エピローグ 〜奈落の誤算とかごめの決意〜



日暮かごめは、一人暗闇の中に立っていた。

「ここは、どこ?」

かごめは周囲を見回してみる。しかし、辺り一面真っ暗であり、何も見る事は出来なかった。

「ママー!じいちゃーん!!草太―!みんなどこにいるのー!!」

かごめは不安に駆られ、叫んでみる。しかしその声はただこだまするだけで、返事は聞こえてこない。全くの無音状態であった。

この世界に自分以外の誰もいないのでは、というとてつもない恐怖がかごめの中に湧き上がってきた。かごめは恐怖を払いながら、愛しい家族の名前を呼び続ける。

「ねえ!誰もいないのー!!お願い!誰か応えてー!!」

かごめは暗闇の中を走り出す。

「誰かー、誰かいないのー!!法師さまー!珊瑚ちゃーん!!七宝ちゃーん!」

かごめは戦国時代に残してきた仲間たちの名前も呼びつつ走り続けた。

(誰か、本当に誰もいないの!?)

「犬夜叉――!!!」

かごめは一番会いたい、一番愛しい人の名前を呼ぶ。

と、前方に人影が見えてくる。

(あっ!犬夜叉?)

かごめの中に歓喜の念が湧き起こってきた。

「犬夜叉!犬夜叉――!!」

かごめは叫びながらその人影に向かって走っていった。

その声が聞こえたのか、その男がくるっとかごめの方を向き直る。かごめの足がビクッとして立ち止まる。

(い、犬夜叉じゃない!)

振り返ったその男の顔、醜く歪んだ笑いをする男、そうあの時の野盗の頭目の顔だった。

頭目が下卑た笑みをその顔に浮かべる。かごめの身体を戦慄が駆け抜ける。気付くとその頭目の周りには複数人の彼の手下たちも立っていた。

「きゃあああああ!!」

かごめは悲鳴を上げる。とっさに逃げなくてはと考えるが、その身体は恐怖に震え動かすことが出来なかった。

野盗たちが、ゆっくりかごめに近づいてくる。かごめの足は小刻みに震えていた。

(こ・・・来ないで・・・いやっ!)

かごめは立っていることも出来なくなり、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまう。

そんな風に恐怖に震えるかごめの様子に興奮したのか、野盗たちは卑しい笑い声をあげる。

野盗たちのいやらしい視線が、かごめの身体に突き刺さってくる。かごめはそれを物質的な痛みを伴なって感じ取っていた。

(た・・・助けて・・・誰か・・・・。)

その瞬間、かごめの脳裏にいつも自分を必ず助けてくれる頼もしい、そして自分にとって最も愛しい男の姿が写った。

「犬夜叉ああああぁぁぁぁぁっ!!」

かごめはその男に助けを求めた。













はっとして、かごめは目を覚ます。

自分の部屋のベッドの上であった。夢だった。

全身が冷や汗でじっとりと濡れ、身体も悪夢の中の恐怖のためにまだ震えていた。

受験勉強に疲れ、ちょっと仮眠を取ろうとベッドに横になっていたのを、かごめは思い出していた。深く寝るつもりはなかったので、パジャマ姿ではなく、トレーナーにスカート姿といった部屋着のままであった。かごめは震えがおさまると、身体を起こし、そして窓の方を見た。













現代。

か ごめが戦国時代から戻ってきてから、すでに一月近くが過ぎていた。しばらくはショックが大きく、部屋に籠り塞ぎがちだったかごめも、母親の優しい世話もあり少し回復の兆しが出てきていた。また、その間母親に付き添われて医者に診てもらっていたが、特に妊娠の兆候が現れなかったことも、かごめの回復の一因になってはいた。そして今は、何とか学校にも通えるまでになっていた。

「はあ・・・」

かごめは窓の外を見つつため息をつく。外はいつの間にか夕暮れになっていた。

「思い出しちゃったな。」

犬夜叉の一寸ひねた様な仕草が思い出される。

「犬夜叉・・・。」

かごめの心の中に、彼女が一番愛おしく思っている少年、犬夜叉の面影が甦ってきた。

「でも・・・私は、あの時・・・。」

かごめの中にあの忌まわしき記憶も戻ってくる。

その中では、何人もの野盗の男たちがかごめの身体を貫いていた。そして貫かれるたびに、かごめはそれまで感じたことのないような激しい快美な感覚に包まれていた。

(ああ・・・いい・・もっと・もっと・・激しく・・・激しく突いて!!)

