それは運命だったのだろうか…
海を挟み、二つの大陸で二人の英雄によって二つの巨悪が同時に倒され、二つの戦争が終わった
ひとつは、アカネイア大陸でスターロード・マルスによって地竜皇帝メディウスが
ひとつは、ユグドラル大陸でシアルフィの公子・シグルドによって闇司祭マンフロイが
そして野望の名は…大陸支配

だが、二つの巨悪は赤く光る宝石の剣をその身に受けながらも、最期に言い遺した
「我が野望は滅びぬ。必ずや我が思いを受け継ぐ者が現れ、お前たちの前に立ちはだかるだろう」と

…そして時は流れ
一ヶ月後、戦の爪痕深き二つの大陸を、それは同時に襲った
海に、新たな大陸が現れたのだ
新たな大陸は二つの大陸を繋ぎ
戦争で多くのものを失った人々の心に希望を与えた
きっとこの先には今よりも幸せになれる楽園があるに違いないと

人々は知らない
その先にあるものは混沌と混乱であることを

やがて新たな大陸で二つの大陸の人々は出会った
…大きな戦争経てもまだ、あるいは経たからこそか…人々は愚かなままだった

それから半年の後、この物語ははじまる
奇跡の生還を果たした一人の少女騎士と、悪魔の剣の下に集まった48人の男達との出会いから…


Prease fight! My Knight.
その序
『それでもまだ許されたいと思うのか』


1、
語り カチュア

 もう見ることは叶わないと、心のどこかで思っていたこの空は、今日も澄んで青かった。

 私がこのアカネイア大陸…今はマルス様によって全土統一され、”統一アリティア”と呼ばれている…を遠く離れ、隣のバレンシア大陸に渡ってから五ヶ月。バレンシアの内乱を終結させ、統一アリティアの特使としての任務を終えた私は、その旨をマルス様に伝えるため、上級天馬(ファルコン)に乗って、故郷旧マケドニア王国の空を飛んでいた。
 今は敗戦国ドルーアの民・マムクート族の居住地として定められた故郷は、私達人間族が入る事は許されない場所。
未だマムクート族への差別の風当たりは強く、両者が手を取り合うにはまだ時間が掛かるとのマルス様のお考えによる措置だった。
 大賢者と称されるガトー司祭が旧王国のほぼ全土に結界を張り、人間とマムクート、そしてドラゴンが…マムクートは竜石と呼ばれる石の力によってドラゴンに変身できる種族。だから人々はマムクートを恐れ、そして迫害した…通過できない様にした。だから私は、故郷に帰る事ができない。…いえ、できたとしても、まだ帰れない。私は、私達は、まだ許されてはいないから…。

「…行くわよ、アクア。アリティア城までもう少しだから」

 私はアクア(私の天馬の名前。目が海の水の様な青だからアクア)にそう告げると、鞭を入れスピードを上げる。もうすぐだ、もうすぐ、私の任務は終わる…。


2、
語り カメラアイ

 ここはアリティア城…統一アリティアの政治的中心であり、英雄マルスの生まれ故郷。その城壁の上を、30人は居ようかという弓兵が周り、守っていた。

「ジョルジュ隊長!」

 その弓兵隊の一員とおぼしき緑色の髪の青年が、金髪の弓兵に声をかけた…いや、何かの報告のような姿勢だ。ジョルジュと呼ばれた男は、遠くを見据える姿勢を解き、青年の方を向く。

