【prison】
「………………ん……」
わたしが次に目を覚ますと、そこは鉄の檻の中だった。
夢ならば良かったのに。
すると、遠くから微かに足音が聞こえてくる。
錆びた音をたてて鉄の扉が開くと、遠野先輩が部屋に入って来た。
そしてもう一人、遠野先輩の後から、割烹着の女中さんが入ってくる。
「瀬尾、一体これは、どうしたというの!?」
入るとすぐに遠野先輩は、わたしの姿を見て驚いていていた。
なんで驚いているのだろう?
「遠野先輩の命令通りにしたのに、なんで…………」
「ははあ、これはワンワンパニックですね」
割烹着の女中さんはなにが楽しいのか嬉しそうに、全く見当はずれな返答をしていた。
「琥珀、私が聞きたいのは、何だって瀬尾がこんなことをしたのかってことよ」
「実はですね〜、睡眠薬と自白剤だけでは面白くないので、隠し味として幻覚剤を入れてみたんです」
「全く余計なことをして、で、そうすると?」
「多分、瀬尾様は秋葉様の幻覚を見て、恐慌状態に陥って『なんでもします、ご主人様』とか言いながら、ここの道具を自分で使ったのではないかと」
わたしにも、ようやくなにが起こったのか判ってきた。
「なるほど、すばらしい推理ね。
確かにこんな暗い部屋に入れられたあげく、妖しい薬を盛られたら、気の小さい瀬尾なら恐怖でなんでもしてしまいそうね」
「あはは〜、幻覚剤の効果覿面(てきめん)ってことですね」
わたしに居るはずのない遠野先輩の姿が見えたのは、あの割烹着の女中さんが幻覚作用のある薬を盛っていたから。
だから遠野先輩の幻覚を見ていただけで、ほんとは誰も居ない部屋の中で勝手に怯えて、勝手に自分で自分の身体を改造してしまったんだ。
なんてマヌケなんだろう。
でも、おかしい。
聞こえた台詞は多分未来視によるもの。
わたしが自分で行ってしまったということは、遠野先輩に命令されて行うという未来視は外れたということなる。
「いやぁ〜、それにしても秋葉様の幻覚で、ここまで恐れられているとは流石ですね〜」
「でも、これではせっかく琥珀が用意してくれたのに、愉しみがなくなってしまったわね」
「そうですね、ご自分で調教出来なかったのは残念でしたね」
「予備はあるかしら?」
「もちろん、破損したり紛失したときのために、用意してますよ」
「ところで琥珀、主人の言いつけを守れないダメな雌犬は、ちゃんと躾けた方がいいと思うのだけど、どうかしら?」
「いえいえ、その雌犬さんは主人の命令に、ちょっとおちゃめなアレンジを加えただけですよ」
遠野先輩は微笑んでいるのに、眼だけ笑っていない。
「やっぱり、あなたもここの道具を使って躾けた方がいいと思うわ」
「あっ、実は火急的緊急な用事を思い出しましたので、これで失礼しますっ」
そう言うと、脱兎のごとく逃げようとする割烹着の女中さん。
「はぅっ!」
でも、首筋に手刀を叩き込まれて、あっさりと気絶してしまった。
遠野先輩にずるずると、引きずられてゆく。
ああ、なるほど。
これで判った。
遠野先輩が割烹着の女中さんに命令した台詞を、わたしは未来視したということなのか。
わたしの未来視が、外れたわけではないことに少し安心した。
それが判っても、わたしの運命は変わらないのだけど━━━━━
《END》
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