自分がその快楽の波に流され恥ずかしい嬌声を上げ続けたことが思い起こされてきた。

かごめは、その声の記憶から逃げ出したく、両手でその耳を塞ぐ。しかし記憶の声は耳を塞いだとしても、聞こえなくなるものではなかった。

(いやっ!あたしは!違う!!)

しかし否定するかごめの心に反して、身体はあの時の快美な感覚の記憶が戻ってくる。身体の奥底が熱くなってきていた。

(やだ・・・いやっ・・・なんで、また。なんで、嫌なのに、また身体が熱くなってくるの!!)

記憶の中で、かごめの女性の中に男性が入って来た時の感触が、膣の中の異物感の感覚が甦ってくる。

(おかしいわ・・・もう四魂のかけらはとれているのに・・・何で、何で身体が熱くなるの・・・また!)

かごめの女陰に仕込まれていた四魂のかけらは、戦国時代から戻ってくる際のどさくさの中でいつの間にか身体からはずれていた。確かに奈落の画策と考えれば、それを仕込ませたまま彼女を現代に戻したりはしないはずであった。

「あっ・・・。」

かごめの身体の中で男が動いた時に感じたあの快美な感覚をもう一度味わいたいと、無意識にかごめは考えていた。かごめは自分の右手をスカートの中に這わせていく。

「ああっ!」

右手の指が下着の上から自分の女性に触れた瞬間、気持ちの良い電流がかごめの身体の中を駆け抜けていく。かごめは思わず声を漏らしてしまう。

(やだ・・・濡れている・・・。)

かごめの身体は、その女性の部分をもっと刺激したく求めていた。そして、かごめはその湧き上がってくる欲望に逆らう術を知らなかった。

彼女は右手の指を下着の中に侵入させ、膣口を撫で上げる。

「あっ!!はあああ!!」

心地良い、しかし彼女にとり激し過ぎる刺激が身体中を駆け巡っていく。

(ああ・・・だめっ・・・こんなの、いやっ!!)

かごめはそう思いつつも指で膣口を掻き回すことをやめられない。

「あっ!はああ!ひいっ!ひゃあああ!!」

かごめの膣はその指の動きに刺激され、奥からどんどん愛液を湧きだたせていた。それがまた彼女に深い快感を与えていた。

(いやっ!こんなのっ!だめよっ!こんなことしちゃだめっ!!)

かごめはベッドの上で悶えながら、その行為をやめなくてはと思うものの、一度火のついてしまった身体を止める事は出来なかった。

かごめは自分のそこを撫で上げていくうちに、今度は胸の辺りに物凄くもどかしさを感じ始めていた。かごめは自分の左手をその欲望のままトレーナーの中に侵入させ、ブラジャーの上から自分の乳房を揉み解し始めた。

「あああっ!いいいっ!!」

胸からも快美な刺激が走り始める。

「だめっ!やめなきゃ・・・!んんんっ!!」

かごめの心に反して、彼女の左手はトレーナーの中でブラジャーをたくし上げ、直に乳房を揉み始める。そして敏感な乳首をつまみあげた。

「はああっ!!ひいいいいいいいいい!!」

乳房を揉んだ時以上の強い刺激がかごめを襲う。もう、完全にかごめは自分の手を止める事は出来なくなっていた。

身体の奥底が溶ける様な感覚が湧き起こり、そこに何かを埋め込みたい強烈な欲望が湧きあがってきていた。

(欲しい・・・この中に・・・何か・・入れて欲しい・・・。)

かごめは野盗の肉棒が自分の中に入って動いていたときのことを思い出す。

(いやっ!あんな・・・あんな男たちのものなんかは・・・もういやっ!!)

