ワルキューレは、白い息をはきながら、兜のしたで青い目を細めた。眼前には輝く雪原がひろがっている。樹木の類はなく、かわりに樹木を模した氷の彫刻のようなものが無数にそびえていた。その尖ったきらめきは氷とは異なり、毒々しいぎらつきを帯びていた。
 マントの魔力が、寒さも体力の低下も完全に防いでいた。魔力の庇護がなければ、恐るべき寒さに身を苛まれていただろう。ワルキューレはマントをしっかりと体に巻きつけ、花のような口元を引き結ぶと、また歩き始めた。
 黄金をつむいだような滑らかな髪が、雪に反射した陽光にきらめく。彼女はその髪を一本に長く編んで背中にたらしている。純白の長衣に胸当てを重ね、魔力のきらめきを帯びた兜をつけ、白銀の長剣で武装している。乙女の細腕にはそぐわぬ戦支度が、この上なくなじんでいる。
 彼女は、人の子ではなかった。このマーベルランドに平和をとりもどすために戦う、神の子の化身である。よみがえった悪の化身ゾウナを、ふたたび時の鍵で封印するために、長い戦いの旅を続けてきた。そしてついに、ゾウナの領域である、この危険なフルータジアの地までわたってきたのだった。
 ワルキューレの足が、ふたたび止まった。使いこんだ長剣の柄に繊手を伸ばす。白銀の刃が雪の世界でひときわの輝きをはなった。
 まりのような姿をした奇怪な鳥の魔物が、跳ねまわりながら迫ってきた。クールナだ。長い錐のようなくちばしをいっせいに振りたて、火の玉を次々と放ってくる。
 ワルキューレの白衣がひるがえり、伸びやかな脚が地を蹴った。長剣でクールナを一太刀で斬り裂く。飛来する火の玉をかいくぐり、またも正確に両断する。
 重い地響き。牛のような魔物タロスが次々と突進してくる。ワルキューレは剣の一振りとともに火の玉の魔法を放った。分厚い皮が焦げ、真っ赤な肉がはじけ、魔物が苦痛の咆哮をあげる。
 はじめて地上に降り立ったときには、人の子同然に頼りなかったワルキューレの力も、長い戦いのなかで神の子の強さを取り戻していた。今や数々の魔法をあやつり、恐ろしい魔物を一刀両断にする力をそなえるまでになっている。
 赤い肌や青い肌の巨人が、血を凍らせるような雄たけびをあげて襲いかかってきた。デーモンだ。角とキバのある獰猛な顔で吠えながら、金棒のような武器を振るい、火の玉をはなち、神の子を叩きのめそうとする。
 ワルキューレは樹氷に身を隠すようにして後ずさり、小さく口笛を吹いた。星をふりまくような音色が響き、デーモンたちを金縛りにした。
 すかさず樹氷の陰から飛び出すと、金棒をふりあげたまま凍りついたデーモンに斬りつける。
 星笛の魔力が切れ、デーモンたちがまた動き出した。ワルキューレは油断なく剣を構えたが、ふと上腕にひりつく痛みを感じた。
 細い線のようなかすり傷から、わずかに血がしたたっている。立ち回るうちに、樹氷の鋭い角で切ったようだ。大したことはあるまいと思ったとき、傷口がえぐられたようにうずき、紫色に腫れあがった。全身の血が沸いたように熱くなり、汗が浮かんできた。
(……毒……!)
