第一部 第一話「土煙の中で」



断続的な土煙と、どこからか聞こえる怪音。

峡谷の間で、非常に疲弊した一団が、周りを見回していた。
頭に布を巻いた彼らの目付きはギラギラしていた。

「この音・・・また来るな」
「マスグムはもうやられてる・・・」
「ちきしょう・・・」

同じ様な服装をした者達の中には、既に息絶えた者も居る。

「ヤツの目線と逆の時に動かんと、直ぐやられるぞ・・・」

リーダー格の男が、レーザーライフルを取った。

「もはやこのまま居る事は無謀だ、行くぞ」
「おお!」
「・・・」

一同が声をあげ手を上げて応じる中、一人だけ無言で手を上げる者。

峡谷の間を抜け、開けた場所に出た一団。

「集落までもう一山だ」
「収穫が無いのは辛いな」
「・・・!」

その時。
「グヤアアアアア!」

自分達の頭上に猛高速で巨大な影が現れる。
ヤツが来たのだ。

「ちくしょう!バリコーン、お前しか居ない!頭を狙え!」
「・・・!」

大きな影が自分達に襲い掛かる。
バリコーンは、レーザーライフルを即座にセットし、鼓動の度に大きくこちらに迫ってくるヤツに標的をあわせた。

「バリコーン!撃て!」
「・・・おお!」

ズダアアアアン!

影と光線が交差した。


〜〜〜


錆びた鉄缶の様な家々が集まる集落が、荒野の真ん中に広がっている。

集落の外れでは空気から水分を抽出する機械が幾つもそびえたってゴウゴウと音を立てる中、
その間をセラミックの装甲で身を固め、頭を布切れで覆った一団が過ぎて行った。

「・・・」

誰一人、血のシミを作っていない者は無いと言う感じだ。
頭を覆う布の間から覗く眼光はどれもギラついていた。
この集団は、ヒトでは無いのだ。

「・・・」

集落の入り口には、一隊を出迎える人々がすでに大勢出ている。
しかし、何が起きたか、誰もが口にせずとも分っている様だった。

「・・・ただいま戻った」
「・・・相当やられた様だな」
「ああ」

集落に残っていた者と一隊のリーダーが言葉を交わした。
リーダーが頭を指差し、布を外してくれる様に合図した。

何人かが駆け寄って、リーダーの頭をきつく覆っていた土色の布切れを解く。
と同時に、異形の顔姿が現れた。
もちろん、この星では、みんな同じ様な顔をしているのだが・・・。

ゴツゴツとした顔、鋭い眼光、特徴的な口・・・
その口から出た一言。

「バリコーンが居なければ全滅していたかも知れん」

集落に残っていた者達が、一隊の列の最後の方を伺った。

「やはりバリコーンが・・・」
「バリコーンは偉いなあ」
「バリコーンがまた危機を救ったと・・・」

一隊の最後に居た、一人の無口な男がバリコーンだった。
彼は、記録に残る限りでの最年少でこの名誉ある遊撃狩猟団に入り、
一人では達成出来ない様な狩りを難なく一人でこなし、
千年に一度とも言われる才能を持っていると、あちこちの集落で公認されていた。

しかし、人々が彼に触れる態度は、何となくよそよそしかった。
畏敬してたやすく関れないとか、そんな物ではない。
バリコーンは、彼の種族では問題のある、異種性愛の兆候を抱えており、それが周囲に発覚していたのだ。

「マスグムとヴェンサは大怪鳥にやられた、ニグルは帰りの途中で発作が起きて・・・彼の頼みで葬った」
「そうか・・・」
「前もあの大怪鳥にやられたんだ・・・あいつが出てから、狩猟はいつも・・・」
「もう良い、今は休め」

