序ノ章
今、この“日ノ本”の国は危機的状況に陥っている。
それは“カバネ”と呼ばれる吸血怪物に覆い尽くされていること。その“カバネ”というのは心臓が“心臓被膜”と呼ばれる強固な金属被膜に守られた不死の怪物。だから、通常の銃や刀ではカバネの心臓被膜を破ることはできないため、私たちには殆んど戦う術がない。しかも、このカバネに噛まれると、カバネのウイルスが全身に巡り、噛まれた人間はカバネに変身し、カバネはこの国の中でどんどん増殖している…。
そんな中、人々は“駅(えき)”と呼ばれる堅牢な柵に包まれた砦の中でカバネの侵入を防ぎなんとか暮らしている。
そして、駅間の交通としては“駿城(はやじろ)”と呼ばれる装甲蒸気機関車で往来している。
それが、今の“日の本”と云う国の現状。
私鰍(かじか)は、そんな中、時の幕府の老中をも務める一族を親戚に持った四方川家が治める顕金(あらがね)駅で蒸気鍛冶をしていた。蒸気鍛冶とは、駿城を筆頭に、蒸気機関で動くものを全て修理調整するお仕事で、私は友達の逞生(たくみ)くんや生駒(いこま)くん達とともに大変ながらも楽しい生活送っていたのだけれど…。
あの日…。
顕金駅に、カバネに覆いつくされた駿城“扶桑城(ふそうじょう)”が突っ込んだ事件により、顕金駅はカバネに侵入されてしまった…。
廃駅となった顕金駅から、私たち生き残った者たちは“甲鉄城”という駿城で脱出。そして幕府将軍家のある幕府最大の要害“金剛郭(こんごうかく)”に向け、長くてつらい旅がはじまった。
甲鉄城を率いるのは若干17歳の四方川家惣領、菖蒲(あやめ)様。そして、彼女を助ける二人の“カバネリ”も乗車していた。
“カバネリ”とはカバネの強靭な身体能力をもちつつ人間の心を失わない、人であって人にあらず、カバネにあってカバネにあらずという存在らしい。
そう、驚いたのはあの生駒くんが顕金駅でのカバネの襲撃の際にカバネリになったこと。周りの人たちはそんな生駒くんをカバネと同一視し、甲鉄城から追い出そうとしたけれど、私は友達をそんな風に思えることが出来なかった。
そして、もう一人のカバネリである女の子無名(むめい)ちゃんと生駒くんの活躍で、私たち甲鉄城の乗員たちはカバネの襲撃に勝ち、みんなも二人の存在を認めてくれるようになった。カバネリはカバネ同様、人の血が食事になってしまうのだけれど、菖蒲様自ら二人に血を与えることで、みんなも二人を認めざろう得なくなった。血の提供は、私もしている。だって、友達の生駒くんはもとより、一寸つかみどころのない娘だけれど可愛くて強い無名ちゃんは、カバネリであっても私にとって大切な人になっていたから。
でも、金剛郭に向かう途中、将軍の命を秘かに狙っている将軍の実子である美馬(びば)さんの率いる“狩方衆(かりかたしゅう)”の駿城“克城(こくじょう)”に私たちは囚われてしまう。
理由は分からないんだけれど、克城には無数のカバネが囚われているらしい。そしてそのカバネを生かすために囚われの身となった私たち甲鉄城の乗組員は血を提供することを求められていた。本当に貧血になりそうになるまで、大量の血を取られる私たちは不満を溜め込んでいた。
生駒くんは囚われの甲鉄城を解放するため、何らかの計画を立てているみたいなんだけど、どうなるのかはわからない。
でも、私が不安なのは無名ちゃん・・・。あの可愛い無名ちゃんが“兄様”と呼び慕っていた人が美馬さんだったとは。無名ちゃん、きっと美馬さんと甲鉄城みんなの狭間で苦しんでいるのではないかと…。
ああ・・・、私たちはどうなるのだろうか・・・。
克城と甲鉄城は金剛郭に向かって走っていく。
☆人物紹介
〇無名
高い身体能力と戦闘技術を兼ね備えるカバネリの少女。「兄様」と呼び慕う美馬の命により金剛郭に向かう途中、顕金駅住民の脱出行を援護したことがきっかけとなり、生駒達と行動を共にし、甲鉄城をカバネから守る役割を担う事となる。天真爛漫な少女。
〇菖蒲
顕金駅を治める四方川家惣領(長女)。甲鉄城のリーダー。誠実で責任感が強いが、経験や指導力が不足している。
〇鰍
優しく気配りに長けている、炊事や子守を買って出る家庭的な少女。その一方で、強気な一面もある。
〇生駒
甲鉄城に乗り込んだカバネリ。元は顕金駅の蒸気鍛冶。顕金駅がカバネに襲われた際にカバネリになる。カバネリ同士である無名に死んだ妹の影を見ている。「甲鉄城のカバネリ」の主人公。
〇逞生
生駒と鰍の親友。
〇美馬
将軍の息子。過去にカバネの大群の中に置き去られたことがあり、父である将軍を憎んでいる。カバネを追討する「狩方衆(かりかたしゅう)」のリーダー。無名に「兄様」と慕われているが、その無名をカバネリにした張本人でもある。
◎用語説明
★ カバネ
不死の怪物。生前よりも身体能力が強化されているゾンビのような存在。人間に対し吸血行動を取り、一定時間噛み付けば相手が絶命していなくても次の標的に向かう。身体に付けられた傷はすぐに塞がり、頭部が破壊されても活動を続ける。倒すには核となる部分の「心臓被膜」を破壊する必要があり、それを破壊しない限りは人間の血を求めて生き続ける。刀や通常の銃弾では貫通困難であり、破壊には高度な技術が求められる。カバネに傷を負わされた場合、大半の人間は出血多量で一時的に死亡するが、一定時間が経つと心臓が発光しカバネとして蘇る。また、死亡しなかった人間でも3日程度の潜伏期間を経過した後に凝死を経てカバネとなる。
★ カバネリ
人間でもカバネでもない存在。カバネの身体能力と人の心を持ち、容姿は人間と変わらないが、心臓部に心臓被膜が出来ている。空腹になるとカバネ同様人間の血を必要とする。だがいずれはカバネと化すとされると云われている。
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