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			 【1話】邂逅、そして・・・待ち構える罠 
			 
			 
			 
			(1) 
			 
			薄暗い夜道を一人の女性が歩いている。 
			背中まである艶やかな黒髪をなびかせ、カツカツと規則正しい足音を鳴らし歩く姿が、なんとも様になる女性であった。 
			そんな女性が、とある街灯の光の下でピタリと立ち止ると、深々と溜息をついた。 
			 
			「まったく・・・しつこいわねぇ。隠れてないで出てらっしゃい!」 
			 
			その言葉に、物陰からゾロゾロと男たちが駆け出してきて、彼女を取り囲む。 
			8人の男たちは、見るからにゴロツキどもで、手に鉄パイプやスタンガンなどの武器を手にして彼女を取り囲んだ。 
			 
			「ほ〜んと、懲りないわねぇ、あなた達は」 
			 
			そんな彼らを女性は見回すと、腰に手を当て呆れたように眉をしかめる。 
			整ったシャープな顔立ちの女性だった。意志の強そうなキリリとした眉、縁なし眼鏡ごしの切れ長の目が知性的な雰囲気を醸し出している。 
			 
			「まっ、いいわ。相手してあ・げ・る」 
			 
			だが、ニッと好戦的な笑みを浮かべると、途端にその美貌に獰猛な獣のような野性味が溢れ出した。 
			 
			「やっちまえぇ」 
			「今日こそ、その服、ひんむいてやるよぉぉ」 
			 
			その言葉に反応するように男たちが一斉に襲いかかった。 
			だが男たちの反応よりも先に女性は既に踏み出していた。滑るように前方の男たちを間合いに収めると、一人目の顔面に掌底を叩きこみつつ、その脇をクルリと回るように通り抜けると、後ろ回し蹴りを2人目の腹部に繰り出す。 
			 
			「なっ!、ぐはッ」 
			「ぐえぇぇッ・・・」 
			「て、てっめぇぇぇ」 
			 
			更に、鉄パイプを振り下ろす3人目の攻撃を僅かに身体を反らしただけで避けると、大きく振り上げた踵をガラ空きになった頭頂部に振り下ろした。 
			瞬時にして白目を向いて倒れこむ男たち・・・その3人の仲間の姿に、残りの男たちは愕然とする。 
			 
			そんな男たちの前で、優雅に長髪を掻き上げ、クルリと振り向く女性。街灯の明かりで煌めく髪がなんとも幻想的ですらある。 
			 
			「ホント・・・君たちは学習しないなぁ」 
			 
			ニッコリと微笑むと、瞬時に間合いを詰めて残りの男たちを打倒していく。 
			すべての男たちが地に這うことになるのに10分もかからなかった。 
			息も切らさず事を終えた女性は、携帯電話を取り出し、慣れた様子で電話をかける。 
			 
			「正当防衛、正当防衛っと・・・・あっ、薫君。ちょっとお願いがあるんだけどぉ・・・うん、そうそう、いつものヤツ、場所はねぇ・・・」 
			 
			そして電話を切ると、何事もなかったようにその場を去っていった。 
			それから10分もしない内に数台のパトカーが現場に到着すると、倒れた男たちを押し込み連行していった。 
			 
			 
			彼女の名前は橘 優希(たちばな ゆうき)、26歳。県内有数のお嬢様学園に勤務する養護教諭である。 
			普段は背中まである黒髪をアップにまとめ、白衣に身を包み、学園に通う生徒たちの心身の悩みに答えていた。更には、祖父の開く道場で幼少から鍛えた腕前で、それ以外のトラブルも解決してくれる頼れる存在でもあった。 
			その道場には、警察や警備関係の人間も多く教えを受けており、そちらの人脈を活かせるのも彼女の強みであり、力だけでは解決できない様々なトラブルもそれらを有効に使い解決していった。その為、その美貌もあいまって学園だけではなく、近隣でも有名な存在となっていた。 
			 
			だが、そんな彼女を快く思わない連中がいるのも事実だった。 
			そのたびに、その細く引き締まった身体からは予想もつかない威力の技が繰り出され、こうして彼女の学校の生徒にチョッカイを出した多数のゴロツキどもを地に這わせていた。 
			 
			 
			・・・自分のこの力で、悪を地に這わし、弱きものを助けてみせる・・・ 
			 
			 
			その信条を実行するだけの、強い自信と実力を優希は兼ね備えていた。 
			 
			 
			だが、そんな彼女に、悪意の手が迫っている事に、優希自身はまだ気が付いていなかった・・・ 
			
			
  
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