第1話 姫将軍


 異世界・ヴェルノーム。遥かなる神々の戦いの時代、光の大神・ユーナスと暗黒神・ザンガードの戦いは熾烈を極めた。ユーナスを信奉する人間たちとザンガードの落とし子たる魔族。相容れぬ二つの種族の争いがその戦いに拍車をかけた。数百年に及ぶ戦いは両神の消滅という形で決着がついた。反目しあう種族もお互い住み分けることで争いつつも平和な時代を築いていった。。
 ヴェルノーム最大の大陸・ホルネイスト。そこは光の大国・ストラヴァイドを中央に抱き、十一の国々がそれぞれ繁栄と平和を貪る大陸であった。
 だが、そこにあって唯一例外があった。北西のはずれに位置する国、ヴェイス。魔神バーグライドが治めるこの国は魔物や犯罪者がはびこる暗黒の国であるとされていた。邪悪の根源、平和を乱すものとしてヴェイスは世界中の国から疎まれ、人々から忌み嫌われ、交流のない閉鎖された国とされてきた。
 そして、この国を討つべくストラヴァイドとその周辺国は幾度と無く遠征を繰り返し、幾度と無く戦争を繰り返し、多くの人々の屍が晒されてきた。
 太古から続く光の大神・ユーナスと暗黒神・ザンガードの争い、それはいまだその子孫にその影を落としていた。

 そんな戦いの歴史の終わりの刻がやってくる・・・


 ストラヴァイド光国王宮・ジストライム。光の大国と謳われるこの国の王城で謁見の間に続く廊下を一人の女性が急ぎ足で歩いてゆく。
 銀色の甲冑に身を包み、兜を小脇に抱え、金色の髪をたなびかせ闊歩する。その美しさは誰の目も引くものだった。
 「父上!何故またわたくしの陳情を取り上げてくださらなかったのです!?」
 その女性は謁見の間の扉を押し開くと、国王に遠慮なく自分の思いをぶつける。
 突然の珍客の登場に国王・ジーン=エイム=ストラヴァイド四世は大きくため息をつく。彼女がそろそろ来るだろうことはこの心優しい国王には分かっていた。そして予想通りの反応を示すことも。ゆっくりと娘の方に顔を向ける。
 「レオナよ。いい加減あきらめてくれぬか。あの国への討伐など危険すぎる」
 あの国、それはつまりヴェイスのことだっだ。第一王女・レオナ=シーン=ストラヴァイドはそれをずっと提言してきた。そして自分がその遠征を指揮することも。
 だが父王は危険であるとして、その遠征を反対し続けてきた。それは父親の親心から来たものだった。
 しかし、レオナはそれを分かろうとはしなかった。自国の民のために暗黒の民を根絶やしにすること、それが彼女の望みだったのだ。そのためにこれまでつらい稽古にも耐えてきたのである。数々の困難を乗り越えてきた彼女は姫将軍と謳われるまでに成長した。今ならば魔神にすら負ける気はしない、それが彼女の本音だった。
 「いいえ!できません。あの国はいつわれら光の民に牙を剥くか分からぬケダモノの国。根絶やしにせねば民も心休まりません!」
 鼻息荒く力説する。これまでも幾度となく陳情はしてきた。しかしそのことごとくを退けられてきた。そしてこうやって謁見の間まで乗り込んでくることもたびたびだった。その度に戒められてきたのだ。今回がうまくいくはずが無い。結局、国王のみならず、大臣たちにまで諌められてようやくレオナは謁見の間を後にする。その顔は悔しさに満ち満ちていた。
 「このまま引いてなるものか!!」
 怒りから壁にこぶしをたたきつける。鈍い音があたりに響き渡り、壁の一部がボロボロと崩れ落ちる。
 「そんなことをしたら美しい肌に傷が付くよ」
 怒りに震えるレオナに背後から声がかかる。白い甲冑に身を包んだ、優男の外見をした青年だった。顔には笑みを浮べている。その笑みにはどこか含みを持っていた。
 「クライゼ・・・そんなこと言っても。まただぞ、私の意見が退けられたのは!」
 「そんなに怒ることはないじゃないか・・・君の言っていることの方が正しいのだから。それは誰もわかっているよ。もちろん僕もね」
 クライゼはレオナの肩を抱きしめるように囁く。優しいこの愛しき人にレオナの表情もすこし緩む。
 「なら、君の意思を国中に示そうじゃないか」
 「私の意志を?いったいどうやって?」
 クライゼは自分の意見をレオナの耳元で囁く。それを聞いたレオナな顔色が変わる。
 「しかし、それは・・・」
 「あの国を討つならそれくらいの覚悟が無くちゃ。大丈夫。僕もリンゼロッタ様も君の味方だ」
 クライゼの言葉にレオナはしばし考え込むと小さく頷いた。これがうまく行けばいくら腰の重い父王でも動かざるを得ないだろう。そうなればかの国に遠征軍を派遣して、これを討つことが出来る。そうなればこの戦いの一番手柄は彼女のものになるはずだ。
