりもない。余計なことをしゃべる前に舌を噛み切るか？そうするとフェリアの気掛かりは一つ。父の戦死もあって、母は戦いに反対していた。リイスが死んだ今、母の身内は自分一人だ。詳しい内情は知らぬで貫き通せたら、その後はもしかしたら捕虜収容所などがあって生き長らえられるかも知れない。何か違った過酷な労働を強いられるとしても生きていなければならない。今は少しでも望みをつなぐべきだ。
フェリアは改めてレセキアを見つめた。視線が合った。
「そうね、とりあえずあなたの名前は？」
「……」何も喋らないとあっさり殺されそうだ。自分が知っているのはここまで、という印象をどこかで与えねばならないが、すんなり自白しても嘘くさい。最初の一言の前にある程度頑張るべきか…？
「ねえ、アタシは名乗ったんだから、それくらいするのは礼儀じゃない？」
「…フェリア＝ヴァーゼル」
必要以上に頑固になると機嫌を損ねるだろうと判断した。
「いくつ？」
「は？」
「年齢(とし)は？」
「…２１」
「若っ」
バドールでは１０歳過ぎの子供も戦場に出る。それ程若手という意識は無い。
「潜伏してた目的は何？」レセキアは新しい煙草に火を点けた。
「……」それでは少し脈絡というものが無い。
「…て言うのは直接的過ぎね？じゃあ質問、ビンのフタが固くて開かない時はどうすればいい？」レセキアは陽気に尋ねた。
「？…お湯で温める？」
「正解」そう言って悪戯っぽく笑うと、レセキアは部屋の外に呼びかけた。
「準備できたー？」
するとすぐに別の兵士が、やかんと共に現れた。
やかんからは蒸気が出ている。今までに火にかけていたのだろう。
「ご苦労」やかんを受け取って、そのまま動けないフェリアの上方に移動した。
…口にかける気か？と身構えたが、違った。
やかんの熱湯は、勢いよくフェリアの股座に降り注いだ。
「え？…やっ、あっ、あうっ！や、いや、ああっ！！熱…！」
驚いたのも束の間、湯はほんの一瞬でスカート、下着を貫通した。
鎖に繋がれた手足を必死でバタつかせてフェリアはもがいた。
「くっ、ううっ！ん、ああっ！やああ！」
無機質な部屋にフェリアの叫びと鎖の激しい金属音だけが響く。
やがてやかんが空になると、無表情でレセキアが尋ねた。
「それで、潜伏してた目的は何かしら？」
「…、…」フェリアは息を整えながら、気持ちも落ち着けようとした。
「ビンのフタはまだ固いみたいね…。ねえ、もう一杯！」
同じ兵がすかさず次のやかんを持って来た。熱湯のショックもあったが、フェリアにはレセキアのこの遊び半分な態度が屈辱的で許せなかった。ふざけた奴の思い通りになるものかと、フェリアは逆に闘志を燃やした。
「じゃ、二杯目いいかしら？」さあいくぞとばかりにレセキアはやかんを構える。また同じ場所へ。
「……！」フェリアは視線で応えた。
「なかなか反抗的じゃない？いいわ、それならそれならダイレクトに熱いのをあげる」
言うや否や、レセキアはフェリアのスカートをめくり上げ、下着をずり下ろした。
「なッ…」フェリアがうろたえるのも気に留めずレセキアは二杯目を注いだ。
「ん、んんっ！」
局部に直撃を食らってフェリアは一瞬仰け反ったが、それきり身体を引き締めてじっと堪えた。彼女なりの意地の抵抗だった。
「どうしたの？素直に苦しがればいいのに」
フェリアは奥歯を噛み締めて耐えている。
「ちょっとは何か反応してくれないとアタシが退屈するでしょ？それにバカみたいじゃない！」
痺れを切らしたのか、レセキアは力一杯フェリアの股間を蹴飛ばした。
「んあっ！…んん！…んうっ！！」
たて続けに蹴りを入れる度フェリアはうめいた。やかんも揺れて上半身にも湯が飛ぶ。
「素直じゃないのね…。もっと刺激的なのがお好みかしら」
レセキアは怒り気味に、まだ少し湯の残ったやかんを放り出すと、一度部屋から出た。残った二人の兵士がやかんを片付けたり床を拭いたりしている。この場の兵は皆女性で固められていて、慣れた手際のよさで作業を進めている。
