No.23 マリー・ハドソン夫人


 マリー・ハドソン夫人ほど、オイラをアンビバレンツな懊悩に追い込んだアニメキャラはいない。なんて書くと大げさだけど、放映当時かなり苦しめられましたよ、この見目麗しき後家さんには。



 彼女は言うまでもなくアニメ
「名探偵ホームズ」に登場したヒロインである。
 この作品は当時、宮崎駿監督がイタリア側スタッフとケンカして降板しただとか何だとか、作品本体以外のところでばかり話題になっていて、あげく宮崎演出版のうち2本が
「風の谷のナウシカ」との併映という形でオマケみたいな初露出となるなど、その素晴らしい完成度に比してどうも恵まれない扱い方をされているという印象があった。
 後に宮崎版6作品に新作16本を追加してようやくテレビシリーズ化されたが、新作分がてんでつまらないのはもちろん、宮崎版も尺がカットされていたりBGMが変更されていたりと冴えないアレンジぶりでガッカリしたものだ。特にホームズのCVは劇場版の
柴田光彦さんの方が好きだなあ。いやTV版ホームズを演じた広川太一郎さんももちろん大好きですけど、ことホームズ役に関してだけは柴田さんの方がね。



 さてハドソン夫人であるが、このアニメ版では、原作のシャーロック・ホームズシリーズにおける同女のキャラクターとはかなり異なったアレンジが為されている。ホームズ達の下宿の女主人という役柄は同じだが、もう老婆に近いようなオバハンではなくて、弱冠19歳(!)の綺羅々しい未亡人として描かれるのだ。
 基本的に宮崎ギャルキャラが大嫌いなオイラですが、なぜかハドソン夫人に萌えてしまったのは、いわゆる「人妻(未亡人)」というカテゴリに弱いことと、TV版では
麻上洋子氏がそのCVを努めていたという2点が大きいと思う。何しろ麻上氏があの独特の鼻声で「あ・・・」と言っただけで一発抜けてしまうほどのファンなので、その彼女に美貌の人妻なんぞを演じられてはオイラが抵抗不能に陥っちゃっても仕方ないだろう。



 ところが当時見ていて困ってしまったのは、一体このキャラに萌えてしまって本当に良いのだろうかという、ある種何とも言えない後ろめたさが常につきまとったことだ。何となれば、この世界は「犬」が人として暮らしている世界であり、当然に彼女もその一匹だからである。犬なのだ、ハドソン夫人。(聞くところに寄ると、企画段階ではハドソン夫人のみ人間として設定されていたらしいのだが)



 もちろんこの場合の「犬」とは「ネコ耳娘」なんかと同様の「記号」であり、つまり原作世界を一度解体してから架空のコメディワールドとして再構築するための方便であって、だからそのビジュアルを額面通りに受け取らなくても良いのは分かっている。
 しかしそんな理屈で無意識やチンポまでをも納得させられないのが人間というものだ。ことに犬というのは我々が最も良く目にする当たり前の家畜であって、だからその可愛らしさだけではなくて、汚らわしい、獣じみた部分というのもいきおい見知っているワケで、端的に言うと、犬と言えば馬乗りバックスタイルで交尾りながら「ウギャワワワワワ〜ン!」なんつってヨダレをこぼしてる狂態というのをつい連想してしまうのであり、こいつがまことに具合が悪い。



 何となれば、ハドソン夫人には萌えツボを百万トンプッシュしてくるようなビジュアルが数多く用意されていて、それはその類いまれなロリ顔(小首を傾げて微笑むシーンの殺人的可愛さはどうだ!)であったり、フリフリのメイド服であったり、その胸元を高く突き上げている巨乳(推定)であったりするワケだが、それらに
 「か、可愛い!」
 と思わず萌えかけようとするや、もう一人のオイラの声が、
 「オイオイ、犬やであれは!」
 とツッコミを入れてくるのである。



 彼女の美味しいシチュが目白押しのエピソードなんかになるともう大変で、例えば美しい結い髪がバラリと風にほどけてふくらむシーンだとか、皆に胴上げされて「だ、ダメよ!」なんて嬉し恥ずかしのシーンだとか、塀に寄りかかってズルズルと失神するシーンだとか、麻酔ガスを浴びせられて「あ・・・(洋子印)」なんつって気を失うシーンだとか、思わず股間がキュンとなるカットのたんびたんびに、
 「だから犬や!っちゅーとろーが!」
 「道ばたでギャンギャン交尾っとるあの犬やで!分かっとんのかい!」
 「これで萌えとったら獣姦やんけ!変態かい自分!」
 などと胸元に水平ツッコミを入れてくる相方の平手がのべつ眼前に見えてるような状態となり、とても平常心でアニメを楽しむ気分ではなくなってしまう。もうほとんど、ひばりクンの色香に迷いかけてはハッと我に返り、「お、オレは変態じゃないからなッ!」なんつって身悶えている耕作クンのノリである。情けなや我が自我。



 当時は、程度の違いこそあれ、そうやって我が身の背徳性に煩悶していたファンって多いと思うのだが、こうして書いていて考えるに、もしかして現在ウェブサイトの何処かではハドソンさんのエロCGだとかエロ小説だとかが開陳されていちゃったりするのだろうか?だったらヤダなあ。あっても見たくないよなあ。・・・・多分。(^^)

→夢想館のトップへ