1−1.返り討ちにあった捜査官


 今日の6時間目、最後の授業は2年A組だ。

ーー助かった。このクラスなら大丈夫ね

 私は廊下にカツカツと乾いたハイヒールの音を響かせて教室に向かいながらそう自分に言い聞かせていた。前回あの忌まわしい望月に頭を下げてしまってからちょうど一週間。自分の体がもう限界なのはよくわかっている。貞操帯にガードされた恥ずかしい箇所を中心に恐ろしい改造を施されてしまった全身にハッキリ禁断症状が現れ始めた今日、私は再び血を吐くような思いで屈辱に耐えてあの男に懇願し、放課後警備員室を訪れる約束をしていた。もう昨日のお昼前くらいから常に異常な欲情の熾火を点されているような全身がいよいよカーッと熱くなり、とりわけ最も強烈に改造されてしまったあのおぞましい肉塊がググッと膨らんで緩やかに脈動し、解放を望んでいるような気配はあったのだ。徐々に禁断症状が現れる間隔が狭まっている今、私は意地を張らず望月に膝を屈してしまうべきだったのかも知れない。

 だが私は着々と限界に近付き淫らにざわめく体に何とか耐え、今日まで屈服する時を引き延ばしていた。なぜなら私を解放したやつらの忌まわしい「調教」が始まってからもう二ヶ月が過ぎようとしているが、これまで最低でも一週間は我慢して見せる事を、誇り高き秘密捜査官として最後の矜持としていたからだ。もしここで暴走する肉欲のたがを外してしまったら、すぐに屈服するまでの期間が短くなり、結局やつらが望む通り組織の性奴隷として一生仕えさせられる運命が待っているのは目に見えている。

ーーああ、でも、私はもうとっくに堕ちてしまっているのに。その証拠に、あの虫けらみたいな望月に手の一つも出せないばかりか、こうして繰り返しヤツに慈悲を懇願する屈辱に耐えるよりないではないか。それにどんなに耐えて見せても、私が形勢を逆転させる望みはまるでないと言うのに……

 廊下を進む私とすれ違う顔見知りの生徒達は皆丁寧にお辞儀して挨拶し、本当はもう歩くだけでも自慰行為に耽っているに等しい快楽に突き上げられながら、何とか謹厳な女教師の仮面を被り続けている私も素っ気なく返答する。こうして普段は高校の英語教師である私高木亜矢の裏の顔は日本政府の命を受けた秘密捜査官。愛する夫山崎大輔がやつらの手に掛かり非業の死を遂げてから、男勝りの女性警察官だった私は復讐の鬼と化した。夫は実に優秀な秘密捜査官であり、当時闇で暗躍していた麻薬密売組織の存在をあぶり出すと、一網打尽にすべく他に三名の捜査官達と共にアジトに踏み込んだのである。表に出る事は絶対にないので知られていないが、我が国の秘密捜査官は超一流である。訓練を積んだ肉体はそれ自体が殺人兵器であり、マシンガン等の兵装を完備すれば一人でも軍隊の一個小隊に匹敵する程の火力を誇るのだ。そんな秘密捜査官が四名も揃えば、たとえ不法銃器を揃えたヤクザ者の集団であろうとひけを取る事はあり得なかった。

 夫は恐らくそう信じて仲間と共に敵のアジトを襲撃し、そしてその目的は軽く達成されたかに思われたのだが、味方のわずかな過失が命取りとなった。隙を突かれて仲間を人質に取られた夫は、捜査官のリーダーとして武器を置き両手を頭の上に上げて、敵の申し出た交渉に臨もうとしたのだ。しかしその組織は常識が通じず血も涙もない本当に危険な集団だったのである。まさかと思ったであろう夫がよける余裕もなく、組織が切り札として隠し持っていたらしいバズーカ砲が丸腰で進み出た彼の頭を一瞬で粉々に打ち砕いたのだった。

 以上は「手を引け」と組織に言われて命からがら逃げ帰って来た捜査員仲間が、まだ三十路になったばかりで未亡人となってしまった私に語った生々しい話だ。秘密捜査官はたとえ家族であっても正体を隠して秘密裏に行動する事が義務付けられており、初めて夫の本当の姿を知った私にとっては正に驚天動地であった。夫は秘密捜査官である事を隠すため、普段は市役所に勤める公務員だったのだから。そして涙ながらに残酷な夫の最期を私に語り、深く頭を下げてくれた捜査官仲間にどう応対すれば良いのか戸惑うばかりの私だった。まさか、その誠実そうな三人の捜査官の中に憎むべき組織の送り込んだスパイが紛れ込んでおり、夫を地獄の底に落としたのだ、などとその時点でわかる筈もない。否、夫だけではない、この私もその男にまんまと嵌められて今どうしようもない窮地に追い詰められているのだから、つくづく人を見る目のない自分を責める毎日である。

