4、娼婦


 その後、サユナは奴隷としての契約書にサインをするように強要され、泣
々その紙に自分の名前を署名した。
ここミルツーク王国では奴隷制度が廃止されて久しいが、ソアラが言うに
はこの契約書は隣国のものでソアラはそこの出身であるという。その国の国
民ならば今でも奴隷を持つことができるとのことだった。
 言質だけでなく正式な契約書も書かされることで法的にも縛られ。サユナ
の絶望はより深いものになったが、先刻の責めをおもうと抵抗するわけにも
いかずソアラに従うふりをして逃げる機会を窺うしかなかった。




「おい、もう用意は終わったか?」
 外から部屋の野太い男の声が聞こえた。
「ええ、今終えたわ。」
 サユナにあてがわれた部屋から、召使いとおぼしき中年の女性がドアから
顔を出した。
「ほら、サユナ出なさい。」
女性が出たあとからサユナはおずおずと廊下に現れた。
「ほうっ・・・」
サユナを見た途端、男は感嘆の声を挙げた。
サユナは白に僅かにピンクがかった色の足先まで垂れたシースルーのドレ
スを着ていた。そして中からは、彼女の見事な肢体と白い下着が薄いドレス
の素材の為に覗いて見えた。また少女の面影を色濃く残していた容貌にも薄
く化粧をほどこしていて、大人の色香が増したようだった。
「どう、たいしたものでしょう?」
女は自分の造った芸術作品の如く誇らしげに自慢した。
「ああ、トールご苦労さん。これなら高い値がつくだろうよ。よし、じゃあ
ついてこい、主人がお待ちだ。」


地下室での出来事から二日間、サユナはあてがわれた個室に半監禁状態で
住まわされた。トールという中年の女性が身の回りの世話をしてくれたが、
サユナに対する態度は横柄で監視するかのようにじろじろとこちらを視るの
であった。
しかしそうはいっても一日中トールが周りにいるわけでもなく、この館か
ら抜け出す機会もありそうだったが、いざちょっとした隙に逃げようとした
瞬間、サユナは誰かに見張られているのではと脅迫観念に近い不安に取り憑
かれ足がすくんで逃げ出すことが出来なかった。そうこうしているうちに焦
りながらも無意にこの二日間を過ごしてしまっていた。
そして今日の夕方になってソアラから告げられたと、トールが着替えを持
ってやって来たのだった。


サユナが通された部屋にはソアラが黒い衣装に身を包み、椅子に座って待
っていた。部屋は楽屋になっているらしく両脇には様々な色彩の衣装が掛け
てあり、壁際には姿見がいくつか置いてあった。
「いらっしゃいサユナ。ふふっ、その格好似合ってるわよ。」
「・・・・・・」
無言で顔を背けるサユナ。
「あら、二日たったらもう反抗的になっちゃったの。駄目よ、せっかくこれ
からあなたのお披露目式があるんだから。」
「・・・もう帰して下さい。」
ソアラは茶色とも赤毛ともとれる髪を掻き上げながら、ため息をついた。
「まったくおとなしそうな顔をして、結構気が強いんだから。普通あそこま
でしたら少しは従順になりそうなものなのにね。」
「・・・帰して。」
顔を背けながらサユナは繰り返しつぶやいた。
「帰りたかったら、逃げればよかったじゃない。食事やトイレに立つときに
でも機会はあったでしょう?」
「それは・・・・・・」
その言葉はサユナの心に強く突き刺さった。
確かにそうなのである。機会が全くなかったわけではなかった。なのにサ
ユナは逃げ出す決心がどうしてもつかなかった。そんな行動さえ起こせなか
った自分に戸惑いを隠せなかった。どうして捕まってもいいから逃げようと
しなかったのか、サユナにもわからなかった。
「本当は奴隷としての心構えができてきたのかもね。まず許可無くご主人様
のそばから離れない、と。」
「そんなことはありません。」
悔しそうにサユナは唇を歪ませた。
「まだまだ躾が足りなそうね。まあいいわ、今日のところはこれのお世話に
なりなさい。」
仕方なさげにソアラは席を立ち、サユナに歩み寄った。その手には鈍く光
る石の姿があった。
「お披露目の打ち合わせのつもりだったんだけど、そんな態度じゃ話し合っ
ても無駄ね。あたしの台本通りにしてもらうわ。」
「ひっ、い、嫌!」
禁呪の石を見た瞬間、首輪をつけられている少女は身体を竦まし怯えた目
つきになった。
「いやなら逃げなさい。すぐ後ろにドアがあるわ。」
(に、逃げないと。)
身を翻して逃げようとしてもソアラの身体は金縛りにあったように動かな
かった。
「はい、終了。あんたやっぱりこうされたいと思ってるんじゃなくて?」
薄く笑いながらソアラはいった。
「うっ、どうして・・・」
<拒絶>の石を嵌められ、サユナは心が空虚になっていくのを感じて、そ
の場に膝をついた。
「それじゃあまず、わたしの言うことだけをきくことそれから・・・」



