開幕話『 明晰夢 』

 
 千葉県房総海域に建造された人工島。近代学園都市。五つの区画によって構成され、本土の人間にも無条件で解放されているのは、唯一に中央に位置する中央地区。
 その名も……(この広大な建物名の名でもある)セントラルだ。

 俺は夢の中で、そのセントラルに立っていた。
 なんでこれが夢だと解かったか、と言えば……自分の背後で俯瞰させた視点から見ていたからだ。
(これが明晰夢、って奴だな……)
 その夢の中で描かれた光景は、入学式のあの日に利用した喫茶店。確か『white album』という名の、品の良い店舗だ。
 深雪が携帯端末の時刻を確認する。
『…翔子や先輩たち。遅いですね……』
『そうだな……』
(……)
 俺は肯定しつつ、それは当然だと思っていた。
 この場には『トリプルティアラ』の面々は無論、祐樹や郁子、翔子らの姿はない。ここで俺と深雪が待っていることも知らないはずだろう。
 みんなと会うから、というそんな口実で、俺は深雪だけを呼び出したのだから。
(やっぱり……可愛いなぁ!)
 夢の中ではほぼ毎日、深雪だけを眺めている。だが、あの入学式の日から一ヶ月が経っても、深雪の可憐さは変わらないでいる。いや、むしろ増しているような気がした。
 …いや、錯覚じゃない。
 こうして至近で見るのは久しぶりだが、確実に深雪の姿は更に進化している。成長しているのだ。これは夢の中だが、俺の夢は現実で俺の視界に収めたそれを忠実に再現させる。
『先輩も、何か追加しますか?』

 深雪が注文したのは、あの日と同じミルクティーだ。
 無論、俺の知る処ではなかったが、深雪はあの入学式の日以来から、どっかの誰かの影響を受けて、飲めないブラックを常飲するようになっていたのだが、そんなことを俺が知る由もない。だから、夢の中での彼女の注文する飲料は、いつまでもミルクティーのままだった。

『先輩、すみません。少し席を外しますね』
 と、深雪は作動中の携帯端末をテーブルに置き、部屋から退出していく。
『んっ……また……』
 作動中の携帯端末の放置は非常に危険だ。
 携帯端末には他人には操作できないように、指紋認証。そして他人が起動させた場合には、IDとパスワードを必要とするのだが、作動中では他人でも簡単に操作できてしまう。
(この場合は好都合なんだけど……)
 俺は深雪の端末から、彼女が未だに『処女』であることを再確認し、スリーサイズも記憶(夢の中での幻想による補完だが、その数値は精巧に現実と一致する)に刻む。
 バスト77のC…ウエスト55に、ヒップ79と…
(やはり、先月より成長しているよな…)
 成長期だから、だろうな。
 とりあえず俺は彼女のスリーサイズを記憶に刻んだ。
 そして今日が、深雪の排卵予定日二日前。彼女の危険日であることも……。

『……っ…』
(…本当に……やるのか?)
 僅かなまともな理性との葛藤で手が震えた。
 俺が手にしているのは一つの白い錠剤。
 ……睡眠薬だ。
(だが、俺には……)
 俺には、この方法しか思い付かない。
 俺は想像力豊かな方だと思う。でもそんな俺が色んな場面を想定して、どんなにイメージを膨らませてみても、深雪とセックスできるなんて、そんな都合のよい幻想はとうとう想像できなかった。
 深雪をレイプする……それ以外に。
 今回はこの睡眠薬で、昏睡レイプしようとしている。
 彼女の『運命の相手』となる……深雪の『処女』を奪うには彼女をレイプするしかない。この一ヶ月の間、それ以外の選択肢が俺には全く思い浮かばなかった。
 レイプは犯罪だし……『処女レイプ』ともなれば、死罪は免れないだろう。
(…超危険日……ね)
 さすがに避妊しよう、って思う自分もいたが、深雪を孕ませたい、って思う自分も…確かに俺の中には存在していた。
(でも、さすがにヤバいよなぁ……)
 深雪は学生……一年生の後輩である。さすがに妊娠のリスクまで背負わせるのは心に痛んだ。勝手だけどな。
(避妊は、するから……)
 そんな身勝手な思いを免罪符にして、俺は睡眠薬を深雪が注文したミルクティーに落とす。
 その白い錠剤は「サッー」と拡散するように解け、すぐに見た目には代わり映えしなくなる。味も差して変わらない、とは、この薬剤を処方した闇医者の説明だった。

 透視化させておいた外壁で深雪の姿を確認し、俺は自分の座っていた席に戻る。後は深雪があのミルクティーに口を付けるのを待つだけ、となる。
『翔子たち。まだ、みたいですね……』
 着席した深雪が嘯く。
 これが現実ならば、彼女は携帯端末で翔子に連絡を入れることだろうが、これは俺にとって都合の良い夢の中だ。
 だから彼女は俺の都合の悪い行動は移さない。
 そして……
(…よし……)
 そして座席に戻った深雪は、何の疑いを抱くこともなく、睡眠薬が完全に溶け込んでしまっているミルクティーを……その液体を口に運んだことを確認した。

