闇営業…。

それは、所属事務所を通さず芸人個人が直で受ける、ギャラガチャーララーラチャーララーララーララーララー♪(←ギャラガの始まりのアレ)…もといギャラが全額ポッポにナイナイのオイシイ仕事…。

だが、事務所に所属できていないしエージェント契約もできない、さらに正式な師匠を持たないスタイルの数多の雑魚芸人達にとっては、ローリスク・ハイリターンのボーナスステージである…。

但し、その後売れっ子になってから、週刊誌等で「無名時代に反社会的勢力のパーティーに呼ばれていた」というスッパ抜き記事が出る危険性を孕む諸刃の剣でもあり…。



ああ、それと。

筆者は現実と混同しない人がここに来てこれを閲覧しているという前提で執筆・投稿している。

この駄文からどのような意図を汲み取るか、そもそもトップページの注意書きを遵守できるのかどうか…それは読み手側各々の自己責任だっ!!





らみだら(裸淫)!

第一席 ものまね!





1、



 熟れてない…もとい、売れてない若手女性漫才師”とこなつ”。ツッコミ担当”凩まふゆ”と、ボケ担当”北風ふぶき”による、19歳同士ピッチピチやぞ!!なコンビである。



「なんでやねん!」



 今日もいつもの公園で、いつもの近所のお安い洋服チェーン店で複数枚買った、いつものお気に入りのベージュのパー カーと茶色のハーフパンツ姿で、ツッコミ・まふゆの練習する声が響いていた……ただし、公衆女性トイレの個室の中で。いつもは相方のふぶきが一緒であり、二人の時は堂々と屋外で漫才の練習をしているのだが、まふゆは極度の陰キャで人見知り。古い言葉で内弁慶。学校では個室便所内弁系(ドヤァ。残念な事にまふゆには、外で、一人で漫才の練習をするなどという度胸は全く無かった。

 まふゆは、小学校の頃は



「よく聞く言い回しだけど、校舎だったんかーいっ!」



 …都合良くまふゆのツッコミが入った。全くの偶然だ。こほん。まふゆは、小学生の頃は大阪住まいだったが、中学生になって○玉にヤって



「ハッキリ言おう?ねぇ、そこはハッキリ言おうよ?!」



 …股藻矢、ではなく。またもやまふゆのタイムリーなツッコミが入った。でもコレ、大事な事なのでもう一度説明するけど、トイレの個室で一人でツッコミの練習をヤってるわけで



「言・い・ま・わ・し!そこも気を付けよう?」



 …”うん、ち”と疲れた。トイレの個室だけに(ドヤァ。普通に行こう。中学から埼玉にヤってきたまふゆは、中学でクラスメイトに「怒ってる?」と怖がられた甘酸っぱい青春の経験もあり、家の中以外では慣れ親しんだ関西弁で喋れないプレッシャーに伸し掛かられ、キョドるようになってしまった。そりゃもう…仮に大臣になったら野党からも共○通信からも大事な政策論議そこのけ、そこのけ、アソコのおけけ、そっちのけ、って感じでキョドり癖を叩かれるイタチごっk…もとい、位。

 だが、中学2年の時にお笑い好きのふぶきと出会ったことで、徐々に持ち前の明るさを取り戻していくと同時に、お笑いやりたい熱が沸々と沸き起こって”いった”。ふぶきと二人で”いったい”どんなつもりだったんだ?と言わんばかりの”いったーい”ネタを引っさげて高校生漫才コンテストに挑戦し、会場が”一体”となるドスベりを2年連続でしたりもした。

 それでもお笑い芸人…ふぶきと二人でしゃべくり漫才師”とこなつ”としてプロになり、グランドマスターガンダム大地に…否、なんばグランド花月の舞台に立つ夢を、今もこうして追い続けている。正直、今はきれいなトイレの神様か、萌えギャラガチャーララーラチャーララーララーララーララー♪(←ギャラガの始まりのアレ)…もといキャラ化激しい花子さんか?という感じだけど。



