第一部 第ニ話「エルフェリアン」



数日後・・・

バリコーン達の集落の、いや、星の・・・遥か遥か上空を超え、惑星の軌道上。

銀色に輝く、装甲に継ぎ目の一つも見えない流線型のロイヤルシップは、緩やかに惑星へ下降していた。
ポートに一度着艦し手続きをしなければ惑星を自由に飛ぶ事は出来ない。

ロイヤルシップの側面には、黄色いV字に剣を横に交わした紋章が掲げられていた。
エルフェリアン公国の船だ。

エルフェリアンは耳の尖ったヒトの亜種で、高度な芸術・美的感覚と、高慢とも言える価値観を持っている。
エルフェリアンの公国は、小国ながら高貴な家柄を誇り、名士を多数輩出している。

その船の、下部の展望室。
黄土色が主な惑星を見下ろしつつ、数人のエルフェリアンが話し合っていた。

「今度の星は、優雅では無さそうね・・・」

エルフェリアンの姫・フィニアは、美しく整った顔を少し引きつかせながら言った。
その目線は直ぐにある侍女に向いた。

「何、私には面白そうですがね!」
「爺やは動物でも何でも見るだけで楽しめるから良いわね」
「姫様にも楽しみを分かって貰いたい物だなあ、ハハハ」

片方の耳が途中で切れている初老の侍従長は、笑いながらそう言った。

「この星の人、一人ぐらい、連れて帰れるかしら?」
「十年前はどうしても拒まれたようですが、何、今度はどうにかなります」

フィニアは展望ガラスに背を向け、部屋を出て行こうとした。
お付の者達も続いていく。

「私、もう見ているのは飽きました・・・」
「部屋でお休みになられて下さい、手続きはお休みの間に全て済ませられます」
「そうね・・・」

フィニアは、全ての者を退かせ、自室に入った。
クリーム色を基調とした部屋で、快適な空調と人工芳香が設定されている。

肩に掛っていた公族の金衣を脱ぎ、
天蓋付きのリクライニングベッドに横たわって、フィニアは耳のイヤリングの突起を押した。
しばらくして、インターホンが鳴る。

「マーサで御座います・・・」
「入りなさい」

入ってきた侍女マーサは、フィニアよりやや年上の、大人になりかけの顔立ちをした侍女だった。
フィニアから下賜されたイヤリングを、長い耳の根元につけている。

「この度は・・・」
「マーサ、畏まらなくて良いわ」
「しかし・・・」
「来て」

マーサは、言われるがままにフィニアのベッドに近付き、
遠慮がちにベッドの端に腰掛けた。

「もっとこっちに」
「はい・・・」

フィニアの横に寝て並んだ。

「・・・今度の星は、全然楽しめそうに無いわね」
「お父様はフィニア様に様々な体験を得て欲しいとおっしゃっていたではありませんか」
「こんな星で体験ねえ・・・バネイ、だっけ?」
「バネイ景勝公園です、この銀河に二つと無い特有の自然の公園があるんです」
「ふうん・・・でも私達の星が一番よ」