『祐樹たち、近くまで来たらしい』
 俺は時間を見計らって切り出した。
『迎えに行こうか』
『そ、そう……ですね……』
 睡眠薬が効いてきたのだろう。深雪の様子は明らかなまでにおかしかったが、俺はそれに気付かないふりをして、清算を一度に済ませた。
『こっちの方だな……』
『…はい……』
(……っ……)
 何の疑いのない返答が心に痛い。
 目指しているのは、セントラルのホテル街だというのに。
 何の疑いもなしに、深雪は俺の後に付いてくるのだから。
『大丈夫、か?』
『…は、はい……』
 既に深雪の状態の異常は明白だった。
 とりあえずホテル街まで歩かせて、もう限界だな……と思った辺りで彼女に肩を貸した。もう普通に歩くこともままならない状態だ。
『…体調が悪いのか?』
『す、すいません……』
『……気にするなよ』
 睡眠薬を盛っておいて良く言う。
 だが、もう目的地は目前だ。
『少し……休んで行こう』
『………』
 既に深雪に意識はない。
 辛うじて、『はい』と肯定したように聞こえたが。
 俺はホテル街の一角にあるラブホテル……主に四条学区の学生が利用している場所を選んだ。部屋は前払いの指定制。内装とサービスがそれぞれに異なるらしい。
 これから『南部深雪』の『処女』を奪う部屋だ。
 だからせめて、値段の一番高い部屋を俺は選んだ。
 エレベーターの扉が開き、これが部屋まで誘導してくれるのだろう。
『もう少しだ!』
『………』
『よし、着いたぞ……』
 俺は開閉された扉から、部屋の中心にあるベッドに深雪の身体を横たわらせる。確実に睡眠薬が効いているのだろう。深雪に目覚めるような気配は全くない。
『今、すぐに……楽に、してやるからな』
 俺は深雪のリボン(一年は白だ)を解き、そのどさくさに紛れて彼女の胸を揉みしだきする。いつもの夢でも見てきた弾力性に優れた膨らみだ。
 さすがに同じ一年生の『安東理奈』程ではないが、深雪の胸も中々に実らせており、感度の方は決して悪くはない。
 現に睡眠薬で昏睡させているのにも拘らず、深雪の吐息は次第に熱を帯び始めていた。
 スカートの中に手を忍ばせては、小さな薄布をゆっくりと剥ぎ落していく。引き吊り降ろしたショーツから深雪の甘い香りを嗅いで、更に興奮を憶えた俺は、目を赤く血走らせながら、彼女の外陰部……『処女』である、深雪の膣口と対面を果たした。
(これが……深雪の……)
 何の疑いも抱くことなく、昏睡させられた超絶美少女。
 それだけに罪悪感が無かったわけじゃないが、それ以上に興奮と好奇心が勝っていた。
 どんな言い訳を並べてみても、夢の中とはいえ、昏睡させた深雪の身体に悪戯し、現実にペニスを勃起させてしまっている以上、それは綺麗事でしかない。
(………)
 こうでもしなければ、俺なんかの男には、深雪と関係する機会は永遠に訪れない。深雪とセックスをしたければ、俺にはレイプしか選択肢がなく、そして深雪の『処女』を奪いたいのであれば、今が、まさにその時だった。
(そ、そうだ……この瞬間しかない!)

 俺は昏睡している深雪に覆い被さるような体勢から、勃起させた(現実でも勃ってしまっている)ペニスを、深雪の膣内に宛がう。
『……んっ……』
 ゆっくりと挿入し…痛みと苦痛からか、それから無意識に逃れようとする深雪の身体を抑え付け、自分の分身を突き込んでいく。
 その侵入に抵抗する感触があった。
 これが深雪の『処女膜』なんだと俺は本能的に悟る。
 非常に弾力性に優れた防壁だ。
 そしてその防壁の先には、この二日後には排卵を迎える子宮口があることにも。勿論、避妊するつもりはあった。射精の限界を感じたら、即座に抜くつもりだったんだ。
 だが、まだ完全に繋がってもいない状態でも、深雪の(現実を忠実に再現させた)膣内は言葉にならないほどに素晴らしい性能であり、俺の思考力……残されていた理性も溶かし込んで行ってしまう。
『…い……っ……』
(………)
 最終的に俺の理性を完全に奪い去ってしまったのは、その深雪の苦悶に満ちた声だった。その苦悶に満ちた声でさえ、俺の脳裏を痺れさせていた。
 もっとその声を……
 深雪の顔を激痛だけに染めたい!
 深雪の『処女』を奪って、『運命の相手』に……そしてその膣内へ存分に吐き出し、深雪の輝かしいはずの人生に自分の存在を刻み込んでやりたい。
 俺の中で芽生えた悪意が、深雪の純潔を一気に奪った。
 完全に深雪と繋がった。
 俺が深雪をレイプしたのだ、と理解すると同時に、その素晴らし過ぎる身体を余さずに……そして何度でも深雪の膣内を貫こうとして、俺の腰の動きが止まらなかった。
 昏睡する深雪が激痛に悲痛を漏らす。
 それさえもレイプする俺にとっては、更なる興奮剤にしかならなかった。
 射精の現界はすぐだった。
 初挿入から、若さと勢いで無茶苦茶だったこともある。
 だが、それ以上に深雪の身体が素晴らしかったのだ。
 彼女おろか告白されたこともない俺だ。当然にして童貞でもある。だから、深雪の素晴らしい身体を比較できる相手なんていない。あくまで知識だけである。
 だが、俺は本能で知っているのかもしれない。
 この深雪の身体が、学園都市でも一番の超極上名器であることを。直感と洞察力……物質の理解力に関しては、親父も褒めてくれたもんだ。
 まして俺の直感が確信したことを、間違えたことは一度もない。

 俺は夢の中で、深雪の膣内に射精していた。
 夢の中の、この深雪は間違いなく妊娠させていただろう。
 もう避妊なんて言葉も、理性さえも残されていなかった。
 ただ、ひたすらに昏睡している深雪を犯す。
 射精は常に、深雪の膣内に、奥…深く、だ。
 あらゆる体位から、彼女の膣内に解き放っていく。

 購入したばかりの目覚まし時計が、アラーム(結局、音声入力は断念した)ベルを鳴らすその朝まで、俺は夢の中で、ひたすらに深雪をレイプし続けていた。


→ 戻る

→カノオカのトップへ