【teacup】



「おかわりはいかが?」
「はっ、はいっ、お願いします」
 わたしは緊張していた。
 その部屋の調度品の豪華さにも圧倒されていたけど、なによりもわたしの緊張を高めているのは学校の先輩である遠野先輩のせいだ。
 遠野先輩がわざわざわたしを屋敷に招いたのは、なにか重大な用件があるからに違いないのだから。
 遠野先輩は『今度の休みに暇があったら、私の家に遊びに来ない?』なんてわたしに選択権があるように誘ってきたけれど、それはわたしにとって強制命令だった。
 暇があろうがなかろうが、例え親が危篤であろうともわたしには『是非、お伺いします』と、答えるしかなかった。
 それだから、わたしは緊張のあまり喉がカラカラに乾いて、出された紅茶をすでに2杯もおかわりしていた。
 今はたわいない世間話をしていたけど、いつ本題を切り出されるか、わたしは内心ビクビクしていた。
 まさかあのことがバレたとは思えないけど━━━━━

 あの一夜は夢のようなひとときだったけど、そのためにわたしは事前に色々と準備した。
 遠野先輩が居ない時間を見計らって志貴さんと連絡を取り、お金を持っていない志貴さんのために、ホテルの部屋もわたしがとった。
 全てわたしがお膳立てしたのだ。
 我ながら大胆なことをしたものだと思ったけども、それだけにあの夜は一生忘れられないものとなったんだ。

「ところで、この前の土曜日はどこに行っていたのかしら?」
「……あの、その……」
 冷や汗が出てきた。

「実はね、遠野グルーブの集まりがあってホテルにいたのだけど、あなたによく似た子の姿を見かけたのよ」
 そんな━━━━━
 バレてる!?

「801号室」
 もうダメだった。
 遠野先輩は全てを知っている。
 本当はわたしには最初から判っていたんだ。
 なぜ、この屋敷に呼ばれたのか。

「夜景が綺麗だったでしょう?
 会食は退屈だったけど、窓から見える夜景だけは綺麗だったわ」
「先輩、ごめんなさい!」
「判らないわ、いったい何を謝るの?」
「それは、その、あの…………」
 わたしはパニックに陥って、まるで要領を得ないことしか言えない。

「瀬尾がホテルに居ただけで、何を謝らなければいけないのかしら?」
「志貴さんと一緒にいたことです」
「あら、兄さんも一緒にいたんですか?」
 迂闊だった。
 遠野先輩は志貴さんのことは、なにも触れていなかったのに自分から一緒にいたことを喋ってしまった。

「どちらから誘ったのかしら?」
「そ、それは…………わたしの方からです」
「そう、あなたから誘ったの、なかなか大胆なことをするのね。
 でも、兄さんと一緒にいただけでは、謝る理由にはならないわよ。
 そういえば、兄さんはその日、朝まで帰ってこなかったわね。
 そのことを言っているのかしら?」
「……は、はい、そうです……」
 遠野先輩は意地が悪かった。
 もう、全て判っているはずなのに、わたしの口から白状させるつもりなんだ。

「けど、瀬尾が兄さんを引き留めたのだとしても、何の連絡もなく外泊したのは、兄さんの責任よ。
 そのことで、瀬尾が謝る必要なんてないから安心して。
 それとも、他になにか別に理由があるのかしら?」
 遠野先輩が志貴さんに対して抱いている思いについて、わたしは薄々知っていた。
 兄妹としてでなく、ひとりの男性として見ているということに。
 そして、それを知っていたのに、わたしは自分の思いを止めることをしなかったんだ。
 今までにも遠回しに手を引くように、警告されていたのに。
 だから、こんな日が来ることをおぼろげに予想していたはずなのに、あえて深く考えようとしてなかった。

「それで、ホテルの部屋で、朝までなにをしていたのかしら?」
 もう、隠し通すことは無理そうだった。
 正直に話しても、たぶん許してくれるとは思えなかったけど、それでもなにか言わないと━━━━━

