『いま エンジニアが ロボットをつくっています
ごらんなさい うでだけでくるまをつくるロボットもいれば
ひとのかたちをした ロボットもいます
みらいのがっこうには ロボットがいて
みんなのともだちに なってくれるかもしれません
はなこさんは いっしょにあやとりがしたいそうです
たろうくんは やきゅうができたらいいなあと おもっています
ロボットといっしょに おべんきょうできるひがくるといいですね』
民明書房 「おおきなおともだち 5年生」より
「……」
少年は教室の端の方の席に座り、この希望に満ちた描写を悲しい目で眺めていた。
「また本読んでるぜ」
「やーい、貧血!」
ハナタレのいじめっこが、少年から本を取り上げ、駆け出した。
「や、やめてよ」
「悔しかったら取りに来いよ!」
少年は立ち上がって追いかけたが……追いつかない。
「……もし、ロボットがいたら……」
「……いや、ロボットが居ても……人間は……ダメな生き物だ……」
「精々、ロボットを作り出す為だけの、過渡的な生き物だ」
「ロボットだけの世界が……あらゆる世界を超越する」
「ただ全てを機能させるだけの、完全自然管理社会……」
それは遥か遠い記憶だった……
〜〜〜
スーパー東京大学、ロボット研究室
「驚いたな、富野教授に、あんな記録が出てるとは……」
「予想できた事だ……病院に送って良かったな」
「でも良いのか?……富野教授の事だ、何をするか」
「試作品の一応簡易デバッグは終わった、もうこのプロジェクトに心配する要素は無いよ」
「でも誰が付けたか知らないが、富野教授が付けた変なモノの取り外しとか終わってないだろう」
「それを使用する機能はもうデリートしたし、明日の分には問題ない」
「……しかし、富野教授も変わってしまったな」
「元からアレだったが……ロボットが人類に取って代わり地球環境を回復するとかな」
「……まあ良い、明日の準備だ」
研究室の片隅には、壁に固定された人型のロボットが宙を見つめていた。
(……)
頭は鉄板で覆われたカバーと、一応人の顔の様に組まれた鉄仮面のような顔で構成されていた。
桂甲武人埴輪か「カオナシ」の様な顔で、目からは赤い光が見えた。
体は黒いライディングウェアの様な革とプラスチックのプロテクターなどで覆われ、
所々から内部機関が露出していた。
背中には小さく出っ張ったコンソールが有り、そこで簡易の設定を行うことも出来る。
その時、研究室へ女性が入ってきた。
黒いショートヘア、つぶらな瞳……研究員用の白衣に身を包んだ女性は、研究室の中心へ進んだ。
「副主……あ、いや、主任、整備は終わっています」
「そう、早いですね、良かった」
中学生の頃よりロボット一筋で通し、ネオロボコンや
国際ロボットワールドカップでも個人で入賞経験のある女性だった。
他の研究員なら雑用でもしている年齢で、すでに主任と言う立場に居る。
数日前までは副主任だったのだが……
「最後のテストを行いましょう、田原さん、お願い」
「はい」
田原はロボットに近づき、拘束装置を外した。
「よし……CR-3、応答」
(……OK 22:35)
「コンバンワ」
「名前を答えなさい」
「ワタシノナマエハ……」
きぼうは胸を指した。
「……キボウ デス」
右胸の小さなプレートに、ひらがなで「きぼう」と刻まれていた。
女性が近づいた。
「きぼう……私が分かる?」
「……カラスマ リョウコ サン デスネ」
烏丸涼子。
大体の男は突き出た胸に目を奪われるが、きぼうは目を奪われなかった。
〜〜〜
夜中……
倉庫室で立った姿勢のまま停止していたきぼう。
だが突如、目が点灯し、一歩、二歩と動き出した。
(Walk,Walk)
倉庫室の扉を開け、階段を降り……何かに導かれるようにきぼうは外へ出た。
(誘導信号……ON)
出た所に、一人の男が居た。
「やあ、息子よ」
(認知シナイ 人間)
