〜 飼い犬 〜



◆登場人物





◇山村 成一(やまむらせいいち)

 男性 25歳(用務員)

リアルでは普通だが、ネット弁慶の元サラリーマン。

面白半分・ヤケ半分で用務員就職の話を進めてしまう。



◇渡会 源二(わたらいげんじ)

 男性 24歳(用務員)

元フリーター。

声の大きい不真面目な男。



◇支倉 未尋(はせくらみひろ)

 女性 16歳(2年生)

聖水常用者。

小柄で性格も控えめだが、愛嬌がある。



◇オリガ

 女性 27歳(執行部)

感情を感じさせない黒き修道女。











聖リトリス女学院を多い尽くす霧の森。



『外側』から踏み入るそこは、長い長い真っ白なトンネルだ。



そこがどこなのか、どこへ続いているのか。



すぐにわからなくさせてゆく狂気の白が支配する。



そこにただ1本だけ伸びた真っ直ぐな道なりに、

棺桶を思わせるような黒のセダンが走り続けていた。





「あの・・こんなにスピード出して大丈夫ですか?」



「ご心配無用です。 もう慣れていますので」



「う〜ん、すっごい霧だな・・こりゃあ・・」





セダンには3人の男女が乗っていた。



運転席には黒衣の修道女・オリガ。



助手席には眼鏡にスーツ姿の男・山村 成一(やまむらせいいち)。



後部座席にはラフな服装の男・渡会 源二(わたらいげんじ)。



皆、20代そこそこだ。





《念のため、再度確認させていただきますが、

 この職場は永久就職、二度と家へは戻れません。

 ご家族、ご友人の方とも今生の別れとなりますが・・》



《――本当によろしいのですね?》



「・・・・」





静かな車のエンジン音を聞きながら、

成一は数日前の面接の際のオリガの言葉を思い出していた。



『一度就職したら二度と帰れない』という異常な確認。



その言葉を聞いた時、成一は先の知れない不安と共に、

いい様のない高揚感を感じていた。



魔都の都市伝説の1つにあげられる聖リトリス女学院。



そこに纏わる異常な噂はネットで予め知っていたからだ。





《では、これより山村さんと渡会さんを

 聖リトリス女学院へとお連れします》



《『こちら』は見納めになりますので、そのおつもりで・・》





先月、不当な扱いを受けて前の会社を辞めた成一は、

しばらくヤケになっていた。



その時に見つけた都市伝説からの人材募集のネット広告。



正直、魔都の都市伝説に疑いを持っていた成一はそこに応募し、

『もしも本当だったらマジで就職してやるよ』とばかりに

トントン拍子に話を進めてしまったのだ。



リアルでは大人しいが、ネット上では気の大きな人種の成一は、

都市伝説のインチキを暴いてブログのネタでもしてやろうと

思っていたのだ。



だが、この現実感のない霧の世界を見ると、

自分の浅はかさを呪わずにはいられなくなってゆく。



面白半分で取り返しのつかない判断をしたとの後悔と、

ネット上の淫靡な噂がもし本当ならとの期待が交錯していた。





「いやァ・・しっかし、オリガさん・・別嬪さんですなァ」



「・・どうも、ありがとうございます」



「なんと言うか、こう・・女の色気がプンプンするというか・・」





いつの間にか、やたらと耳障りな声が成一の耳に流れ込んできていた。



後部座席から顔を出して前を覗き込む源二だ。



生来の声の大きさに加えて、

最低限の社会常識も知らなさそうな発言内容。



それなりのキャリアを経てきた真面目な成一には、

それが到底自分と近い歳の人間だとは思えないのだ。





「そう、女豹って感じですよ、女豹!

 聖職者の裏に別人のような夜の顔とか、持ってそうですねェ〜」



「・・・・」



「・・いい加減にしたらどうですか!

 度会さん、貴方には社会人としての自覚はないんですか?