呼吸を整えながらフェリアは思った。「今度は私の勝ちね」と。だが誇らしい気分にはなれなかった。局部を全開の状態で放置されて、フェリアもまた激しい怒りに燃えていた。
フェリアの服装ははだけてしまったが、他は街に入り込んだ時のまま、帝都の一般的な若者のスタイルと言える。黒いTシャツに軍服をモチーフにした上着というのが挑戦的ではあるが、生地の薄いグレーのスカートは都会的な丈の長さだ。
ほどなくレセキアが小箱を抱えて戻って来た。なんだかやる気満々だ。笑顔を作ると
「あなたの下半身は意識不明のようなので、電気ショックで活性化しようと思います」
スタンガンを取り出した。さすがにフェリアも動揺する。
「ちょ、ちょっとソレって…やっぱり…」
レセキアはスイッチを入れた。取り付けられた二枚の金属板間に青い稲光が走る。
「ああ、大丈夫よ。気絶されても仕方ないし威力は抑えてあるわ」レセキアは勝ち誇った。
弱みを見せまいとフェリアは恐怖を顔に出さないよう努めたが、隠し切れない。レセキアは追い討ちをかける。
「心配ないわ。丁度いい刺激であそこも元気になるかも」
「あ、その、ちょっと待っ…」
「え、待つ？お話する気になってくれたかしら？」そう言いながらレセキアは、放電するそれをフェリアの剥き出しの局部の前でちらつかせた。獣は今にも飛びかかる。
だがフェリアは挑発されて逆に強気になった。「いえ、何でもないわ」
「あら、そう」レセキアは何のためらいもなく即座にスタンガンを押しつけた。
「…！ああああッ！…ん！んあっ！ああッ！」
フェリアは精一杯背中を仰け反って顔を反らせた。
「どう？とっても刺激的でしょう？元気になったかしら？」
「…！んん！…んううッ！」水から出した海老の頭と尻尾をピン等で固定したらこんな風に飛び跳ねるだろう。
「もっとお腹の底から叫ぶのよ、ほら！」金属部分を局部の素肌にぐいっとねじこむ。
「ああッ！！…いや、ダメ！んああっ！あっ、もう…やめ…ひああ！！」
もうフェリアは限界だった。しばらく叫ばせると満足したのか、レセキアはスタンガンを離し、さらに鋼鉄の輪を外して服も整えてやった。
解放されて座り込んでもまだ荒い息で、フェリアは涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。
「もう充分でしょ。バドールの意地は見せてもらったわ。でも仕事は仕事だから。所詮アタシたちは命令に従うしかできないのよ」
レセキアが急にまともな事を言ったので、フェリアもそろそろいいかと思った。
無論、本当の事を語る気など毛頭ない。嘘の自白をしてもいい頃だと思ったのだ。姿勢を整えてあぐらを組み、ひとつ深呼吸してから
「私たちはね、…」疲弊しきった様子で切り出した。その点に関しては演技は要らなかった。
「帝都内に活動拠点が欲しかったの。今一番都に近い所からでも３０分では着けない…」
「確かに、この軍事政権下じゃ出入りするだけでも一苦労でしょうね。…あなたの軍事的役割は？」
「諜報員。まあ結局斥候だけど…」ここで一呼吸演技する。
「北西地区では中枢に近いわ。管轄内の事はだいたい把握してる」前半は事実だが、後半は嘘だ。彼女はバドールの幹部候補で、国中を駆け回っている。嘘の中に適度に真実を混ぜるのは常套手段である。自白の内容は、レセキアが自分で録音をとった。
一通り話を聞き終えると、レセキアは煙草を揉み消して言った。
「残念ね」
その一言を合図のように、外に待機していた兵士が二人戻ってきて、フェリアに機関銃を向けた。
「私は用済み？」フェリアの顔に険しさが戻る。
「いいえ、でも嘘をつかれたら誰だっていい気はしないわ」
「嘘なんて！」
「フフ、身体の方が正直なものだわ。…あ、そうゆう意味じゃなくって」
身体はクタクタだったが、フェリアに闘志は戻っていた。真実を秘めているうちはまだ負けじゃない。
「今度はこちらへどうぞ」銃を向けられたまま歩いて廊下を進んで、別の部屋に誘導された。未だに自分が何処にいるのかはわからない。先程と同じような所で、木の椅子の背もたれに腰を、背もたれの後ろで両手を縛られた。脚が目一杯開いた状態で太腿のつけ根をガッチリ鋼鉄の輪に固定され、固定されていると言えば椅子自体も床に固く貼りついていて、頭と足の先を除いて身体の一部はおろか椅子もろともに動くこともできない。
