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マルダー大陸の大半を領有する超大国・シリル帝国。
魔族の侵攻で危機に瀕する人類諸国が絶望に沈む中、諸国連合の盟主たる帝国も善戦空しく蹂躙されつつある。
帝国の軍事力は強大、帝国騎士団も精兵揃いであったが、魔族との戦力差は如何ともし難く、集団で包囲攻撃を敢行するもたった一体の最下級デーモンが無造作に剛腕を振る度に騎士たちの五体が千切れ飛び骸に変わるばかり。
「ギャギャギャ!脆過ぎる…人間など虫ケラ以下よ!皆殺しだァ!」
「ううっ…奴らには我ら人類の武器は効かない…もうだめだ…おしまいだぁ…」
「諦めるな!我らが引いたら、帝都の臣民はどうなる!?」
「団長…しかし…」
「まだ希望はある!あのお方…皇女殿下…いや、勇者様さえ居られれば!それまで持ち堪えるのだッ!」
団長の鼓舞に、一般兵の顔に希望が宿るが…
「ギャギャーッ!死ねェーッ!」
「こ、これまでかッ!」
兵たちが迫る死に目をつぶり、歴戦の騎士団長も覚悟を決めるが…
「そこまでだ、邪悪なる魔族どもッ!」
上空から凛とした美声と共に、紅の長髪を靡かせ飛竜を駆る美少女が降り立った。
シリル帝国の皇族以外を決して跨がせぬ銀月竜を駆る竜の騎士。
まだあどけなさも残るが、決意を秘めた深紅の瞳。凛と誇り高い美貌には高貴さが滲んでいる。
引き締まったスレンダーな肢体を包むは、一般冒険者が着る質素な革鎧にもかかわらず、内に秘める肉体美を隠し切れない。
「お…おおっ…姫様…クローディア皇女殿下…」
涙で震える騎士団長に、クローディアが優しく微笑む。
「よくぞ持ち堪えてくれたね。君たちの献身と勇気で、我が臣民は救われたよ。心から感謝する」
血溜まりに倒れ伏している兵士たちに目線を合わせ、跪いて礼を述べるクローディア。
「おおっ…姫殿下…なんと勿体無きお言葉…!」
皇女の言葉と態度に感涙する騎士団長ら兵士たち。
「君たちは下がってて。ここからはこのボク、シリル帝国第一皇女にして銀月の勇者クローディアが相手をするよ」
「ギャギャギャ!小娘一人で何を盛り上がっている人間共!」
「し、しかし、よく見れば超極上級の美少女ではないか…」
「グゲゲ、だが丸腰で何が出来る?」
クローディアを見て嘲笑と欲望を滾らせる魔族ども。
魔族の指摘通り、クローディアは非武装に見えた。
「ふっ、君たち魔族は、ボクの勇者の力を知らないのか?ならば見せてあげるよ」
静かに宣言するや、レザーアーマーを脱ぎ捨てるクローディア。
「ひ、姫殿下!?何を…!?」
クローディアの行動に、事情を知らぬ下級騎士が驚愕する。
「黙っていろ。あれこそが姫殿下の、いや…銀月の勇者クローディア様の…」
事情を知る騎士団長が声を押し殺す。ゴクリと生唾を飲む。
その理由は即座に兵たちに伝わってゆく。
トサッ…はらり…
革鎧だけでなく、下着を含めて一切の着衣を脱ぎ捨てるクローディア。
帝国兵と魔族共の前に、一糸纏わぬ肢体を晒してゆく。
「お…おおおっ!」
帝国軍・魔族軍双方から感嘆の声が上がり、無数の視線が美少女の裸身に釘付けになった。
燃えるような赤い長髪を肩までさらさらと靡かせる、深紅の瞳の美少女。
その肢体は勇者として幾多の激戦を繰り広げてきたにも関わらず傷も染み一つなく、夜の銀月を反射したが如く白く輝く。
精悍さと可憐さを併せ持つ美貌は、衆人環視に年相応の少女らしい羞恥でほんのりと桜色に染まる。
皇女でありながら日々過酷な武芸鍛錬を欠かさぬ身体はシャープに引き締まり、17歳としては豊かに実りつつある美乳を、羞恥故にかざした両手で隠し切れず、むしろ皇女らしい恥じらいと魅力を一層搔き立てる。
一糸纏わぬ皇女勇者のあまりの美しさに、帝国兵は皇女殿下への畏れ多さを忘れて見入り、直前の死の恐怖も相まって、股間を勃起させた。
「ううっ…仕方がないとはいえ、やっぱり恥ずかしいな…」
手ブラで恥じらいながら、凛とした勇者の眼差しで魔族軍を睨むクローディア。
銀月の聖装衣・神罰執行形態……解放ッッ!!!!
