ー龍虎蹂躪戦・序幕ー





荊州。それは三国の武将たちの騒乱を偏にその身に受けし土地。
魏を退けしその後、そこは長き間にわたって蜀と呉の紛争の元
となりし、怨念深き場所なり。史家が評していわく、
「かの地に流されし多くの人血、多くの生あるものを狂わせ、
悲劇に更なる彩を加えん・・・」(注:現代訳



呉本陣・大都督周喩のもとにその吉報が入ったのは、蜀との戦も
終焉に向かっていた頃の事。
「伝令ー!都督殿!敵将らしき人物を捕縛したとの事です!」
「何?!それは真実か!」
(もしそれが本当ならば、諸葛亮め・・・後で泡を食って驚いて
いるであろう・・・。私が本気を出せば、奴ごときに遅れは取ら
んということが、やっとこれで・・・)
「都督殿?大丈夫でありまするか?!都督殿〜!!」
有頂天になった周喩には、伝令の声が聞こえるはずもなく、
伝令は仕方なく幕から立ち去ったのである。


その晩のこと、周喩は伝令の言葉が真実であったことを知ると、
功労者である将の為に宴を開き、自ら上座へ案内して、更には
酌までするという異常なまでの喜びを見せた。その姿に諸将は、
「軍師さんは、よっぽど今回のことが嬉しかったんだろうな」
「うむ、自ら酌までしているのだからな」
「しかも、これは全部周喩さまの自費だそうですね」
「まっこと、軍師殿の諸葛亮に対する恨み辛みの深いことが、
これに表されておるな」
(おのれ、諸将め・・・好き勝手なことをいいおって!あの
諸葛亮がどれ程の器を持った男なのかを、まだ理解できてい
ないようだな・・・!)
一人憤慨しつつも、周喩の脳裏には悔しがり、怒りのあまり
その顔をゆがめる諸葛亮の姿があったりしていた。
そしてそれは、周喩の死期の近いことを知らせていた。




「ここか・・・」
周喩が将から聞いたその場所は、城下から少し離れた一軒の
廃屋。確かにここならば何をしようが敵将にわめかれようが
思いのままである。戦の前に、
「諸将!敵将を捕らえたならば、必ず私に伝令を送り、その
将は人目につきにくい場所に幽閉するのだ!」
とは言っておいたが、まさか本当にこんな所に閉じ込めるとは
思いもよらなかった。
(まぁこの方が色々と都合がいいだろう)
そう思うことにすると、周喩は一人廃屋へと足を踏み入れた。
流石に放棄されて長い間たっているのか、それは今にも崩れ
落ちてきても不思議はなかった。周喩はこんな所に幽閉された
敵将に同情しながらも、これからの行為に期待を胸に膨らませ
ながら進んでいった。
そして、周喩の望んでやまなかった姿がそこにあった。諸葛亮の
妻、月英。後ろ手は鎖に繋がれ、自由の利かないその体を解放し
ようともがいた形跡が見られた。己の願いの成就。それを目の
当たりにした周喩は、
「ふっ・・・・・・」
まず、美しき捕虜に鼻先の侮辱を与え、そして、
「龍の妻と褒め称えられしものの姿とは思えぬな」
と嘲笑を浴びせた。
一方で月英は、あくまで他人事とそれには関心を向けず、この状況
をうまく利用しての、脱出に心を砕いていた。





(つまらぬ・・・少しは噛み付いてくるかとも思ったが・・・)
思わぬ月英の反応に、周喩は少しばかりの憤りを感じていた。
諸葛亮の伴侶へ、諸葛亮に対する負の感情をぶつけることで、
少しは気がまぎれるだろうと考えていた周喩にとっては、この事は
少し予定外だった。
(ならば・・・少々、強引な手を使わせてもらうとするか)
そう思うと、おもむろに周喩は月英の衣服に手をかけ始めた。
流石の月英もこれには驚き、
「なっ!貴様、何をする?!」
と抵抗しようと試みた。が、痩せても枯れても周喩は男、月英は女。
このことに変わりはなく、すぐに裸体をさらす結果になった。
「くっくっくっ・・・諸葛亮め。この周喩をなめてかかると
どのようになるのか、思い知らせてやろうぞ・・・」
周喩の目は理性を失い、それが月英に判るほどに異常な気を発していた。
(これは・・・少しまずいことになったのかもしれない・・・)
月英には、この後自分がどのような目に合うのかが、まったく予想
できなかった。





悪夢は、ここからすべての始まりを告げる・・・・・。


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