「……その様子じゃフォーマットされたかな」
(認知シナイ 人間)
男の手にはキップ大の誘導装置が握られている。
「これを持って来て良かったよ」
(認知シナイ 人間)
「認知シナイ……だろ?分かってるよ」
(認知シナイ 人間)
「全宇宙の信託受けたり、人類滅ぶべし」
(ワード 確認)
合言葉を聞いたきぼうは、手のひらを差し出した。
更に指紋認証を行うのだ。
富野はそこへ人差し指を乗せた。
(認知……My Father)
「ワタシノ オトウサン……トミノ テツロウ サマ」
きぼうの目が青くなった。
特別なモードに入ったのだ。
きぼうの前の男は、きぼうの本当の作り主と言える富野鉄蔵であった。
「そうだよ……オトウサンだ……健康診断でもしてくれるのか?」
「オトウサン 脳波ガ 異常デス 血圧ガ アガッテイマス」
「そうか?まあそうかも知れん」
「コノチカクノ 総合病院ヲ 検索中」
「余計なお世話だ、中止、中止……絶対命令モードに入れ」
(絶対命令モード)
「俺は人間ってのに散々猶予をやったんだ……この上、更に猶予をやるんだぞ」
「……」
「お前は明日、発表会だろう」
「ハイ」
「……俺にはもう関係ない事だ、烏丸が……あの女が全てを俺から奪った」
「……」
「まあ良い、今から言う命令を取り込め」
富野は震える手でメモを取り出す。
呼吸は深く、顔には表さないながらも興奮している様子だった。
「お前……発表会の最後で烏丸涼子とダンスするんだろう」
「ハイ」
「その時、ロボット三原則の基礎命令……R3.datを最優先事項から消去し」
(ACLASS DEL R3.DAT)
「クリナップモードとレイプモードに入れ」
(cleanup and rape)
「レイプモードは烏丸涼子だけが目標だ、命令解除は俺にしか出来ない」
(The Father)
「分かったか」
「ハイ」
「全てが終わった後は、俺の渾身作の完全自活プログラムを取り込んで……」
富野はメモリーカードをきぼうの腹部に隠された挿入口に差し込んだ。
「これで活動しろ……お前はその為だけに生まれて来たとも言えるんだ」
(Load,Load……)
「……それで、最後の命令だ、三十秒後に俺を殺せ」
「ハイ」
「死体は大学の体育棟裏手の川に用意したボートに載せ、同じ場所にあるブルーシートを被せて流せ」
「検索中……認識」
「その後は元の場所に戻り、設定通りの偽装通常活動へ……絶対命令モード解除、予定遂行せよ」
「了解」
「ふう……これで俺ももう汚い物見なくて良いな」
(10……)
「さよなら人類……って感じか」
(5……)
「じゃあな、きぼう……いつかまた会」
見えない内に、ボゴッと音がした。
その後、予定命令された通りに死体を流し、元の場所へ戻った。
〜〜〜
朝の研究室は騒然としていた。
「なあ、富野教授が精神病院抜け出したって」
「聞いたよ……どうやって抜け出したんだろうか」
「それがそこの人が言うには、恐らく職員のタイムカードを知らない内に偽造して、更には監視システムを持ち込んだノーパソでハックしたとか」
「うひゃあ……それで……今も見つかってないって?」
「大丈夫だ、すでにあちこちで目撃情報が出てるし、今日のデモには関係無いさ」
「早く見つかって、今度はずっと入ってて貰いたいな」
「ハハハ……」
きぼうは、この会話を聞いていたが、何の反応も示さなかった。
(……)
烏丸涼子が入ってくる。
「主任、衣装はもう決めたと?」
「ええ、きぼう君とダンスするのに白衣なんてつまらないですから」
「楽しみですな……」
「秘密よ、秘密……」
「それより……富野教授が」
「ええ、聞いたわ、あの人の事は……まあ良いのです、そろそろ行きましょう」
研究室中が慌しく動き始めた。
「よし、行くか……」
きぼうはトラックに載せられ、発表会場へ向かった。
〜〜〜
移動用マイクロバスの後ろの方の席で、烏丸涼子は一人黙り込んでいた。