かごめの身体は欲望を欲しがっているものの、彼女の心は快楽に流されつつも屈辱を与えられた男たちに再度抱かれることは恐怖していた。あの時の恐怖、屈辱感、絶望感も心の中では甦っている。

(もう、あんなこと、したくない!いやよ!怖い!男に抱かれるなんて!)

と思いつつも、彼女の女性は滾々と愛液を湧き出させ、その奥に何かが入ってくることを求めていた。

(ああ・・・でも・・でも、奥がもどかしい!!奥を、奥を突いて欲しい!!)

かごめは右の指を自分の中に侵入させる。

「あっ!はあああああああ!!」

凄まじい快楽の波がかごめの身体を包んだ。

(ああ!いい!もっと・・・奥・・・欲しい!)

かごめはその波に従い自分の指を抜き差ししながら、自分の一番奥まで指を入れ込もうとする。

しかし、彼女の指の長さでは、彼女の一番奥、子宮口まで刺激する事は出来なかった。

(ああ!もっと奥!奥なの!!奥まで欲しいのに!!)

かごめは自分の指を激しく抜き差しする。

(あああ!違う!違うの!こんなのじゃなくて!もっと!もっと太くて強いもので!この奥を!この奥を突いて欲しいの!!)

「ああっ!犬夜叉ああ!!」

かごめは無意識にそう呟いた瞬間、自分が求めているものを正確に理解していた。

(ああ、あたしは・・・犬夜叉の、犬夜叉のモノが欲しいんだ・・・!)

かごめの中で、自分が犬夜叉に抱かれるイメージが、湧き上がってきた。

その瞬間、身体中がカッと熱くなり、さらなる愛液が溢れ、快楽の波が倍加していった。

「ああっ!欲しいっ!犬夜叉!!犬夜叉あああ!!」

彼女は無意識に愛しい男の名を呼んでいた。

彼女の右手の指の動きがさらに激しくなる。また、胸を揉む左手の動きも、強く激しくなっていた。

「ああ!犬夜叉!もっと、もっと強く!!」

かごめは自分が犬夜叉に抱かれていることを思いつつ、激しく身体を動かしていた。

(違う!こんな指でなくて!犬夜叉の、犬夜叉の熱いものでもっと奥を突いて欲しいの!)

かごめはそのもどかしさを払拭したく、指の動きをさらに激しくしていった。

「犬夜叉ああ!犬夜叉あああ!!来て!来て来て来てっ!!」

かごめの膣が過度の刺激に耐えかねたかのように、きゅうっと縮み上がり、痙攣する。

「ああ!はあああああああああああ!!」

かごめの身体も何かが駆け上がったかのように痙攣をしていく。

 
「ひいいいいいいい!!」

激しい快感に包まれ身体を硬直させたのち、かごめは一気に脱力していった。

「はあはあはあ・・・。」

かごめは息も荒く、そのままベッドの上に仰向けに倒れ込んでいた。













「かごめ。」

どれくらい放心していただろうか。

かごめは自分を呼ぶ声で意識を取り戻す。顔を上げると、部屋の入口にかごめの母親が立っていた。

「ママ・・・。」

しばらく、呆然と母親の顔を見ていたが、意識が戻るに連れかごめは先程の醜態を母親に見られたかもしれないという恥ずかしさに襲われた。顔が羞恥で真っ赤になる。

しかし、母親は娘のそんな様子に特に気をかけずに彼女に声をかける。

「かごめ、犬夜叉くんのことが好きなんでしょ?」

「え!?」

かごめは心の中を見透かされた思いがし、恥ずかしさで顔を背ける。

「そうなんでしょ?」

母親は優しくかごめに言う。

かごめの心の中に犬夜叉の愛しい姿が再び甦ってくる。愛しいその姿をしっかり抱いていたいとかごめは強く思った。

(でも・・・でも、あたしは、もう犬夜叉には・・・犬夜叉には会えない・・・。)

