第序話【 要望 】
桜花市にある、何の変哲もない事務所。
表向きには、【立花会計事務所】となっているこの場所は、知る人のみぞ知る「売春兼買春仲介所」である。
何時の時代にも性犯罪が途絶えることはない。
かつての一時代に比較して、金銭的に裕福な学徒は増大しつつある近年ではあるが、貪欲なまでの金欲は、親の脛(すね)をかじって生きている彼女らを決して満たすことはない。
人は何時の世も、更なる欲求を抱えているのである。
売春、援助交際・・・・言い方はそれぞれだが、つまるところ自分の身体を経済的に余裕のある大人に売り続ける。
故に性犯罪が絶えることはない。だが、それもひとたび発覚したときのリスクは、身体を売る少女は無論、少女の身体を買う大人にとっても、余りにも大きく甚大である。
そのために立花のような、プロの仲介人が存在するのである。
少女が立花の売春リストに掲載してもらい、男が立花を介して、その少女を買う。警察の手入れが届かないラブホテル並の施設を提供し、お互いが名乗りをしない限り、性交する男女はお互いの素性を知ることはない。
そこに教鞭を振るう厳粛な教師も、年端も満たない少女も関係ない。男はただ未成熟な身体に快楽を求め続け、少女はお金のために男に抱かれ続ける。
その限定された場所に、お互いの利益と安全性をサービスすることが、プロの仲介人たる自分の役目なのだと、立花は自負している。
「さてと・・・・」
俺は事務所の壁を見上げ、時計は八時を指している。
「今日の来客予定者は、もういないな」
基本的に買春の飛び込みはお断りしている。性犯罪の仲介なのだから、当然ではあろう。ただ時折、顔馴染みや常連の連中というなら便宜を図ってはやるものの、それを常に待ち続けてやらなければならない、というまでの義理はない。
それに今日は・・・・
途端に俺の表情は崩れた。
身長2mもあろう、大柄な体躯の強面の大男なだけに、余りにも不気味な反応ではあっただろうが、それも無理もなかった。
「今日で三人目を孕ませてやるぞ・・・・明日香!」
篤川明日香・・・・
数年前、当時中学二年生であった彼女に薬物を服用させ、破瓜し、孕ませることができた美少女。そしてその出産費用から、その後の面倒までみてやるという条件で、俺に身売りした・・・・俺の知る限りの中でも、最高傑作の名器の持ち主である。
服用させた薬物によって、その破瓜された当時の記憶がない明日香。それだけに俺の言葉にはもはや逆らいようもなく、今では毎晩のように身体を許し続けている。
そして今日が、その明日香の排卵日なのである。
明日の明け方までの一晩中、明日香の身体を抱き、膣内に射精し続け、確実に孕ませてやるつもりであっただけに、俺の股間は今朝からギンギンであったのだ。
だが・・・・意気揚々と事務所を閉めよう、とした、その矢先のことだった。
そいつが唐突にやってきたのは・・・・
「卵を扱う売人っていうのは、あんたのことか?」
チッ、と俺は内心、舌打ちせずにはいられなかったが、その男を締め出すような真似はしなかった。
その理由にはいくつかあったが、その一つに【友卵会】は現在、とある事情で休業停止中なのである。それだけにここ近日、友卵会の話題に乏しく、明日香という最高の具合の良い名器を手にいれていたこともあって、立花自身、自分が友卵会の創始者であったことも忘れかけていた、今日である。
そこに友卵会の噂と立花の素性を調べ、わざわざ事務所まで訪れてきた男を無碍(むげ)にすることはできない。
「もし、あんたが卵の売人っていうなら、是非、あんたに頼みたいことがあるんだが・・・・」
それなりの長身。やや筋肉質の割には細身な体格。短めのツンツン頭で顔立ちは良くはないが、決して悪くもない。
年齢は明日香と同じぐらいの、高校生ぐらいだろうか?