「どうした、ゴードン」

 青年…ゴードンは、ジョルジュの耳元で何かを囁くと、一礼をしてその場を慌しく去った。ジョルジュは囁かれた耳を掻くと、近くに居た兵を呼び、こう言った。

「伝令回せ!西より来る天馬は敵ではない、狙撃はするな、と。急げ!」

 慌てて走り出す兵。その後姿を見やり、ジョルジュはもう一度耳を掻いた。

「…囁きというのはどうにも慣れん。耳がむず痒いな。しかし」

 ジョルジュは陽が落ちんとする西の空を向いた。天馬の影がはっきりと見えてきていた。

「帰ってきたか…さすがだな」

 やがてその天馬はゆっくりと、城内に降り立った。


3、
語り カチュア

 五ヶ月振りとなるアリティア城の城内は、今日もたくさんの兵士…でも半分は新兵だ…がいた。私がアクアを馬小屋に繋いでいる間も、そして玉座の間に向かう間も、新兵達の訓練の音(木剣の打ち込みの音や走り込みの掛け声など)が、あちこちから聞こえてきた。
 やっぱり状況は厳しいままなのかな…と私は思う。半年前のあの事件から増え続ける向こう…ユグドラルだったかな…からの移民、というか侵略ゲリラ。先のドルーア帝国との戦争(私達は暗黒戦争と呼んでいる)で、多くの人命を失い、疲弊した統一アリティアに彼らを受け入れきる余裕(もしくは跳ね除けきる力)は、はっきり言って、無い。
 それでもマルス様は友好的になんとかしようと色々手を打ってきた。例えば、新しい大地によって繋がった旧グルニア地域の一部開放や、旧マケドニア王家が独自に友好関係を築いていたバレンシア大陸のソフィア王家…これも今は紆余曲折の末バレンシア王家となったけど…の協力を受けられないかと打診したりとか…だ。
 だけど、どう贔屓目に見てもこれらはうまくいってない。マルス様が無能なのでは決してない。だけど、旧グルニアでは先の住民と移民のいざこざ(レベルのものからちょっとした紛争レベルのものまで)は毎日続いているそうだし、旧ソフィア王家との交渉も、色々あって結局五ヶ月も掛かってしまった。
 っと、もう玉座の間の扉の前だ。私は衣服の乱れを正し、髪を整え、アルム王(バレンシア王国の王様だ)の親書を確認すると…よし、私は玉座の間の扉をノックした。

「カチュアです。ソフィア王家への特使の任を果たし、ただいま帰還致しました」

 …重く扉が開いていく。開けてくれたのは近衛兵長のドーガさん。部屋の中には騎士団長のハーディン公、参謀長のジェイガン卿、参謀補佐のミネルバ様。そしてその奥には、マルス王子…マルス様はまだ戴冠式をされていない。この国の建て直しに連日連夜尽力されておられるからだ…と、その婚約者のシーダ王女が玉座に座っておられる。五ヶ月前のあの日と同じ光景だった。
 わたしはマルス様の御前で片膝をつき、お言葉を待った。お言葉はすぐに掛けて頂けた。

「おかえり。ご苦労だったね、カチュア。よく生きて帰ってきてくれた」

 …マルス様の労いのお言葉に、体の芯が熱くなるのがわかった。任務に五ヶ月も掛かったことを責めもせず、任務の成否を問うこともなく、まず私の身を案じて下さったその優しさ。あぁ、だからこそ私は、このお方を…

「してカチュア、ソフィア王リマ四世陛下の返答はいかに?」
「は、はい!」

 ミネルバ参謀補佐…元マケドニア王国第一王女にして私達の元上官。今はその全権をマルス様にお譲りしている…の声にはっとする私。いけないいけない、気を張らなくては。

「まず、リマ四世陛下は既にお亡くなりになられていました。ですが、バレンシア大陸では今、ソフィア王国とリゲル帝国が合併し、バレンシア王国として生まれ変わりました。これはその新しい王国の王、アルム陛下よりの親書でございます」

 私はミネルバ様に親書を手渡し、元いた場所に戻る。無論、膝をついた格好でだ。

「ふむ…。だがカチュア、そのアルム王とはどのようなお方だったのだ?それに、他のソフィア王家縁の者はどうしたのだ?」

 ミネルバ様は親書をマルス様にお渡しする前に、私にそう聞いてきた。うん、たしかにその疑問は至極当然のものだと思う。

「詳しい事は後で提出します報告書を読んで頂ければと思いますが…掻い摘んで説明致しますと、ソフィア王家の方々はアンテーゼ王女を除き、全てお亡くなりになられていました。そして、アルム王はソフィア王国と大陸を二分していたリゲル帝国の皇帝、ルドルフ一世陛下の嫡子であり、アンテーゼ王女と御結婚なされましてございます。ですので、アルム王のお言葉は即ちソフィア王のお言葉ととって頂ければと…」
「…そうか。勘繰る様な真似をしてすまなかったな、カチュア」
「いえ!参謀補佐の疑念はもっともな事だと思います!」

 慌てて両の手と首を振る私。その様子が可笑しかったのか、マルス様はくすくす笑ってミネルバ様から親書を受け取っておられていた。しかし、親書を開かれるとその表情はうって変わって真剣そのものとなった。ジェイガン参謀長をお側に呼ばれると、何やら小声で話されている。そんな時だった。ふと、シーダ様の方を見やると、シーダ様は慌ててそっぽを向かれた…何だったんだろうか。

「…カチュア、よくやってくれたね」
「は、はいっ!」

 突然のマルス様からのお声掛けに、慌てふためく私。いけないいけない、気を抜かないように…。

「アルム王からの返事は上々だよ。近々、大使団を送って下さるそうだ。これでバレンシア王国との和平が結べれば、事態は好転するだろう。客間をひとつ準備させよう。しばらくそこでゆっくり休んで、英気を養ってくれ。それと…」