 いそぎ解毒の魔法を使った。体力の低下が収まり、悪寒が遠のいた。だが、機と見て迫ったデーモンたちの金棒が、四方八方からワルキューレを打ちのめした。
 ワルキューレは血をはいてよろめいた。剣を握りなおして斬りかかるが、クールナたちがかわるがわる放つ火の玉が体力をしだいに奪っていく。
 タロスの体当たりがワルキューレの細い体を突き飛ばした。くぐもった音をたてて兜が割れ、魔法の防御が失せた。魔物たちの攻撃がいっそう骨身にこたえた。デーモンの金棒が魔法のマントを引き破った。それまで感じなかった極寒の風が、彼女の体を打ちのめした。
 目に流れこむ血を避けながら、薬の術を使う。もはや手遅れだった。取り囲む魔物たちに滅多打ちにされて、ワルキューレは雪原に倒れこんだ。

       ◆

「ワルキューレ。神の子よ。目を覚ますがいい……」
 低くなめらかな声が、闇の中で彼女を呼んだ。美しい声だった。血がしたたるように甘い響きは、どこまでも邪悪だった。
 ワルキューレは目を開いた。暗い部屋だった。ひんやりとした湿っぽい空気が肌を撫でる。石組みの床と壁の広間のようだが、息のつまりそうなほど四方を囲まれているようにも感じる。いくつかのたいまつの明かりをのぞいては、深い闇だった。
 重い頭を振り、身じろぎをすると、こわばった肩に痛みが走る。金属の鳴る音。彼女は両手首に枷をつけられて壁につながれていた。
「ようやくお目覚めかね、ワルキューレ」
 先ほどの甘く響く声に、彼女は振り返った。そしてそこに、思いがけないものを見た。
「……魔王ゾウナ!」
 打ち倒すべき宿敵が、目の前に立っていた。際立って丈高いからだを黒と赤の衣で包み、不気味な生き物のかたちの兜をかぶっている。兜のしたの顔は青白く、驚くほど整っていた。毒々しい黄金づくりの魔杖を持つ手も、ほっそりと青白く、手入れが行き届いている。
「神の子ワルキューレ……地上に訪れし高貴なるものよ。敵の手に落ちた気分はいかがなものかね?」
 ゾウナは細長い指でワルキューレのあごを持ちあげ、尖ったつめを食いこませた。赤い唇で舌なめずりをするしぐさが、見てはならないもののように妖艶だった。
「どうとでもするがいい、悪魔。たとえ死しても、私は何度でもよみがえる。お前などには決して負けはしない」
 ワルキューレは深い青い目で魔王を見返した。喜悦に満ちた魔王の目は煮えたぎったルビーのようだ。彼女の強い闘志は奥深い闇に吸いこまれ、気力までも奪われていくようだった。ワルキューレは先に目をそらすまいと歯を食いしばった。
「さすが神の子、頼もしい言葉だ。だが、お前こそ深く心に刻むがいい。これからお前を待ち受ける数々の苦痛よりも、その不死にも等しいさだめこそが、最大の責め苦となってその身を打ちのめすことになるのだ」
 この上なく美しい毒花の笑みをうかべ、ゾウナはワルキューレの額に口づけた。
 嫌悪を超えた悪寒が体を走り抜けた。唇のふれた場所が灼けるように熱い。
「何を……」
「危ぶむな、ただの祝福だ。そのような白く高貴な額を私が傷つけると思うか? 額には傷ひとつつけておらぬ……だが」
 ゾウナは舌なめずりをした。
「もう、神の魔法は使えぬぞ」
 ワルキューレははっとして、眉間に意識を集中させた。頭蓋に金属棒をねじこむような頭痛がはじまり、たまらず術を中断する。魔力は頼りなく四散した。
「よくも……!」
 ワルキューレは冷や汗を流し、唇を引き結んでゾウナをにらむ。
「美しい……とくにそのように、苦痛に眉をひそめるさまがたまらなくよい。さあ、さっそくはじめさせてもらおうか。神の子よ、捕虜にふさわしい処遇のはじまりだ」


      ◆

 ワルキューレは太い鎖でイモムシのように巻きあげられて、天井から逆さまに吊りさげられた。胸当てとサンダルと小手を剥ぎ取られ、白い長衣のみの姿である。乳房の上下を縛られて、こぶりで引き締まった稜線がくっきりと際立っている。
 頭の下には、薄こがね色によどんだ井戸がある。編んだ金髪の先が、水に浸っていた。
 金属兵士ロボティアンたちが、巻き上げ機のレバーを操作した。音を立てて鎖が動き、ワルキューレは頭から水の中に沈んでいった。
 小さなはだしの足先のみが水面に残る。やがて、足首がくるしげによじれ、ぴんと張った鎖が激しく揺れ動きはじめた。
 ゾウナが手を振ると、ロボティアンは黙々と鎖を巻き上げた。ワルキューレは引き上げられた。花弁のような口元を大きくあえがせ、何度も水を吐いた。ぐっしょりと濡れた長衣が肌に張りつき、裸身が透けている。水のしたたる金髪も、濡れて色が濃くなっている。
「どうだ、苦しいかね。だが、これは下準備にすぎないのだよ」
 ゾウナが指を鳴らすと、闇の中に多数の炎が生じ、ゆらゆらと近づいてきた。
 燃える炎の魔物、ホノーリアンだ。迷宮の雑魚にすぎない魔物だが、見たこともないほどの数が寄り集まってくる。濡れた長衣が生ぬるくなり、髪が乾いていった。
 ワルキューレの額に汗が浮かぶ。鎖が熱を帯びてきた。湿った長衣から湯気が立つ。
(あ、熱い……!)