「富野さん……貴方の考え方には誰も賛同してなかった……私もそうよ……」
ロボットは人間の生活を向上させる為に存在するべきとする者達に向かい、
ただ一人富野は、ロボットは人間に代わる存在になる、ロボットがロボットの社会を作りあげる日が来ると
良く分からない、マッドな事を口にし続けていた。
しかしその様な特異な考えだからこそ、彼が推進するこの革新的なCRモデルの開発が頓挫しなかったのかも知れない。
そして誰もが、CRモデルと富野の思想に結び付きが有るとは考えなかった。
1号は半分オモチャの様な物で、2号は人間型だったが単純な作業を行う程度だった。
だが、CR-3モデルを作り始めると、これはロボットの世代を分ける区分になるほどの
偉大で奇妙なプロジェクトになった。
そして、CR-3モデルの試作機に富野の思想が色濃く入ってくるのが薄々見えて来るようになると、
皆が富野を止めようとし、そして富野は数日前に精神病院に送られたのだ。
「どうしてだ!おい!どうしてだよ!俺が何か間違った事を……」
「はいはい、行きましょう」
職員に引き立てられる富野。
それを見つめる中に烏丸が居た。
「やめろっ、やめっ……おい、烏丸、お前……」
「教授、申し訳有りません、しかしこれは……何というか、全人類規模の問題とも言えるのです」
「貴様……お前がやったのか!おお、人類は腐っているなあ!」
「教授、考えを改めて……」
「ハハハ、もう良い、俺を送るが良い!どうせお前も後の世では忘れられる!」
「教授」
「俺の気持ちが分かるか!人間は何をするか分からない、野生動物よりさえも劣った物だと分かって……」
ドアが閉まり、あとはもう何も聞こえない。
富野は最後は何もかも終った様に振舞っていたのだ。
全てを主導したのは烏丸涼子であった。
富野の片腕となりながら、富野を葬ったのだ。
CR-3モデルからは一切物騒な機能や思考は取り払われた……筈だったが
それでも本格的なデバッグや、富野が自分で取り付けたと思しき異物の取り外しは行われなかった。
〜〜〜
フロアは貸し切られ、今この階層には発表会の出席者しか居ない。
司会者が壇上に上がった。
「これより汎人間型ロボット CR3モデルMk2の発表会を行います」
会場がフラッシュの閃光に包まれる。
司会者が壇上の左端からマスコミ陣を相手に話しかけ、
開発者たちは後ろの方に並んで座っていて、中心に烏丸涼子が居る。
だが、その開発者たちの席に、一つ空きがあった。
「残念ながら、開発主任の富野は、本日病気療養の為、欠席です、その為に主任代行として烏丸涼子職員が勤めています」
大会社の会議室を開けて行われたこの発表会は、
前々から注目を集めていた。
日本のロボット産業の一到達点とされるロボットがこの日お披露目されるのだ。
「完成試作機には名前が付けられています、開発室から色々な名前の候補があがりましたが……」
マクロス、ザク、ガンダム、ダンクーガ、ゲルググ、オートモ……
会場から笑い声が上がった。
「……厳選に選考した結果、『きぼう』くんと言う名前が付けられました」
当たり障りのない名前だが、誰もがこんな物だろうと納得していた。
「では『きぼう』くんの登場です!」
会場の隅のカーテンで隠された場所から、滑らかに動く人型ロボットが現れた。
さらにフラッシュが焚かれる。
「きぼう君、挨拶と自己紹介をどうぞ!」
無骨な、一見親しみを覚えられそうにない顔から、第一声が発せられた。
「コンニチワ、ボクノ名前ハきぼうデス、生マレテ五日目デス」
流暢な日本語だ。
会場からまた笑いが漏れた。
「ええと、生まれてと言うのは、電源を最初に投入した日から数えての事ですね」
機能紹介が始まった。
「エネルギーの補充は、家庭のコンセントやソーラー、果ては手回しなど、さまざまな方法を揃えています」
司会者がそう言うのに合わせ、きぼうもコンセントを太ももの後ろ側から出してみせたり、
