わたしの名前は、ミア。
元リルミルト帝国の王女、そして、今では御主人様の秘書を務めている。
思えば、御主人様との出会いは運命的だった。
国を追われたわたしは、放浪するうちに路銀が底をつきてしまった。
しかたなく盗みを働くわたし。
あっという間に捕まって、処刑されそうになったのを、助けてくれたのが御主人様だったのだ。
もっとも、御主人様にとっては、単なる気まぐれだったのだと思う。
だって、その頃のわたしの格好といえば、薄汚れた一人の小娘にすぎなかったのだから。
いくらでも美人をよりどりみどりに選べる御主人様にとって、わたしは抱く価値すらなかったに違いない。
もし御主人様が、わたしが元リルミルト帝国の姫だと知っていればどうだったろう?
ときおり湧き上がるその思い。
なぐさみものにするために、わたしを引き取ってくれただろうか?
それとも、ガイラルハルに売り渡すために、引き取っただろうか?
答えはいつもすぐに出る。
御主人様はそんな理由では、わたしを引き取りはしなかったと。
御主人様は、ただ単なる薄汚れた少女に興味を持ち、引き取ってくれたのだ。
だから、わたしは運命の神に感謝するのだ、
御主人様に引き合わせてくれたことに。
たとえその日から姫としての誇りを失い、御主人様の奴隷になったのだとしても、
御主人様のペットにされて、飼い慣らされる悦楽の虜になったのだとしても。
初めて視線を交わしたとき、わたしの体中に電流が流れ落ちた。
わたしのことを面白そうにみる御主人様。
その赤い目を見た瞬間、わたしの中にある何かが砕け散った。
わたしはただ、その瞳を見ることしかできなかった。
いま思うとその時なのだ、御主人様に完全に呪縛されてしまったのは。
『抵抗するな』
御主人様の目は、わたしにそう命令していた。
次の瞬間、わたしは反抗する意志を全て失っていた。
「さあ、剣を置きなさい」
やさしげな声で言われた次の瞬間には、剣はわたしの手から滑り落ちていた。
「ふふふ、素直な子ですねえ。わたしは、素直な子が大好きなんですよ」
揶揄するような御主人様の声が聞こえてくる。
その時わたしは、強い反発と、甘い陶酔を味わっていた。
理性は、御主人様に従うことに反発していた。
元リルミルト帝国の姫である自分が、男の言いなりになるなんて!
でも、
嬉しかったのだ、声を掛けてもらったのが。
快感だったのだ、御主人様の命令に従うのが。
理性は、あっさりと負けてしまった。
自分が生活に追い詰められていたせいだとは思いたくない。
それに、そんな理由で御主人様に屈服することはありえないのだ。
わたしは、リルミルトの姫だったのだから。
はっきりいって、それから暫くわたしは茫然としていた。
自分の中に沸き起こった感情がわからずに。
そのあいだに、御主人様はわたしを引き取る手はずを整えていた。
そして、わたしは御主人様の被保護者という立場に、堕ちてしまったのだ。
御主人様は、わたしに多額のお金を与えてくれた上に、仕事をくれた。
御主人様の、秘書の仕事だった。
もっとも、本当に、御主人様に秘書が必要だったのかは疑わしい。
わたしが来るまでは、御主人様は一人でやっておられたのだから。
けっきょくは、単なる思い付き、あるいは気の迷い?