 ホノーリアンたちが口をすぼめ、火の玉をワルキューレめがけて吐き出した。ワルキューレは身をよじって鎖を揺すったが、周囲から打ちこまれる火の玉をかわしきれはしない。
 幸いにして、ほとんどは直撃を狙わず、体をかすめていくものだった。だが、幸いともいえないのがすぐに分かってきた。
(な、なぶり殺すつもりね……!)
 火の玉が甲高い音を立てて無数に飛び交う。いやなにおいをたてて髪が焦げる。鎖の食いこむ肌に、鉄の熱さが焼きついてくる。ワルキューレは鎖を解こうと虚しくもがいた。長衣がぶすぶすと煙をあげる。
「はああ、あ、あうう!」
 のたうつからだから煙が上がる。鎖が赤熱し、長衣が炎を上げる。汗だくになって歯をくいしばっていた美貌から、ふっと意識がとぎれた。
 ゾウナが手を上げた。ロボティアンが鎖を一気に巻き戻した。火の玉が飛び交うなか、ワルキューレは井戸の中へ沈められていった。水蒸気がさかんに立ちのぼる。
 ゾウナの合図でまた鎖が巻き上げられた。したたる水をきらめかせながら、ワルキューレが引き上げられた。身をよじり、咳きこむ。
 不思議なことに、灼かれたはずの肌や髪がもとに戻っている。燃やされたのが幻でないあかしに、長衣に焼け焦げた穴がいくつも空き、肌が露出していた。その肌にも火ぶくれや赤みなどまったく見当たらない。
 ホノーリアンたちがまたいっせいに火の玉を吐き出した。ワルキューレの体から水蒸気が上がる。濡れた髪はたちまち乾いて、鎖が赤熱してくる。
「あ、熱い……あ、ああ、熱い!」
 華奢な体のあちこちで、衣や髪が燃えあがった。たちまち炎に飲みこまれる。
「アアアーーーーッ!」
 絶叫する炎のかたまりが、井戸の中へとつるべ落としに放りこまれた。鎖が鳴り、水面がばしゃばしゃと跳ねる。やがてゆっくりと引き上げられると、ボロ布を絡ませた白い姿が現れ、美しい金髪から水をしたたらせた。
「は、あああ、ああああ!」
 ほとんど衣服の守りを失くした体に、火の玉が容赦なくぶつけられる。のたうつ編み下げ髪に火がつき、赤熱した鎖に柔肌が灼けただれ、赤い中身がはぜた。血と体液がとびちる。
「フグウうウ、おオオオお!」
 燃えただれて捩れもがく肉塊が井戸に落とされる。引き上げられると、鎖にいましめられた白い裸身が炎に赤く照らされる。金髪が解けて、流れ落ちていた。
 ワルキューレは青い目をうつろに細め、ただ息をつくばかりだ。なめらかなみぞおちが荒い呼吸に動いている。
 ゾウナは軽く舌なめずりをすると、指を鳴らしてホノーリアンたちを下がらせた。
 四体ほどが残って囲んでいるが、充分に距離がとられ、蒸し風呂のような熱気に包まれている状態だ。焼かれる苦痛よりはもちろんましだったが、目がくらみ、体中が火照り、汗が噴き出す。逆さ吊りで頭に血が下がって、割れるような頭痛がする。
 ゾウナが鞭を手に近づいた。しなやかな黒い革が、太い蛇のように鋭く飛んだ。
「ああーーッ!」
 鎖が鳴り、細いからだがよじれる。こぶりの乳房にくっきりと跡がついている。
「ああ! ああ! あうう!」
 なめらかな腿に、引き締まった腹に、鞭は容赦なく叩きこまれた。赤く照らされた金髪が振り乱れ、肌を伝う汗に血が混じる。
「いい顔だ、もっと苦しめ!」
「んん、ああ! はあ! あううう!」
 鎖がよじれ、ワルキューレの体がゆっくりと回り、今度は小さな白い尻がゾウナに向けられる。ほどよく脂が乗ったなめらかな丸みが、しなやかな白い腿裏に続いている。
「柔らかそうだな。実に仕置き心をそそる」
「はあん! ああん! ああ! あああ!」
 真っ赤な跡が縦横に刻まれ、愛らしい臀肉がぷるぷると揺れ、血の筋がしたたった。
