ところは里はずれ。救貧院。
既に保護者たる神父様も亡く、残された幼子たちに迫るは無慈悲な飢え。慈悲深い天国の門は半分開きかけていました。
最年長者の15歳の娘さんは院長代理として、妹や弟たち(無論、血の繋がり派ありません)を飢えさせまいと頑張りましたが、彼女の小さな肩には辛い日々でした。
貧しく、その日の雑草スープにありつけるかどうかも分からぬ日々…
赤茶の髪はボサボサ。みすぼらしい繋ぎの衣服はツギハギだらけ。
それでも健気に妹弟の面倒を見る娘さんに、ひもじさに耐えかねた子供たちが尋ねます。
「お姉ちゃん、今日は何を食べられるの?おなか…すいたよぉ…」
可哀相に。今にも死にそうなか細い声で、姉代わりの娘さんを見つめる子供たち。
娘さんは応えます。

「もち、肉よ」

満面の笑みでガッツポーズする娘さんの両腕には、丸々と肥え太った加工済みチキンがドッサリ。
人類が衰退して物資不足な御時世に、破格の御馳走といえましょう。
無論、子供たちも大喜びでした。
「やったぁ!今日も肉だね、お姉ちゃん♪」
「ええ、『今日も』肉よ♪ああ、神さまありがとう!ちゃんとお祈りしますから、今後も肉よろしくぅ♪」
これは健気に生きる彼女たちへの神さまとやらの贈り物に相違ありません。
なにせ、彼女たちが飢えるたび、生きているままの加工済みチキンが(人間さん、食してほしいです)とばかりにあらわれるのですから。
さあ、いつものように、生ける加工済みチキンさんを美味しく頂きましょう。
ところが…異変が起こったらしいです。


…場面は変わって、クスノキの里の調停官事務所。ええ、わたしの家であり仕事場です。
絶賛ティータイム中(いえ、サボってるわけじゃなくてですね、気分転換で3時間ほど♪)のわたしのもとに、幼い子供たちが現れました。
「うわぁーん!調停官のお姉ちゃん、僕のお姉ちゃんを助けてー」
「お姉ちゃんが…食べられちゃうよぉ…」
泣きじゃくる子供たち。これは尋常ではないですね。
事情を聞くに、いつもは従順に食べられてくださる加工済みチキンさん達が、牙を剥いた(牙なんて無いけれど)らしいです。
それで、子供たちはわたしに救いを求めてきたのでしょう。
うわぁ…すっごい心当りがある。これも間接的とはいえ、妖精さん絡みな案件でしょうから、調停官のわたしが行くしかないのでしょうか。
ここで有能な公務員たるわたしがやるべきは、可哀相な子供たちを宥め落ちつける事です。
「えー、みんな聞いてください。本件は妖精さん絡みの可能性が無きにしもあらず、ですがまだそうと認識するのは尚早といいますか、えーまずは慎重な事実関係の確認と必要に応じての増援要請をですね…」
「ぅわーん!早くー!お姉ちゃんが〜」
「ひっく…お姉ちゃん、私達を逃がす為に…ぐずっ…」
ちっ。これは、わたしが行くしかないのか。はぁ、仕方ないなぁ。
まあ、所詮はチキンたちですし、ここはエレガントに『交渉』するのも出来る女の嗜みというものでしょう。
「分かりました。キミたちのお姉さんの所まで案内して下さい。
それと助手さん、お祖父さんにこの事を知らせてくれます?」
「……」
こくん、と頷き助手さんが駆け出すのを確認して、わたしは子供たちの案内で救貧院に向かいました。
これですぐ増援も来ることでしょう。しかし祖父は相変わらず何処で油売ってることですやら。
武器もとい交渉材料は…今、丸腰ですけれど。ま、所詮はチキンですよチキン。楽勝ですよね♪

――ふたたび、救貧院。
「みんな、危ないから下がっててくださいね。私がお肉さん方と交渉してきますから」
子供たちを逃がしたわたしは、救貧院の扉を押しあけて突撃しました。
廃墟同然ながら荘厳な趣もある教会は、ステンドグラスが破れ、布で雨除けされていました。
ほー、ツギハギさん、こんなところにお住まいなんですね。
おっと、今はそんな事はどうだっていい、重要な事じゃありません。
「ツギハギさーん、御無事です…か…」
嘲笑。体毛ナシのぬたぬたボディの物質が不気味に振動していました。
ああ、チキンですね、加工済みプロセスチキン。(認めたくないけれど)生きてる、チキンですよ。

「&%$$&$%」
≪現れたな、忌々しき不味い人間のメスよ!我らが同胞の恨み、今こそその身で贖ってもらおうぞ!≫

…は?
ごめん、クスノキ語でOK。
うーむ、妖精さんの異訳メガネが無いと彼らの言語は解読不能です。
言語が分からないのに交渉できるかって?まあ、問題は無いでしょう。
ふふふ、交渉(物理)ですよ♪
わたしはエレガントに微笑み、ずいっと前に出ます。
と、臆病者のチキンたちはわたしの雄姿に恐れをなし…あれ?
「&♯&$$$♯!」
≪ククク、我らは進化したのだ。最早人間のメスなど怖れるに足りぬわぁ!≫
あれれ?この前と違い、妙に強気でいらっしゃる。
…いつの間にか、わたしは彼らに包囲されてしまいました。
少し怖くなったわたしはポケットを探ります。うん、ニワトリ解体用ナイフ、手元にナシ。
助手さんは、居ません。
そうだ妖精さん……居ない。いつも傍にいるのに何で今日に限って…。
孤立無援。四面楚歌。これは、わたし…ピンチ?
「つ、ツギハギさんは…あなた方が捕えている娘さんは、どうしたんですか?」
「%&&%♯!($$!)」
≪フハハ、あれを見よ!あの人間のメスも我らの同胞を食いまくった咎で、今度は我らが食しているのだぁ!(性的にな!)≫