そう言いながら、フィニアはマーサに顔を近づけた。

「ねえ・・・前みたいにしましょう」
「ああ、姫様、私の様な者では満足させられませんわ・・・」
「何を言ってるの、あなたと私は長く関りを持っているのに」

フィニアはマーサの手を取り、自分の陰部に服の上から当てた。

「さあ」
「・・・はい」

年下の勝気な姫と、年上の侍女。
二人の仲は、位を超えて、この様な関係にまで深まっていた。

マーサはフィニアのドレスの内側に手を居れ、慎重にレースの下着をまさぐり、
陰部に指を沿わせた。

「そこ・・・」
「姫様・・・」
「そんな呼び方やめて、前みたいにフィニアって」
「フィニア様・・・」
「もう、様なんて・・・」

マーサはゆっくりとフィニアのドレスを脱がし、下着姿にした。

「フィニア様、なんとお美しい」
「うふふ・・・マーサも綺麗よ」

エルフェリアンの美女二人は、顔を近付け、濃厚なキスをした。
マーサの耳の先が少し揺れる。

「マーサ・・・緊張・・・んぶっ」
「んはあ・・・ッ」
「チュッ・・・」

フィニアの背中に手をくぐらせ、マーサは舌をフィニアの首筋に当てた。

「あああっ」
「フィニア様のお好きな場所ですわね・・・」
「もう・・・さすが分かってるわね、んっ」

舌が首から脇へと下がる。
フィニアの、まだ大きくなりそうな胸の谷間を横に、マーサは側面を嘗め回した。

「くすぐったい・・・」
「フィニア様、私だけでは寂しいですわ・・・」
「分かってるわ」

フィニアもマーサの、侍女の白衣の制服を脱がし、下着まで脱がせた。
マーサの胸はフィニアより一回りも大きい。

フィニアはリクライニングベッドの下の秘密のボタンを押した。
すると、ベッドに近い壁面がスッと開き、細長いローターが出てきた。

「お楽しみの、高感度ローターよ・・・」
「まあ!」

グネグネと形を変えられるので、二人が抱き合った状態でも、苦しくない姿勢で同時に快感を得られる。

「さあ、私を抱いて、スイッチを入れて」
「はいっ」

身長は大体同じ二人。
陰部を突き合わせ、ローターを挟む様に当てた。
そしてスイッチを入れる。

ヴヴヴヴヴ・・・!

「ああっ・・・!」

二人は身を捩じらせた

「ふぃ、フィニア様・・・!」
「マーサ・・・!」

ロイヤルシップがガコンと揺れた。
ポートに着地したのだろうが、二人には構う理由は無かった。

「ああああっ!」
「マーサぁ!」

二人は激しく揺れ、お互いの胸を揉んだり、腕を掴んだりした。
ローターはセンサーによって二人の陰部の的確な位置を掴み、
常にグネグネと赤色の機体をくねらせている。

「んんっ」

フィニアの耳の先が赤みを帯びているのを見ながら、
マーサは意識が白くなるのを感じた。

「はあっ・・・アッ」
「イイッ」

二人はまたも激しく動き、そして静かになる。

「ああ・・・変・・・感覚が・・・」
「私も・・・」

ローターは絶頂を感知し、作動停止した。

「・・・うふふ」
「フィニア様・・・前から、一人でこれを・・・?」
「何言ってるの・・・あなたとしか使わないわ・・・一人で気持ち良くなっても仕方ないでしょ?」
「まあ、姫様、お優しい・・・」

マーサはそう言いつつ、またフィニアの胸に口付けした。


〜〜〜


二人が余韻に浸っている頃、艦の外では、入星手続きが行われていた。

ロイヤルシップは地面に加工された開閉敷きドームの内側の広大なプラットホームに着地し、
管理センターに向けてタラップを降ろしていた。

艦から人員がぞろぞろ降りてくるが、その大半はエルフェリアンでなく普通のヒトであった。
エルフェリアンとヒトは種族が元々似ている事もあり、種族間では比較的良好な共存状態に有る。
この様に、ヒトが艦の下働きをしている事も多い。
ぞろぞろ降りてきたヒトの殆どが、グレーの制服を着たガードマンや、雑務員だった。

『惑星モルゴス入星管理局』
そう書かれた大きな窓口で、入星者を待ち構えるのも、
バリコーンらの様な土着種族でなく、ヒトであった。
ヒトは基本種族と言っても良い種族で、どこの星にも、少数でもほぼ確実に存在し、
大体政府の出先業務などを行っている。
はるか昔、惑星間飛行に最初に成功した種族の一つでもあり、
また幾度と無く戦乱や差別を起こし、また文化の創造や伝播も行って来たのだ。

惑星モルゴスの入星管理官は、艦からぞろぞろ出て来る人員を見回し、舌打ちした。

「チッ、十年前を思い出すな・・・」
「まあ良い金づるじゃないですか」

管理官の横には、卑屈な笑みを浮かべた男性が立っている。
彼はこの星のガイドであった。
その二人の前に、護衛を伴ったエルフェリアンが現れた。

「貴殿が管理官で、そちらがガイドかね」
「そうです」
「私がガイドのピジョウです、バネイ景勝公園までご案内します、よろしく」

ピジョウが握手に差し出した手を無視し、
片方の耳が切れた立派な体格の初老のエルフェリアンは、遠慮なく続ける。

「全て、先に申渡したとおりだ、貴政府の良好な対応を期待する、ではピジョウ氏」
「・・・」

ピジョウは不満げな顔をしつつ、管理官に合図し、艦の方へ向かっていった。

簡易検疫と人員調査を終え、人員は再びぞろぞろとロイヤルシップに戻っていく。
管理官はセンター内でガイドを行った。

「空域側第一ハッチ全開、進路クリアー、発進どうぞ」

ロイヤルシップは、派手な轟音を上げず、ズーッと言う鈍い音を上げながら緩やかに前進上昇した。
開閉式ドームの前方の一部が開放され、そこからロイヤルシップは空域へ進入した。