 やがて、ワルキューレは傷だらけになって血を流し、静かに揺れるばかりになる。
 ゾウナは満足の吐息をついて鞭をしごくと、ロボティアンたちに合図して、ワルキューレをまた井戸の中に沈めさせた。
 引き上げられたワルキューレの青い目は焦点を失い、ただ見開かれている。
「この程度のことで音をあげてもらっては困る。あれだけ言ってのけたからには、いま少し頑張ってもらわんとな」
 ワルキューレは答えられない。荒い呼吸の動きだけが生のあかしだった。


      ◆

 ワルキューレは裸のまま、鎖と歯車と椅子を組み合わせた奇怪な装置に載せられた。
 両手両脚や首、頭部、胴体のいたる場所に鉄の輪がはめられる。輪には複数の鎖がついていて、装置のあちこちにつながっている。
 ロボティアンがレバーを動かすと、きりきりと歯車が回り、体中の鎖が巻き上げられた。四肢のつけねに痛みが走り、手足が四方に引き伸ばされた。ワルキューレの白い体は弓のようにのけぞり、首筋が、腕が、腿が、いまにもはじけそうに張りつめた。
「あ、ああああ!」
 レバーが大きく倒される。ワルキューレの体が腰を頂点とした海老反りになった。あごがのけぞり、金髪が床を掃く。乳房が逆さまに下垂し、より形よく盛りあがった。
「もっと苦しくしてやろう」
 ゾウナが真紅の目を輝かせ、鞭を手の中でしごく。
「どうだ、苦しいか」
 引き伸ばされた白い体に、何度も何度も鞭が食いこみ、真っ赤な傷を刻んだ。引き伸ばし装置やロボティアンの体に、細かな血の粒が絶え間なく飛び散った。
 ワルキューレが低くうめいて失神すると、ロボティアンが鎖の取っ手を引いた。装置の上方で、竜のかたちの巨大な水差しが前のめりに傾く。ワルキューレに薄こがね色の水を注ぎかける。全身を染める血が洗い流されると、鞭あとも残らず消えていた。
「あ、あああ……!」
 複数のレバーが操作される。歯車がきしみ、騒音とともに鎖が繰り出され、巻きあげられ、新たな姿勢を強要する。ワルキューレの膝が曲げられ、外向きに引っ張られた。左右の足裏が合わせられ、腿とすねとでぶざまなひし形を描いた。
 そのまま下肢が逆さまに吊りあげられていく。頭と肩しか着いていない状態で、背中と臀がゾウナにむけられた。
「似合っているぞ神の子よ」
 がに股に広げて吊るされた下肢を、ゾウナの鞭が嬉々として打ち据える。白い尻に赤い模様を刻みこむ。苦痛に膝を曲げのばしするたびに、がに股が滑稽に上下する。
「あうううう!」
 尻のはざまを直撃され、柔らかなすぼまりに鞭が食いこんだ。尻から割られたような痛みに涙がこぼれる。
「ああああ!」
 とどめの一撃で、ワルキューレの尻奥が破れた。白い双臀のはざまを、真っ赤な筋がたれ落ちる。
 ふたたび竜の水差しが傾けられる。ワルキューレの股間に滝のように注ぎかけられて、傷ついたはずの部分がまた元どおりになった。
 鎖が巻きあげられ、ワルキューレの下肢が頭をこえて折り返される。両脚がぴんと伸ばされて左右に広げられる。尻を頂点にした苦しいほどの二つ折りだ。尻にゾウナの手がかかり、真上から股間を見下ろした。
「これはいい眺めだ」
 金色の茂みも、柔らかな桃色の秘部も、すべてゾウナに突き出されている。
「あああ……よくもこんな……!」
 だが、羞恥の仕打ちはそこからであった。視線をこばんでくねる尻と腿が、撫でるような鞭打ちでひっぱたかれる。お仕置きの尻叩きのような軽い音がぱちんと響いた。なめらかな肌が恥ずかしさに燃えあがった。
「実にいい音ではないか。虜になるような未熟者には、これくらいが似合いの仕置きかもしれんな」