「拘束がキツくなったと思うけど、我慢してね」レセキアはもとの調子に戻っている。
「拘束より気になる問題があるんだけど」先程より姿勢が強調されている。
「ああコレ？固定位置高くてうまく下げられないし切っちゃうわね」レセキアはまたスカートをめくり上げるとナイフで手際よく下着を取り除く。
「ヒュー！セクシー！…ところで、重大な質問があるわ」そう言っていったんスカートを戻す。
フェリアは恨めしそうにレセキアを見つめた。
「あなた…まだ処女？」
「……」その質問が来た時点で、であるかないかはもはや意味をなさない。だいたい何をされるかはわかる。
「ま、どっちでもいいか。これを打ち込むから仲良くしてね」
レセキアが小箱から取り出したのは何の変哲もない鉛筆だった。先端は鋭利だが、他に凶悪そうな印象は見受けられない。
「では早速」左手でめくったスカートを押さえておいて右手で鉛筆の先を溝に埋め込む。
「さ、アムロ、いっきまーす」
右手のひらで力の限り押し込む。
「ぁぁあああ！…は、…あぐうッ」
一気に約４分の３を突き刺され、フェリアは口をぱくぱくさせた。とうに処女ではないし、相当に細い代物であるが、その鋭い切っ先はフェリアの奥深くえぐり込んだ。
「まだまだ序ノ口よ」追い討ちをかけるようにぐりぐり押し入れると、フェリアは仰け反るだけで声も絞れない。レセキアは実はこれをかなり気に入っていた。鉛筆という身近な文房具を使うという発想自体が好きだし、鉛筆の端が平たいという形状が生かせる。レセキアは新たに小箱からハンマーを取り出すと、釘を打ち込むように鉛筆の頭へ振り下ろした。
「あ゛あっ…！」
全身を貫かれたような衝撃がフェリアを襲う。「打ち込む」というのは比喩ではなかったのだ。それでもなおレセキアは容赦なく叩き込む。任務とか以前にこの作業が楽しいのだろう。
「あは…んう、い…や、やめ…ああぁ！」
少し深く入れ過ぎたか、フェリアが息も苦しそうにしているのでレセキアは職務に戻った。
「あ、いや悪い悪い」
最初入った時程度に頭から４分の１くらい取り出すと、同型の鉛筆をもう１本突き刺した。
「くうっ！」
ここからもレセキアの好きな作業だ。左右の手に１本ずつ鉛筆をしっかり握ると、両手を３６０度縦横無尽にかき回した。
「いあああっ！！あっ！あっ！や、やめて！！」
フェリアはほとんど泣き叫ぶように言った。この反応の鋭さがレセキアにはたまらなかった。
「ねえ、嘘はもう聞きたくないの」実は見抜いている訳でも何でもない。マニュアルのようなものだ。一回で自白しきる人間もそう多くないので、これ以上搾れないなと思うまで責めるのは鉄則だ。レセキアは両鉛筆を少し深く入れて、これでもかとばかりに左右に割り裂いた。
「いやああっ！あう！いやっ！…も、もう無理…あっ、痛いいっ！」
反応が返ってくるのが嬉しくてレセキアはさらに鉛筆を握りなおすと、上下に勢いよく拡げた。
「ううっ！！あぅ！…っ！ダ、ダメ！…っ、な、何でも、言う、から…だから、あっ、あああっ！！」
最後は絞り出すようにして言うと、ぐったり全身の力が抜けた。気を失ったらしい。
レセキアはひとり思った。ちょっと調子に乗り過ぎたか…？まあでも、おかげでまだ何か情報が出てきそうだし、よしとするか。鉛筆は今まで高撃墜率を誇る伝家の宝刀だったのだが、今回のははたして撃墜とカウントしていいものか、レセキアはそんな事を考えながら煙草に火を点けた。
一服してリラックスしたのはいいがいつまでも休んではいられないので、レセキアはフェリアを起こすことにした。小箱から縫い針を取り出し、指貫をはめるとフェリアの股の中央に狙いを定め、さっき鉛筆を入れたのと同じようにひと思いに突き刺す。
「っ、ああああッ！あん！い、い、あううっ！！いや、痛っ！つうっ…！」
「人が働いている最中に寝るとは何事だ！」傷口を広げるように針をかき回す。