コン、コン



「……っ!!」



 まさか通報された!?と、まふゆはよろめき壁に倒れ掛かり、心に鎧…じゃなくて緊張が走る。危うく棚の上の補充用トイレットペーパーのロールが反物のように舞う…じゃなくて落ちて転がる処だった。まふゆは基本サムライハートならぬ、弱い犬ほどよく吠える系チキンハートなのだ。



「すみません、今出ます!すぐ出ます!」



 慌ててドアを開けるまふゆ。そこにはしかし公園の管理者さんの姿はなく、代わりに見覚えのある女性の姿があった。まふゆが懇意にしている、近所のお安い洋服チェーン店の女店長さんだった。



「あら、やっぱり。いつも階段のところで漫才の練習をしてる人…そしてうちのお店のお客様ですよね?」

「は、はいっ」



 赤面しつい挙動不審な態度を取ってしまうまふゆ。いや、トイレの個室内での一人ツッコミ練習の方が挙動不審なのだがそこはそれ。

 が、店長さんはそんなまふゆの様子を見てクスッと微笑むと言葉を続けた」



「良かったわ。実は、あなたを探していたんです。”とこなつ”の凩まふゆさん。

 私、咲花与野高校文化祭のステージと、喫茶男爵亭でのステージも、見させていただいていたんですよ。

 ネタもモノマネも、とっても面白かったです」

「えっ?あ、ありがとうございますっ!」



 深々と頭を下げるまふゆ。まさか、男爵亭での初ライブだけでなく、散々な結果だった文化祭でのモノマネに好評価を貰えるなんて。



「それでご相談があるのですけれど、”とこなつ”のお二人はどこかの事務所に入っておられたりされていますか?」

「いえ。私達、駆け出しもいい所なもので、どこにも…」

「なるほど…実は、我がチェーン店の地区パーティーがありまして、今回は私の店舗が幹事を任されているのですけど、出し物をどうしようかと考えていまして。

 それで、うちのお店を懇意にして頂いている若手の芸人さんという事で、”とこなつ”のお二人に出演して頂こうかと考えた次第でして。

 ですけれど、何分こういった交渉は初めてで、出演料の相場も伏せられている事が殆どですし…

 万が一にも闇営業問題になってしまっては、本社や全店舗、何よりも”とこなつ”のお二人にご迷惑をお掛けしてしまいますし…」

「なるほど…お気遣い、ありがとうございます」



 まふゆは冷静を装っていたが、その心中、脳内ではもうこの話を受ける方向で思考が突き進んでいた。



「わかりました。では、早速相方のふぶきに相談してみますね!」



 早速ふぶきはスマホを取り出し、まふゆに電話を掛ける。数コールの後、通話が始まった。付き合いの長いまふゆは、ふぶきがもう乗る気120%なのを悟り、また自分達の経験を積むチャンスでもあると考え、その話を快諾した。

 まふゆはそれを店長さんに告げると、仲良しの漫才コンビ”R凸(アールデコ)”の新谷りんと朝生祇なゆたにも連絡を取る。二人は現役大学生なので、行ければ行かせて欲しいという事だった。店長さんは”R凸”の参加も提案すると答えてくれた。

 そして場所を近所のお安い洋服チェーン店のスタッフルームに変えて、お茶とお菓子を頂きながら、店長さんとまふゆは打ち合わせをするのだった。





2、



 そしてパーティー当日がやって来た。

 場所はより都心に近い隣の県のかなり大きなホテル。本当は県内のホテルが会場だったのだけれど、本社の偉い人達が全国規模のチェーン店を目指す企業としての威光を見せておきたいと言ったから…と、店長さんはこっそりと教えてくれた。

 が、まふゆはいっぱいいっぱいだった。移動時間と講義の兼ね合いの都合で”R凸”の二人が居ない。家の都合で、ふぶきが居ない。言い出しっぺとして舞台に穴を空けるわけには行かないので一人で来たものの、この日のために用意してきたネタや段取りのあれやこれやが全て吹っ飛んだ上に、顔見知りと言えば店長さんしか居ない。内弁慶で陰キャなまふゆにとっては針のむしろと言うよりも針山地獄。せめて他の芸人さんが居てくれたら…とも思ったが、まだ表舞台に立ってないも同然の、フリーで無名の新人漫才師にヘルプしてくれるツテなど…一応居るには居るが、ある事務所に所属している先輩だし、闇営業問題の事もあって、事務所に話を通すためのタイムラグもあり、突然には頼み辛い。