 ぱちん、ぱちんと鞭音が弾ける。ワルキューレは歯を食いしばって目を閉じたが、羞恥の尻音からは逃れられない。ぶたれる尻がジンジンうずく。
「く、あ、ああ……!」
 やがてみずみずしい小尻は、熟した果実のように真っ赤に腫れあがった。ゾウナの手が面白そうに撫でまわす。触られただけでも悲鳴が出た。苦痛の涙が滲み出す。
「愛らしい。実に辱めがいがある」
 ゾウナは、ワルキューレのあごに鞭の柄をあてて、優雅な嘲笑を浮かべた。また薬の水が注がれ、尻はつるりと白く洗い上げられた。
 二つ折りになった肢体がゆっくりと元どおり下ろされる。今度はワルキューレの上体が引き起こされた。両腕が頭上高く引きあげられる。両脚は、水平方向に広げられる。
 強力な引き伸ばしには抵抗できない。ワルキューレは腋の下をさらし、小ぶりの乳房を突き出し、両腿を完全に左右に開いた姿で、ゾウナと向き合われた。
「そのように前に突き出して、それほどいたぶって欲しいのか」
 鋭い鞭が乳房を斜めに打ちすえる。ワルキューレは歯を噛みしめ、悲鳴をこらえた。
「……あ、くう、はああ!」
 鮮やかな跡を刻まれながら、乳房が上下左右に跳ねまわる。連続の鞭打ちの前に、努力は崩壊した。
「あああ、あうう、あああ!」
 正面からの叩きこみが、柔らかな乳首に繰り返し食いこんだ。汗だくになった白い肌に、長い金髪がおどろに絡みついた。
「美しい体だ。どのような引き伸ばしにも映え、鞭打たれるたびに悩ましく踊りくるう。責められるために存在しているかのようだ」
 ゾウナは息を弾ませて目を輝かせる。その視線はワルキューレの開脚の中心に向いていた。
 ワルキューレの上体が後ろに倒された。水平に開脚した下半身が斜め上向きに軽く持ちあがり、足の間がゾウナの前に差し出された。
(いや……!)
 もっとも繊細で柔らかな肉をしたたかに打ちのめされる苦痛を思い、ワルキューレは青ざめた。
「ああ……!」
 突然の感触に、ワルキューレは顔を羞恥に染めた。鞭ではなくゾウナの手が伸びて、広げられた中心をまさぐっていた。
「あ、あああ、何を……!」
「閉じているな。神の子の化身なれば、純潔は当然か」
 薄桃色の柔らかな合わせ目を、ゾウナの指が上下になぞる。爪の先がそっと肉をかきわけ、急所の深みを軽く引っかいた。もろい部分に侵入された恐怖におぞけが走る。
「は、はなせ……!」
「案ずるな、傷つけたりはしない。ここに秘められた真理を呼び起こすだけだ。お前には、鞭よりもはるかにこたえるだろうからな」
「そんなもの……あ、ああ、あああ!」
 引き伸ばされ、みじんも動かせない体に、ゾウナの指戯が繰り広げられる。冷たい指の腹で深く撫ぜられて、ワルキューレの体に震えが走った。頬をひきつらせて歯を鳴らす。
「は、く、あ、あああ!」
 肉の閉じ目をしごかれて、たまらないせつなさがほとばしった。甘い感覚が中心に食いこんで、骨を浸食するように絡みつく。
「な、ああ、そ、そこは……!」
ゾウナの指は後ろにも伸び、不浄の営みの場を軽やかにからかった。柔らかなつぼみをくすぐられ、撫でさすられ、屈辱と羞恥に目がくらむ。
(こんな悪魔に……このような好き勝手を許すなど……!)
 怒りの思いとは裏腹に、あえぎは高まり、抑えきれない。骨に食いこむ甘さがさらに耐えがたいものとなる。まるで何かが繊毛の中心からジクジクと伸びあがっているようだ。
「やめろ、やめ、あ、あひいい!」
 ゾウナの親指が、まさにその部分を押さえた。目の奥に火花が散る。じっとりとした汗が全身からわきだし、奥の谷間がどうしようもなくむずむずとうずいた。
(ああ、そんな……!)