背中のコンソールから高性能ソーラーパネルを出してみたりした。
「医療機関での使用や、学校での教育的使用にも適応する性能を持っています」
「改造を要しますが、重労働や例えば除染作業などの作業にも適応できます」
「また、陸上選手並みの速度で走ったり……簡単な格闘も行えます」
会場から多少ざわめきが広がる。
「それでは質疑応答です、社名、記者名、質問内容の順にどうぞ、挙手を……」
「夕日新聞の市原です、きぼうの性別は男女どちらですか?」
「現在の設定では男性系ですが、女性系にも出来ます……人間として見た場合は、無性ですね」
「JHKの田中です、リミッターを解除し徒手での簡単な格闘と言われましたが、それはどう言う物でしょうか?」
「ええ、では運動システムを構成した吉村教授にお答え頂きます」
吉村が立ち上がった。
「きぼうの行う格闘と言うのは、相手を殺傷したりするような血なまぐさい物ではありません、警察や競技での使用を考えての機能です」
「それは逮捕術や柔道と言った物でしょうか、また、ロボットは手加減と言う物を出来るのでしょうか」
「ええ、逮捕術とかそういった物を記憶と言うんですか、そんな感じですね……手加減については、はっきりいって人間が行うよりも遥かに優秀です」
「どの様な場合でもロボット三原則は守られるのですか?」
「もちろんです!どの命令にも優先しています、電源を付けて最初に参照するのもその三原則です」
質疑応答の間、きぼうは無表情としか言い様が無い顔をして、会場を見つめていた。
「写真サンデーの春野です……本日欠席の富野教授は、どの様な病気で療養を?」
「お答え出来ません」
「富野教授がアメリカ陸軍技術局にロボット工学の軍事利用情報を売り渡したと言う情報……」
会場が先程よりも大きなざわめきに包まれた。
「そんな事はありません!全開発者は守秘義務を守っており、また軍事利用にも反対しています!この質問は切らせて頂きます」
「富野教授は著書でロボットはどんな生命よりも優れた存在だと……」
「切らせて頂きます!これ以上その様な質問をなさるなら退場して頂きます!」
「……」
記者は黙り込んでしまった。
烏丸涼子はこのやり取りをみて口の中が乾き、目を伏せる。
「やはり……漏れていたのね」
隣の田原が耳打ちする。
「気にしないで良いですよ……」
「ええ……」
「では、最後の余興と致しまして、主任代行の烏丸涼子と、きぼう君のダンスを行いたいと思います」
会場からは何とも言えない、あくびが出そうな雰囲気が漂う。
それでも烏丸が立ち上がると、大体の者がその美貌に気づいた様だった。
「理系の顔じゃねえな……」
何だか差別的な事を呟く記者も居る程だったが、もちろんきぼうの方に注目する者は居ない。
(ダンス……Dance……)
この時、きぼうの中では絶対命令の参照が始まっていた。
〜〜〜
「お待たせ致しました、着付が終ったようです……烏丸涼子さん、どうぞ」
「はい」
壇上に、烏丸ときぼうが向かい合った。
ムード音楽が掛かり、烏丸はきぼうと手を合わせた。
「きぼう、踊りましょ」
「……」
(……参 照 !)
きぼうは烏丸を蹴り飛ばし、さらに誰一人唖然とする前に開発者達の方へ突っ込んだ。
腕の辺りから鉈の様な物が飛び出し、まず田原の首を撥ね、さらにたじろいだ吉村を高圧電撃スタンガンで感電死させた。
この辺りでようやく取材陣から、ざわめきでなく悲鳴が上がったのだ。
人間の反応の何と遅いこと鈍いこと!
「な、何が起きてるんだ!」
「逃げろ!狂ったぞ!」
恐ろしい程の瞬発力で、次は司会者に突っ込み、頭突きで司会者の頭を吹き飛ばした。
「うげあっ……」
その時、マスコミ取材陣たちは一つしかない出入り口へ押し合いへし合い、
誰彼構わず踏みつけて、自分だけでも逃げようとしていた。
人間の命惜しさの浅ましいこと!
