【3】


 ガラガラガラっ!
 頑強なウインチが特殊鋼のクサリを巻き上げた。薄暗い照明がまばらに灯る廃工場の中に硬い金属が擦れ合う音が響く。
「クウっ! グウ……」
 床に伏せていた女体が、クサリに引き上げられ脚を上にして「逆さま」に中空へと吊り上げられる。
ガラガラガラっ!
「西陣営(ウエストブロック)のシークレットエージェントの口の堅さってのを確かめてやる」
 ウインチを操作していた男は、「彼女」の股間が程良い高さに達したのを見て、勢いよく巻き上げていたウインチを止める。逆さまに大きくVの字に拡げられた脚がユラリと揺れた。
ガクンっ!
「クウっ……」
 その軽い衝撃に、彼女は苦痛の呻きを漏らした。背中に回された彼女の両手首と両足首は、それぞれX字に交差するように特殊鋼の手錠で拘束されていた。そして折り曲げられた両膝の裏を通すようにして鉄パイプが差し込まれている。ウインチから繋がるクサリは、その鉄パイプに結びつけられていた。
「……ちょっと、イタいじゃない」
 彼女は軽く漏らすが、膝裏に差し込まれた鉄パイプで全体重を支える、この姿勢での吊り責めだけでも、通常ならば数十分で膝間接が破壊されてしまう厳しい拷問だった。
「たしかに、サイボーグ脚の強度は大したもんだな」 
 男は、ムッチリと張りつめた太ももの肉をグイグイと揉むようにして、その筋肉の緊張を確かめる。
「触らないでよ。スケベ……」
 彼女、……ゼロゼロナインワンの身につけたタクティカルスーツの裾は完全にめくれ返り、股間を覆うパンティばかりか、可愛らしいヘソや、背中までもがさらけ出されてしまっている。
「さて、一体「何」を探って、この要塞都市に潜り込んできたんだ?」
 口では強がっているゼロゼロナインワンだったが、男の掌にはふっくらとした太ももの内側で、筋肉がブルブルと痙攣しているのが伝わってくる。人工の強化筋肉でさえも負荷におののく逆さ吊りの姿勢なのだ。
 ビクリビクリと痙攣的に震える太ももを撫で下ろし、男の手はゼロゼロナインワンのふっくらとふくらんだ股間に掛かった。
「結構、土手高なんだな!?」
 男は掌全体でゼロゼロナインワンの恥丘部分をスッポリと覆い、ヤワヤワと揉み立てて反応を見ている。
「うっ! ……コイツはっ!」
ビリビリっ!
 男は、ゼロゼロナインワンのパンティの股間部に横から指を差し込むと、布地を指に巻きつけるようにして一気に引き千切った。
 ゼロゼロナインワンの「はだか」の股間がさらけ出され、濃い栗色の陰毛がたなびく。
 ……そして、そこには鈍い金属光をきらめかせる、人工のメカニカルペニスが生えていた。ダラリと弛緩した状態ながらも、隆々とした逞しさを誇るそれは、美しい女性であるゼロゼロナインワンの股間から生えているだけに、おそろしい違和感を男に与えた。
「これは、いったいナンなんだ!?」
 自分の秘所をさらけ出されながらも、ゼロゼロナインワンは一向に動じない。男の指が、そのメカニカルペニスを機械技師の冷静さで「点検」する。
 全体をコイル状の表面で覆われたソレは、外見こそ金属の塊だったが、握る指を押し返す弾力や、全体の柔軟性は、生身の「肉」そのものだった。
「やめてよ。……感じちゃうでしょ」
 自分のメカニカルペニスを興味津々な様子でいじくり回す男に、ゼロゼロナインワンは軽口を叩く。そして逆さ釣りの姿勢のまま、感極まったように身体をくねらせた。
「あ、あんまりいじられると。……アッ、ハァ〜ンっ!」
 男の手の中で、ゼロゼロナインワンのメカニカルペニスが、ビクリとうごめいた。
「おっ!? 男みたいにちゃんとオッ勃つのかよ、コレ?」
 ムクリと勃起するメカニカルペニスに男の注意が集中する。ゼロゼロナインワンの眼の中に冷たい光が宿った……。
「バカ! 指を焼かれるよ!!」
 鋭い女の声が廃工場の奥の暗闇から上がった。
「そうやって引っ掛けるのが、そいつらの手なんだよ」
 重たそうな機材を乗せたワゴンを押して、廃工場の奥から女が現れた。腰まで伸ばした金髪を後ろで無造作に結んだ長身の女だった。その身に着けているのは粗野な野戦服だったが、鋭い印象を持った女には似合っていた。
「気を付けて。西(ウエスト)の女スパイのアソコには、ホントに「歯」が生えてるんだから」
 鋭い目つきをした女は笑いもせずに言う。
「でも、鋼鉄製のチンチンを生やした女スパイは始めて見たわ。……どんな責めが有効かしらね?」
 ゼロゼロナインワンは、その女の冷たい眼の中に、自分と同種のものを感じ取っていた。


To Be Continued


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