そう、御主人様にとってみれば、その程度のもの。
でも、
そのお金で、数ヶ月ぶりに沐浴をすることができた。
綺麗な、真新しい服と下着を身につけることが出来た。
半年振りに、まともな食事を摂ることができた。
久しぶりにリルミルトの姫だった頃の気分に戻れた。
そして、わたしは思い込んでいた。
御主人様がわたしの、本当の魅力の前に、虜になるに違いないと。
自分でいうのもなんだけど、はっきりいってわたしは可愛い。
王宮でも、同世代でわたし以上の美人は数人しかいなかった。
美貌には、自信があった。
それに、それを引き立てるテクニックにも。
準備を終えたわたしは、御主人様の元へと帰った。
可愛らしい仕草で、どうだ、と言わんばかりに。
わたしの魅力の虜になるはずの御主人様は、笑っていた。
冷静な、理性的な、赤い瞳で。
まるで、子犬が面白い芸を披露しているのを、採点するような表情で。
わたしは、完全に、打ちのめされた。
いま思うと、完全に赤面ものだ。
地位もあり、金もあり、実力もある、ハンサムな御主人様の周りには、妖艶な絶世の美女達が数多く出入りしていた。
だから、御主人様はわたし程度の美貌で心を動かしたりしなかった。
わたしが、完全に成熟した女性だったら、少しは効果があったかもしれないが……
いや、よそう。それは、まだ未来のことだ。
とにかく、わたしはショックで硬直してしまった。
そんなわたしに、冷静に秘書としての心得を諭す御主人様。
そして、最後に一言だけいってくれた。
「きれいだ」 と、
最高の恥辱と、屈辱、怒り、羞恥を感じたのは、この時だった。
同時に、心から嬉しくなって、気持ちよくなって、快感を覚えた。
その時、ある種の恐怖とともに、わたしは気がついた。
自分が、御主人様の、魅力の虜になっていることに。
御主人様が裸になれと命令したら、わたしはなんのためらいもなく、服を脱ぎ捨てていただろう。無意識でそうなることを期待してたのかもしれない。
けれど、わたしの期待は裏切られ、感じたのは、恐怖。
御主人様は、いつでもわたしを放り出すことが出来る。
でも、わたしは御主人様に従属しないと生きていけない。
そう感じた瞬間、わたしの心の中に、御主人様への、絶対の忠誠が刷り込まれた。
そして、それはわたしの心にしっかりと染み込んでいった。
御主人様には、まったくそんなつもりは無かったに違いない。
でも、そのときからわたしは、御主人様への恋の、奴隷となったのだ。
司法庁の秘書課程を出ていない秘書なんて、いまから思うと噴飯ものだ。
でも、その頃のわたしは南部に来たばかりで何も知らなかった。
秘書として御主人様に付き従うわたし。
はっきり言おう。わたしは甘く見ていた。
こう見えても、わたしは宮廷武術を近衛騎士隊長から伝授されていた。
その剣技は、わたしが生き抜くための糧だった。
しかし、わたしは初めて、人間の力ではどうしようもない相手に遭遇したのだ。
みじめだった、御主人様の足手まといにしかなれないわたしが。
うれしかった。そんなわたしを命がけで救ってくれた御主人様の気持ちに。
そして、絶望の瞬間。
御主人様が、わたしの代わりに悪辣な罠に掛かった。
その瞬間、わたしはどんな悪魔の誘惑にでも乗っただろう。
でも、御主人様は帰ってきて、
圧倒的な強さを見せつけて、
そして、震えているわたしを抱き上げてくれたのだ。
その日の夜、わたしは生まれて初めてベッドでオナニーをした。
御主人様のことを思いつつ、股間をはしたなく濡らす、わ・た・し。
抱かれた瞬間を思い出し、胸をまさぐる。
逞しい腕で抱かれた腰の部分を撫でながら、自らを高めていくわたし。
隣は、御主人様の部屋。
聞こえるように、わざと大きな声で悶え狂う!
キイッ
扉が開く。
御主人様だ!
わたしは、乱れに乱れたまま、御主人様の前でオナニーをする。
驚くでもなく、ただじっと見つめる御主人様。
「眠れないのか」
平然と、普段の声で問いかける御主人様。
「はいっ……み、ミアは、ご、御主人様のことを思うと、眠れません……」
はしたない思いを吐き散らすわたし。
「じゃあ、そばにいてあげるよ」
御主人様はわたしのベッドの傍らに座ってくれた!
ただ、冷静にわたしを見ている御主人様。
ああっ、からだが燃え上がる。
御主人様は優しい人だ。
そして、ちょっと変わったお方だ。
砂に水がしみ込むように、わたしの身体に御主人様の色を流し込んでいくわたし。
国を失ってから今日までの、放浪生活で乾ききった身体に、御主人様の優しい思いがしみ込んでいく。
わたしは二度、御主人様の前で達してしまった。
疲れ切って、まどろみかけたわたしの身体に毛布をかけると、静かに部屋を出ていった。
「可愛い奴だな」
意識を手放す前に、わたしは確かに御主人様の言葉を聞いた。
久しぶりに、しあわせな気分に浸りつつ、わたしは夢の中へと堕ちていった。
それから、御主人様の前で乱れるのが、わたしの一日の日課になった。