…言葉は通じずともニュアンスで振り向くと。
教会のテーブルの上に、一人の少女が横たわっていました。
ボサボサの長い赤髪。少しそばかすがあるけれど愛らしいその横顔は、頬が紅潮し、生気を失った瞳は虚ろにわたしを見つめます。
「つ、ツギハギさん…?」
テープルの上の彼女はグッタリとしていて、時々「ビクっ、ぴくん」と痙攣していました。
ツギハギだらけの繋ぎの衣服は脂肪でギトギトに穢され、その小さな胸は…あれ?しばらく会わない間に発育されたんでしょうか?
モゾ…ぐにゅ…
「きゃーっ!」
痙攣と共に絶叫するツギハギさん。
ぴくんっ!ツギハギさんの胸元で謎の物質(まあ、正体は分かります)が蠢くたび、彼女の小さな身体がぴく、びくびくっ、と跳ねました。
「ひああっ!ふぇぇ!やめ、て…服のナカで、動かな…いで…」
モゾ…ぐにゅう…ぞるるるるっ…
謎の物質(まあチキンですよ、チキン)がツギハギさんの瑞々しい肌を、蹂躙しているようでした。
「はぁ、はぁ、ふぁぁ!やだぁ…ぴたっとした、生肌の感覚がぴたっと…ふぇあ!?」
ピクン。ぴく、ぞくううぅぅぅ。
「〜〜〜〜〜っっ!」
壮絶な鳥肌と悪寒が背筋から脳髄を伝い、ツギハギさんの身体と精神を弄んでいるのは想像に難くない(うわぁ…)
既に精魂尽き果てた身体を一再震わせ、声にならない悲鳴を上げるツギハギさん。
うわぁ…
彼女の身に何が起こっているの?
いえ、分からない筈はないのです。そう、チキンですよね、チキン。
ギットギトに脂肪が乗った加工済みチキンさん方が、憐れな犠牲の素肌を撫でまわし、擦っていると推測されます。
必死に抵抗したのか、それともチキンたちの狼藉の為か、ツギハギさんの衣服はほつれ、下着は油が浸透し瑞々しい肌と張り付き、殆ど裸同然でした。
荒く切ない吐息を吐くたびにツギハギさんの胸は上下し、その胸は乳首が勃起して油ギトギトの下着から浮き出てしまっています。
ぴくぴく震える彼女の瞳から、いよいよハイライトが消えていきました…。

「$%♯%♯」
≪思い知ったか、不味い人間のメスよ!いや、若々しく中々に美味い身体であったなグヘヘヘ!≫
「%%$$$♯〜〜〜略〜」
≪ヒヒヒ、我らの油には、人間のメスを発情させる強力媚薬成分があるのだぁ。これも合成飼料と薬物投与で育成された我ら食肉の進化系なのさ≫
「$$(めんどいので以下略)」
≪どうだ我らの鳥肌と肉責めのお味は?鳥肌が立つほど気持ち良いのだろう?≫
「$〜以下略」
≪人間どもへの復讐の時、我らは天啓を受けたのだ「このメス達でうすいほん的展開をしろ」となァァ!≫

……。全く、何を言ってるんでしょうね、このプロセスチキン達は。
さて、ツギハギさんを助けなければ。出来ればもう帰りたいけれど、これも調停官のお仕事って事で。
「ツギハギさんを解放しなさい。さもないと今度こそわたしがあなた方を美味しく頂いてしまいますよ?」
わたし、強気です。エスプリの利いた冗談を言いつつ凛と交渉(物理)するわたしって、出来る女です。
しかし、勇気と無謀を吐き違えるべきではなかった。
「♯!」
≪次はお前が食べられる番だ、人間のメスよゲッヘッヘッ!≫
加工済みチキンたちが一斉にわたしに飛び掛かります。
「くっ、なんの」
ばった、ばったと叩き落とす、わたし。
わたしは女の子としては体格良く(つまりスタイル良いんですよ)、チキン如きに遅れを取るハズがない。
「きゃーーっ」
ぞくうぅぅ!
一羽のチキンがわたしの頬に当たり…その鳥肌の感触に思わず怯んでしまいます。
その隙に、一斉に胸元に飛び込んでくるチキンたち。
「くっ、しまった」
チキンがわたしの胸元に張り付き…
「……っ!?」
ぞくうぅぅ!
な、なんという気食悪さ。これは堪りません。
背筋から大量の蟲がゾワゾワ這い上がるような不快感…それに、あ、あれ…?
からだが、火照ってきました…熱い。
「え?」
がくっ。
足腰から力が抜け、へたりこんでしまったようです。
「$〜略」
≪グヘヘ、手こずらせおって人間のメスがぁ。我らの油は超強力な媚薬だと言った筈だ…どうだ甘い痺れが取れないだろう?≫
「…ふぁ、あれ?身体が、動かな…」
お肉さん方が何言ってらっしゃるかは不明ですけれど、どうやら彼らの油にはわたしたち人間を無力化する成分があるのでしょう。
なるほど。ツギハギさんも、これにやられたのでしょう。
…くっ、身体が…痺れて…ま、まずい…。
薄れる意識の中、わたしの視界に大量の加工済みチキンの群れが群がるのを確認しながら…わたしの意識は闇に沈んでいきました…。
ああ、これからわたし、チキンさん達に美味しく頂かれてしまうのですね。
おさらば。

つづくかもです?


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