一隊は一通りの儀礼を終えると、解散して集落のそれぞれの家へ戻っていった。

そんな中で、あのバリコーンも家に足取り重く帰っていく。
今回も称賛はされたし、仲間内で一番良い武器を宛がわれている、しかしそれが彼にどうとなる事は無い。

錆びた鉄缶の様な家は、水分抽出機から引っ張られている配水管と、様々な用途に使う一つの中型のアンテナ以外、
家の外に余計な物が置いておらず、華やかさも何も無い。

自動ドアが開くと、両親が待っていた。

「お帰りなさい」
「バリコーン」

バリコーンは自分よりも少し背の低い両親に一つ視線を送ると、
それだけでよろよろと部屋の中心に行き、座り込んだ。

「何か言ったらどうだ」

父親がそう言ったものの、バリコーンは返事らしい返事をしない。

「ヘッ・・・」
「何だ、ヘッて」
「・・・」
「この前、あの先生を呼んだのが嫌なのか」
「・・・」
「しかしな息子よ、お前の・・・いや、後で話そう」

父親は一人で外へ向かった。
恐らく成果の事を聞きに向かったのだろう。
良い結果を聞けないのは分かっているのに。


〜〜〜


一言も言葉を交わさず、干した怪鳥の肉をむさぼるだけの第三食を終え、
バリコーンは外へ向かった。

「バリコーン、礼拝は・・・」
「・・・」

部屋の奥の、鹿かヤギの様な頭に人型の体を持つ、宇宙意思の神像。
だがバリコーンはそんな物お構いなしだった。
父親が諭す様に話しかけたが・・・

「バリコーン、お前の事だ、もう礼拝については何も言わん、だが外で冒涜的な事を・・・」

最後まで聞かず、バリコーンは外へ出た。

鈍く光る太陽の下、集落の道路に出ている人は居ない筈だった。
頭部に強く当たる日差しに耐えながら、集落の外れの水分抽出機へ向かうバリコーンの後を、
もう一人、誰かが後を追った。

「兄貴!」
「・・・アデリイ」
「ほら!ほら!」

バリコーンを慕ってくる、まだ戦士として修行中のアデリイと言う少年だった。
彼が振りかざす手のその指先には、マイクロメモリが掴まれている。

「兄貴の欲しい物だよ!ポートのジャンクショップで買って来たんだぜ!」

バリコーンはそれを聞くと、何も言わずにアデリイの腕を掴み、
呆気にとられる彼の口を塞いで、マイクロメモリーを奪った。

「〜〜〜!兄貴〜〜〜!」
「静かにしろ・・・」
「もし外のやつらのエロ映画持って来たら、修行に手伝ってくれるって言ったろ!」
「今度な・・・」
「今度っていつ・・・ウワッ」

顔を押さえたままでアデリイを引きずりながら、バリコーンは元来た道を戻った。
顔の突起をがっちり掴んでいるので、アデリイは痛みでジタバタしている。

「痛い!〜〜〜!」
「怪鳥に噛まれたら、もっと痛いぞ・・・」
「〜〜〜!ハアッ、何するんだ、兄貴」
「これが修行だ、さあ」
「こんなの違う!〜〜〜!」

直射日光の下、焼けた簡易舗装の道を、少し異様な形で進んでいく。
錆びた鉄缶の様な家々には、植物や水分を感じさせる物、装飾さえ無い。

アデリイの家の近くに来ると、顔を離した。

「ああ、痛い」
「まずはこのメモリの映像を見てからだ・・・修行はその後だ・・・」
「俺には良くわかんねえけど、絶対兄貴は気に入るよ!改造ヒドラがヒトのメスを襲うんだぜ」
「ふん・・・確かに分かるまい・・・」

バリコーンの種族は、ポルノや性的な違いの魅力などの概念を読み取る心情が無かった。
性別があるのだし、もしかしたら大昔はもっと性の違いを感じていたのかも知れないが
現在、それはただ子を作り、また狩猟上の役割を分けるだけの要素になっていた。
彼らのセックスは激しいが、普通はすぐに終わる。
オスは良いメスから、メスは良いオスから力を得ると言う迷信は、
男女付き合いをバリコーンから見て退屈な物にさせていた。