 そうなれば自分の望みも果たされる。この愛しき人との婚礼も許されると思った。ならばとレオナは即座に行動に移る。クライゼを連れて足早にその場を後にする。目指すは騎士たちの宿舎だった。

 「まったくあの子ときたら・・・困ったものだ・・・」
 レオナの去った謁見のまでジーンは深いため息をつく。今のヴェイスはこちらから手を出さなければ反撃はしてこない。下手に手を出せば、かの国の魔物たちはいっせいに牙を剥く。周辺国との関係がうまくいっていない昨今、そんな危険を冒せば自国の民にどれほどの被害が出るというのだろうか。それを考えれば自重するべきなのだ。だが、それをレオナは分かろうとはしなかった。
 「姉様らしいですわね・・・」
 国王の後ろに控えた少女がポツリと感想を漏らす。アリス=シーラ=ストラヴァイド。この国の第二王女にして、光の巫女の重職を勤め上げるこの国のアイドルだった。黒い髪の儚げな少女は常に父と姉を心配していた。そして、気性の荒い姉が次にどんなことをしでかすか分かったものではないと父王に進言する。ジーンもそのことは心得ているらしく、苦々しい顔をしていた。
 「まったくもう少しおしとやかになってくれればいいものを・・・」
 「それが姉様らしくていいですわ」
 ため息をつく父王にアリスは優しく微笑む。
 「もう少し落ち着きをもてればすぐにでも王位を継がせるものを・・・あれではまだ先だな・・・それに・・」
 「あのクライゼ、という男ですね。お父様のご心配の種は・・・」
 アリスの言葉にジーンは素直に頷く。レオナはクライゼを信用しきっているようだが、どうにもジーンには信用できなかった。それはアリスも同じであった。
 「確かに”光の勇者”の証、”太陽の紋章"を持ってはいたが・・・」
 「はい。叔父様の息のかかったものであることは間違いないかと・・・」
 ジーンの弟、ルードは野心家であった。宰相の地位の上った今も国王の地位を狙っているとさえ言われている。
 そんな彼がクライゼを”光の勇者”としてこの城に連れてきたのだ。証である”太陽の紋章”が左腕に刻まれていたため、クライゼは"光の勇者"として王城に迎え入れられた。レオナはそんな彼に一目ぼれしてしまったのである。すべての間違いはそこから始まったのだ。
 「あれとの結婚を望むあまり、かような危険な進言をしてくるようになりおって・・・」
 「あの男の考えだけではないでしょう。おそらく叔父様の意志も後ろにありますわ・・・」
 このようなことあの優男一人で思いつく話ではない。間違いなく後ろにはルードが控えているだろう。どちらにしろ、かの国への侵攻を押さえさせれば話は進まない。いかに娘に恨まれようがこれだけは譲る気はなかった。
 一応騎士団も戦士団も国王の命がなければ動くことは出来ない。レオナが勝手に戦争を吹っかけに行くことは出来ないのだ。そう安心しきっていた。
 だがそれは甘かった。レオナは予想もつかないようなことをしでかしていたのだった。それを知ったのは彼女が城からいなくなった翌日のことだった。

 ズード渓谷。ストラヴァイドとヴェイスが唯一接している土地でもあり、昔から戦いの場所となってきたところである。そこにはストラヴァイドの侵攻を防ぐためヴェイス皇国の砦が築かれていた。
 その砦には現在、ヴェイス皇国第八大将軍クリフトが視察に訪れていた。もっとも視察とは名ばかりである目的を持って第八軍を率いて訪れていたのである。
 「エリウスに命じられたとはいえ、目標がいつ動き出すか分からないからな・・・果報は寝て待てってね」
 クリフトはそのときが来るのを寝室でじっと待ち続けていた。到着から3日後、伝令が入る。
 「クリフト様!ストラヴァイドが動いた!!」
 クリフトの副官・セツナが寝室に飛び込んでくる。長い髪を後ろにまとめた少女は指揮官に状況を報告する。それを聞いたクリフトはダークエルフ特有の浅黒い肌を鎧で包み込んでゆく。待ちに待ったそのときが来たのだ。体は早く戦いたくてうずうずしている。
 「戦力は?それから指揮官は誰だ?」
 「アンナによれば、規模は百人ほど、指揮官はレオナ=シーン=ストラヴァイド、姫将軍・・・」
 セツナの報告にクリフトは唇を鳴らす。
 「エリウスの予想通りってわけか。なら、左翼はお前が指揮しろ、セツナ。おれは中央から姫将軍を抑える」
 「かまいませぬが、右翼を衝かれたらおしまい・・・」
 「エリウスの言葉どおりなら、右翼はリンゼロッタが担当することになっているはずだ。あの臆病者が来るはずがねえ!だから右翼は無い!」