いくつかのテーブルの周りに十何人かの人たちが椅子に腰掛けている。
部屋は薄暗くその姿は漠然としか写っていなかった。ただその人々の視線の
先が室内に備え付けられた小さな舞台に注がれていることは、視線の熱さか
ら十分推測できた。
しばらくして、舞台の四方に立たせてあった台に置かれていたランプに灯
がつき、他の床よりも一段高い、扇形の舞台が照らし出された。

「お集まりの皆様方、お待たせ致しました。それでは本日初お目見えとなる
可愛らしい新人さんをご紹介致します。」
そして舞台の脇に控えていたソアラの明朗とした声が響き、ショーの開始
を告げた。

シンと静まりかえる部屋の中に、舞台の端にかかる黒い幕を開いて白いド
レスを着た女性が登場した。女性はゆっくりとした足取りで舞台の中央まで
進むと、テーブルの方に向かってお辞儀をした。
「初めまして。本日から当館で働かせてもらうことになりました、サユナと
申します。どうかよろしくお願い致します。」
澄んだ声を僅かに震わせながら言い終わると、顔を下げ恥ずかしそうに俯
いた。
何人かが感に堪えなく小さく声を出した。
「これは素晴らしい。」
「無理をしても来たかいがあったというものだ。」
その品のある類い希な美貌とドレスから透けて見えるすらりとした魅力的
な体つきに、皆心を奪われたようだった。そしてなんといってもサユナと名
乗ったこの清純そうな美少女が、これから行うであろうことを考えると、興
奮を押し隠すことはできなかった。
「さて、今日皆さまにお集まりいただいたのは、もうご承知かと思いますが
このサユナ嬢の今夜のお相手をお選びするためです。」
ソアラはざわめき始めた室内を見渡し、客たちのサユナに対する反応の良
さに満足した。皆、透けて見える下着を隠すでもなく、手を後ろに組んで所
在なげに立つ、黒い艶やかな長髪を持つ彼女の肢体に眼を奪われていた。

 自分の所有物を賞賛されてソアラは機嫌良く先を続けた。
「彼女はさる良家のご令嬢でして、本来ならこのような所で働くような女性
ではないのですが、彼女本人のたっての希望でこの館にやって参りました。
なんでも父親が多額の借金を背負ってしまい、もうすぐどうにもできないと
ころまで借金が膨らんできてしまいかねないそうなのです。ですから少しで
も返済の手助けが出来ればと、この館の門を叩いたそうです。」
 それを聞いているサユナは顔をしかませつつ、唇をきつく結んでいた。 
「まあということですので、まだ娼婦になることに抵抗が強いそうですが、
しかし彼女はまだ生娘にも関わらず、どうやら困った性癖を持っていること
がわかってきました。さぁ、サユナあなたのことを皆さんによくお見せしな
さい。」

サユナは小さく頷くとテーブルの方に向かって舞台の一番前を半円を描く
ように悠然とふっくらと膨らむ胸を反らして背筋を伸ばし歩いていった。
客たちはひそひそと近づく新たな娼婦を注視しながら会話を交わしていた