「あの…やっぱり、キャンセルして頂いても構いませんよ?私の落ち度なんですから…もちろん、出演料はお約束通りお支払いいたしますし…」



 店長さんからの気遣いの申し出。まふゆはそれに乗ってしまいたかった。今すぐ逃げてしまいたかった。

 しかし、それをしてしまったら、たぶん大舞台に立ってみんなを笑顔にするという夢から一生逃げることになる。それはふぶきに、りんに、なゆたに、妹のまなつに、先輩達に、店長さんに、そして自分に対する裏切りになる。それだけは出来なかった。



「いえ、ひとりでもやります。私には、ひとり芸…モノマネだってありますから!」



 声はガタガタに震えていたけれど、まふゆの瞳に覚悟を決めた輝きが宿った。

 そして…女店長の瞳に妖しい輝きが宿った。





3、



 結果から言うと、まふゆ渾身のモノマネ芸は会場を笑いに包んだ。

 但し、嘲笑や冷笑といった類だが。

 客席を埋めていた、高級そうな衣装に身を包んだ男女達…各店舗の店長や本社の偉い人達…に浴びせられるそれらは、まふゆの心を折る寸前まで追い込んでいた。



「あ、あの、え…えと、次は…」

「まふゆさん、ちょっと、こちらへ」



 舞台袖から店長さんが小声でまふゆを呼んだ。まふゆは客席に向けて頭を下げると、舞台袖へと下がる。



「店長さぁん、ごめんなさい、私…」

「大丈夫、大丈夫ですよ。私に考えがあります。私に協力してくだされば、きっと上手くいくはずです」



 普通なら、お笑いについて素人である店長さんに何が出来るのか?や、そういった用意があるのなら早く出して欲しかった、といった考えや思いが頭をよぎっただろう。しかし、今のまふゆはいっぱいいっぱいだった。



「いいですか、まふゆさん。次は私も一緒に舞台に出ます。舞台に出たら、取り敢えず私の言うことに従って下さい」

「は、はい」



 思いっきりヤラカシてしまったまふゆは店長さんに逆らえない。自分を信用してくれた店長さんに、これ以上恥をかかせるわけにはいかなかった。

 まふゆは店長さんと共に舞台に戻る。そして……恥辱のステージが幕を開けるのだった。



「皆さん、これより”とこなつ”の凩まふゆさんによるモノマネショー第二幕・リクエストの部を開催いたします!」





4、



「それでは、これよりまふゆさんにしてもらいたい即興モノマネのリクエストを承ります!

 まずは…本部長、お伺いします。どうぞ」



 女店長に指名された眼鏡の中年男が、いつものパーカーとショートパンツに身を包んだまふゆの全身を無遠慮に舐め回すように眺める。そして、



「ふむ、では今流行りの、女性芸人によるブタのマネでもしてもらおうか」

「えっ!?」

「まふゆさん、リクエストに応えて下さい。ブ・タ・の・マ・ネ、ですよ」



 女性芸人にブタのマネ。それは昨今…詳しくは伏せるが…瞬間風速的に目くじらと波風の立つ危険なネタフリである。しかし、先人に曰く『百聞は一見に如かず』という言葉があるように、人の視覚に訴えかける行為というのは芸術でも商売でも対人関係の構築でも…兎に角、目の見える人間のあらゆる社会生活上に於いてかなりの情報(以下、話が長いので 省 略 ! )。当然、芸人ではあるがまだ19歳の少女であるまふゆも、初めて見た大勢の赤の他人の前でブタのマネをしている自分を一瞬思い浮かべ、躊躇してしまう。



(ブタのマネなんて…やだよ、そんなのやりたくない!でも……な、鳴き声くらいなら……)