 クリフトの言葉に迷いは無かった。エリウスと呼ばれる人物の言葉を信じきっているのだ。セツナもエリウスの言葉を信じているが、ここまで信じることは出来なかった。
 だが自分の大将がそう言うのならば間違いは無いだろう。セツナも彼を信じて戦いの場に赴く。
 セツナが出たのを確認するとクリフトも兜を被り自軍に号令を掛ける。妖魔、妖獣を中心とした大軍が戦いの場へと駆け出してゆく。

 そして戦いは始まった・・・

 「なぜ、押し切れぬ・・・右翼は、左翼の兵はどうなった?」
 自分の意見に賛同するものたちを引き連れてズード渓谷へと向かったレオナはヴェイス軍の迎撃に戸惑っていた。
 まるで自分たちが来ることを予想したかのような軍勢が待ち構えていたのだ。
 混戦となった今では右翼も、左翼もどうなったのかも分からない。従姉妹のリンゼロッタとクライゼがどうなったのかも分からない。
 「くう・・・このような魔物にやられてたまるか!!」
 馬上から長剣を振るい、妖魔たちを切り裂き突き進む。しかし時間を追うごとに周りの兵は一人、また一人と消えてゆく。いつしか近従の騎士たちの姿も見えなくなり、そこにはレオナ一人しかいなかった。それでも彼女は剣を振るい続け、戦い続けていた。
 「妖魔などに・・・闇のものどもに負けてたまるか!風よ、刃となりて切り裂け!”ウィンド・エッジ”!」
 魔力を込めた一撃が放たれる。三筋の真空の刃が妖魔たちを切り裂いてゆく。こういった乱戦でも重宝する魔法を彼女は習得している。囲まれてもその囲みを突破できるように。
 だがそれもいつまでもつか分からない状況だった。何しろ敵の数が多すぎる。いくら多数を同時になぎ倒しても体力や魔力の方が先に限界に来てしまう恐れがあった。
 「なんとか・・・この囲みを・・・抜けなければ・・・」
 もはや自軍の敗北は間違いなかった。だが、最初からこの一戦勝ち負けはどうでもよかったのである。ようはストラヴァイドとヴェイスが戦争状態に入りさえすればいい。それが彼女のたくらみだったのだ。後は自分が無事脱出し、王都に戻りさえすればいい話であった。
 しかし予想外の反撃にあい、その脱出も困難な状況になってしまっていた。
 「意外に粘るじゃないか。さすがは姫将軍といったところか・・・」
 孤軍奮闘するレオナの前にクリフトが姿を現す。隙の無いその姿にレオナは背筋が寒くなる。自分にそんな思いをさせる戦士など自国には一人としていなかった。この男に挑むのは危険だと女の勘が、戦士の勘が告げている。
 だが、それ以上にこの男と戦いたいという戦士としての本能がむくむくと頭をもたげてきていた。
 「そなた、何者だ!!」
 「俺かい?俺はヴェイス皇国第八軍団大将軍、クリフト=ビーってものだ」
 その名前にレオナは背筋が凍りつく。皇国八大将軍。そのうわさは聞いたことがあった。屈強の戦士。老獪の魔術師。凶悪な妖魔。強靭な巨人。様々な種族の最強と謳われるもののみが就ける将軍職であると。その強さはこれまでの戦争で一度として負けたことが無いといわれるほどだった。目の前にいる若者がその八大将軍だというのだ。
 「そうですか・・・ならばその伝説にわたくしが穴を開けて差し上げましょう!!」
 長剣を構えたレオナは馬を駆り、クリフトに向けて突進する。鋭い突きを繰り出してクリフトの横につけると、今度は連続して剣を振るい、クリフトに襲い掛かる。
 しかし、クリフトは冷静にその攻撃を見切り、紙一重で全てかわしてゆくのだった。
 「やりますね・・・では、これはどうですか?”ウインド・エッジ"!!」
 レオナから放たれた風の刃がクリフトに襲い掛かる。かわす手段はないと思われたこの攻撃もクリフトには通じなかった。迫り来る風の刃を鞘に収めた剣で弾き、かき消してしまう。まったくの無傷でじっとレオナを見つめてくる。
 そんなクリフトの態度もレオナには気に食わなかったが、それ以上に彼女をイライラさせるものが彼にはあった。いつでも自分に襲い掛かってくるチャンスがあったのに、未だに剣を鞘に収めたまま襲ってくる気配がないのだ。
 そんなクリフトの尊大な態度がレオナをさらにイライラとさせる。
 「どういうおつもりですか!!?剣を抜いて本気で私と立ち合いなさい!!」
 「悪いけど・・・そんな気にはなれないな・・・」
 肩を竦めて溜息をつくクリフトにレオナは激昂する。完全に自分が舐められていると判断し、馬から飛び降りる。そして長剣を上段に構えるとキッとクリフトを睨みつける。
 「この一撃を受けても同じことが言えますか?」