「処女らしいのに可哀想になあ。今夜そのみずみずしい花も刈り取られるわ
けだ。」
「何心にも無いことを。なあに私たちが良い色香を放つ花を新たに咲かせて
やればいいのさ。」
それもそうだと、男たちは酷薄そうに笑いあった。
「しかし美人ですな。こりゃあ私に初物は競り落とせそうにない。」
「あの後ろ姿をみてみろ。お尻の半分も出てるじゃないか。あんなに下着を
くい込ませて、腰が細いだけに大きく見えるな。」
「あんな首輪なんかして。誰かに飼ってもらいたいんじゃないか?」
サユナにもこんな声が聞こえたのか、頬を赤く火照らせながらまた舞台の
中央へもどっていった。
「どうでしょうか、どなたかお気づきになりましたか?」
舞台女優が戻るのを待ってからソアラがお客たちに声を掛けた。
「とても魅力的なお嬢さんだということはわかったがね。」
壮年の高価そうな服を着た男がそれに答えた。
「それはもちろん。でもそれだけではありませんよ。サユナわかるようにお
見せして。」
言われた刹那、サユナは整った眉をピクンと上げて全身を強張らせたが、
素肌を晒すためその場でシュルシュルと音をたててシースルーのドレスを身
体から脱ぎ落とした。
 黒光りする首輪と白い上下の下着だけの姿になったサユナは、再び手を後
ろに組んで下着姿の体を客達に見せた。
その下着だけのサユナの姿を見て、客席の前の方の人たちはある部分につ
いているものに気付きだした。
「お、おい。あの娘もうショーツに染みがついているぞ。」
「こりゃあ驚いた。まだ何もしていないってゆうのに。」
 自覚があったのかサユナは消え入りたげに顔を黒髪に隠して腰を後ろに引
いた。しかし股間の染みを隠そうとはぜず、両手は後ろのままだった。
「おいおい、私には見えんぞ。」
後ろのテーブルに座った男が声を張り上げた。
「ふふっ、もう一度回らせますわ。」
白い下着姿になった高貴の出らしい可愛らしい少女は、言われたとおりも
う一度テーブルの近くをぐるりと歩いていった。
「おお、本当だ。濡れとるぞ間違いなく。」
「そんなへっぴり腰じゃなくもっとシャンと歩きな。お嬢さん。」
サユナは野次られながらも腰を引いて唇を噛み締めながら舞台を廻ってい
たが、途中でソアラに呼び止められた。
「これでおわかりでしょう。彼女はこんな清純そうな顔をして、見られるだ
けでとても感じてしまうんです。視姦されたり、いたぶられたりして感じて
しまうちょっと変わった女の子です。本当はここにぴったりの身体の持ち主
かもしれません。」
足を止めたサユナは、黒いドレスを着て楽しげに笑うソアラを下着姿のま
まうらめしげに見つめていた。
「さてではこの辺りで今度は耳を楽しませてもらいましょう。皆さんお静か
に・・・・・・サユナ。」
 ソアラに促されると右手をぶるぶると小刻みに痙攣させながら、サユナは
目を強く閉じた。
 少女は震える右手をへその辺りでぎゅっと一度握ってから、小さな染みが
ついた白いパンティーの中に、もそもそと滑りこませた。
 この行為を彼女が強制されてしているのは、誰の目にも明白だった。
室内は水をうったように静かになり、美少女の次の行動を固唾を飲んで、
見守っていた。
「ううっ・・・」
白い布地を膨らませて下着の中でサユナの指が蠢き、サユナのもう片方の
手は我慢するかのように動かしている右手を強く掴んでいた。
 くちゅくちゅ、と指が動く度に卑猥な音が部屋にこだました。
 太股をすり合わせ、吐息を吐きながら股間に指を這わすサユナ。そこだけ
が時が停まったかの如く周りにはただ少女の恥ずかしい淫音だけが響いてい
た。

 その後、ソアラに下着も脱ぐように命令されたサユナは、人前で素肌を晒
すことなどなさそうな汚れのない美貌を羞恥にあからめつつ、客達に自らの
全裸姿を披露した。
 形の良い乳房の頂点にある乳首はすでに痛そうなほどしこっており、薄い
恥毛を生やした秘所のぬめりは遠目にも明らかたっだ。
 少女はいいつけられているのか、大事なところを隠そうともせず舞台の上
で欲情を証明している胸や股間を晒し続けていた。
 そして次にソアラは、サユナが嫌がりそうな破廉恥なポーズをいくつもと
るように促した。
 いわれたサユナはその顔を僅かに歪ませたが、はい、とかぼそく返事をす
るとソアラの命じるままに身体を動かしていった。
 中腰で乳房と双尻を淫らに揺らしたり、片足をくの字にさせて股間から覗
く愛液を帯びた割れ目を客に観賞させ、また濡れてしまったショーツの匂い
を嗅がせたりもした。
 床に腰をつけた後も、うつ伏せ状態から下半身を高く上げ白い尻肉に手を
当てて小さく窄まる後ろの穴を見せたり、大股開きで股間を晒したりと処女
とは思えない格好を次々にとっていった。 
 美しい気品のある新人娼婦の痴態に、客達の興奮も最高潮に達してき、ソ
アラはそろそろ頃合いだと、割れ目に手をかけて愛液で潤うピンク色の秘部
を晒しているサユナを値踏みするかのように冷然と眺めいた。
  
 
 

 
「三十万!」

「・・・三十五万」

「三十八万。」

 自分の純潔が競りに賭けられているのをぼんやりと聞きながら、熱くなっ
た身体がサユナの白い肌を火照らせ、奇妙な疼きを断続的に少女に送り続け
ていた。
 舞台の床に裸のまま腰を降ろしていたサユナは、側にソアラが来ても話し
かけられるまで、その存在に気付かなかった。
「凄い。今の時点でこれまでの最高額を突破してるわ。あんたの演技もよか
ったし、まだ値が上がりそうね。」
 黒髪をなでながらソアラは面白そうにサユナを眺めた。
「あんまり望んで娼婦になったんじゃないって言っておいたから、少々嫌そ
うな振りをしても大丈夫なようにしておいたわ。」
「あそこにいる頭の禿げた太った人がいるでしょう、彼はすごくお金持ちで
ね。」
 髪を捕まれて顔を上げさせられ、サユナは気怠げに好色そうなその男を見
つめた。
「これまでにも何度か彼が競り落としているんだけど、サユナのことも気に
入ったみたい・・・ほら彼で決まりそうよ。」

「七十五万、七十五万!他にいらっしゃいませんか?」

「それでは四番の方に決定致します・・・・・・」


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