また、セックスが激しいのと、身体上の構造の違い、これまでの閉鎖的な歴史により、
バリコーンの種族と異種族の恋愛交際やセックスは絶望的だった。
そんな中で、ただ一人、性の魅力をそれも異種族にそれを感じる者としてバリコーンは生まれた。

「兄貴!本当に今度・・・」

バリコーンは息を歯に当てて威嚇音を出した。

「シャアアアア!」
「う、うう、頼むよ、本当に頼むよ」

アデリイはバリコーンの威勢に負けて、家に引っ込んだ。


〜〜〜


バリコーンは家に戻ると、自室に入った。
寝台とモニター、そして無造作に置かれる大きな箱以外、何も無い殺風景な部屋だ。
旧式の大型モニターにマイクロメモリーを差し込んだ。

画面には、どこか違う星の、広い密室が写されていた。
演技とは思えないほど憔悴した褐色のヒトの少女が中央でへたり込んでいる。
空中を浮遊するカメラに視線を合わせていて、白いロングの髪を振り乱しながら
銀河ベーシックで何かを叫んでいた。

「やめて・・・!・・・!あー・・・!」

そして、そこへ薄紫色の改造ヒドラが部屋の上部から投入される。
褐色の少女と同じ位の大きさのヒドラ・・・
これは許可頒布物では有り得ない。

(これは裏物だな・・・あいつも良い物を持って来たな)

バリコーンは静かに画面を見守る。

グレーの壁の密室で、素っ裸の褐色少女に、ヒドラはいくつもある触手をぶつけた。
バリコーンたちの舌が長くなった様な擬似触手とは違う、立派な触手が、
舐る訳でも揉む訳でもなく、ただ少女を叩き付ける。
少女は反抗しようとするが、無数の触手がそれを寄せ付けない。

「いやっ・・・!」
キチャッ!キチャッ!
「やめ、やめ・・・!」

パッと画面が一瞬青く光った。
すると、ヒドラは体色を濃くし、少女に触手を絡めつけた。
無数の触手の、長いのは手足へ、中くらいのは胸へ、そしてそれ以外は陰部へ走る。
いくつもある浮遊カメラから無数のアングルで撮影されており、
ソフトの設定で視聴時に自由にアングルが選べる様になっていた。

(陰部だな)

陰部には徹底的に触手が舐め付いていた。
触手からさらに小さい触手が生えており、褐色の濃い陰部を刺激している。
陰毛の生えていない幼い陰部に襲い掛かる触手。

「あああっ!」

陰部のぬめりがズームされる。
これ以上無いほどまでズームされ、むしろ医療用資料のようで気持ち悪いが、
バリコーンは非常に満足していた。

ヒドラは体全体を少女にのしかける。
触手がギチギチとうねり、少女を覆った。
ヒドラの本体の、下腹部と言うべき様な場所から、一段と太い触手が伸びてくる。
これが改造ヒドラの生殖管だ。

「え?え?!」
ギチイイイイイ!

小触手によってパックリ開かれた少女の膣に、生殖管が突き刺される。

「あっ、あああああああ!いやあああああああ!」

悲鳴が最高潮に達する。
改造ヒドラに高等な精神があるかは分からないが、
ヒドラの方もブルブルと体全体を震わせ、触手をわさわさと揺らし、少女の体を舐り続けた。
少女は処女だった様で、ズームされる接合部からは血がにじみ出ている。
生殖管はそれでも気にせずどんどん少女の内部に進んでいく。

ギチイイイイイ!ギチイイイイイ!
クチャアアアアアア!