 レオナは気合を入れなおしてすっと目をつぶる。自分の持つ精神力を、魔力を剣に集中させてゆく。目の前にいるのが八大将軍だとするならば、生半可な技では相手にならないだろう。全力で最強の技をぶつ得るつもりでいた。
 「いいぜ。来なよ、オヒメサマ」
 クリフトは馬鹿に仕切った態度でそれに応じる。レオナは怒りに肩を震わせながら、全神経をクリフトに集中させる。一撃必殺の思いを込めて。
 「光よ、剣に宿りて悪を討て!”シャイン・ブレード”!いやぁぁぁぁ!!!!」
 レオナは全魔力を剣に込める。光り輝く剣、彼女の最強の一撃が放たれる。だが、それはクリフトに届くことは無かった。彼女の一撃よりも早くクリフトの細剣が鞘から引き抜かれ、彼女の剣の柄を捉えていた。剣は振り下ろされること無く後ろに弾き飛ばされる。最強の技が破られたことに呆然とするレオナの首筋にクリフトの手刀が決まる。彼女の意識はそこで途絶えるのだった。意識を失った彼女を見下ろしながらクリフトは鼻で笑う。
 「まだまだ。全然ダメだな」
 息一つ乱れていないクリフトは八大将軍の実力の片鱗を見せ付けただけであった。それほど実力に差があったということである。気絶したレオナは縛り上げられ連行されてゆく。生き残った兵も降参したものは捕虜として砦に連行されていった。その様子を遠く離れた丘の上から伺うものがいた。金色の巻き髪を指でもてあそびながら、遠眼鏡でその様子を伺っている少女が一人。
 「あらら、レオナったらあっさりとやられちゃった。まあ、あのイバリン坊じゃこの程度よね」
 「しかし思ったよりも早く決着がついたね」
 捕まったレオナを馬鹿にするような口調で少女は大笑いする。傍に控える兵たちはそんな彼女に何も言わずに、彼女の命を待っている。ルード公爵直属の部隊、それがリンゼロッタの部隊だった。そんな彼女の横にはクライゼがへらへら笑いながら肩を並べていた。とても恋人が捕虜になったことを理解している男の顔ではなかった。
 「相当強い戦士がいたみたいね。まあ、貴方ほどじゃないけど」
 「当たり前だろう?僕が本気になれば魔神すら倒せるんだぜ?」
 リンゼロッタの言葉にクライゼは憤慨する。もっとも本当に魔神を倒せるほど強いわけではない。誇張しているだけなのだ。しかし光の勇者がそういえば倒せるのではないかと思ってしまえる。そんな気がした。
 「どちらにしろ、勝負はついたわね。さっさと城に戻りましょう。レオナ姫は独断先行でヴェイス皇国に宣戦布告。どう動くにしろ、国王を引きずり下ろす格好の材料といえるわね」
 状況が決したことを確認すると少女は遠眼鏡を後ろに控える戦士の一人に放り投げる。
 「まあ、あの子は姫将軍って器じゃなかったってことですわ。その名はワタクシにこそふさわしいのよ。そう、ワタクシ、リンゼロッタ=フォン=ストラヴァイドにこそね!おほほほほっ!!!」
 早々に戦線から逃げ出した自分のことを棚にあげてリンゼロッタは高笑いをする。これからは自分がレオナに変わって姫将軍と呼ばれることを夢見ながら自分のはいかを連れて本国へと引き上げてゆく。ストラヴァイド光国内にわずかずつ暗雲が立ち込めはじめていた。

 「ここ・・・は・・・」
 頬に伝わる冷たい感触にレオナは目を覚ます。辺りは暗い。目の前には鉄格子があり、自分が石畳のうえに寝かされていることが分かった。そこが何処だかはすぐに理解できた。
 「捕まった・・・ということですわね・・・」 
 完敗だった。レオナはため息をつく。あのクリフトという将軍に自分はかすり傷一つつけられなかったのだ。これほど実力に差があるとは思わなかった。そしてこの国がこれほど恐ろしい国であることも。自分の浅はかさを後悔する。そのために多くの部下を犠牲にしてしまったのだから。とめどなくレオナの頬を涙が伝う。
 「必ず、生きて帰りますわ。そしてあなた方の敵は必ず・・・」
 生きて帰って、もっともっと強くなろう。そうしなければこの国を討つ事など出来ないのだから。レオナは硬くそう心に誓うのだった。そのためにも早くここから脱出しなければならない。身代金を支払ってでも生還するつもりでいた。そのためにもあのクリフトとか言う将軍に会わねばならなかった。
 「どなたか・・・どなたかいらっしゃいませんの?」
 大声で怒鳴り捲くる。そうすれば誰かがここにやってくると思ったからだ。すると一人のダークエルフの少女が姿を現す。レオナが完全に意識を取り戻していることを確認すると、また奥へと消えてゆくのだった。
 「ちょ、ちょっと!私は用がありますのに!!」