 温かいものがとろりと漏れだしたのを感じ、ワルキューレは失禁の羞恥に頬を染めた。だが、小水にしてはひどくぬめりを帯びて、出てくる場所も違うようだ。
「あ、ああ、何、あああ……!」
 前を押し揉まれ、後ろをくじられ、合わせ目をしごかれて、たまらない感覚が高まっていく。ゾウナの指がぬるぬるに濡れている。体の奥から、ぬめった熱い液体がまたほとばしる。流せば流すほど気持ちがいいのに、ワルキューレは気づいていた。引き伸ばされた両腿が、みずから大きく開こうとしている。
「はああ、あ、あああ、あああ!」
 こぶりの乳房が左右に揺れる。淡い先端がふくらみを増し、緊めつけられるようにずきずきとうずいた。乳房全体もふくれあがっていくようだ。もどかしい痛みが突き刺さる。
「ふうう、や、やめて!」
 金色の茂みにおおわれた丸みを、強烈にしごかれる。繊毛がよじれ、かすかな痛みが走り、骨を揉み溶かされているような快感が食いこんでくる。
「いや、いやあ、だめ、だめえ! そ、そこはだめえ!」
 憎むべき敵の所業に、ワルキューレはなすすべもなく悲鳴をあげる。快感がうねり、ひろがり、両腿がぴんと張る。深い快感の槍が双丘の奥へとねじこまれ、全身が総毛立った。
「ああ、な、何……あ、あ、あああーーーッ!」
 ゾウナが触れている部分がけたたましくうずく。頬がひきつり、歯ががたつき、目がくらむ。突き抜ける快感とともに体が反り返る。
 粘性の汗が強い匂いをたちのぼらせた。熱い液体がまた吐き出され、床にこぼれおちた。


       ◆

 小ぶりの乳房が荒い呼吸に上下する。拘束されたワルキューレは、ゾウナに向けて白い腿を開いたまま、たった今快感を識った熱い肉ヒダをわななかせた。
「よく潤って開花しているな。なかなかに淫らではないか」
「み、淫ら……私が……」
 脳髄が甘くしびれて、怒りの声をあげることもできない。
「そうだ。お前の体を貫いた稲妻こそが肉の悦び、人の営みの大いなる快楽だ。一度も味わったことがなかったとは、神の子の化身たる最大の不運であったな」
「馬鹿な、肉の悦びは悪魔の業……私がそのようなものを……ッ」
「心地よかったであろう。今もまだ、お前の秘めたる花は悦びにあえいでいるぞ」
「は、あああ、ち、違う!」
「恥じ入ることはない。肉の契りなくして、人の子が生まれゆくすべはない。大地が定めた自然の理にすぎぬ……神の子の化身とて同じことだ」
「ちがう、お前が私に、悪魔の悦びを吹きこんだのだ、私がみずからそのような!」
「ほう、では、やはり心地よかったのか」
 ゾウナが残忍な笑みを浮かべ、ぬめりに濡れた指でワルキューレの細いあごに触れた。鼻腔を刺激する匂いに、ワルキューレは唇を噛み締めた。だが、白い体にはもどかしい疼きが灼きついていた。思わず四肢がふるえあがる。
「それでいいのだ。人の身にあって、人の子の快楽を味わうことに何の罪がある」
 ゾウナの長身がワルキューレに覆いかぶさる。闇の衣が広がり、それ自体が生き物のようにワルキューレの肌をくすぐった。
「あ、あああ、やめろ!……あああ!」
 ゾウナの両手が白百合のような乳房を握りしめる。長い指が深々と食いこみ、弾力のある肉が指の間からはみ出した。
「さ、触るな……放せ!」
 弾む呼吸を懸命にこらえながら、ワルキューレはうめいた。
「なぜだ。こうすると心地よいだろう」
 小ぶりの乳房がこね回される。淡い花弁のひとひらを載せたような胸先が、さまざまに向けられ、歪められる。
「ああ、あ、いや、そんな、あああ!」
「いい反応だな。感じやすい果実だ。そのままこの心地よさに身をゆだねるがいい。もっと快楽の声をあげていいのだぞ」
「誰が、そんなこと、あ、あああん!」
「このみだらな果実はそうはいっていないな。見ろ。敵の、それも悪魔の愛撫を受けてこのようにみずみずしく張りつめている」