白く輝く裸体が一層神々しく輝き、次の瞬間。
クローディアは銀月に輝く聖装衣を纏う。
一見軽装に見えるが、神聖な守護結界は魔軍司令級の極大邪術をも弾く鉄壁の防御。
右腕に装着するは、輝剣クラウ・ソラスの神気を凝縮した籠手・銀腕。
シリル帝国の皇族に伝わる神器であり、皇族のうら若き処女にしか纏えぬ、人類の切り札であった。
「太祖たる聖女様より受け継ぎしこの聖装衣のお陰でボクは勇者として戦えるんだ。いつも服を脱がなきゃならないのが恥ずかしいけどね」
聖装衣の性質上、人類のあらゆる物質はその神力を阻害してしまい、一糸を纏っただけで著しく効力が落ちてしまう。
適合するのは唯一、シリル皇族の血脈を継ぎし者の、それも一切の穢れ無き精神と肉体だけである。
故に纏う資格を持つものは現在、シリル帝国第一皇女クローディアと、第二皇女エリスの二人のみ。
エリスはまだ幼く、可愛い妹と臣民を護る決意を固めたクローディアが受け継いだ。
以来、皇位継承権第一位の皇女でありながら、穢れなき決意を胸に戦い抜き、いつしか銀月の勇者姫と呼ばれていた。
神々しく輝く戦乙女の登場に気圧される魔族軍だが。
「ええいっ!恐れるな!たかが小娘一人、我ら魔族の全力邪術攻撃でーッ!」
人間を圧倒する魔力量を持つ魔族の大軍勢から放たれる攻撃邪術の飽和攻撃がクローディアを襲う。
「こ、皇女様ーっ!?」
着弾し爆音と業火に包まれるクローディアに絶望しかける一般兵たち。
「グフフ、小娘め跡形も無く消え去りおったわ」
「ゲヘヘ、超極上級の美少女だったのに勿体無かったぜ…な、なにぃ!?」
爆炎が晴れると、かすり傷一つ負わず悠然と佇む美少女がいた。
「効かないよ。さあ、ボクの臣民と兵たちにしてきた事の報いを受けるんだ…」
「ヒッ…ヒィィィッ…」
「受けよ…リアファルの咆哮!!!!」
「アギァアァァッ!!?」
銀月に輝く籠手の殴打。
ただそれだけで、魔族の大軍勢が消し飛び、大地が割れ裂け、粉砕された魔族の骸を飲み込んだ。
音速を遥か超える攻撃速度に遅れて、大轟音が響く。
呆然と見守る帝国軍。数瞬の沈黙の後。
「圧倒的だ…これが銀月の勇者様…!」
「うおおおおおっ!姫様ーっ!クローディア皇女殿下、万歳ーっ!」
「馬鹿者。あのお方は皇女殿下であらせられる以上に…勇者なのだ。我らが人類の希望なのだッ!」
騎士団長の言葉にハッとする兵士たち。
「うおおおっ!銀月の勇者姫!クローディア様、万歳ーっっ!!」
大歓声を浴びるも謙虚に微笑むクローディア。
「いや、君たちが命を懸けて戦ってくれたお陰さ。君たちはボクの…帝国の誇りだよ」
「…っ!姫様ぁぁぁ…」
感極まり号泣する騎士たち。
「…で、その…お願いだから君たち、ボクから目を離すか目を瞑ってくれないかな…」
「…は?」
兵たちが戸惑った瞬間。
眩い銀月の輝きを放った後、再び一糸纏わぬ裸体を晒し手ブラで恥じらう美少女がいた。
…戦いの後。
「うう、この恥ずかしさには慣れないなぁ」
普段着の革鎧に着替えて帝都の皇城に戻ったクローディアは嘆く。