涙が溢れてくる。

かごめの中で感情が爆発した。

「ママー!!」

かごめはその感情のおもむくまま母親の胸の中に飛び込んでいく。

「かごめ・・・。」

母親はただ優しく彼女のことを抱いてあげる。

「だめなのよぉぉぉ・・・もう、犬夜叉には会えないのぉぉぉ・・・!!」

かごめは母の胸の中でただ泣き続ける。

「あたしは、あたしは裏切ったのよ!犬夜叉を裏切ったの!汚い女なの!!」

「そんなこと、ないわよ。かごめ。」

母親は優しくかごめの頭を撫でながら、彼女の心を慰めようとする。

「ち がうの!あたし、あたし!あの時、野盗に抱かれたの!汚されちゃったの!嫌なのに・・嫌なのに、抱かれて・・・・・・抱かれて・・あたし・あたし・・気持ち良く感じたのよ!!犬夜叉の前で、別の男に抱かれて、嫌なのに、嫌なのに、気持ち良くて、気持ち良くて、声をあげてたのよ!!」

かごめは大声をあげて母の胸の中で泣き伏した。

「あたしは・・あたしは・・・汚い・・汚い女なのよ!好きでもない男たちに抱かれて喜ぶような、嫌な、汚い、汚れた女なのよぉぉぉぉ!!」

かごめは感情がおもむくまま、母の胸の中で泣き続ける。

「もう!もう、犬夜叉には会えない・・・犬夜叉を裏切ったのよ!会っちゃいけないのよ!!」

「ちがうわよ、かごめ。あなたは、ちっとも汚れてなんかないわ。」

かごめが、顔を上げて、母親の顔を見る。母親は優しい目でかごめのことを見ている。

「だって・・だって・・・あたし、あさましく男の人を欲しがっていたのよ!しかも・・しかも、大好きな犬夜叉の前で!!」

かごめは、自分がいかに汚れた女であるかを主張せずにはいられない感情に囚われていた。

「本当に・・・汚い・・・汚れた、いやらしい女なのよぉぉぉ・・・・・うううっ。」

最後の方はもう言葉にならなかった。

「かごめ、“女の性(さが)”に目覚めちゃったのね。可哀そうに・・・。」

母親は変わらず優しい口調で話し続けた。

「ママ・・・ママ・・・。」

かごめはひたすら泣くことしか出来ない。

「聞いて、かごめ。あなたは汚れた女でもいやらしい女でも何でもないわ。あなたはこれまで知らなかった“女の性”を知ってしまっただけなの。」

かごめが再び顔を上げ、母の顔を見る。その顔は涙で汚れていた。

「かごめ、“女”って本能的に何を求めているかわかる?」

かごめは母親の言っている意味がよく理解できなかった。

彼女はただ泣きながら首を振る。

「それはね、子供を身籠ることなの。」

かごめは「え?」という顔で母親の顔をよく見た。母親は優しく笑いかけるが、その後物凄く真剣な顔になる。

「だから、女の身体は適齢期になると、自分が思っている事とは全く関係なく、いつも男を受け入れたがっているものなの。だから、男の人と交わると女の身体はどうしても気持ち良く感じてしまうの、それが女の哀しい性なのよ。」

かごめは母親の話を不思議そうに聞く。

「でも・・・あたし、あの時・・・・。」

「かごめ、あなたは少しはやく・・・その哀しい性の快感を知ってしまっただけなの。」

かごめはあの時感じてしまっていた快感を思い出し、その時の行為に恐怖する。

「そう・なの・・?・・・でも、あたし・・あの時、あたしの身体は・・・。あたしは、あの男が云った様に・・・い・・淫乱な・・・女じゃないの?」

かごめの身体が恐怖のため小刻みに震えて来る。

そんなかごめを彼女の母親は優しく抱きしめた。

「違うのよ、かごめ。あなたは別におかしくないの。女の身体は哀しいけれど、そういう風に反応してしまうものなのよ。あなたはそれを一寸早く知ってしまっただけなの。」

「うん・・・有難う・・・ママ・・・ママ・・・。」

かごめは再び溢れだしてきた涙を隠すように母親の胸にしがみつく。

「かごめ、あなた本当は犬夜叉くんに会いたいんでしょう?」

かごめは母親の胸の中で泣きながらコクコクっと頷く。

「だったら、戻って、彼に優しく抱いてもらいなさい。」

母親は静かに、しかし中学生の娘の母親とは思えないような発言をする。

「え?」

かごめは母親の思いもかけない大胆な発言の意味が理解できず、顔を上げた。

母親はかごめの方を向き、微笑ながら話を続けた。

「母親らしくないと思っているんでしょ?本当はこんなこと中学生のあなたに言うことじゃないとは思うわよ、ママも。でもね、かごめは女の哀しい快楽を知ってしまったから。」