 そういうのはオリガさんへのセクハラですよ、セクハラ!」





そこで思わず声を荒げてしまった成一は、

居たたまれないように眼鏡を調えると『すみません』と繋げる。



オリガへの謝罪のつもりが、源二から悪びれた風もなく

『いいってことよ』と返されて額に青筋を浮かべるが、

それ以上の反論はグッと抑えた。





「お気遣い、感謝します・・山村さん」



「・・いえ」





そこで、ひと足遅れてのオリガからのフォロー。



『もう少しテンポよく返してくれれば・・』と思う成一だったが、

そこにはまだ続きがあった。





「ですが、お気になさらなくて結構ですよ。

 山村さんのおっしゃる社会人の自覚云々といったものは、

 この先は、ほぼ必要なくなりますので」



「あ・・」



「なんだか、ネットでは色々言われてますよねェ〜。

 エッロい女子校なんだとか・・」



「渡会さん? 魔都ネットの噂など、有象無象ですよ。

 実際に学院の中をご覧になればわかることです」





オリガは成一の不安と期待を弄ぶような笑みを浮かべると、

またアクセルを踏み込んだ。











聖リトリス女学院玄関口前に存在する事務局は、

黒衣の修道女たち執行部の根城だ。



事務局の薄暗い廊下から地下へと降りた先の応接室に、

落ち着かない様子の成一の姿があった。



一緒に学院にやってきたオリガと源二の姿はない。



源二は別の修道女に連れられてゆき、

オリガは急務が入ったとのことで事務局を出て行ったのだ。



他の執行部メンバーにここへ通されて2分と経たない内に、

成一はこの学院全体に感じる異様な空気に飲まれ始めていた。





《コンコン・・》



「失礼します」





不意にドアのノック音。



そこに続いた愛らしい声は、

不気味な修道女たちのそれとは明らかに毛色が違った。



部屋に入って来たのは、

やはり聖リトリス女学院の制服に身を包んだ女生徒。



ともすれば中学生にも見える小柄な女生徒は、

2年生・支倉 未尋(はせくらみひろ)だ。



事務局という死神の巣の中にあって、

恐怖を覚えていないのは聖水常用者たる所以だった。





「あ、あの・・こちらを」





大きな瞳で初対面の成一の顔色を伺いながら、

恐る恐る持っていたトレーを机の上に置く。



室内に紅茶の匂いがふわりと漂った。





「執行部のお姉さま方がこちらへお運びするようにと。

 よろしければ、どうぞ・・」



「あ? あぁ・・ありがとう。 いただくよ」





ぎこちない返事を返す成一の目は泳いでいた。



元々、成一は女性への耐性がある方ではないが、

それ以上にドキリとさせられるほど未尋は愛らしかったのだ。



正直、どう話を展開していけるのかはわからないが、

だんまりで未尋の気を悪くさせるようなことは避けたいと

成一は無理に言葉を搾り出す。





「えっと、君はここの生徒さんだよね?」



「あっ、はい・・

 2年I組・支倉 未尋と申します、お兄さま」





愛らしい声と姿でおずおずと呼ばれる『お兄さま』の甘美な響きに

眼鏡の下の頬を赤くする成一にペコリと頭を下げると、

未尋はちょこんと隣のソファに腰を下ろした。





「あ、私・・いや、僕は山村 成一というんだ、よろしくね。

 未尋くんは、ここへは執行部のお手伝いか何かで?」



「あっ・・恐らくそうだと思います。

 まぁ、何をするのかは未尋も伺っていないのですが・・」



「ふむ・・?」



「あ、あと、お姉さまがたから伝言です。

 お兄さまの担当のオリガお姉さまが戻るまで、

 しばらく時間をいただいてしまうかもしれない・・と」



「あぁ、じゃあもしかして、未尋くん・・

 それまで僕の話し相手に・・ってことかな?」



「ふふ・・そうかも、しれませんねっ?」





そう言って、未尋は先ほどまでより距離感の近い笑みを浮かべる。



その可憐な姿に思わずゴクリと喉を鳴らした成一は、

慌てて眼鏡を整える仕草でそれを誤魔化した。





「えへへ・・」



「ん? どうか、したの? 未尋くん」



「あっ、いえ・・未尋は『くん』付けで呼ばれるの初めてで、

 なんだか、ちょっと新鮮です」



「あぁ、それは・・お互い様じゃないかな?

