【逆臣ゲルニス】
魔女とせせらぎの月12日 24:00 キルヒハイム城内

 

 その日、ゼーペストリア西の大国として800年の歴史を綴って来たキルヒハイム国は、まさに終焉の時を迎えていた。
 国のシンボルともいえる美しい大理石の王城はすっかり朱に染まり、真に国を愛していた兵士たちの無残な躯があちこちに散らばっている。
 また、血生臭い仕事を終え、勝利に酔い狂う謀反の兵士たちは、その溢れんばかりの喜びを、城のあちこちで手枷に繋がれた美しい侍女たちにぶつけている。
 まさに狂乱の宴だ。
支配者が変わっても、変わらず荘厳な様相を漂わせる城内の風景が、その痛々しさを一層引き立たせていた。

 「ふん、他愛もない・・♪」
 むわっとした血肉の香りが充満する廊下を、コツコツとブーツを鳴らしながら歩いているのは、30歳前後の男だ。
 肩元まで伸びた美しいブロンド髪に装飾・宝石・豪華絢爛な服装・・まるで舞踏会にでも行くかのようなその姿だが、その顔だけが印象をぶち壊している。
 垂れた薄目の三白眼に、普通にしていてもすねたように見えてしまう唇に、明らかに顔とバランスが合わない大きな鼻、そして噴出したニキビの群れである。

 「さしものキルヒハイム正規軍も、ボクの知略にかかればこんなものだね♪」
 もう35といういい年であるにも関わらず、まだまだ『甘やかされて育ったお坊ちゃん』という印象が抜け切らないこの男。
しかし彼こそがこの謀反の首謀者、ゲルニス・リブルヘイズその人であった。
 ゲルニスは宮廷魔導師たち顔負けの優れた魔術の才能と実力を備えており、またとかくずるがしこく頭が回る。
 誰からも好かれる老王が張り巡らせた秩序と平和の網の中、ゲルニスは人知れず暗躍を繰り返し、欲望という名の禁を振りかざして、国の実力者たちを狂わせていったのだ。
 そして、綿密すぎるほどに整えられた今回の計画は、激流の如き勢いであっという間に城を埋め尽くしていた。
 だが・・

 「ゲルニス様、申し上げます!!」
 「なんだ?」
そこに駆け込んできたのは、浮かない顔をした1人の新米兵士だった。
年はまだ15、6といったところだろうか、真面目だが気が弱そうで、いかにも使い走りといった感じの青年だ。

 「シアフェル姫の姿が、城内のどこにも見当たりません!」
 「…んん?ふむ、そうか」
 新米兵士は、新君主たるゲルニスのその反応に不思議そうな顔をした。
 こういった謀反を起こす際は、王族皆殺しは鉄則である。
 既に老王とその后や親族たちは血の海に沈んでいたが、今年13になったばかりの若き王女だけが行方不明なのだ。
 彼女はその名前1つだけで、ゲルニス率いる新キルヒハイムに対する反乱軍のシンボルとなることができる、最も危険な相手である。
 だが、ゲルニスはその醜い顔に含み笑いすら浮かべていた。

 「あ・・あの・・」
 「ああすまんすまん、報告ご苦労だったね。お前もゆっくり宴を楽しむといい」
 「え・・しかし・・」
 「ん?・・・しかし、なんだね?」
 「あ、いえ・・・なんでもありません・・」
新米兵士の動揺っぷりを見て、ゲルニスはニタリと口の両端を吊り上げる。
「・・・ふむ。君はまだ若いし、見たところ真面目一辺倒な人間のようだ・・」
 ゲルニスはまるで教壇上のインテリ教師かそうするかのように、簡単なジェスチャーを交え、コツコツと行ったり来たりを繰り返しながら話を続ける。

 「君みたいな人間は、いわば『白紙』だ」
 「・・白紙?」
「そう、白紙だ。さて、では白紙は何のためにある?何かを描かれるため、いや、何かに染まるためにあるのだよ。そうなってこそ、『白紙だったもの』は初めて意味を持つのだ・・」
 「は、はぁ・・」
 「・・オイ、お前たち!」
 そこで、ゲルニスは廊下に隣接する扉の奥から、兵士たちに若い侍女を1人連れて来させる。
 屈強な兵士に部屋から連れ出された侍女は、ところどころ引き裂かれたドレスの上から重々しい木製の手枷をされた、ピンク髪のポニーテールの娘だ。
 その小さな体には、ところどころに生々しい性交の痕跡がこびりついているが、それでも他の侍女たちに比べればまだマシな方だった。
 ちょうど年の頃が同じくらいに見える新米兵士と侍女だったが、次の瞬間、お互い驚いたような顔を見合わせていた。
 