 生来曲がった事が大嫌いで、世の不正を根絶する事を願って警察官になっていた私自身が、夫の無念を晴らすため秘密捜査官を志願したのは必然だったろう。私は学生時代に空手で名をはせるなど、普通の男性が束になってかかって来ても負ける気がしないくらい、身体能力にも自信があったのだから。当時まだ幼く真相を理解出来そうになかった娘の美菜子には、お父さんは事故で亡くなったのよと誤魔化し、私は警察官の職を辞して秘密捜査官を志した。夫の死を通じて、初めてそんなアクション映画のような仕事が本当に世に存在している事を知った私が生還した捜査官に尋ねると、警察官から身を転じる制度があると教えられたのだ。さらに、有利なケースも多いので、能力されあれば女性でも可能である事も。

 私は警察をやめたが半年間生活資金を保証されながら、肉体的にも精神的にも想像を絶する過酷な訓練を受けた。愛する夫の仇を取って、彼が壊滅寸前まで追い込んでいながら凶弾に倒された組織を、今度は私の手で殲滅してやるのだ、と言う強い意志がなかったら、屈強な男性でも悲鳴を上げそうな猛特訓に耐える事は不可能だったろう。こうして私は人間離れした戦闘能力を有する秘密捜査官となり、同時に正体を隠すため学生時代留学経験があり自信のあった語学力を生かし、現在も勤務している高校の英語教師となった。私はスパルタ式でビシビシ生徒を鍛えながら、年に1、2回あるかないかと言う案件を完璧に処理していき、女性ながら並み居る男性捜査官達にも一目置かれる存在となっていった。

 こうして秘密捜査官としてデビューしてから7年がたち、いよいよ夫を惨殺したあの暗黒組織と対決する夢が叶えられる時が来た。あれ以来日本社会の闇に消えて存在が確認出来なくなっていた組織が、諜報を司る捜査官仲間の地道な努力により、ようやく居場所を突き止められたのである。それまで一度として敵に後ろを見せた事のない私は女性ながら認められてリーダーとなり、まるで用心棒のように逞しい男性捜査官三名を従えて、敵のアジトへと向かった。この時私は夢にも思っていなかった。まさか自分も夫と同じ道を辿る運命だったとは。

 もうお察しだろうが、夫の仇討ちにと名乗りを挙げた、あの時生還した捜査官仲間の一人が何と組織の送り込んだ刺客だったのである。しかも手口まで同じとは悔やんでも悔やみ切れないが、大いに緊張して組織との対決に臨んでいた私には、悲しいかなその男の正体を見破る余裕はなかったのが正直な所だ。本当は敵のスパイだが、我々を欺き内部から破壊工作を行うべく実際に訓練を受けて捜査官となったその男は、雌雄を決する最大の正念場でわざとスキを見せ敵の人質となってしまう。そして組織はあの時同様、リーダーである私に武器を置き交渉するようにと強要した。夫の悪夢が蘇った私だが、人質男の正体を知らなかった以上犠牲にして敵と一緒に皆殺しにする、などと言う非人道的な選択肢はどうしても取れなかった。他の捜査官達と合わせて一斉に殺戮するだけの火力は十分備えていたのだが。
 
 もちろん夫と同じような死を覚悟して丸腰で進み出た私をしかし、組織は殺す事なく捕らえて他二人の捜査官には退去するよう要求した。やつらの汚らしい手が掛かり雁字搦めに拘束された時、その後の耐え難い屈辱を想像した私だったが、やはりもう一人捕縛されていた男の狂言芝居に欺されて、二人にマシンガンで機銃掃射してくれ、と頼む事は出来なかった。最後の最後まで何と愚かな私であった事か。まともな人道感覚を持ち合わせた二人の仲間は、当然ながら捕虜と一緒に敵を殲滅する事など出来ず、組織が厳重に見張る中手を引き退去してしまう。そして捜査官仲間の行動を尾行していた組織のやつらが戻って来てから、指一本も動かせぬ強力な拘束を施されていた私に、衝撃的な事実が告げられたのだ。

 同じように捕縛されていた男の方だけ自由にされ、下卑た本性を現した男が言った言葉を私は絶対に忘れないだろう。

「高木さん、俺、アンタを抱いてみたかったんだよな」

 組織は男の正体を明かし、すぐに自分が夫と同じ罠に嵌まった事を理解した私は自害しようと思ったが、いざとなると雁字搦めの身で死ぬのは容易な事ではなかった。そして裏切り男は万が一にも私を死なせないよう、言ったのだ。

