桃色にそまった空
蜜のように甘い芳香
マシュマロのように柔らかい地面
そして…
セーラー服を着た長い黒髪の少女が一人の少年に押し倒されていた。
「悠二、ダメ…千草に言いつけるわよ」
凛とした声で上に覆いかぶさった少年を静止を訴える。しかし、普段の少年では行わない行動に戸惑いを感じ僅かに動揺もしていた。そして次の行動は少女の想定の遥かかなたでまったく予期しない行動。顔を近づけ耳元で
「シャナ…大好きだよ」
その一言だけで少女の体から抵抗する力が抜ける。この後なにをされるのかはわからない。なのに抵抗する気力がわいない。ただ少年に――悠二に「大好き」といわれた。その言葉の持つ心地よさが少女の心を満たしてしまった。
少女は普通の人間ではない。少女はフレイムヘイズ、異なる世界『紅世』より来る人がそこに存在する力を奪い世界の調和を乱す紅世の徒を討つために調和を望む数ある紅世の王の一人『天壌の劫火』アラストールと契約し自身の全てをそれに傾けていた少女である。その少女が一人の少年、正確には少年の残滓、徒に存在の力を奪われた残りかすの入れ物であるトーチの少年、坂井悠二とであい…端的にかつ簡潔にまとめれば惚れてしまったのである。そして、件の少年に押し倒されてあまつさえ耳元で「大好き」などとささやかれては、こういった方面にはまったくの未経験であるどころか一切の免疫をもたないシャナは動けなくなってしまった。
「ゆ、悠二…むぐぅ…」
何かを言おうとしたがそれよりも早く口を唇でふさがれ口内に舌を潜り込まされてはさらにシャナから力が抜ける。
(ち、千草は口と口でのキスはすごく大事だって言っていた…なのに…)
無理やりこんな形でされたことに少女はとても悲しくて涙を浮かべた。
「ごめん…シャナ…でもずっとそばにいるから…大好きだよシャナ」
そういって再び唇を重ねられ、その言葉だけでシャナは許してしまっていた。
長い長いキス。
時が止まったかのように聞こえるのは二人の呼吸音だけの世界。
世界が再び動き出したとき今度はシャナから世界を止めていた。
自分でも信じられない行動だが、心が悠二を求めたのだ。離れたくないずっと側に居たい、側に居て欲しいという気持ちがシャナの体を支配する。
悠二の手がシャナの衣服に侵入してくるが抵抗をしない。ただされるがままに悠二の体に手を回し抱きつき悠二の手と鼓動を感じる。
「ふぁ…」
シャナの口からいままで発したことの無い甘い音が漏れた。
「シャナが欲しい」
悠二の言葉の意味はわからないがシャナは首を縦に振る。その仕草をみた悠二はスカートの中に手を伸ばしショーツを丁寧に膝まで下ろす。
「行くよ。シャナ」
どこに?と思った瞬間、下半身に熱く堅いなにかが入ってきたのを感知した。
「痛いっ…悠二…止めて…あぁぁ…痛いの…止めて…痛い、痛い」
戦いのときとは違う痛みに少女は泣きじゃくりながら制止を求めたが悠二は行為を止めるどころかより激しく腰を動かす。
「はうっ…あっ…なにか…痛いのとは違うのが…あぁぁ…」
シャナは生まれて始めての絶頂を体感した。
★ ★ ★
チャプッ…クチャ…
激しい水音を立てながらシャナは悠二にまたがり腰を振っていた。
「ああぁぁん…はぁぁん…悠二…また…気持ちよくてイクっ」
「いいんだよシャナ…快感を素直に受け入れてフフフフ」
悠二が怪しく微笑む。そのとき
「夢でお金を拾ったら」
どこからともなく女の声が響く
「目が覚めて損した気分」
それについで獣の声が響くと不思議な世界に亀裂が入り閃光がシャナの視界を覆いつくす。
光が晴れるとシャナの前にところどころがこげた美青年が膝を着いていた。
「まったく『炎髪灼眼の討ち手』がこんな小物にてこずるなんてね」