 「・・クラリネさん・・!」
 「セイル・・まさか、貴方まで・・この謀反に?」
 「あ・・いや・・その・・」
 2人は別に恋仲とか主従関係とか、そういうものではない。
だが、片や新米兵士・片や新米侍女としての連帯感のようなものがあり、城内で顔を見合わせると、いつも特に親しい笑顔を交わしあっていた。

 「ほ〜う、君がセイル君で、こっちがクラリネ嬢か。顔見知りだったとはねぇ」
 「あっ!・・貴方はゲルニス!」
 ゲルニスの姿を視界に捉えるやいなや、クラリネは幼さの残る顔に怒りを露にし、噛み付かんばかりに怒声を浴びせる。
 が、後手に繋がれた手枷を後ろの兵士に押さえられ、つんのめってしまうだけだ。
 一方、セイルもゲルニスに前を取られ、彼の後ろからただ黙ってやり取りを見ている事しかできなかった。

「貴方がここまで育ってこられたのも、平和なキルヒハイムあっての事でしょう!なのに、貴方は恩を仇で返したのよ・・この裏切り者!絶対に許さないんだからッ!!」
 「まあ、いつの世も、何か新しい事をしようとする者には風当たりが強いものさ。それは改革者として、謙虚に受け止めていくつもりだよ♪」
 「これは、改革なんかじゃない!単なる破壊と殺戮よ!この意味のない戦いで、心優しい愛国者たちが何人死んだと思ってるの!?貴方は、どれだけの人間を殺したら気が済むの!?」
 「ハハハ・・殺したとは心外だね。染まらない『白紙』など、何の存在意義もないだろう?だから、必要ないゴミを掃除しただけだよ・・それに、いなくなってしまった分の人口は、君たち若き女性諸君が頑張ればすぐに元に戻るはずさ、愛国者として頑張ってくれたまえ♪」
 「そ・・そんな事ッ・・うぐ・・」
 「まあ、詳しい話はあとで兵士づてでも話しておいてくれたまえ」
 ゲルニスの合図で、クラリネの後ろにいた兵士が彼女に猿轡をかませる。
 その様子をクスッと笑って見過ごすと、ゲルニスは肩越しに後ろのセイルを見やる。
 相手を馬鹿にしたようでいて、また値定めするかのような目つきだ。

 「セイル君・・ボクは君のような人間は好きだよ」
 「え・・あ、有難うございます」
 「慎ましい幸せのために身を粉にして働く・・実に美しい『白紙』だ。そして、元が美しければ美しいほど、染まったものもまた美しくなる・・」
 「・・・・」
「時に、セイル君は女を抱いた経験はあるかね?」
 「え・・あ、いや・・えと・・」
 「ふふ、ないんじゃないのかね?君の目にはまだ野性の輝きは宿っていない・・そう、まだ君は・・」
 そして、また始まる醜いナルシストの陶酔。
 ゲルニスは肩を大げさに回して振り替えると、後で縮こまるセイルの顔を覗き込み、そしてその股間を悩ましい手つきでまさぐり始める。

 「・・『これ』を女の中にぶち込んだ事はない・・違うかね?」
 「・・は、はい・・その・・通りです・・」
 「うんうん、では続けて聞こう。君は、その行為に対して強い興味を持っているね?」
 「・・ま、まぁ一応・・」
 「うん。では、嫌がる女をその腕でむりやり組み敷いて快楽を貪るような事に対しても、やはり強い憧れがあったかね?」
 「あ・・えとぉ・・」
 「正直に、答えたまえよ・・」
 セイルを覗き込むゲルニスの眼差しが、そこで妖しく細まる。
 ズボン越しの股間に纏わりついた卑猥な指先が、その動きのリズムをあげてゆく。
 ゲルニスの一挙一動が、セイルの人間性を解いてゆく。
 そして・・

 「は・・はい、ありました・・ッ!」
 ぎゅっと目をつむってセイルが必死に搾り出した言葉が、それだった。
 その勇気をゲルニスは悪魔の笑みで称える。

 「結構だ、よく言ったね、セイル君。では、君の望んでいた褒美を与えようじゃないか!」
 「・・はぁ・・はぁ・・はい」
 セイルの返事は、既に荒げた吐息にのまれそうになっていた。
 その視線は、先輩兵士に取り押さえられたクラリネの体に、情熱的なまでに集中している。
 先程の言葉と共に、セイルは理性をも吐き出してしまっていたのだ。
 その変貌振りには、怒りを露にしていたクラリネさえ驚愕の表情を浮かべるほどだった。
 ゲルニスはコツコツとお気に入りの靴音を立ててセイルの後ろに回り込むと、彼の耳元に口を近づける。