 マルス様はそこで言葉を区切られると、私の目の前…本当に目の前だ。しかもしゃがんで、私と目線を合わせて下さっている!はわわわ、どうしよどうしよ…に来られた。し、心臓が高鳴るのがよーくわかるよ…。

「…パオラとエストのことは心配しなくていいよ。これで誰にも文句は言わせないからね。きっと助けてみせる」
「マルス様……」

 胸がじん…と熱くなるのは気のせいなんかじゃないと思う。そう、私が危険を犯してまで単身バレンシア大陸に向かったのには訳がある。妹のエストは国外追放、パオラ姉さんは監禁状態なのだ。そうなった訳は…今はまだ言えない。
言いたいけど、下手に言えないから。
 マルス様はすっくと立ち上がられると、そのまま玉座に向かわれた。

「報告書は後日、ミネルバ参謀補佐に提出しておいてくれないか。それと、あとで姉上から話があるそうだ。聞いてやってほしい」
「はい、かしこまりました」

 マルス様のお姉様エリス様は今、医師として治療魔法の研究をなさっておられるはず。私に何の話があるんだろう?
ひょっとして、バレンシアの白魔法の事かな?

「ご苦労。もう下がってよいぞ」

 ジェイガン参謀長の重い声が響く。私は立ち上がり、マルス様に敬礼をすると、玉座の間を後にした。


4、
語り カメラアイ

「…してマルス様、バレンシアのアルム王からはいかに?」

 カチュアが去った後、一番最初に話だしたのはジェイガンだった。マルスは胸の前で手を組み、少し唸った。

「正直、あまり芳しくはないね。向こうでも戦争があったそうだ。移民の受け入れは絶望的だとみていいと思う」
「では、カチュア殿が帰還するのにこれ程時間を要したのは…」
「…ああ、おそらくその戦争に巻き込まれていたからだろう。詳しくは彼女の報告書待ちだけどね」

 ハーディンの問いにそう答えるマルス。そこにミネルバが口を挟んだ。

「ではカチュアをみすみす死の危険に晒させたというわけですね?」

 怒りを抑えたかのようなミネルバの語気に、言葉を詰まらせるマルス。

「しかしミネルバ参謀補佐。この計画…さしずめプロジェクトミネルバと申しましょうか、立案者はあなたですよ」

 助け舟を出したのはシーダだった。しかし、ミネルバは引かない。己の元部下…というか腹心…であるカチュアをむざむざ殺すところだったのが許せないのか。

「私の案ではもしもの事を考えて、カチュア率いる天馬騎士団一部隊を派遣する事になっていたはず。しかし、実際はカチュア一人だけだった。これはどういう事なのか、マルス様、お答え願いたい」
「マルス様は戦力の温存と、事を荒立てない事を考えて…」
「シーダ殿には聞いていません。さ、マルス様」

 尚も詰め寄るミネルバの剣幕に気押されたか、マルスは声を絞り出した。

「……シーダの、言うとおりだ」
「!!……そう、ですか。わかりました。マルス様御自身のお考えによるものならば、私に異論はございません」

 とんだご無礼を、と謝って引き下がり、玉座の間を後にしようとするミネルバ。しかし、ドーガが扉を開けようとするのを手で制して、最後に一言付け加えた。

「…しかしマルス様、此度の事、まるで呈よくカチュアを国外追放したかのように思えるのは、私の考えすぎでしょうか」

 …その言葉に、誰からも返事は無かった。


5、
語り カチュア

 アリティア城の四ッ角を目立たせるかのように造られた塔(東西南北を現しているらしい)、その南の塔に用意された客間はあった。メイドさんに案内されたそこは塔の5階で、風通しも日当たりもなかなかいい、らしい。らしいというのは、もう日が暮れて夜になっていたから。メイドさんが持ってきてくれた豪勢な料理に舌鼓を打ち、これま
た豪勢なふかふかのベッドに腰掛ける。

「………マルス様………」

 私は身に着けていた胸当てを外し、ブーツを脱いでベッドに横たわる…あー、報告書書かなくちゃ…それにエリス様のお話もあったっけ…でも…夜だし遅いし疲れてるし…それに…

「さっきから…ぅん…疼いて…火照って…っ…誰も、いない、よね…」

 聞き耳を立てて、気配を窺う…うん、誰もいなさそう。私はさっきから高鳴りっぱなしの胸…というか乳房に手を置き、揉みしだき始めた。姉さん程じゃないけど、ここ一年で大きくなったココ。最近胸当てが少しキツい。

「ん…っ…マルス様…気持ち、イイ…ですぅ…」

 そう、私はマルス様が好きだ。暗黒戦争の時、ペラティでお会いしたマルス様は、当時まだ敵対していた私の話を真摯に聞き、そして信じて下さった。人質になる覚悟だった私を、すぐに解き放って下さった。その時からだった。
私がマルス様を好きになったのは。

「はぁ…はぁ…マルス様…きてぇ…」

 その時には既にシーダ様がマルス様の側にいた。お二人が只ならぬ関係である事も、その仕草や言葉の端々から窺えた。…でも、恋愛って理屈や時間じゃ無いじゃない!?