聖装衣は強大だが、装着時間に限りがあり、戦場到着前に纏っては戦地で時間切れしてしまう故、飛竜で駆け付けたその場で装着する必要があった。
故に、戦場の只中で全裸にならねばならぬ定めであった。
「おねえさま!おかえりなさい!お怪我をされてないかわたし、心配で…ぅぅ…」
今年10歳を迎える可憐な美少女がクローディアに抱き着く。
シリル帝国第二皇女エリス。
黄金色に輝く金髪にサファイアの瞳の美少女。無邪気で天真爛漫な上に慈愛に溢れ幼くして皇女の魅力開花させつつある、帝国臣民からの人気も絶大であった。
「ボクは平気さ、エリス。ボクには銀月の聖装衣のご加護があるし、それに…我が帝国臣民、そして可愛い妹を絶対守るって決意があるから、負けたりしないさ。何があっても、決して…」
大好きな姉を案じて涙目になる妹エリスに、力優しく宣言するクローディア。
7つ下の妹エリスが生まれた時、母である女帝は命を落とし、幼いクローディアは母に代わり妹を守っていこうと決意した。
それから7年。
帝位に就くよう口酸っぱく迫る宰相らの諫言をかわしてまで、勇者として戦ってきた。
(ボクは勇者の力で妹を、臣民を護れればそれでいい。皇帝の座はエリスが就けばいいさ。エリスはボクよりもずっと聡明な子だし、きっと帝国を…いや、人類を正しく導いていけるはず…)
姉妹睦まじい時が流れ、一時の安らぎをクローディアが感じた時。
《クックックッ…隙ありだ!エリス姫はワシが頂いたわい!ヒッヒッヒッ》
「きゃあぁぁっ!おねえさまぁぁぁっ!」
「っ!?エリス!!」
ズズズズ…突如現れた影から醜悪な魔族の老人が出現、空間の歪みにエリスが囚われてしまう。
「クヒヒ、ワシの名は異界召喚士!とある異世界で吸血鬼の怖い女に殺されたと思ったら何故か異世界転生してて、今はこちらの魔族軍の客将として…」
「黙れどうでもいい!エリスを…ボクの妹を返せッッ!!!」
迅速な判断で刺突剣を繰り出すクローディア。
鍛え上げられた剣技は聖装衣を纏わずとも剣聖の域に達している。
「ヒエッ!危なっ!ヒヒヒ、だが一瞬遅い、既にエリス姫はワシの転送魔術で送ってやったわ。おっと、ワシに手を出すなよ小娘?ワシを殺せば可愛い妹の手がかりが永久に失われるからのぉ」
「っ…!」
唇をかむクローディアに下種な声で囁く異界召喚士。
「ヒッヒッヒッ、妹姫を返して欲しくば、ワシの転送魔法陣に入り追ってくるがいい。無論、皇女殿下お一人でなぁクヒヒヒヒ!」
「くっ…!当然だ!絶対にエリスは渡さないッ!君たち魔族を打ち倒し、必ずエリスを取り戻すッ!」
凛と宣言し、躊躇なく禍々しき歪空間に身を投げ出すクローディア。
「キヒヒヒ!戦闘力は圧倒的な銀月の勇者姫といえど、所詮は愚かな小娘よのぉ〜。肉親の情というくだらぬ感情に囚われねば、最強でいられたものをキーッヒッヒ!」
哄笑する異界召喚士。
シリル帝国いや人類圏の至宝と謳われた幼き姫、最愛の妹を取り戻すべく死地に飛び込んだ人類の希望たる銀月の勇者姫、彼女たちの行く手には卑劣な罠が待ち受けていた。
つづく。
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