 レオナは自分の顔だけ見て消えていった少女に怒りを爆発させる。だがすぐに彼女はクリフトを連れて戻ってきた。手には鍵束を持っている。
 「ようやく起きたか。寝ぼすけだな、オヒメサマ」
 「う・・・そ、そんなことよりも、さっさと私を解放なさい!!王族たる私をこのようなところに押し込めておくなど許されることでは在りませんわ!!」
 不遜な態度を取るクリフトにレオナは大声で捲くし立てる。とても負けて捕虜になったものの態度ではなかった。クリフトはそれを耳をふさいで聞こえないふりをする。
 「悪いが、王族だろうと、なんだろうと、今のあんたは捕虜だ。それ以上でもそれ以下でもねえ」
 クリフトは冷たくそう言い放つ。それが嫌ならば戦いの場に出てくるなとまで言われる。レオナは悔しさに唇を噛み締める。その覚悟が無かったわけではない。だが、自分は捕虜などにならないという自信があったのだ。その自信は眼の前の男にもろくも打ち砕かれてしまったのだ。ぐうの音も出ない状況だった。
 「まあ、俺がここに来たのはあんたをここから出すためなんだけどな。来な、あんたに会いたいって人がいる。」
 クリフトはそう言うと牢の鍵を開ける。こうもあっさりと解放されるとは思わなかったレオナはしばし呆然としていた。が、このままここにいても何の意味も無い。牢から出ると急ぎ足でクリフトのあとを追った。
 「ここは・・・国境の砦では・・・ない?」
 地下から地上に上がるとそこは砦ではなかった。長い廊下、しっかりしたつくりの壁、どう見ても砦などではなく城だった。国境の砦と思い込んでいたレオナはしばし言葉が出なかった。
 「ここはヴェイスの王都、イーザスの王城・ダーク・ハーケン。あんたの言う悪の巣窟さ」
 クリフトは平然とレオナに説明する。国境の砦ならば隙を見て逃げ出すつもりでいた。だが、王都となれば話は別である。とてもではないが逃げ切れるものではない。レオナは歯を噛み締めて悔しがる。そんな彼女を無視してクリフトは一室のドアを開ける。
 「ここだ。入りな。」
 クリフトに促されレオナはその部屋にしぶしぶ入ってゆく。室内には一人の青年が待っていた。黒色の髪に赤い瞳。特徴的な顔立ちの美形だった。
 レオナはその顔立ちに立ちすくんでしまう。その赤い瞳に巣込まれてしまいそうな感覚だった。その姿にレオナはどこか懐かしい、恋人に会ったようか気持ちになる。
 そんなことを思っていたレオナは慌てて頭を振って懸命に自分を保とうとする。
 「ようこそ、ダーク・ハーケン城へ。レオナ姫」
 青年はにこやかな笑みを浮べてレオナを迎え入れる。クリフトはレオナを室内に招き入れるとそのまま自分は部屋を辞す。あとにはその青年とレオナの二人だけが残されていた。
 「なにものです、あなたは!?」
 レオナは高鳴る鼓動を必死に押さえ込み、頬を赤く染めながらも、毅然と問いかける。青年はにこりと笑うと自己紹介を始めた。
 「これは失礼しました。僕はエリウス=デュ=ファルケン。この国の第二王子にしてヴェイス軍最高指揮官ですよ。以後お見知りおきを」
 エリウスはそう言うと恭しくお辞儀する。その名前を聞いたレオナは顔面蒼白となる。
 「あなたが・・・”操りし・・・者”・・・?」
 「あまり好きではありませんね、その通り名は・・・」
 レオナの言葉にエリウスはため息をついて答える。”操りし者”ヴェイス軍軍師の通り名だ。数々の策を重ねあわせ、まるで人を操るかのように目的を達する。そんな策の立て方からついた字だった。
 だが、その正体についてはまるで分かっていない。老人とも、若者とも男とも、女ともつかない様々な噂が飛び交っていた。それが目の前にいる青年、それもヴェイス国の第二王子だったとは・・・レオナにとって二重、三重の驚きが重なった。だが、驚いてばかりいられない。
 「エリウスといいましたか?私をすぐここから解放なさい!」
 「出来ませんよ、そんなこと。貴方は事の重大さが分かっていらっしゃるんですか?」
 レオナの言葉にエリウスは平然と答える。彼女の言葉など彼には届いていなかった。
 「事の重大さって、私が戦いを挑んだことがですの?そんなこと当たり前のことではありませんか!光の使徒として闇のものを葬る。それは当たり前のことでしょう!」
 レオナは毅然と言い放つ。悪を討つ大義名分が自分たちにはある。そう信じているからこそこの戦いを挑んだのだ。しかしエリウスは冷ややかな眼差しで彼女を見つめるだけだった。
 「どうやらストラヴァイド光国の姫君は頭が相当終わるいようだ。貴方の独断で戦争が始まるというのに・・・多くの無駄な命が失われるのですよ、貴方の国の民の命が・・・」