「そ、そのようなことは、ああ、だめ……あああ、ああ!」
 細長い指が、柔らかな乳首を左右同時につまみ、くねくねと動かす。ワルキューレの口からねっとりとした唾液がこぼれた。先ほどの快楽がくすぶる奥の開花がうずき、あの気持ちよくてたまらないぬめりを流し始める。ワルキューレは恐怖した。
「いや、だめ、はなして……もうはなして!」
「愛らしい。乳首がこのように尖ってきたぞ。乳房も膨らんでいる。なんという弾力だ、実にここちよいぞ」
 満足そうに仕上げのひと揉みをくわえると、ゾウナは長衣の腰帯を解いた。幾重にも重なった衣の前がすべて開くが、そこには闇しか見えない。
 濡れた音がかすかに響き、衣の奥から黒い蛇のような器官が長く伸びた。病みただれたキノコのようなイボだらけの先端が、粘っこい音を立ててひび割れる。黒い溶岩のような粘液をしたたらせ、熱い闇の匂いを放ちながら、ワルキューレの白い腿を撫でまわす。
「何をするの……!」
「恐れることはない。お前の閉ざされた門をこれでひらき、快楽の世界へと導いてやる」
 身動きできない中心に、器官の先端がおしつけられた。
「さ、触らないで! ああ、やめて……!」
 うねる器官が、ワルキューレの花門に肉イボと黒い粘液をこすりつけた。
「い、いや! やめて、放して!」
「力を抜け。人の子なら誰でも交わす肉の契りだ。神の子よ、その美しい体に我が楔を打ちこんでくれよう」
 恐ろしい圧迫が、柔らかな肉の閉じ目をかきわけるようにねじこまれてくる。
「い、痛い! 押さないで、痛い! お願い、やめて……あ、あ、あああ!」
 体に刃が食い入るようなぞっとする感覚。
 腰骨がきしみ、肉が左右に引き伸ばされ、何かが激痛とともに失われた。
「……ああーーーッ!」
 圧倒的な太さ、体がみしみしと鳴り、永遠に広げられていく。ずぶりと深く、肉管が滑りこみ、肉コブが体の奥まで押しあげた。

「あ……ああああ……」
 ワルキューレの目が見開かれる。荒い呼吸に揺れる乳房を、ゾウナは握りしめた。
「門は開いた。神に遣わされし白百合よ、お前の体をかき鳴らして、肉の快楽を味わわせてやろう」
 粘着質の音をたてて、黒い肉蛇が動き出した。純潔の血に濡れた表皮を波打たせ、無残に広がった肉門を、みずからの巣穴であるかのように、我が物顔で出入りする。
「あああ、い、痛い……痛いいい!」
 複雑に隆起した醜い肉コブが、硬く締まった内壁を容赦なく押し揉み、ほぐそうとする。傷ついたばかりの柔かな肉を、圧倒的な太さで引き伸ばし、しごきあげる。
「いや……んん、はああ……!」
 膿血のように漏れだす黒い液体が、肉ひだに塗りこまれ、ワルキューレ自身のぬめりと混ぜ合わされる。
「いやああ……」
 ゾウナの舌が長く伸びた。ワルキューレの頬やあごを舐めまわし、蜜のような唾液を注ぎかける。両手で乳房を自在にこね回し、闇の肉蛇で絶え間ない抜き差しを続けている。
 ワルキューレの腰が押しあげられ、淫猥な律動をくりかえす。揉まれる乳房が真っ赤に火照る。美しい白い尻に、汗がじっとり浮かんできた。
「いや……やめて……あ、は……」
 汗ばんだ尻に震えが走り、先刻と同じたまらない感じがもやもやと身をひたしていく。抜き差しの反動ばかりでなく、ワルキューレの腰が動きだした。
「んん、あ、いや、ああ……!」
 一方的に衝かれ続けて、ワルキューレの背骨が砕かれていく。とろりと熱く、あの気持ちのいい液体があふれ、肉門が粘っこい水音を立てた。
「好くなってきたであろう、吐息が熱いぞ。頬も色づいている。それ、もっと闇のほとばしりを受けて燃えるがいい」
 肉蛇が脈打ち、黒い液体をワルキューレの中に流し入れる。円形に伸びた境目から、粘っこい闇が糸をひいた。黒くまみれた不浄のヒダ穴が、痙攣のようにひくつき、うずいた。