淫乱なメス奴隷に堕ちていくわたしを、楽しげに見る御主人様。
御主人様の視線を、身体に受けるだけで、はしたなく股間を濡らすようになってしまった。
必死になって『芸』を見せるわたし。
御主人様の関心を引くために、わたしは、どんなに破廉恥な行為もおこなった。
ミアの恥ずかしい姿を、すべて御主人様にさらけだした。
御主人様がいなくなった。
狂える神との戦いで、命を落としたのだ。
それから後のことは、考えたくない。
しばらく、廃人のように呆然としていた。
でも、
わたしは御主人様の、最後の言葉通り、前向きに生きようと思った。
御主人様の残したお金でわたしは秘書養成学校に入った。
必死になって勉強した。すべてを忘れるために。
そして一年後、わたしは見事、正規の秘書の資格を獲得したのだ。
御主人様が奇跡の帰還を果たされた。
わたしは狂喜乱舞した。
ピンク色のエッチな下着。
それだけつけて、御主人様を迎えるわたし。
ミアは、ミアは、御主人様の、奴隷だから、ペットだから……
「ただいま、ミア」
御主人様が優しく笑う。
「お帰りなさいませ」
わたしは床に跪き、御主人様の靴をなめる。
「……ミア、きみはわたしの奴隷ではないが」
困惑の表情を浮かべる御主人様。
「奴隷にしてください!」
「ミア……」
「御主人様に奉仕するのが、……きもち、いいんです」
「そうか」
御主人様は、笑った。
獲物を前に、舌なめずりするような、笑み。
「いいんだな?」
「はい……」
御主人様の問いに、答えるわたし。
ドッと、股間に蜜が溢れた……
御主人様は、わたしに、おしゃぶりする許可を与えてくれた。
丹念に、御主人様のペニスを舐めるわたし。
わたしは、御主人様の、ミルク飲み人形。
そのことが、とてつもなく嬉しい。
性器と化したわたしの、口腔。
しゃぶるたび、くわえ込むたび、飲み込む度に、性的興奮と快感を覚える。
御主人様の、性欲処理の道具になれたことが嬉しい。
心の奥底から、奉仕するわたし。
わたしの奉仕に対するご褒美として、わたしの股間をまさぐってくださる御主人様。
とろけてゆく……
エッチな躰に変えられてゆく……
きもち、いい、とっても……
はしたない、と思いつつも、腰を動かすわたし。
「ふふふ、ほんと、ミアは淫乱で可愛いな」
「あっ、ありがとうございます、御主人様ぁ」
とろけた声でわたしはこたえた。
褒められた……
そう思うだけで、股間に蜜が溢れるのがわかる。
快楽中枢を刺激され、さらに御主人様の性奴隷へと堕ちてゆく……
きもち、いい……
「うくっ、はぅ」
声を押し殺しながら、わたしは絶頂に達してしまった……
あの日以来、わたしは御主人様の部屋に入り浸りになっている。
奉仕のテクニックもかなり上達して、御主人様に喜んでもらえるようになった。
その見返りとして御主人様は、わたしを愛撫してくださる。
いまでは、御主人様に躰を慰めてもらわないと、眠りにつくことができない。
淫乱で、はしたない、御主人様のペット……それが、今のわたし……
わたしはいま、とっても幸せだ。
御主人様に抱かれる歓びに浸りつつ、毎日を充実して過ごしている。
ただ、不満なのが……
御主人様は、まだミアの処女を散らして下さらないのだ。
わたしは早く、御主人様のを感じてみたいのだけれど、
まだ早すぎるといって、とりあっていただけないのだ。
でも、十八歳の誕生日には……
その日を楽しみに、わたしは今日もまた、御主人様の奴隷として奉仕するのだ!
「……………………」
「どうしたの、ミアちゃん?」
カタ、カタ、カタ、カタ……
「なんで肩を震わせてるの? 寒いの?」
「……サラさん」
「んっ?」
「なんなのよ、この手記は!!」
わたしは手帳を思いっきり机に叩きつけた!
「えーっ、お気に召さなかった?」
「という以前に、人格疑われるでしょうが、こんな手記!!」
「そっかなー、……でもこれを新聞に発表したら、確実に結婚に漕ぎ着けられるわよ?」
ギン!!
わたしは、サラさんを思いっきし睨みつけた。
「その前に、二人とも捕まっちゃうでしょうが、警察に!」
「大丈夫よ、ミアちゃんは未成年だし、ウィンは武官弁護士だし……」
「大丈夫じゃないわよぉ!!」
ううううっ、
そもそも、ウィンとの仲をとりもってもらおうと、サラさんに頼んだわたしが馬鹿だったのよね……
もしこの手記をウィンが見たら……
……考えるだに、恐ろしい。
「くの、くの、くの……」
手帳を必死になって引き裂くわたし。
「あ、あ、あ、それ元手かかってんのよぉ!」
「知らないわよ! このっ、このっ、このっ……」
ダン、ダン、ダン
わたしは粉砕した手帳を踏みつける。
「とにかく!」
「なに?」
「……お金払うから、ウィンには黙っててちょうだい」
わたしは沈痛の面もちで、懐からサイフを取り出したのだった。
ちゃんちゃん♪
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