「…………あの、その、志貴さんに抱かれて………」
「そう、抱かれたの。
 でも、私はもっと具体的なことが聞きたいわ。
 話してくれるわよね?」
「……………は………い………」
 遠野先輩はにこやかに、わたしに問いかけていたけど、眼は凍りついたままわたしを見つめている。

「まず、最初は?」
「………まず、部屋に入ると、志貴さんと、キ、キスを……」
「瀬尾がキスするのはその時が初めて?」
「………は、い………」
「気持ち良かった?」
「……気持ち、良かったです……」

「そのあとは?」
「……ああ、はい………志貴さんに服を脱がしてもらいました……」
「それで?」
「……それで、その、服を脱いで……裸になって………シャワーを浴びると……ベットに……」
「裸で?」
「……いえ、バスローブを着て……」
「下着は?」
「……下着は……着けていませんでした……」
「そう、それから?」
「それから……バスローブを脱ぐと……志貴さんの手がわたしの胸に……
 …………やさしく、わたしの胸を揉んで…………」
「続けて」
「……乳首にキ、キスを……」
「どんな感じだった?」
「………電気が走るように………痺れて………」
「ふふ、瀬尾ってば、敏感なのね」

「それで、そのあとは?」
「……そのあと…………太股を掴むと……わたしのアソコが丸見えになるように、股を大きく広げて…………アソコを広げると……舌で舐めて……」
「アソコって何処のことかしら?」
「……わたしの膣に…………舌を…………入れて……犬みたいに………音を立てながら舐めて………」
「そう、瀬尾の恥ずかしい孔に兄さんの舌が入っていったの。
 でも、それで終わりではないでしょう?
 肝心な部分も話しなさい」
「…………そして、そのあと、志貴さんのアレが、わたしの中に……入って…………」
「兄さんと一つになったのね?」
「…………はい…………最初はゆっくり…………しだいに激しく腰を打ちつけてきて…………」

「瀬尾はその夜が初めてだったの?
 つまり、処女だったのかしら?」
「…………は…………はい…………それが初めてでした…………」
「気持ちよかった?」
「……痛かったですけど、ひとつになれたと思うと嬉しかったです…………」
「そう、初めてを兄さんに、あげることが出来て嬉しかったのね」
「それで、何回したのかしら?
 一回だけではないでしょう。
 兄さんは何回あなたを抱いたのかしら?」
「…………………3回……です……」
「ふふ、絶倫ね、兄さんは。
 処女の子に一晩で3回もするなんて、鬼畜なんだから」
 顔を真っ赤にしながら、わたしは遠野先輩に言われるまま洗いざらい、夜にあった密事を喋ってしまった。

「………なんだか………おかしいです……」
 いくら遠野先輩だからといっても、あんな恥ずかしいことをベラベラと喋ってしまうなんて、今日のわたしはなにかが変だった。

「安心したわ、これでせっかく用意したものが無駄にならずにすんだわ」
 わたしにはそれがなんなのか、恐ろしくてとても聞く気にはなれなかった。
 過去に遠野先輩が“ナニ”かしたことで、学校を去った人がいるという噂は聞いたことがあった。
 でも、わたしはそれを本気で信じていなかった。
 今、この場にいてもなにかの悪い冗談としか思えなかったのだ。

 逃げなくては━━━━━

「…………あの、その、遠野先輩。
 わたし、急用を思い出したのでこれで失礼します」
 すでに手遅れになっているというのに、わたしはこの場から逃げようとソファーから立ち上がろうとした。
 でも、視界はグラグラと揺れて、意識が朦朧とする。

「あら、どうしたの瀬尾?」
「すいません先輩、なんだか急に眠く………」
「ああ、そのことね、大丈夫よ。
 紅茶に自白剤と睡眠薬が入っていただけだから、安心なさい」
 ああ、なるほど。
 それで、ようやく理解出来た。
 遠野先輩に問われたことに、何でも答えてしまったわけが━━━━━
 わたしは意志の力を振り絞って耐えようとしたけど、どうにもならずソファーにがっくりと倒れ込んでしまった。


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