「あ゛うッ！あ゛あっ！！いやああ！」
フェリアは喉を張る程仰いだ。フェリアが起きたのを確認してレセキアは縫い針を引き抜く。根元まで入っても抜けるよう糸を通してある。
針を抜かれた痛みに悶えているとレセキアが尋ねてきた。
「さっきの続き。何を教えてくれるのかしら？」彼女の脳裏には佐官の二文字がちらつき始めたろうか。
もたない…
それが率直な感想だった。或いは死ぬ前に発狂するかも知れない。かと言って本当に自白したところで、どうにかなるとは思えない。母に申し訳ないが、ここが潮時だろうと思った。一瞬で決めるため、フェリアは目を閉じてひと思いに舌を噛み切った。
…その筈だった。しかし何故か歯の感触が柔らかい。さらに力を加えるが、まるで歯が立たない。
「食べ物ならちゃんとあげるわ。大事な人質ですもの。まあその歯じゃ、肉は噛み切れないでしょうけど」
「…！」フェリアは動揺した。
「ゲルを詰めさせてもらったわ。ホントは最初につけさせるんだけど、今回はちょっとバタバタしてて忘れてたのよ。本部には内緒ね？」
吐き出す煙は、もはや邪気さえ帯びているように見えた。
死ねない…
フェリアは絶望に打ち拉がれた。
「ウ…ウソ…」さっきから震えが止まらない。
変わらない調子でレセキアはくわえていた煙草を手に取ると、その火をフェリアの陰核(クリトリス)にこすりつけた。
「ひ、ひいいぃっ！！うあぅ！ううっ、そ、そこはダメ、ゆ、許し…ひいぃっ！！」
レセキアは急所をピンポイントで責めにかかった。効果は抜群だ。
「捕虜に死なれると出世にかかわるのよ。わかる？」
「ひあぁっ！！い、いぃっ！そ、それだけは許し…あああっ！！お、お願いぃッ！」
「アタシも忙しいの。あなた一人にいつまでも構っていられないわ」
ようやく煙草を離すと、伝導率の高い安全ピンを取り出し、針先を再び陰核に押し当てる。
「協力してもらえる？」
もはや屈するしかないのか。
教えてくれ、リイス。
お前なら、どうする…？
「往生際が悪いのね」レセキアは開脚しっ放しで弄ばれ続けたフェリアの股間にとどめの一撃を刺した。
――――
「ひいぃっ！！ひあ！あああっ！いやっ！！嫌、痛い…ひっ！」動けない身体を必死で揺らす。
「さ、ピンポイントで電圧を食らいたくないでしょ？」レセキアは安全ピンを閉じ、そそくさと電極をつなぐ。電極はさらに、黒い直方体の機械につながっていた。
「や、やめて！嫌！いやっ！」
「わかったから、恭順の言葉を頂戴」
激痛と恐怖でパニックに陥って、ほとんど思考する事ができなかった。戦慄いて首を横に振るばかりだ。
「１０万ボルト！」景気よく叫んでレセキアが電圧スイッチをひねった。
「っあああ！！！！！！」
すごい勢いでフェリアは上体を反らせた。叫び続ける声はもはや音をなさない。
「っ…！！！ぁ！！！」
かすれた息の音はほとんどかき消された。完全に固定された下半身までもがもがいてガタガタ音を立てる。絞り出されたように涙がフェリアの頬をつたった。
「は…っ…！！！」
もう喉が張り裂けそうに反っている。黙って見ていたレセキアはここで電圧を止めた。まともにしゃべっていないがフェリアは拘束を解かれ床に下ろされた。それでも、開脚で固定されていた状態から動き出すのにしばらく時間がかかった。陰核を貫いている安全ピンにはまだ電圧の余韻が残っている。
「くぅッ…」
口をぱくつかせたり食いしばったりしながらフェリアはゆっくり脚を閉じ、身体を起こした。体操座りだ。
墜ちたな…
その自身があったから、レセキアはただこう訊いた。「立てるか？」
フェリアは放心したまま腰をゆっくり持ちあげる。だが上げ切る前に、少し揺れた拍子に陰核に激痛が走った。
「つううっっ！」
反射的に左手で股を押さえると、フェリアは膝をついてうつ伏し、そのまま泣き崩れた。
絶望の叫びは止まなかった。
「あなた達がしくじった今、襲撃は延期と考えていいわね」
フェリアはあらいざらい自白した。
「…ええ。戦力的にほぼ不可能だわ」