 エリウスの言葉を聞いてレオナは改めてはっとなる。確かに彼の言うとおりだ。もし戦争になれば先ほどの戦いなど比ではない戦いが各地で起こるに違いない。結果多くの民が故郷を追われ、苦しみ死んでいく事になる。民を守るべく起した自分の独断のために・・・
 「ようやく事の重大さが理解できたようですね。こちらとしても攻め込まれた以上ストラヴァイド光国の宣戦布告とみなして・・・」
 「待て・・・待ってくれ・・・」
 エリウスの言葉を聞いたレオナの表情が一変する。今このまま戦争になれば、ストラヴァイドは甚大な被害が出ることは間違いない。父王の言うとおり、今は他国との連携を深めるべきだったのだ。国境での戦いで彼女はそれを痛感していた。だから今は少しでも時間が欲しかった。
 「私は・・・どうなってもかまわない・・・だから・・・だから戦争だけは・・・」
 それまでの強気な態度から一変してレオナはうなだれてしまった。そんな彼女を見つめながらエリウスは笑みを浮べる。冷たい笑みを。
 「いいでしょう。貴方が僕のモノとなることを誓うならば・・・」
 「なっ・・・・」
 エリウスの言葉にレオナは言葉を失う。簡潔に言えば、奴隷になれというのだ、王族たる自分に。それは彼女にとってあまりに屈辱的ことだった。
 しかし、今の彼女には選べる道は2つしかない。エリウスを拒絶し戦争を起こすか、エリウスを受け入れ彼の奴隷となるか。そのいずれかしかなかった。
 「くぅ・・・死なせては下さらないのですか・・・このまま生き恥をさらせと・・・」
 「死ぬのはかまいませんよ。ですが、その死骸は宣戦布告の材料にさせていただくだけの話です」
 自分の死を持てすべてが終わらないことをレオナはようやく悟った。進退窮まっている状況でも、何とか逃れる場所を求めていた。
 (助けて・・・クライゼ・・・)
 心の奥底で恋人の、光の勇者と謳われた人の名を呟く。彼ならば今自分のこの窮状を救ってくれるはずだ。だが、その彼は今この場にはいない。いまだ決めかねるレオナをエリウスは何も言わず見つめ続けた。その沈黙がレオナには重かった。
 「まだ決めかねますか・・・」
 エリウスが呆れたように言ってくる。そうは言われても今のレオナには色々な考えが浮かびどうすることも出来ない。考えがまとまらないのだ。
 「仕方ありませんね。決心がつくようにして差し上げましょう」
 エリウスはそう言うと一歩前に踏み出す。そして有無を言わさずレオナの唇を奪う。突然のことにしばし反応できなかったレオナだったが、唇を奪われたことが分かると、身をよじって抵抗する。だがエリウスは思いのほか力強かった。いくら跳ね除けようとしても逃れることは出来ない。
 (たすけて・・・クライゼ・・・たすけ・・・て・・・)
 エリウスの口付けにレオナの思考は完全にストップしてしまう。徐々に体の自由も奪われてゆく。もはや抵抗など出来ない。エリウスが手を離すとレオナの体はそのままベッドの上に横たわった。逃げることも抵抗することも出来ない。
 「あ・・・うああっ・・・い・・・や・・・」
 かろうじて唇を動かすことは出来る。声を上げることも出来る。このままこの男に汚されるくらいならば舌を噛み切って死のうと思う。しかし、先ほどのエリウスの言葉が思い起こされる。ここで貞操を守っても戦争は回避されないのだ。それどころか、あらぬ汚名まで着せられかねない。そうなれば父王にも妹たちにも迷惑がかかる。
 「どうなさいますか、姫?ここまでくれば決心もつくでしょう。舌を噛み切り戦争の口実となるか、僕のものになるか。どちらになさいますか?」
 エリウスは静かにどちらを選択するか、尋ねてくる。最初からレオナに選択などなかった。なにをしてでも国を守りたい。その想いから今回の襲撃を思い立ったのだ。それに敗れた以上、国に害が及ばないようにしなければならない。ならば選ぶべき道は1つしかない。
 「・・・わかりました・・・貴方の奴隷となりましょう・・・」
 苦渋の決断を下す。今彼の奴隷になってもいつかは助けが来るかもしれない。今は屈辱に耐え、民の命を守る方が得策なのだ。たとえ穢れた存在になろうとも。
 「では、契約の証を・・・」 
 エリウスはそう言うと指先をすこし噛み切る。にじみ出た血でレオナの首筋に印を描く。そして呪文を唱える。
 「”其は我がモノなり。永久に千切れぬ鎖で汝を絡めとらん”」
 一部聞き取れない箇所はあったが、呪文は完成しレオナの首に首輪がはめられる。永遠に外れることない首輪が。それは光の鎖でエリウスとつながっている。もはや彼女に逃げる術はなくなったのだ。