「おっと、舌を噛み切ろうなんてバカな事すんじゃねえよ。人間そんなに簡単に死ねや死ねえ。それに、娘さんがどうなってもいいのかい?」
「な、何を言ってるの! 美菜子は……娘は何の関係もないじゃありませんか!」
「いやいや。実は皆さん、彼女のたった一人の娘さんは高校生でしてね。これがお母さんによく似た別嬪さんと来てる」

 するといつの間にか拘束された私を取り囲んでいた男達が、ほお〜、だのと歓声を上げた。長々と拘束されている間に、男達が私を殺さず体を狙っている事は大体察しが付いていたのだが、いきなり娘の事を持ち出されては下手に死ぬ事も出来なくなってしまった。私のそんな動揺は顔に表れていたらしく、虫酸の走るようなオネエ言葉が掛けられたのだが、それが望月との出会いだった。

「あ〜ら、やっぱり娘さんの事は心配みたいね〜。い〜い? 美人の捜査官さ〜ん。美菜子ちゃんっておっしゃるのかしら、娘さんを放っておいて欲しかったら、大人しくアタシたちに抱かれるのよ〜」
「誰がお前らなんかに!……触るな、無礼者っ!」
「まあ、つれないのね。ちょっと耳に触れただけじゃな〜い」
「おい、望月。オメエ、気い付けねえと、ひでえ目に遭わされるぜ。何たって、天下の捜査官様だからよ」
「だ〜いじょ〜ぶ。だって、こ〜んなギッチギチに縛ってんですもの」
「ハハハ、確かにさすがの秘密捜査官さんも、こうなっちゃザマあねえな」
「そうよ〜。だから覚悟してね〜。お母さんがいい子にしないんだったら、美菜子ちゃんとエッチしちゃおっかしらあ〜」
「母親もいい女だけど、娘の方が若いってのも魅力っすよね」
「やめなさいっ! 私はどうなってもいいから、娘には絶対手を出さないで」
「わかったわ。じゃあ約束しましょ。これからお母さんが言う通りにしてくれたら、絶対美菜子ちゃんには手を出さない。でも逆らったり、逃げ出したりしようものなら、すぐに娘さんをとっ捕まえてお母さんの代わりになって貰うの。わかったあ?」
「わ、わかったわ……」
「そりゃあいい。まるで娘を人質に取ってるみてえなもんだな」
「何せ、高木さんの亡くなった旦那さんとは懇意にさせて頂いて、家も学校も全部わかってますからね」

 私はこの時、裏切り男を心の底から恨み、自由になったら真っ先に始末してやろうと決意した。だが、望月の次の言葉は、私をそんな余裕もまるでない地獄に叩き落とす事になるのだった。

「ねえ、捜査官さ〜ん。真面目な貴女は知らないでしょうけど、これからはアタシ達のかわいい性奴隷になって貰いたいの。わかるう? 性奴隷って」

ーーな、何だ、ソレは? せいどれい? 性の、奴隷……

 私とてネンネではない。高校生の娘がいるのだ。しかし誓っても良いが夫との幸せな性生活が私の性経験のほとんど全てであり、性奴隷などと言うおぞましい言葉を聞かされてもすぐにはピンと来なかった。そして「性」の「奴隷」だろうと見当を付けてみても、やつらが考えていた事の重大さを少しも理解出来なかったのである。せいぜい男達に抱かれてやれば良いのだろう、とくらいしか思い至らなかったのだから大甘である。

「捜査官さんはわかんねえみたいだぜ」
「じゃあすぐにわからせてアゲル。捜査官さん、アナタは一生組織に仕える性奴隷になるのよ」
「一生だと! バカも休み休み言え!」
「まあ、こんな格好にされても気が強いのねえ。だけどアタシ、気の強い女性をイジめるのがだ〜いすきなの」
「いい加減にしろ! もういい。抱かれてやるから、さっさと私を解かないか!」
「あら、アナタ何か勘違いしてるんじゃな〜い? 怖い怖い捜査官ですもの。絶対反撃されないよう縛ったままかわいがってアゲルに決まってるじゃない」
「貴様、こんな風にしなければ、まともに女も抱けないのか! 恥を知れ、恥を!」

 それは男女の行為は一対一で秘めやかに、ベッドの上で行われるものだとしか思い浮かばなかった私なりの精一杯の罵倒だった。だがルール無用の無法者集団にはもちろん意味がなかったのである。  