フェリアが落ち着いてから、部屋を移動して二人はテーブルについた。今までと違い人間的な部屋だがいかにも尋問用のつくりで、大きなマジックミラーが設置してある。ちなみにフェリアは全く縛られていないものの、安全ピンだけは外されず残っているので急に動き出す事はできない。座っているだけで精一杯だ。
「こんなところでしょう」レセキアは録音のスイッチを切った。最新の超小型レコーダーだ。「ところで此処、国のどのあたりにあると思う？」
「何処って、帝都からそんな遠くまで連れてきたの？」
「…あら、わかっちゃった？」
「まあ郊外の城跡って風情だったけど、そんな手間かけても…」
「仕方ないわ。…確かに、ここは帝都でも中枢のビル、地上６４階」
「６４！」
「いくら防音してても、あんな部屋を都心に置きたくないんでしょうね。それで上へ遠ざけた」
「じゃあ何故わざわざ石造りに？」
「カムフラージュと、あと威圧感を与えるためかしら。日の光が射さないだけで精神的に追い詰められるでしょ？」
「カムフラージュだったら、私に話しちゃ意味が…」ないのだ。フェリアはため息をついた。しばらく解放されないことは約束されたも同然だ。
「え？…ああ、だいたい済んだわ。あとはほら、ゲームみたいなもんだから」
レセキアの合図で天井が開いた。吹き抜けになった部屋の上方には板が網目状に組まれており、兵が二人待機していた。カタカタと何かうるさい音がし始めると、ゆっくり上方から鎖が降りてくる。その太い鎖の先端にはよく見るとフックがかけられているのがわかる。
「じゃ、この机の上に仰向けに寝て頂戴」
再び両手を後ろで縛り、鎖と一緒に降りてきたベルトをフェリアに装着する。腰、だいたい背中の下あたりに鎖のパーツと同型の輪がいくつも通してあるベルトだ。
言われた通りフェリアは横になった。「もう何も出ないわ」
「アタシもそう思うけど、マニュアルだから」そう言ってフェリアのスカートをまくる。
下着は破り取られたままなので、当然剥き出しだ。安全ピンに貫かれた陰核が痛々しい。
「さて」レセキアはその安全ピンにフックを引っ掛けようとした。諦めたように言われるままにしていたフェリアもようやく意図を察して、とっさに左に寝返った。が、ピンをレセキアが握っていたため一瞬引っ張られ、半回転したところで痛みにうずくまった。
「ううっ…」
するとレセキアは乱暴にフェリアの身体を戻した。それだけでフェリアにはダメージだ。
「縛らないであげてるんだから、じっとしてるのが礼儀でしょ？」安全ピンを親指と人差指で挟むと、
「ねえ？」力一杯ひねり上げた。
「ひいいいいっ！！い゛ッ！！！い゛あああッ！！」
「手間取らせないで」さらにひねったままのピンを容赦なく引っ張る。
「ひゃああ！ひっ！いやっ！！いやあああ！！」
気に障ったのか、レセキアは引っ張る手を休めない。
「ああッ！！い、ひいいっ！わ、わかったから、やめて！あうっ！！許して、許してえぇ！！」
針を通された挙句ひねり上げられればとても正気ではいられない。ようやく手を離すと、レセキアは再び安全ピンにフックをかけた。「じゃ、ルールを説明するわ」上方の兵に合図すると再びカタカタ鳴り出し、鎖が引き上げられ始めた。
「あなたが新しい情報をくれたら内容に応じた分下へ降ろす。床に届くまでは１５秒経過する毎にベルトに４kgのおもりをつるす」
たるみが伸びて鎖はだんだん真っ直ぐになっていく。
「待って。もうないわ、何も！何も残ってない！」
引っ張られまいと、フェリアはブリッジするように下半身を浮かせる。
「いや！お願い！ちぎれる、ちぎれちゃう！」
「大丈夫、案外丈夫なもんよ。それにあなた軽そうだし」レセキアは意地悪く笑った。
「んんっ！」
ピンが引っ張られ始めた。
「うぅぅ…」フェリアの表情が歪む。
「ああ…あっ！あ…っあ！」
指先で立っていた足が机から浮き上がる。
「ひぅっ！あアッ！！ああああぁっ！！…っああ！」肩が机から離れ、フェリアは完全に宙吊りになった。それを確認すると、レセキアは手際よく机を隅へ寄せ、どこからかはたき状の鞭を取り出した。
「さ、１５秒毎に４kgよ！」レセキアはフェリアの股座に回り込むと、鞭を振り下ろした。
