No.14 好き!すき!!弓月先生


 オイラが小学生の頃、クラスの男子間で弓月光氏のコミックスが流行ったことがあった。
 氏が青年誌でソフトポルノを描きまくる前であるから、要するに少女マンガ家時代の作品だ。



 「少女マンガ」とは言え、弓月氏の作品には独特の卑猥さというか、男の目から見たエロチックな少女観が横溢しており、こう言っちゃ何だがストレートに「セックス」を意識させたものである。
 もっともそれこそが弓月作品のウリであったというワケではなく、その眼目は肩のこらないほのぼのコメディであり、毒の効いたギャグであり、それを演じる表情豊かなキャラたち(特に美少女キャラが歯をむき出して顔を崩すシーンがスゴイ!俗に「変顔」と呼ばれていた)であって、まあエッチなシーンはちょっとしたエッセンスという程度だ。しかしそれでも、性に目覚め始めた男の子たちの股間を直撃するには十分だったワケですな。

(まるしー・集英社、弓月光)


 かてて加えて、弓月少女マンガにおけるエッチシーンには「被虐」の色がつきまとう。
 モロに陵辱めいたシーンもあれば、美少女キャラをじわじわと羞恥責めにするシーンなどもあり、そこだけ読めばいかにも中年のオッサンが描いたようなシチュである。(^^)
 オイラの大好きな
「ナオミあ・ら・かると」において、ヒロイン中原奈美ちゃんが全校生徒の前で裸身をさらすハメになっちゃうシーンなんかはその代表例だろう。
 「いやァ来ないでーッ!」とか「お願い見ないでッ!」なんちゅうセリフがポンポン出るのだから、テキストだけ見ているとまるでみのQファンさんの小説である。(オイオイ)



 換言すれば、「追い詰める」ことが弓月エッチシーンのキーワードとも言え、しかもそうしたシチュに置かれて身もだえするキャラが、少女マンガならではの超美麗な線で描かれてるんだからたまりませんぜアンタ。
 前出の奈美ちゃんが涙ぐんで肩を震わせるシーンなんかまさにボッキもんで、当時のオイラにとっては、例えば永井豪先生のお色気シーンよりも、少年マンガの泥臭さが無い分、かえって強烈にアピールしたものだ。



 しかし弓月マンガのお色気は、まさに少女マンガにおいてのみ輝くものであり、それは当時の少女マンガキャラが、本来お色気シーンなどを演じさせられるはずのない清らかなモノだったからだ。
 何というか、貴婦人が、パーティー会場で突然ストリップを強要されたようなノリ。
 「ど、どうしてあたくしがこんな破廉恥なことを・・・」
 みたいな感じね。
 つまり清浄さをもってなる「権威」が貶められる倒錯感が味だったのであり、弓月氏はそのペンでもって「少女マンガ」という文化そのものを陵辱していたとも言える。
 それ故、青年誌にその活躍の場を移してよりの氏の著作は、どうもオイラにはピンと来ないんだよね。

(まるしー・集英社、弓月光)



 なるほど
「みんなあげちゃう」他の青年誌作品によって、氏のメジャー度は、それまでとは比較にならないほど向上した。
 しかしそれら作品群が、
「ボクの初体験」、「エリート狂走曲」等、少女マンガ家時代の代表作と比肩し得るほどの傑作だとは、オイラにはどうしても思えないのだ。
 無論コメディとしてのプロットの確かさ、ギャグの切れ、各種ガジェットへの細かいこだわり等、そつのない仕事ぶりは確かに氏のそれであるのだけれど、したい放題とでも言おうか、制約の無さ故に、文芸作品としての緊張感に欠けている気がしてならない。



 だからといって、
 「昔のような少女マンガを描いてくれ」
 とは毫も思わないけどね。
 なぜなら作家というのは、しようと思っても後戻りの出来ない生業だからである。仮に弓月氏が昔年のような作風にチャレンジしたとしても、恐らくこれといっためざましいものは出来ないであろう。
 我々は往年の氏の作品を、子供の頃に買ってもらったオモチャのように、飽くことなく慈しみ続けるしかないのだと思う。



 追記・ちなみにオイラは、某所において二、三度弓月先生とお会いし、言葉を交わしたことがある。先生の方では全く覚えていらっしゃらないでしょうが。(^^;)

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