〜〜〜


遊覧観光の舞台となる艦下部の大展望室では、ピジョウが侍従長と幾人かのエルフェリアンに囲まれ、
彼がガイドなのに、逆にエルフェリアンと関る際のガイドを受けていた。

「良いか、絶対に姫様の許可無く、近くに近付いてはならない」
「は、はあ」
「また、我々は寛大とは言え権威への侮辱は許さん」
「分かっています」
「それと、ガイドの際は常に綺麗な言葉遣いをお頼みするぞ」
「ええ、まあ・・・」

ピジョウは、侍従長のまったく面倒な台詞を流しつつ、下方の景色を眺めた。
ガイドでも、こんなに上質な艦に乗るのは久しぶりだ。

「僕は八年前にガイドになったんですがね、それより前に貴方達も一度来られたのでしょう?」
「十年前に来たのは第三王子である、その時は我々とは別の者が追従した」
「へえ・・・」
「そろそろ姫様がこちらへ来られる」

その時、ちょうどフィニアが侍女達を伴い現れた。

「この度ガイドを勤めさせて頂きますピジョウでございます」
「そう」

フィニアは深く礼をするピジョウを一瞥すると、展望ガラスの方へ向かった。
そこに何か有るとは思えない透写ガラスの向こうには、荒野が広がっている。

「ではこれより案内を始めさせて頂きます」
「ええ」
「惑星モルゴスは第三級惑星として認定されており、全知的人口は百二十万人・・・」

一通りの説明をエルフェリアンにするピジョウを、さっきの侍従長が突っ突いた。

「こら、姫様に近付く出ない!」
「え・・・」

近付くと言っても、相当離れている筈なのだが。
フィニアは侍従長に片手を上げた。

「苦しゅうないわ」
「ハッ、では・・・お許しが出たのでここで続けて申せ」
「この惑星の主要種族であるモルゴーン人は、大戦以前から独自の進化を続けており・・・」

ヒトの宇宙探検者オブリーがこの星を発見し、着地した時、
既にモルゴーン人たちは落ちてくる隕石から得る鉄の精錬や、
簡易的な火薬銃器の製造に成功しており、オブリーの記録に「ヒト大種族以外での数少ない進歩種族」と書かれた。
オブリーは温厚で好奇心に溢れたモルゴーン人達にビーム銃をプレゼントし、
さらに当時の大怪鳥を宇宙船の兵器で始末し、良好な関係を気付く事ができた。

その後、ヒトなどの主な種族とかけ離れた外見をしながらなぜここまで発展したのかと調査が行われたが、
この人種調査隊はモルゴーン人達に差別的な態度を取り続けた上、
数人のモルゴーン人を麻痺させて連れて帰ろうとした為、全員射殺された。

「まあ、モルゴーン人て大胆ねえ」

フィニアは特段考えもせずそう言い、展望の向こうを見続けた。
ピジョウはエルフェリアンの人格を若干疑い始めていたが、説明を続けた。

「モルゴーン人達は知的種族にしては見た目が特異ですが、高い精神性を持っています」
「詩とか吟じるの?」
「詩ですか?彼らの宗教で簡単かつ明確な祝詞を上げる事がありますが」
「それだけ?」
「彼らは狩猟者としての生活を第一にしている事が多いので、詩を考える余裕は・・・」
「野蛮ねえ」

ピジョウは言葉を失い、侍従長の方を見たが、侍従長もフィニアに頷いていた。

「左様、詩を吟じられないのは野蛮な種族ですぞ」

ピジョウは気を取り直し、展望ガラスの方へ注意を向けさせた。
今回、このエルフェリアン達に、サファリパークの様な経験をさせ、
さらにこの星では数少ない特有の自然に囲まれた、バネイ景勝公園へ連れて行くのだ。

「眼下に大きく特徴的な岩がありますね、ここはオブリーが着地の目標にした地点で・・・」


(続く)


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