パシィッ！
「んああ！ひいいっ！！」
フェリアは反り返ると、反射的に脚を閉じた。
「ちょっと、勝手に閉じちゃダメでしょ」こじ開けようと力を入れてもフェリアは脚を開かない。
「ホント、学習してないのね」安全ピンを挟むように両足のつけ根に手をついて、レセキアは両手に全体重をかけた。
「ひいいぃッ！！いぎゃっ！ひあああアアッ！！切れるっ！ちぎれる！！ぁあ゛あ゛あ゛っ！」
「おとなしく開いてろ」そのまま両手を左右に割り、再び鞭を取る。フェリアの瞳は焦点が定まらない。
間髪入れず二撃目が振り下ろされる。
パァーン！
「…きゃああっ！」
また閉じてしまった脚をレセキアが割り開く。今度はフェリアも抵抗しない。レセキアは気をよくしてたて続けに鞭を打つ。
「やああッ！んあ！あっ！！ひいいっ！やめっ！ああうっ！！」
「なんとか言ったらどう？…もう、おもり追加するの忘れてたじゃない。じゃイッキに３個いくわよ」
ベルトの鎖に１つずつおもりを引っ掛けていく。しめて１２kg。
「んんんんっ！！ぁ……っ！」
フェリアが痙攣したようになった隙に脚を開き直し、なおも鞭で打つ。さっきからレセキアは執拗にピンを通された陰核を狙って打ちつけている。
「はあっ！…っあ！ぅああ！！ひん！！ひあっ！」
「おもり追加しまーす。もう、努力しないと本当にちぎれちゃうわよ」レセキアは新たなおもりをつるした。
「んうう！あはあッ！！つっ、もう…ないんだったら…」フェリアがか細い声を絞り出した。レセキアは構わず鞭を打つ。
「いあああ！！い゛い゛ぃっ！！！あぅ、うっ！つぅぅっ！！」
「ほら、吐け！全部だ！」
「やめてぇっ！ゆるし…！ひイッ！！いやっ、いやあああッ！！あ゛あ゛ッ！」
つるされたまま必死で全身を揺するうち、床に涙が落ち始める。
「さあ、これで合計２０kgです！」レセキアが新たなおもりをつるす。
フェリアはまた痙攣した。あごだけがガクガク忙しく震える。
「あっ、足がすべったわっ」適当な事を言ってレセキアはもう一度フェリアの脚のつけ根をぐいと押し込んだ。
「…ぁアアアアアアアアッッ…！！」
反り返り吠えるように叫び終えると、フェリアの全身の力が抜けた。両目を見開き口を開けたままフェリアは失神した。
「…いいぞっ」
レセキアが上に叫ぶと、カタカタ言いながら鎖が下ろされた。フェリアが床に転がる頃、上にいた兵の一人が下りてきた。
「処分します？」
「うーん。彼女はお店の方に。鉛筆入れてちょっとぐりぐりしただけだから再起できるでしょ」
「わかりました」
フックを外し、兵士はフェリアを連れて部屋を出た。
拷問の済んだバドールは薬漬けにして人格を壊したのちディーラーとして使用されている。だが一部の若い女に限り違うかたちで国益に貢献させられる。その方が俄然効率的なのだ。被差別民族のバドールにも需要はいくらでもある。
拷問の方法について軍規による明確な規定は無い。効率が重視されるので、現状としては安全ピンと電気ショックで絞り出した後、つるして吐きそこないを絞り尽くすというのが主流になっている中で、レセキアは例外的に多種類の方法を用いている。これと拷問時の言動から、彼女は拷問する事を心から楽しんでいる悪魔だと一部の部下たちから恐れられている一方で、それは段階的に痛みの強いものにしていく優しさなのだという説もある。実際、根性の弱い捕虜などは軽い拷問だけで済んでいるし、バドールに情けをかけると周囲の評判が落ちるから楽しんでいるフリをしているのではないか、と。この説を支持する部下たちからは厚く尊敬されている。結局、本当の所は――――――
「気絶できない方が苦しいじゃん。ねえ、そう思わない？」
レセキアは頭上に声をかけた。鎖を巻き終えた兵士はもう退出していた。
「…そりゃね、つるすだけって退屈だから早く終わりたいと思わなかったと言えばウソになるけどさあ…」
そんな事を独りごちながら頭を掻いた。
「んー…佐官は難しいかなあ…」
（完）
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