「あっ、あっ、あっ・・・も、もう・・・」

まだ育っていない胸に触手が何本もへばり付いている。

ピチピチピチイイイ・・・

「ああっ・・・」

少女は早くも絶頂に達し、体全体を大きくそらしたが、
ヒドラはまるでまだ入れた直後と言う感じで、少女を離す気配が無い。
そもそも、このヒドラには絶頂や満足と言う感情が有るのかさえ分からないのだ。

バリコーンが考えたとおり、少女が何度絶頂に達しようと、
ヒドラは少女を解放しなかった。

「あっ、もうダメ・・・ダメえ・・・いやあああああ・・・」

少女の目はもう輝きを失っている。
口からはよだれが溢れて、体中粘液まみれだ。

「あふう・・・うぶっ」

ヒドラが、触手を少女の口にねじ込んだ。

「〜〜〜!」

・・・それから二標準時間以上、ヒドラが延々と少女を責めるだけの映像は続いた。
最終的に、少女は廃人と化し、部屋が最初と同じように光ってヒドラを制御して回収し、
ビクビク体を震わせ、粘液を膣から垂れ流す褐色の少女だけが部屋に残った。


〜〜〜


映像が終わり、部屋の戸を開けて廊下から居間に出ようとすると、
両親以外に、なぜか集落の狩猟長のアビブが居る事に気づき、バリコーンは静かに陰に入った。

父親とアビブは、向かい合い、目を合わせながら話し込んでいた。
母親は、父親の横で顔を俯かせながら、水を飲んでいる。

「フィーブさん・・・それで、バリコーンにはまだ発音手術を受けさせないのですか」
「親の私が言うのもなんだが、息子にベーシックの発音が出来る様にさせたら、将来確実に集落を出てしまうだろう」
「それはバリコーン君の意見では無いでしょう」
「うちの息子はこの星の外に出してはいけないんです、外に出れば何をやりだすか分からない、それに集落の損失だ」

狩猟長は母親に目を向けた。

「アリマムさん、あなたはどうお考えですか」
「私は・・・息子があんな性癖でなければ・・・今にでも手術を受けさせたいですわ」
「アリマム・・・いや、私だって息子がそうでなければと思ってるんだ、アビブ」

他の者なら青年期直前に、銀河ベーシックを発音出来る様に喉に簡単な手術を行うのだが、
バリコーンには未だそれが行われていなかった。
両親が自分を惑星内に止めるために手術を行わせていないと言う事は分かっていたが、
それを考える度にバリコーンは腹を立てるのだった。

「ご両親・・・バリコーン君はいずれ独立しますし、その時誰も彼の邪魔を出来ません」
「出して、それで息子が何かやらかして、悪評を蒙るのは民族全体です」

アビブは、頭を振った。

「フィーブさん、その話は今は止める事にしよう、本当は別の話がある」
「え?」
「今度、大葬儀の奉納狩猟をバリコーン君にやってもらいたい」
「う、うちの息子はそんな事・・・」
「出来る名誉は既にあるではありませんか・・・なあバリコーン君!」

アビブは、バリコーンが隠れている事に気付いていた様だった。
バリコーンは仕方なく居間に出た。

「・・・」
「君の名声は、我が民族に轟いている」
「・・・俺が・・・」
「そうだ、バリコーン君、君の狩猟で、この一年の名誉ある戦死者達を慰めて欲しい・・・褒賞も出る」

両親は慌てて口を出そうとした。
だがアビブが止める。

「バリコーンは既に一流の戦士であると認定されています!年は若くとも、彼自身の決定を妨げる事は出来ない!」

多額の報酬。
それはこの星の経済では、普通ならおそらく望めない事だ。
数ヶ月に一度の外からの厚かましい観光客どもに見せる集団狩猟でも、報酬は狩猟団で分配されるので、
個人に渡る金額はそんなに多くない。
だが今回は、バリコーン一人の狩猟。
多額の報酬がバリコーンに払われる事は確かだった。

「・・・やろう」
「その意気や良し、抜かるなよ、どんな化物を用意されるか知らないが、とにかく最高の状態で挑める様にしろ」

トントンと話が決まっていく状況に、両親は恐れを感じたが、もう止める事は出来なかった。

(続く)


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