 僕も『お兄さま』なんて呼ばれるのは初めてで・・

 その、なんというか・・ドキドキするよ・・」





『ドキドキする』という言葉を口にしてしまったことで、

成一は冷静を保とうと抑えていたドキドキが無視できなくなる。



無意識にまた眼鏡を調えつつ、

すぐ傍らにいる未尋をチラチラと覗き見てしまう。



清純かつあどけなさを残す顔に小柄で華奢な体躯、

控えめに膨らんだ胸元に人形のような手足。



じっと見続けていると、

ドキドキがドキドキだけでは済まなくなりそうな危うさが、

そこには確かに存在している。





「そうだ。 この学院での未尋くんたちの生活ってどうなの?

 何せ、名門だしね、充実したものなのかな?」



「あ・・えっと・・

 そこは・・かなり個人差があると思います。

 1年生の子たちなんかは、皆、かなり辛そうですし」



「あぁ・・慣れるまでが大変ってことか」



「そう、ですね」





両者の会話に生じた微妙なすれ違い。



そこに未尋は気付き、成一は気付いていない。





「そういえば、お兄さまは・・

 用務員募集でこちらに来られたのですよね?」



「あっ、うん・・まぁ、そう・・なるかな・・」



「どうして・・こちらを希望されたんですか?」



「えっ・・あ、はは・・

 何だか、未尋くん・・面接官みたいだな・・」





成一は即答を避ける。



少なくとも、自分が魔都の都市伝説たる

聖リトリス女学院に興味を持ったきっかけは、

可憐な少女には話せないような卑しい理由からだからだ。



しかし、だからと言って、面白半分で都市伝説の真偽を暴き、

ブログのネタにするつもりで応募したとも答えられない。



やはり、それも自分の浅はかさを露呈するだけだからだ。



成一はここが異常な場所だという雰囲気は感じ取っていても、

まだ真実の姿は知らない。



自分がネット上の淫靡な噂の数々から得た情報と、

実際にここで生活する未尋の認識の差がわからないことも

困惑を強めていた。





「・・はは、は・・」



「ごめんなさい、お兄さま。

 やっぱり、ちょっと答えづらいですよ・・ね」



「え・・えっ?」





成一の態度に何かを察してくれているかのような、

少々複雑そうな未尋の笑み。





「先ほど、未尋が言った

 『1年生が辛い想いをしている』というのは・・

 単純な生活環境の変化や勉強のことではありません」





未尋の顔色が神妙さを帯びてゆく。



ジワジワと近寄ってくる都市伝説の気配を感じ、

成一はまた『ゴクリ』と喉を鳴らした。





「この学院の規則には『おつとめ』というものがあります」



「・・『おつとめ』?」



「この学院が宗教系であることはご存知ですよね?」



「ああ、リトリス教だよね。 もちろん、わかっているよ」



「未尋たち全ての女生徒は、聖リトリスの乙女として、

 無償の愛で彷徨える者たちを導かなくてはならない。

 そう、教えられるんです」



「えっと、無償の愛? 彷徨える者たち?

 宗教用語かな? ちょっと抽象的でよくわからないな・・」



「・・お兄さまには、

 直接、お見せした方がよいのかもしれませんね」





不意に隣で未尋が立ち上がる。



何かしらただならぬ雰囲気に、成一は不思議と動けなかった。





「あの・・お兄さま?