「おお、やっぱ秘密捜査官さんは怖えなあ」
「いいわよお。その通りですもの。アタシって女の人を縛ってイタズラするのがお得意の、卑怯者なのよ〜。ウフフ、だけどすぐにそんな生意気な口なんか聞けないようにしてアゲル」
「おい、さっさと服を脱がせようぜ」
「や、やめろ!」
「抱かれてやると言ったクセに、何嫌がってんだよ」

 強固な革製の拘束具で全身を緊縛されていた私のボディースーツを、男達は容赦なく刃物で切り裂き始めていた。そしてあっと言う間に全裸に剥かれた私の体を、男達は数人掛かりで世にも卑猥なポーズに固定してしまったのだ。それは仰向けで両脚を頭の上まで上げ、木製の首枷の左右に手脚の先をまとめて拘束すると言うもので、あまりの恥辱に私は気が遠くなりサッサと自害しなかった事を後悔し始めていた。だが、私がやつらの言いなりにならなければ、娘の美菜子に危害が加えられてしまう。そう聞かされた言葉が呪縛となり、物理的な拘束具以上にきつく私の行動を束縛していた。

「思った通り、スゲエ体だな」
「チキショウ! 早く抱きてえぜ」
「ねえ、みんなガッツかないのよ」

 三十台後半でも鍛え抜かれた私の体は究極の肉体美だと自負している。若い頃より女性的な丸みも帯びて、男性にとっては魅力的に違いない。だが、こんなゲスそのものの男達に賞賛されても嫌悪感を覚えるだけだ。そして私の裸体に興奮した男達を望月は抑える。改めて見るとこの男、誰よりも貧相な小男で、性別も年齢も不詳に見えた。なのに荒くれ男達のリーダーであるかのごとく振る舞っているのを不思議に思ったが、望月は嫌がる女性を調教して組織の性奴隷に仕上げるエキスパートだったのである。やつの言葉で他の男達は黙って見つめるだけになった。

「あ〜ら、とても大きな子供がいるようには思えないわねえ。捜査官さんのオマンコ、とっても綺麗。あんまり使い込んじゃないようよ。ねえ、捜査官さん、ご主人がなくなられてから、他の男性に抱かれてないのかしら?」
「あ、当たり前です! そんな事……」
「でも、オナニーくらいはしてらっしゃるんでしょう?」
「あなたに答える必要はありません!」
「あら、図星だったみたいね。そうだわ、こんな体で男なしじゃとてもガマン出来なかったでしょ」
「いい加減な事言わないで!」
「うふふ、それじゃ体に聞いてみましょうか……まあ、結構モジャモジャね、後で邪魔にならないよう、綺麗に剃ったげる。どれどれ……」
「や、やめて」
「あらあ。急に女の子っぽい声を出しちゃって。ねえ、捜査官さん、オマンコもお尻の穴もバッチリ見えちゃってるわよ」
「ああ……」

 望月が陰毛をかき分けて最も恥ずべき箇所を探って来ると、私はあり得ない気持ちを覚えてドキッとした。

「捜査官さん、もしかして興奮してらっしゃるの? ココが固くなってお湿りが来ちゃってるみたいよお」

 女を調教するプロである望月は正確に私の心理を読み取って言い当ててしまい、男達の熱い視線が集中するのを痛い程感じる箇所はますますカーッと熱くなって自制が利かなくなりつつあった。

「ほら、ココよ。知ってるでしょ、クリちゃん。すっごくおっきしてるわよお。それにな〜に、簡単にお皮が剥けちゃうじゃない。これは捜査官さんが、オナニーばっかやってた何よりの証拠デ〜ス」
「ば、バカな……」
「うふふ、ムキムキされるのが気持ちいいのね。もうビンビンよお。お乳首もおんなじみたいだし、おツユが溢れて垂れて来ちゃってるんですけどお? みんな、泣くも黙る秘密捜査官さんは、ホントは縛られて虐められるのがお好きなマゾなのかも知れないわ」

 ここで私と望月のやり取りを黙って見守り論評を控えていた男達がドッとわく。そしてあろう事か、体の中から火を飲まされたように熱く込み上げて来るものを、もう私の理性はまるで抑える事が出来なくなっていた。望月に言い当てられた通り、夫をなくしてから私は密かに指を使って孤独を慰めてしまう悪いクセが付いてしまっていたのだが、その時に触れてしまう乳首とクリトリスがいつの間にか石のようにピンと屹立し、もう戻ってくれないのだ。

「それにしてもおっきなクリちゃんだこと。これは改造するのがチョ〜楽しみだわあ」

 この時望月が口にしたクリトリスの「改造」が何を意味するのか、私には皆目見当が付かなかった。まさかこの世にあんな淫らな仕打ちが存在するだなんて、まともな人間なら考え付くわけがないではないか。


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