かごめはまだ自分の母親のいう事がよくわからない。

「かごめは自分が見知らぬ男の人に抱かれて、感じてしまったことが許せないんでしょ?だから自分が汚れた女と思ってしまうのでしょ?」

かごめはその言葉に素直に頷く。

「女は男の人に抱かれると、その男の人のことをどう思っていようと関係なく感じてしまうの。さっきも言った様に。でも、あなたが考えているのと少し違うのよ。それはね、好きな人に、本当に好きな人に抱かれると、女はもっともっと感じるものなの。」

かごめは(どういう事?)といいたそうな顔で母親の顔を覗き込む。

「つまり、女は本当に好きな人の腕の中に抱かれたときに本当の幸せを感じ取れるのよ。それは、あなたが感じた快感とは全く異質なものなの。」

「でも・・でも、あたしは男たちに抱かれて・・・。」

「だから、大好きな犬夜叉くんに抱かれなさい。その時、本当の愛の喜びがわかるわ。」

かごめの顔が少し明るくなってくる。

しかし、次の瞬間、男たちに抱かれていた姿を見たときの犬夜叉の顔を思い出してしまう。怒りと悲しみが混じったような顔をしていた。

「でも・・でも、犬夜叉はあたしを許してくれないかもしれない・・・。」

かごめの身体の中を再び深い悲しみが包んでいった。

「そうね。あのくらいの男の子って潔癖で偏狭なところがあるから・・・そうかもしれないわね。」

母親は言う。

かごめが不安そうな顔で母親を見上げる。母親はそんなかごめに微笑を返す。

「でも、あなたは女なの。女は女の筋を通せばよいのよ。」

かごめはまだ理解できない。

「だから、かごめはかごめの気持ちを素直に彼にぶつければいいの。きっと犬夜叉くんはあなたの気持ちをわかってくれるわ。」

母親はにっこり笑っていた。母の手がかごめの頭を優しく撫でる。

かごめは心の中がスーッとすっきりしていくのが感じ取れた。

「うん!わかった!ありがとう、ありがとうママ!!」

かごめは母親に抱きついた。













奈落は暗い城の中にいた。

彼の人間だった時の悪しき“鬼蜘蛛”の心が画策したかごめの凌辱劇の結果、かごめが姿を消し、そして四魂のかけらもほとんど手に入れた。その結果に奈落は満足していた。奈落はその顔の上に笑みを浮かべながら、次の手を考えていた。かごめを失い絶望の底にいる犬夜叉を、どのように追い込むかを考えていた。

しかし奈落は、というより鬼蜘蛛の心は、所詮あさましき男の心でしかなかった。邪悪な男の心は女の汚し方は熟知していたものの、真の女の心の強さを知らなかった。

女が本気で人を愛しく思った時の心の強さを知らなかった。

女なんて所詮穴が付いているだけの存在としか考えていなかった鬼蜘蛛にとって、それは理解の範疇を超えたものであったのだ。

そこが、奈落の誤算であった。

今、犬夜叉を大事に思うかごめの強い心が彼女を立ち直らさせ、そしてさらに強い存在となり、彼の前に現れようとしていた。













かごめは、風呂に入り汗で汚れた身体を洗い、セーラー服を着た。

(犬夜叉・・・ごめんね。でも、これから戻るから・・・。)

かごめはリュックを背負い、そして祠にある骨喰いの井戸に向かう。

(許してくれないかも・・・許してくれないかもしれない・・・・・でも、いいの。あたしは、あたしは犬夜叉の側にいたいの!!)

かごめは井戸の中に飛び込む。

井戸の向こうは犬夜叉たちがいる戦国時代である。

(犬夜叉・・・待ってて!!)















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