「この子の卵を買いたい!」
一瞬、俺は唖然とした。
確かに俺は少女の卵子を取り扱う、【友卵会】の創始者である。これまでにも多くの少女の卵子を取り扱い、多くの野郎たちに新鮮な卵子を提供させてきてもいる。
だが、【友卵会】が「友卵買」とも書くように、あくまでも契約する身近な協力者があって、初めて成立する仕組みなのである。
如何に【友卵会】の創始者である俺でも、見も知らぬ少女の排卵期を予測し、誰にも気付かれずに薬物を服用させることは難しい。またその前後の卵子提供者のケアも、提供者を妊娠・・・・出産させるための重要な事項の一つである。
「クククッ・・・・面白いガキだな」
だが、俺は不思議とこの小僧が気に入っていた。
【友卵会】に掲載された知り合いの卵を買いに来た野郎は、これまでにもたくさん存在したが、卵の提供者をリクエストするような、要望を持って訪れた男は、この若僧が初めてだった。同時に、この若僧が自分と同じ空気を持った同種の人物だと、本能的に嗅ぎ取っていたのかも知れない。
そう、少女を破瓜して孕ませ・・・・それで悦に入る、一般的な常識の枠内では下種とも呼ばれるであろう、人種である。
とりあえず俺は、差し出された写真を一瞥した。
はて?
どこかで見覚えのあるような顔立ちだったが、はっきりと思い出すことはできなかった。
凛々しくも気品に満ちた顔立ちに、艶のある長い美しい髪。いずれの写真も隠し撮りされたものらしく、画像は酷く荒かったが、それでも十分に美少女と判別できた。
もし、この少女の卵を【友卵会】にかければ、何百万単位の収益が見込めることではあろう。
だが・・・・
「だが、そいつは・・・・無理な相談だな」
「エッ?」
「あのな、友卵会というものはなぁ・・・・」
友卵会・・・・
それは俺のこと、立花道雪が数十年前に創設させた、独自の商法の名称である。
少女が身体を売る、という意味では、従来の売春とほぼ同様といっていいだろう。だが、少女が友卵会に売るのは、自身の身体ではなく、あくまでも友達・・・・その友達が排卵した卵子なのである。無論、契約する本人の卵子でも一向に構わないのだが、誰が好き好んで、見ず知らずの男の胤を身に宿したがるだろう。
友卵会の契約者となる少女の最大のメリットは、自分の身体を少しも汚すことなく、他人の身体によって、従来の売春よりも多額のお金を得られるところにあり、高額によって膣内出し購入権を購入した男たちが思うがまま、少女を孕ませていくのである。
「ただこの娘をレイプしたい、というだけならば、また話は別なんだが、それだと友卵会の趣旨から大きく遺脱することになる」
「オレ的には、ただのレイプでもいいんですが・・・・どうせなら、やっぱり奈々ちゃんを孕ませてやりたい」
クッククク・・・・やはり、この小僧は俺と同種の人種らしい。
そして同時にこの発言によって、この写真の人物が誰であったか、思い出すことができた。
美島奈々。
ナデシコジャパンのエースにして、【リトルウィッチィ】とも呼ばれる超技巧派の女子サッカー選手である。高校一年生ながら、既に国際デビューも果たしており、その知名度はもはや全国区といっても過言ではないだろう。
スポーツを嗜む少女の・・・・特に全国区の実力を持つアスリートの身体は、男を迎えるための最高の具合を兼ね備えている、とよく耳にする。それはあながち、間違いではないだろう。
普段から筋トレなどで身体を鍛え、他の少女よりも柔軟性に富む肉体。それだけに、男を迎え入れたときの締め付け具合、受け止める肉質などに大きな違いが出るのは、当然のことであろう。
この写真に写る美島奈々も、サッカー選手として最低限の必要な筋力、持久力をバランス良く併せ持ち、俊敏性を備えた柔軟性の身体をしているが、男を迎える際には、さぞ男を愉しませてくれる身体をしているに違いないだろう。
だが・・・・
「まぁ、諦めることだな・・・・」
確かに素材としては、非常に魅力的なのだが・・・・
ただレイプするだけにしても、当然、こっちがやろうとしていることは紛れもない犯罪行為なのである。たとえ【ロスト】を服用させた、しても余りにもリスクが高すぎる。
「お前とて、レイプ犯として犯罪者になりたいわけじゃあるまい?」
手にした写真を返し、俺は立ち上がった。
「それに・・・・今、友卵会は休業停止中だ」
「え? どうしてなんですか?」
「まぁ、色々と止む無き事情があってな・・・・」
俺は苦々しい面持ちで煙草に火をつけた。
そう。
世の中、後々に色々と問題があるのだ。
色々と・・・・
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