「あ、ああ、ああ、だめ……!」
 ワルキューレは声を上擦らせた。ゾウナの闇が、柔らかく感じやすい場所に染みこんで、抗しがたい甘みをふりまいている。もまれ続ける乳房もねっとりとほぐれ、青白い手の中で鮮やかに燃え、されるがままに形を歪めている。
「ふう、ふうううう!」
 ゾウナの舌がワルキューレの唇を割り、歯列を舐め、舌先をからめあわせた。唾液が舌から舌へ流しこまれ、口いっぱいに満たされ、飲まされていく。腹の奥がかっと熱くなり、額から汗がにじんできた。
「もうやめて、はあ、あ、抜いて、もう揉まないで……はあああ!」
 首筋をなめられて、金髪が跳ねあがる。イヤイヤをするように何度も首を振るが、ゾウナの唇がちかづき、脈打つ頚動脈を吸いたてられると、青い目が一気に熱に浮かされた。
「あ、ああ、ああ、ああ!」
 胸を揉まれ、肉蛇を操られる動きにあわせて、腰を揺すりたてる。ねっとりと唾液をこぼし、頭をのけぞらせる。白い額に金髪がはりついている。
「もうやめて! お願い、このままじゃ、わたし、あ、はあ、わたし……!」
「狂うがいい。心地よさにあえぐがいい。南国の花のように蜜を流し、わが闇に咲きほこるがいい」
 肉蛇の槍責めがワルキューレの背骨を打ちあげる。自分が単なる肉穴になってしまったようだ。揺さぶられ、こすりたてられ、熱い闇をそそがれて、海の生き物のように肉をうねらせ、体を波打たせている。
「だめ……だめえ……!」
 白濁と闇がいりまじり、床に長く伸び落ちていく。
「もう、だめ……また来る……!」
「身を任せよ」
「いや、だめ、だめ、こんなのだめ……!」
「白百合よ、その快楽に抗うな。心地よいだろう。溶けてしまいそうだろう」
「ああ、いや、溶ける……とけちゃう……」
「溶けてしまえばよい」
「あ、ああ、だめ! く、来る、いやあ、また来る!」
「来るのではない。いくのだ。さあ、いけ。思うさまいくがいい」 わななきをこらえるワルキューレの耳に、ゾウナは繰り返しささやきかける。熱に浮かされたような意識のなかに、淫らな台詞を流しこむ。
「あ、ああ、もうだめ、いく、きちゃう、そんな、いく、あああ……!」
 ワルキューレの腰がたまらずに開いた。ゾウナの肉蛇がひときわ深く突き入った瞬間、勝負は決まった。肉コブが奥底をたたきあげ、両腿が震え、肉道がはねあがった。
「くる、来る……い、いくうーーーーーッ!」
腰をのけぞらせてゾウナに打ち当てながら、ワルキューレは金髪を振り乱した。感覚と言葉が同化して、さらに甲高い叫びがあがる。
「あ、ああ、来る、きてる、あああ、イク、そんな、あああ、イク、いくうううーーーーーッ!」
 狂ったようにうねる腰が頂点をきわめて静止し、糸が切れるように力つきた。
「……どうだ、悪魔の快楽をきわめた気分は」
 荒い息をつくワルキューレに、ゾウナがささやきかける。
「は、ああ、だめ、いってる……!」
 白く浮遊した意識のなか、ワルキューレは紅唇を震わせ、うめくように答える。
「そうか……それはよかった」
 ゾウナは酷薄な笑みを浮かべ、肉蛇を引き抜いた。
 目を閉じて呪文を呟き、『それ』を手元に呼び寄せる。
 闇と白濁を流してあえぐ場所を鍵穴に見立て、『それ』を慎重に差し入れた。こじり、動かし、内壁を静かに煽りたてる。
「あ、ああ……」
 硬質の刺激にワルキューレは眉根を震わせ、甘くうめきながら目をあけた。残忍な期待に満ちたゾウナの顔があった。その視線に導かれて、今みずからを抜き差しする『もの』を見た。
 青い瞳が絶望に凍りつく。
「いやああああああ!」
 それは『時の鍵』だった。

              第一話・完


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