 「ではこれで此度の一件はなかったことにしましょう」 
 エリウスの言葉にレオナはほっとする。これで民は救われた。あとは自分のことだけだ。解放されるそのときまでこの男に仮初の忠誠を誓っていればいい。そう思っていた。だが、そんなのんきなことは言っていられなかった。
 「それでは、いきますよ・・・」
 エリウスはレオナの服を遠慮なく一気に破り捨てる。形のいい乳房がプルンと揺れる。誰にもさらしたことのない裸体を今、魔神にさらしているのだ。隷属を誓った以上、逃げることも、抵抗することもかなわない。ただ、エリウスのなすがままだった。
 「ふふふっ、美しいですよ、姫・・・」
 エリウスの舌がレオナの白い肌を這いずり回る。戦士として長年にわたって訓練を続けてきたレオナの体は、一切無駄なく引き締まっていて、白く、美しく、滑らかだった。そして感度も敏感であった。這いずり回る舌にピクピクと反応する。感じたことのない感覚。それがレオナの脳を支配するのだった。
 「いや・・・な・・・に・・・はぁあ・・・うあぁ・・・」
 頭を振って襲い来る快感に抗おうとする。だがそれから逃れることは出来ず、その波にあっという間に飲み込まれてしまう。口からは喘ぎ声が次々と出てくる。そんなレオナの乳首をエリウスは遠慮なく口に含む。硬くなったそこを舌先で転がし、力強く啜り上げる。
 「やっ!はあああっ・・・・あああああっ!あんっ!!」
 レオナの体はいつしか襲い来る快感から逃れようとはしなくなっていた。もっと欲しい、もっと感じたい。とめどない欲求が体を支配する。腕はエリウスを跳ね除けるどころか抱き寄せ、彼を求めていた。そんな自分にレオナは愕然としていた。頭では彼を拒絶しても体がその言うことを聞いてくれないのだ。
 「こういうのはいかがですか、姫・・・」
わざと"姫"という言葉を強調してエリウスは乳首を啄ばむ。硬く尖ったそこはヒクヒクと戦慄き、更なる快楽を求める。それは乳首に限ったことではなかった。
 「ほら、ここもこんなに・・・」
 エリウスの指先がレオナの股間に触れる。下着の上からでも分かるほどそこはべっちゃりと濡れていた。最後の砦を守るべく足を組んで逃れようとするが、エリウスの指先は巧みに足の隙間に忍び込み、レオナを快楽のふちへと追い込んでゆく。それから逃れる術をレオナは持っていなかった。
 「ふああっ・・・だめ・・・だめ・・・や・・・いやぁ・・・」
 涙を流し、拒絶しようとも体はエリウスを求めてしまう。心の、いや魂のどこかで彼を求めているのが自分にもはっきりとわかった。それがどうしてなのかはわからない。
 それでも足は解け、エリウスを受け入れてしまう。乳首を口に含んだままエリウスの手が下着の中に入り込んでくる。じかに割れ目に指先が触れる。レオナの体がびくりと震える。すぐに何かされるかと思っていたが、エリウスは割れ目のふちを撫で回すだけでそれ以上何もしては来ない。
 「ああ・・・うあ・・・あああっ・・・」
 途絶えた快楽にレオナは喘ぐ。腰をくねらせ、自分からエリウスに股間を摺り寄せる。だが、エリウスはそれから逃げそれ以上触ってはくれなかった。もどかしさにレオナは狂いそうだった。
 「どうして欲しいのですか、レオナ姫。貴方は僕のモノなのですよ。どうしたらいいか、わかりますよね」
 エリウスは優しく、それでいて厳しく言い放つ。それはレオナの最後の尊厳を打ち砕こうとするものだった。そんなことをしたら本当に自分が奴隷に成り下がってしまうことはレオナには分かっていた。だが、体を支配する快楽はそれを許してはくれない。ゆっくりとレオナは下着を脱ぎ捨てると、秘所を指で割り開きエリウスに己がすべてを晒す。奥からあふれ出す蜜でそこはキラキラと輝いていた。
 「ご主人様、どうかこの卑しい奴隷にお情けをくださいませ・・・」
 レオナはその言葉をしっかりと口にする。屈辱感に苛まれながらも、しっかりと。エリウスはそれを聞くと今度はちゃんと割れ目に触ってくる。そして二本の指を割れ目の中に差し込んでゆく。滴り落ちる蜜が指に絡まり奥へ奥へと入り込んで行く。 
 「うあああ・・・ああ・・・んはあああ・・・」
 レオナの膣内は暖かく、狭かった。指を軽く動かしてやるだけでもじもじと反応を示す。声が漏れる。さらに奥を、感じる箇所を穿り返すと、奥からは蜜が溢れてくる。指と蜜が絡み合い、じゅぶじゅぶといやらしいハーモニーを奏でる。快楽はとめどなくレオナの脳を刺激する。だがそれは突然終わりを迎えた。
 「ひああああっ!!!ア・・や・・・あああああっっっ!!!」