 つかぬ事を・・お伺いしますけれども?」



「あ、なんだい? 未尋くん」



「未尋は・・その、お兄さまの目に、どう映っていますか?」



「あ・・ああ、未尋くんはとてもチャーミングだよ。

 はは、ちょっと・・目のやり場に困るくらいにね。

 あまり言うとセクハラになりかねないし、黙ってたんだけど・・」



「・・よかったです。

 ちなみに未尋も贔屓目無しに素敵なお兄さまだと思っています」



「あ、ありがとう。 それはちょっと、本気で嬉し――」





まるで突然、鼻先に銃口を突きつけられたように押し黙る成一。



どんな男も黙らせてしまう魔性の光景が目の前にあるのだ。



魅惑のショーステージにかけられたミニスカートという幕が、

小さな手でゆっくりと持ち上げられてゆく。



ついに魔都の淫靡な都市伝説が開演しようとしているのだ。



成一は、そこから目を離すことができなかった。





《・・スッ》





かすかに見えたのは、愛らしいオレンジ色の柄物パンツ。



手先は幕の裏側へと滑り込むとパンツを下ろし、

未尋はそこから片足を抜く。





「・・お兄さま?」





口元までおずおずと上げられた未尋の小さな手。



恥らう人差し指がクイクイと動き成一を手招きする。



牡の本能に首輪とリードをつけてゆく。



繋がれてしまった成一は、もう逆らえなかった。



引き寄せられてゆく頭を小さな手が掴み、

いよいよ魅惑のステージ上へと導いてゆく。





「ハァッ・・ハァッ・・」



「・・んっ・・ふぅぅ・・っ」





ミニスカートの下に顔を埋める成一は、

荒れた息遣いで『そこ』に舌先を暴れさせていた。



仄かに漂う少女の匂いに脳を溶かされて思考が働かないのだ。



舌先が捉えた小さな小さな穴を唾液で濡らし、

奥底からトロリと垂れてくる別の液体はすかさず舐め取る。



その人間的な理性を感じさせない一心不乱な姿は、

まるで長いお預けのあとに大好きな餌を与えられた犬のようだ。





「・・待って」





そこで――ストップ。



成一の頭に添えられていた小さな両手が、

少女の弱々しい力で押し戻し『待った』をかける。



未尋に支配された牡の本能は、その制止にも逆らうことができない。



お預けを喰らった犬が『クゥ〜ンクゥ〜ン』とやるような顔のまま、

主から与えられる次の餌を待つ成一。



チャックの開かれる『ジー』という音。



その中を弄って何かを取り出す肌と布のすれる音。



そして、ソファに座る成一の腰の上に、

小さな未尋の腰がゆっくりと降りる。



『2つ』が『1つ』に繋がってゆく。



かすかな水音を立てて、成一に極上の餌が赦される。





《ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!

  ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!》



「はぁん・・あっ、あっ、あっ、あッ」



「ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・

 みっ・・みひろ・・さま・・ご主人、さまぁ・・っ」



「くすっ・・お兄さまったら・・よしよし、ですっ」





首輪とリードをつけられ、餌付けまでされた成一の中の『牡』は、

10歳近くも年下の少女を自分の主として認識していた。



未尋は美味しい餌をくれる、愛しい愛しいご主人様なのだ。



しかし――





《――ガララッ》



「すみません、お待たせしました」



「・・あ・・っ」



「・・オリガ、お姉さま・・」





最悪のタイミングだった。



そこに現れた修道女・オリガの姿が、

成一を犬から人間へと引き戻してしまう。



目撃された自分の痴態に呼吸すらできないまま、

ゆっくりとオリガに吸い寄せられてゆく成一の視線。





「オ・・オリガさん、申し訳ございません・・ッ!」





それは『進退ここに窮まれり』の状況・・かに見えた。



だが――





「後ほど、どんな処分も慎んでお受けしますので・・

 どうか、今、このひと時だけはお見逃しくださいッ!!」



「え・・っ? お、お兄さま・・っ?

 きゃっ・・あぁ〜んっ」





成一は、これまで自分が培ってきた全てをかなぐり捨てるように、

『オォォ〜〜!』と雄叫びを上げて行為を無理矢理再開させる。



その気になれば折れそうな華奢な腰をしっかりとハグし、

控えめな胸元に顔を埋めたままピストンを打ち上げる。





《ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!

  ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!》



「あっ・・ちょ・・お兄さまっ!

 ちょ、ちょっと・・はうぅ〜〜んっ」



「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・

 あぁっ、みひろさまっ! 僕の愛しいみひろさまっ!」



「あんっ・・あのっ、えっと・・んんっ

 お姉さま、これは・・そのぉ・・」



「あぁ・・構いませんよ、支倉さん。

 貴女は元より、このためにお呼びしたようなものですから」



「え・・っ?」



「ふふっ、山村さんにも、ちゃんとお伝えしたつもりなのですが・・

 社会人の自覚云々は、もはや必要ない・・と」



「あの・・お姉さま?」



「ほらほら、よいのですよ支倉さん?

 聖リトリスの乙女としておつとめを果たしてください」



「うぅ〜・・わっ、わかりました。

 では、お姉さまの御前で少々はしたないですが・・

 ・・失礼いたしますっ」





成一の強行に困惑気味だった未尋だが、

晴れてオリガの許可が下りたことで再び男女が向き合う格好となる。



成一の頭をギュッと抱き込んで、自らも腰を降り始める。





《ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!

  ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!ちゃくッ!》



「んふふっ・・よかったですね、お兄さまっ?

 オリガお姉さまから、ちゃんとお赦しがでましたよ」



「は、はいっ・・嬉しいです、みひろさまっ」



「さぁ、お兄さま・・?

 未尋と、たくさんたくさん仲良くしましょうねっ」



「はいっ・・はいっ!」





成一が一心不乱に、未尋がキュートに腰を絡めあうセックスを、

対面のソファーに座ってゆったりと眺めるオリガ。



口元にそっと指を当ててペロリと舐める。



普段ほとんど感情を見せない修道女たちも、

こういう時だけは牝の本能を抑えきれないようだった。





「ふふっ・・これだから、人間という生き物は・・」





人非ざるおぞましい気配を滴らせて恍惚に濡れてゆくオリガ。



そんな、地上に顕現した魔性に気付くこともなく、

成一と未尋も快楽の高みへと続く階段を駆け上ってゆく。



成一のペニスはビクン、ビクンと。



未尋の膣壁はキュンッ、キュンッと。



次第に制御を離れて暴走してゆく。





「みひろさまっ! みひろさまっ!

 僕っ、みひろさまのオマンコで・・イキますぅっ!」



「はいっ・・未尋も・・一緒にぃ・・っ」



「うっ・・うぅっ! うあぁぁ・・ッッ!!」



《――ドプッ!! ドプドプドプ・・ッ!

 ・・ドクンッ! ・・ドクンッ!》



「きゃンンッ!

 はっふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」





――膣内射精。



未尋の子宮に強烈な快感と共に精液が打ち上がり、

たまらず反り返る背の軌道を追いかけるように唾液の雫が舞う。



ピチッと小さな音を立てて自らの頬に落ちたその雫を、

オリガは指ですくって美味しそうに舐め取る。



そして、また魔性の笑みを浮かべるのだった。











翌朝。



あの後、特にオリガからのお咎めもなかった成一は、

既に先輩用務員たちが寮にいない時間帯であるとの理由から

事務局の仮眠室で未尋と共に一夜を明かしていた。





「さぁ、お兄さま、そろそろ事務室に顔を出しにいきましょう」



「あっ、はいっ! みひろさ――」





言いかけた成一の口元を小さな人差し指が塞ぐ。





「えぇ〜っと・・未尋の方が『さま』付けで呼ばれるのは、

 やっぱり、その・・少しだけ恥ずかしいので・・

 エッチの時だけにしてくださいっ」



「あ・・あぁ、うん・・そうだな。

 そのっ・・すまない、未尋くん・・」



「いいえ〜」



「でも、その・・また逢っては、くれるんだよな・・?」



「はい、それは悦んでっ」





未尋と手を繋いで、成一が仮眠室を出てゆく。



それが成一が霧の牢獄で迎えた初めての朝だった。


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