 「セイル君。君の目の前に、可愛らしい女の子がいるねぇ。それも、可愛そうに手を繋がれているよ。あれでは何をされても、満足に抵抗もできなさそうだねぇ・・?」
 「・・はい」
 「そうしたら、こんな可愛い女のコを前に、男の子である君がすべき事はなんだ?」
 「はぁ、はぁ・・はい、セ・セックス・・です」
 「ほう・・では、その『セックス』とはどんな事なんだ?」
 「ハァ、ハァ・・はい。ぼ、僕のチン○ンをクラリネ・・のオマ○コにぶち込んで・・何度も何度も入れたり出したり・・して、気持ちよく射精する事です・・」
 「・・ハハハ、まあその通りだ。では、行きたまえ!」
 「んーッ!んんーーッッ!!」
 ゲルニスの手によって、セイルのズボンは一気にずり下ろされる。
 それは、猛獣の檻を開け放つのに似ていた・・

 「うわあああああああ〜〜〜ッッ!!」
 「ん・んぐぅーッ!!」
 既に何人もの兵士たちに女の体を貪られていたクラリネだったが、今まさに襲い掛かってくるセイルは、今の彼女でさえも恐ろしいと感じるような眼差しを爛々と輝かせている。
 それは、自分の記憶の中にある優しい青年の姿とは、既に一致しない形相と成り果てていた。

 「おい、君。君は、彼女の猿轡を外したら、もう下がっていいぞ」
 「へい・・」
 拘束していた兵士は場を去り、また猿轡も外されたというのに、今のクラリネは俎上の鯉に他ならなかった。
 体が恐怖に萎縮してしまい、投げ出された床から立ち上がる事すらできないのだ。
 ただ混乱した頭だけがグルグルと思考を巡らせるが、そこから何の答えも出ないうちに、そのか弱い両足はセイルの両脇に拘束される。
 こうなっては、もはやスカートや下着など、男の欲望に対して何の妨げにもならない。
 肉が肉を迎え入れるという安易な答え以外、そこには存在し得ないのだ。

 ――パンパンパンパン・・!!
 「うあああああっっ!オ・・オマ○コだ、オマ○コだぁぁ〜〜ッ!」
 「い・・いやぁぁぁぁぁ〜〜ッッ!!」
 「ほら、僕とセックスできて、クラリネもオマ○コ、気持ちいいだろ?・・気持ち・・いいんだろォ〜〜ッッ!?」
 「やぁッ!やだぁ・・セイル、やめてぇぇ〜〜ッッ!!」
 「ははは・・僕も・・僕も、気持ちいいよォォ〜〜ッッ♪」
 「・・ち、ちがッ・・うぅっ、んぐぅぅっっ・・」
「あ、出る・・僕、もう出るよ・・出ちゃうよォ・・んううぅぅぅっっ!!」

――ビュク・ビュクゥッ!!

「やだッ・・や、やめ・・ッ・・ンあああああああ〜〜〜ッッ!!」
 喜びにまみれた叫びと共に背を仰け反らせ、めくるめく肉の快楽に震える2つの若い肉体。
全身から噴出した汗は、牡と牝のフェロモンを辺りに一層強く漂わせ、場に強烈な生命力を充満させてゆく。
そして、それに誘われるように次の行為が始まっていた。

 「ハァ・・ハァ・・僕の射精で、こんなに気持ちよさそうな顔しちゃってる・・。そうか、わかったぞォ・・・クラリネは僕の赤ちゃんを産みたいんだな・・っ♪」
 「・・い・・いやぁ・・やだぁっ・・」
 「ははは・・よっし!頑張って産ませてあげるからねェェ〜〜ッッ♪」
「うぐぁ・・た・・助けてぇぇ・・」

 「ハハハ、愛の営みとは、いつの時代も美しいものだねェ♪」
 目の前で繰り広げられる趣深い見世物にすっかりご満悦のゲルニスだったが、そこで本題を思い出す。
 彼は今、ここでこうしている時ではないのだ。

 「おっと・・ボクとした事が、自分の恋愛を忘れるところだった・・」
 そんな言葉を残して、場を立ち去るゲルニス。
しかしそのあとも、そこには永遠に変わる事などないかのような、牡と牝の風景が続いていた・・


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