 目の前に火花が走ったような感覚。真っ白に染まる脳裏。レオナの体は大きくのけぞり、絶頂を迎える。初めて迎える絶頂にレオナはなにが起こったのかわからず呆然としていた。ただ自分に何かが起こった、それだけは理解できた。エリウスはゆっくりと指を膣から抜き出す。
 「すごいイき方でしたよ、レオナ姫・・・」
 くすくすと笑うエリウスがなにを言っているのかレオナにはわからなかった。ただ、これで終わりになるわけではないのだけは分かった。エリウスは自分の服をゆっくりと脱ぎ捨てる。戦士のように引き締まった肉体をしていた。ある意味レオナにとって理想の男性像だった。そんな自分を見つめるレオナにエリウスは自分自身を見せ付けるようにする。肥大化し、反り返ったペニスは血管が浮かび上がり、ひくついている。
 「それでは、最後といきましょうか・・・」
 エリウスはレオナの足首を掴むと、腰を高く持ち上げ大きく足を開かせる。そしてペニスの先端を割れ目に宛がう。レオナのほぼ眼の前で挿入が行われようとしていた。自分が汚される瞬間を眼の前で見なければならないことにレオナは怒りを覚えた。そんな瞬間は見たくもない。しかし、視線はそこから逃げられない。拒絶の声も上げられない。
 「あ・・・あああっ・・・」
 「いきます・・・よ!!」
 エリウスの腰が沈む。ペニスが割れ目に飲み込まれてゆく。膣道を引き裂き、奥へと潜り込んでゆく。が、すぐにその動きが止まる。レオナの本当に最後の砦がそこにあるのだ。エリウスはぐっと腰に力を込める。ぶつっと何かが千切れるような感覚とともにペニスは奥へと進行してゆく。
 「あぐあ・・・ああ・・・い・・だい・・・ああっ・・・」
 激痛に襲われレオナは涙を流す。その涙は激痛によるものなのか、処女を奪われた悲しみによるものなのかは分からない。ただとめどなく涙が溢れてくる。そんなレオナに遠慮することなくエリウスは抽送運動を始める。はじめはゆっくりと、徐々に早く、強くしてゆく。
 「うああ・・・いぐっ・・・ああああんっ・・・」
 痛みしかなかった動きが徐々に快感を伴い始める。それの合わせてレオナの口から喘ぎ声が漏れ始める。蜜も溢れ抽送運動を助ける。じゅぶじゅぶという水音、腰と腰のぶつかり合う音、そしてレオナの喘ぎ声。その三つが混ざり合い、部屋を満たしてゆく。

 「すごい・・・締まりだ・・・」
 エリウスは眉をしかめながら発射をこらえる。レオナの膣はギリギリとエリウスのペニスを締め上げてくる。襞が絡みつき、エリウスを高みへと押し上げてゆく。そんなレオナのほうも限界が近づいていた。さらにエリウスの腰の動きが早くなる。
 「うア・・・ああ・・・・ああああああああああっっっ!!!
 「くおっ!!」
 レオナが絶頂へと到達する。一際ペニスを締め付ける感覚。それがエリウスの発射の瞬間となった。エリウスのすべてがレオナの中に注ぎ込まれてゆく。子宮を、膣道を熱い液体が支配する。
 「あ・・・な・・・かに・・・」
 いくら性交渉に疎いレオナでもどうすれば子供が出来るかくらい心得ている。子宮を満たすこの熱い液体が子供の素であることは分かっていた。だが、子宮を満たすそれは心地よく、抗えないものだった。
 「ああ・・・・・」
 体に満ちる快感に、レオナはそのまま意識を失う。ペニスが引き抜かれたそこからは、白い粘液が大量にあふれ出してくる。そしてそれは白いだけではなく、赤いものも混ざっていた。
 「ふうう・・・さすがは”祖の一人”といったところか・・・」
 思わぬ快感にエリウスは心地よい倦怠感を味わっていた。この快感を味わえるならば、他の目的があるとはいえ、彼女を奴隷とした価値があるというものだ。
 「”我は混沌より生まれし者。祖は何ぞ・・・”」
 エリウスは短く呪文を唱える。それに答えるかのようにレオナの首輪が赤く光る。その一箇所に赤い宝石が作り出される。その中には剣の紋章が映し出されていた。
 「さすが姫将軍。やはり”剣の巫女姫”でしたか・・・」
 その紋章を見たエリウスは愉快そうに笑みを浮べる。目覚めたときレオナもそれを目にすることになるだろう。だが彼女にはそれがなんなのか分からないだろう。今はそれでいいのだ。長く続く道を今歩み始めたばかりなのだ。
 「まずは・・・ひとつ・・・」
 眠るレオナの髪を撫でながらエリウスはそう呟く。その顔は悲しくも決意に満ちたものだった。
 
 戦いの歴史は終わる。多くの悲劇を残して。そしてこれはその序章に過ぎないのだった。


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