(3)終点のない淫獄

 
 狂気の陵辱劇から2日後の夜・・・・
 現在は京都に向けてひた走っているヴェガ号の車内で、澪は列車最後尾にある展望室内を清掃していた。



 2日前の淫らな饗宴の余熱が、身体の芯にまだトロリと熱く残っている。時おり子宮を突き上げてくる甘い情欲によって、今も下着が重く湿っている気さえする。



 あの男は昨日停車した名古屋で列車を降り、そのまま駅前の雑踏へと姿を消していった。
 澪が驚いたのは、何と松浦愛が、男に付いてフラフラと下車していったことだ。まるで焦がれる情夫に追いすがりでもするように・・・・
 あれほどSEXに怯え、男に対する嫌悪をあらわにしていた愛が、そんな大胆な行動を取ったことは、澪にとってショックであった。
 しかし一方で、澪は愛の心情が良く理解できるような気もするのだ。



 車内では常にポツンと孤立していたあの少女は、恐らく日常においても、そうした寂しい生活を送っていたのだろう。
 そんな彼女にとって、例え自らの処女を奪った男であっても、濃密なスキンシップを初めて体験した相手には、何か特別な絆のようなモノを感じたのかもしれない。
 それに何より、あの男に味合わされた強烈な性の味が、処女だった愛のモラールを、たった一晩で転倒させてしまったということもあるのだろう。大人の澪でさえ、我を忘れてその快楽を貪らずにはいられなかったのだから。


 
 男に関して、不可解なことは他にもあった。
 澪が乗客名簿を調べたところ、男のコンパートメントは、最初から誰も使っていない空き室であったことが分かったのだ!


 
 そして澪自身は何故か、男の顔や名前をハッキリと思い出すことが出来ないでいる。
 車内改札をしたとき、男は確かに切符を持っていたし、顔も間近に見たというのに。そもそも散々に犯された相手の顔を思い出せないとはどういうことだろう?



 あれは幽霊や幻だったとでも言うのだろうか?であれば、松浦愛は一体誰を追って列車を降りていったというのか?
 ・・・今の澪にとって、それらのことはどれだけ考えても真相の分からないミステリーだ。
 ただ一つ確かなことは、あの男によって、澪と愛の中で、何かが決定的に変質させられてしまったという事実であった。
 男の与えてくれた、この世のものとも思えない、めくるめく様な官能美・・・。
 それは、車掌の業務さえなければ、澪もまた愛同様に男を追い、更なる快楽を享受したいとさえ感じさせるほどのモノだったのだ。



 「あら・・・」
 掃除の手を止めて考え込んでいた澪は、不意に人の気配を間近に感じて振り返った。
 「おッ!・・・」
 その気配の主・・・展望室に入ってこようとしていた男も、今初めて澪の存在に気が付いた様子で、軽く驚いた声を上げる。



 その男の顔に、澪は見覚えがあった。と言うより、忘れるはずのない顔であった。
 つい先日、澪にレイプまがいの行為をしかけて撃退された、チンピラ風の男だったからである。



 「ヘヘ、ど、どうも・・・」
 男はバツの悪そうな表情を浮かべ、卑屈に愛想笑いをしながら言った。
 「この間は失礼したね。ちょっと酔っていたもんで、つい・・・悪気じゃなかったんだ」



 その言葉通り、男は車内で酔っ払っては女性客にちょっかいを出し、顰蹙を買っていた。
 先日は車掌の澪に対しても狼藉に及ぼうとしたため、男性乗務員数名によって取り押さえられ、車内中が騒然となったのである。
 その時、今度同じことをしたら鉄道警察に通報するとクギを差されたため、取りあえず今は殊勝な態度を取っているらしい。



 「それじゃあ、失礼・・・」
 「あ、お待ちになって」
 そそくさと立ち去ろうとする男に、澪は声をかけ、頭を下げた。
 「この間は、私の方こそ大変失礼をいたしました。お客様相手に大声を上げたりして。さぞ御不快に思われたでしょう?」
 「えッ、いや、そんなことは・・・」



 思いがけない澪の態度に戸惑い、目を白黒させている相手の身体に、澪はサッと視線を走らせた。
 男の着た安物のアロハシャツは、固く盛り上がった胸筋でピンと張っている。いかにも力や欲望を持て余していそうな、マッチョそのものの体型だ。
 このたくましい身体に組み敷かれ、荒々しく女体を貪られてみたい・・・・・数日前であればチラとも生ずるはずの無かった背徳的な欲求が、澪の中でムクムクと湧き起こり、子宮を激しく突き上げてきた。



 「私、あれから考えたんです。お客様が車内で不便に感じることがあれば、例えどんなことでも、出来る限りそのニーズにお応えするべきではないかって。だから、ねッ?・・・・」
 澪は男の胸に自ら身体を預け、艶めかしい上目遣いで相手を見上げた。
 「おッ?おお・・・」
 男は一瞬呆気に取られたような様子になったが、澪の表情を見てすぐに呑み込み顔になり、
 「何だよ、その気になってくれたってワケかい?からかってるんじゃないだろうな?」
 下卑たニヤニヤ笑いを浮かべながら、彼女の豊満に過ぎる肉体を、制服の上から、最初は遠慮がちに、しかし次第に大胆に撫で回し始める。


 
 「からかってなんかいませんわ。私なんかの身体で良ければ、お客様の役に立てていただきたいのです」
 上気し始めた顔を仰向かせ、澪はトロけるような甘い声音で言った。
 「その代わり、もう他のお客様には迷惑をかけたりしないでくださいね?」
 「あ、ああ、そりゃ請け合うよ。アンタみたいなトビキリのイイ女が相手をしてくれるって言うなら、他の女なんか眼中にねェや。長旅の退屈さも吹っ飛ぶぜ」
 男は言って、澪のシャツの胸元をもどかしげな手付きで開き、すでに汗にまみれて光っている熱い紡錘型を引きずり出した。
 「すげェ・・・こんな立派なオッパイ見たことねェぜ」
 「むッ!・・・」
 男が乳房にむしゃぶりつくと、それだけでもう軽く達してしまいそうな恍惚感にあおられ、澪は激しく背を反らせる。
 すかさず男はヒザを澪の太股に割り込ませて開脚させ、タイトスカートの中へゴツイ指先を差し込んでいく・・・・

 
 「ああ・・・」
 せわしく動く指の腹をパンスト越しに感じ、澪が切なげな鼻声を洩らす。
 罪悪感も、人前で痴態をさらすことへの羞恥心も、今の彼女の中からは綺麗サッパリと消え去っていた。ただ待ち焦がれていたモノを手に入れたという満足感だけがあった。
 職務に生き甲斐を見出していた才媛の姿は、もうそこにはない。そこにいるのは、淫らな悦びをガツガツと貪ることにしか関心のない、一匹の浅ましい女獣であった。
 やがて男の指が、ムッチリと脂の乗った土手を愛おしげに愛撫し始めると、澪の脚から力が抜け、2人はそのままソファに倒れ込む・・・・



 豪華特急ヴェガ号は、思いがけずに孕んだ淫らな狂気を乗せ、深夜の軌道上をさらに加速してゆくのだった。



(おわり)


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