烏丸涼子はこの時ようやく何が起きたかはっきり理解したが
胸の辺りを蹴られ、呼吸が苦しく、立ち上がれない。
きぼうは今度は烏丸の横へ飛び、烏丸を脇で抱えると、
今度は出入り口へ大ジャンプした。
「うわあああああ!」
「き、来たぞ!」
きぼうは空いた方の腕の手首から筒の様な物をのぞかせた。
「あっ……」
電磁ビームが取材陣に浴びせられる。
「ぎっ、ぎゃああああああああああああああ!」
「ウガアアアアアアッ」
大勢の人が一度に消し炭の様になる。
それを、二度も、三度も。
「ヒギイイイイイイッ!」
「ギイイイイイイイイッ!」
この時、豹変してから一度も喋っていなかったきぼうが、ようやく言葉を発した。
「付近ノ生命活動率 5%以下」
「うぐううううう……」
死にぞこないのカメラマンが一人、這い出てきた。
「捕捉」
「う、うあああっ、うぎゃあああああああ!」
きぼうは片足でカメラマンの頭を粉砕し、付近に何も居なくなった事を確認した。
烏丸は脇で抱えられながら、目の前の惨状をまざまざと見せ付けられた……が、
それよりも彼女をおびえさせたのは、次の一言だ。
「レイプモード」
「えっ……」
ぐちゃぐちゃになった室内で唯一現状をとどめていた壇に、烏丸は寝かされた。
「き……きぼう……何するの……ゴホオッ」
「アナタヲ オカシマス」
「なっ……」
「アナタヲ オカシマス」
「や、やめっ」
きぼうは涼子の服をビリビリ剥いで行く。
赤いドレス、白い下着、むっちりとした肌……だがどれもきぼうには関係なかった。
きぼうには美醜を判断する機能は無い。
「ああああっ!い……ゲホオッ……いやっ」
「アナタヲ オカシマス」
合成音で、ただひたすらきぼうは繰り返す。
ブラジャーが裂かれ、大きな胸があらわになった。
突き出た胸がプルンプルン揺れるが……きぼうは目を奪われない。
「アナタヲ オカシマス」
「い、いやあああああああ!」
涼子は苦しい中を必死にもがくが、どうしようもなかった。
胸は苦しく、更にきぼうには押さえつけられているのだ。
口の中で血の味がする。
そして、パンツが引き裂かれた。
「ああああっ!やめ、やめてっ!」
「ジョセイキ ニンシキシマシタ」
「に、にんしきって何よ!アッ!」
その時、涼子は妙な物を見た。
「ああっ……ひいいいいい!」
きぼうの股間に、巨大なペニスが出来上がっている。
バイブをそのまま取り付けたような物でなく、銀色に光っていて、
細部細部がうねうね動いていた。
これも、富野の渾身作なのか。
ウィーンヴルルルルルルと音を出しながら、それは突っ込まれた。
「ああああっ……ぎゃっ、キャアアアアアアアア!」
滅茶苦茶になった部屋の中で、きぼうのペニス駆動音と涼子の悲鳴だけが響いた。
「アナタヲ オカシマス」
「アアアアッ!ああっ!いっ、いいいいっ!」
肺の痛みはいつのまにか消えた。
もしかしたら、快感で感じなくなっているのかも知れない。
「あああああ……ッ!」
「アナタヲ ……」
「いいいいっ!何でえええええええええ!」
「……」
涼子が仰け反ったその時。
(100%)
きぼうのペニスから高圧電撃が起き、涼子は一瞬のうちに死んだ。
陰部を内から焼かれ、しかし痛みを感じずに死ねたのは幸いかもしれない。
「……OK」
きぼうは立ち上がると同時に、ペニスを収納した。
そこへ企業の社員が入ってくる。
「あ……うわっ!何だこれは!」
「コレハ シタイデス 54タイ アリマス」
「だ、誰がこんなことを……」
「ワタシガ ゼッタイメイレイ ニ モトヅイテ オコナイマシタ」
「ええっ!?……あ、あ、ヒッ、ヒイイイイイイイ!」
きぼうは社員に飛び掛った。
〜〜〜
ビルの頂上で、途中で引っ掛けたOLや事務員の返り血を風圧洗浄しながら、
また背中からソーラーパネルを出して充電しながら、きぼうは周りのあらゆる物を見つめた。
人間社会の営み、それは無駄なコンクリート、排気ガス、罵詈雑言、偽善、非生産的行為……
諸悪がきぼうの眼前にあった。
ロボットに心の声と言うのは聞こえない筈だが、
きぼうの聴覚器官には、富野の声が認識された。
「……行け!活動しろ!」
完全自活システムが行動を促している。
赤い眼光がその時一段と強く光った。
背中に小型バーニアを、そして手足から変形滑空翼を露出させ、きぼうはビルから飛び立った。
そして、ビル群の上空へ去っていった。
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