着ぐるみから女性の声が聞こえシャナの思考が一気に覚醒する。
目の前の美青年は紅世の徒『色夜(しきよ)のイキュバス』そしてその自在法にとらわれたことを思い出す。
「殺す…」
殺気、それも強大で凶悪。シャナの小柄な体からは想像もできないほど巨大な怒りが炎として顕現しイキュバスの体を数千数万数億の塵へと変えた。
「シャナ!!」
少年が駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
その問いかけにシャナは答えず顔を紅くして下を向くだけ。
「ケケケケ、あの野郎の自在法で…げふぅっ…」
自分の肉体ともいえる本に思い切り膝蹴りを相棒である女性にマージョリー・ドーを叩き込まれ言葉を強制的に止められる。
「バカマルコ、そういうことは言わないの。とりあえず貸しにしておくからじゃーね」
珍しく機嫌がいいのかそれだけいってマージョリー・ドーは鼻歌を歌いながらその場を去っていた。
「シャナ、いったい」
「うるさい!うるさい!なんでもない!!」
よく覚えていないが、とりあえず今は悠二の顔をまともに見れないシャナは追いつかれないように早歩きで歩き始めた。
暗い部屋…
「あぁぁぁ…はぁぁぁうぐぅぅあぁぁぁ」
ベッドの上で平素より表情を変えることの無い少女が頬を紅蓮の炎のように赤く染めながら悶え呼吸を激しく乱していた。
『シャナ!シャナ!』
遠雷のような声が響くが今の少女には届いていない。
「悠二…会いたい…」
熱に浮かされたような瞳でシャナは寝巻きのまま思うままに空を翔る。フレイムヘイズの彼女がその能力を開放すれば僅かな時で目的の場所にたどり着く。
「悠二…」
しゅるり――
迷うことなくシャナは衣服を脱ぎ捨てる。下着は汗と股間から流れる液体で体にぴったりと張り付きその奥に隠された場所もあらわにし全裸ともはやなんらかわりない。
「シャ…ナ?」
宝具『零時迷子』の力、鋭い感覚が悠二にその存在を気づかせる。
「ゆうじ…」
熱に浮かされた甘えるような声でささやきながら布団の中へと潜り込む
「シャ、シャナさん?えっ…ま、まて」
「やぁ」
悠二の制止の声をにべも無く却下するとシャナはトランクスごとずり下ろす。
「ま、まずいって…」
『よすのだシャナよ』
コキュートスが空間を越えアラストールの声を愛娘に投げかける。
「アラストールはだまってて」
シャナに止まる気配はない
「アラストールこれは」
『うむ、どうやら先ほど討滅した徒の自在法の影響だと思うのだが…』
その言葉で悠二は注意深くシャナの気配を探る。
「シャナの中になんか根みたいな気配が…うっ」
逸物を握られ声が詰まる。
「悠二のおちんちんが欲しい…だから…」
迷いも何も無く悠二のモノを秘裂の奥へと沈めていく
「悠二…好き…大好き…だから一つに…気持ちよく」
初めてであるにも拘らずシャナは腰を激しく動かし股間から伝わる刺激を楽しむかのように快感の嗚咽をもらす。
シャナは大粒の汗を流しながら腰を振る。悠二も何度もそれに応えるように腰を振った。二人の呼吸が絡み合い互いに果てるまで行為は続いた。
★ ★ ★
赤い炎が包む教室――封絶――切り離された世界
「悠二…悠二」
常人では感知できない世界でシャナと悠二は互いの肉体を合わせる。シャナに刻まれた自在法は根が深く一日に何度と無くシャナの理性を奪い肉欲の従僕と変えていた。自在法の根がシャナの心に深く根ざしているがためにうかつに解くこともできず、悠二にその相手をさせることでなんとかシャナの精神を保っていた。
それがいつまで続くのかわからない…ただ、シャナは芽吹いた感覚に身を任せるだけだった…
終
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