「……ブー、ブー」



 約1分の葛藤の末、まふゆはブタの鳴きマネをした。かわいく、というか日本語の発音で「ブー、ブー」と言っているだけだったが。しかし、客席からは



「ブーブー!」

「似てないぞー!」

「こっちのブーイングの方が似てるじゃないかー!」



 ブーイングとクレームと、それを受けての嘲笑の嵐。今日一番の笑いの渦が起こった事に、まふゆの心は陥落寸前に追い込まれて行く。今にも泣き出しそうなまふゆに、女店長は囁きかけてくる。



「まふゆさん、もっとブタになりきってもらわないと。

 ほら…ここに四つん這いになって、鼻もブタのように上げて、穴を大きく広げて…ね?」

「そんなの無理…できません、お金はいいです、もう帰らせて下さい…」

「まふゆさん。貴女はプロの芸人なのでしょう?

 だったら、受けたお仕事は責任を持って最後までやり遂げて下さらないと。

 ここに居る皆さんを楽しませる事、それが貴女の受けた仕事です。

 ここで逃げたら…貴女自身の手で”とこなつ”の看板に泥を塗る事になりますよ?」



 小声だが、それでもまふゆの弱音をピシャリと遮る女店長の一喝。店長を任される程にまでのし上がってきた彼女の言葉に重みを感じたまふゆには、この人生の先輩の言葉に逆らう事など…疑問を感じる事など、出来ない。のろのろとした動きで舞台の床に膝をつき、右手をつき、左の人差し指で自分の鼻を上げて、ブタの鼻を模す。そして、



「ブー…ブー!ブーブー!ブゥーッ!」



 双眸から涙をひと雫ずつ流すと共に、人としての尊厳を一つ捨て去った…。





5、



 だが、それでも客席は容赦しない。



「鼻の穴が小さくてよく見えないぞー!」

「それにブタならブタらしく4本足で立てー!」

「ブゥ、ブゥー…(そんな…これ以上どうしろって言うの?)」



 指でブタ鼻を作り鳴きマネをしながらも、救いを求め、女店長の方に視線を送るまふゆ。女店長は軽くウィンクをすると、舞台袖から一台の小型のカート台を押してきた。だが、そこにはまふゆの想像…芸人としてのサガと呼ぶべきか…を、悪い意味で当てたモノが。



「大丈夫。ちゃんと両手が空くように、バラエティで見る鼻フックベルトを用意してありますから。

 ……さ、ちゃんと四つん這いになりなさい?」



 声音は優しいまま、しかし命令口調に変えて。女店長はまふゆの鼻の穴にフックの金具をあてがう。まふゆはイヤイヤをして抵抗するが、女店長によって頭を抱きかかえられ、動きを封じられる。女店長の柔らかな二の腕と胸乳がまふゆの両側頭部に強く押し付けられ、ついに金具を挿入されてしまい──黒いゴム紐の端をショートパンツの後ろのベルト通しの輪に結び付けられ、まふゆは無理矢理に喉を反らされ顔を上げさせられた状態で、無様なブタ鼻顔を見せる姿勢にされてしまった。



「立派なブタになれましたよ、まふゆさん……さぁ、お鳴きなさい」

「いや、いやぁ!外して下さい!こんなの、もう、私…」



パァン!



 女店長にショートパンツに包まれた尻を平手で強打される。



「ブタなんだからブタらしく鳴きなさい!」



パァン!パァン!



 立て続けにもう2発。そして、まふゆは──



「ぶ……ブー!ブー!ブウゥゥーッ!!」



 止まらない大粒の涙とともに、ブタの鳴き声を上げる。途端に大きな嘲笑が会場に沸き起こる。

 だが、恥辱の舞台はこれで終わらない。寧ろ、まだ前座に過ぎない。



「食肉家畜はビールを飲ませると聞いた。このブタちゃんにも飲ませてあげようじゃないか」

「あら、社長。それは牛ではありませんでしたか?

 まふゆさんのブラのカップはたしか──」





第二席 なうばぁ!(仮題)に続く。


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