「いいです…私…マルス様になら…見られても…」

 私は胸から右手を離すと、ミニスカートの中のショーツに手をかけ、少しずり下げた。純白のショーツ…今日の謁見の時に見られたかな…子供っぽいとか、思われなかったかな…やだ、少し湿ってる…いつからだろう。ひょっとして、玉座の間から…?…はしたない女の子だと、思われなかったかな…。

「マルス様…マルス様ぁ…」

 私は左手を胸に添えたまま、恐る恐る股間の方に右手を伸ばす…と、その時だった。

コン、コン

「カチュアさん、いるかしら?」

 ドアをノックする音と、女性の声が聞こえ、私は慌ててショーツをたくし上げた。

「はっ、はい!」

 ブーツを履き、ドアへと向かう。そしてドアを開けると、そこには

「こんばんわ。お帰りなさい、カチュアさん」
「エ、エリス様!」

 白衣を身に纏ったエリス様が、ファイルを持って立っておられた。


6、
語り カメラアイ

 アリティアより遠く、西に離れた地…かつてグルニア王国と呼ばれたその地の南に、新しい大地は隆起した。その元・海岸線に、一つの巨大な砦が建っている。新しい大地からの侵略者を阻む為、突貫で造られた物だ。そこには、旧アカネイア王国宮廷騎士団が守備隊として配置されていた。

「本日はこれにて閉門する!ここを通り、アリティアに向かいたい者は、明日の夜明けを待つがいい!繰り返す!本日はこれにて閉門する!ここを通り…」

 門の内側に立った守備隊副隊長・剣士アストリアの宣言が、夕闇の砦の周りに通る。それとともに、重装騎士トムスとミシェランが大きな門を閉じていく。それを聞きながら、砦の中で粗末な椅子に腰掛けていた守備隊隊長・女聖騎士ミディアは、ふうと大きなため息を吐いた。

「デスクワークお疲れさまです、ミディア隊長」

 やや軽いノリでミディアに話しかけるのは、弓兵のトーマス。トーマスは安紅茶を煎れたマグカップをミディアに渡した。

「ああ、ありがとう。でも、そっちの方が大変ではないの?トラブルは表からも裏からもやって来る」

 この砦の守備隊の主な任務は3つ。
 ひとつは、新しい大地からやって来る人間達の入国審査。
 ひとつは、新しい大地へ向かう人間達の出国審査。
 最後は、この砦を落とさんとする勢力の撃退。ミディアの言ったトラブルとはこの事だ。つまり…

「まったく…どいつもこいつも諦めが悪い。旧グルニア黒騎士団残党といい、向こうからの侵略者共といい、この砦は見た目程ヤワじゃないって事を、いい加減覚えればいいのだけれど」

 旧グルニア黒騎士団残党。暗黒戦争において、マルス率いるアリティア同盟軍を幾度となく苦しめた、ドルーア帝国同盟軍の主力騎士団の残党だ。が、残党と言っても彼らの有する誇りと士気、軍事力は相当なもので、統一アリティアからのグルニア独立と、新しい大地の支配を目論んでいる。その為この砦を落とさんと、しょっちゅう部隊をけしかけていた。
 旧グルニア地方は元・グルニア鉄騎士団団長のロレンス将軍を筆頭に、鉄騎士団団長ロジャーと木馬隊隊長ジェイクがその治安に尽力していた。しかし、未だ旧グルニアの人々の黒騎士団への信頼は厚く、うまく事は進んでいないのが現状だ。それどころか、一部ではロレンス将軍達の離反の噂まで囁かれている。

「それはご心配無く。アストリア副隊長の獅子奮迅の戦いと、ボア司祭様の治療魔法のおかげで、未だ我らからの戦闘不能者は0人。当守備隊は未だ無敗を保っていますよ」
「しかし、マルス王子からの命により、敵の命を奪う事は極力避けなければならない。これでは敵の数は減らせず、補給の厳しい我々の方が先に疲弊してしまう…真綿で首を絞められている気分よ」
「…じゃがのう、ミディア。我々が一人の相手の命を奪えば、その何十倍もの人間を敵に回す事になるぞ。グルニアにも、向こうの大陸にもな」

 二人の会話に割って入ったのは、司祭のボア。この部隊最年長であり、若いミディアやアストリア達のよき相談役であり、舵取り役でもある。

「ボア様…えぇ、それはわかっています。だからこそ私も敵を殺せとは命令しません。ですけど、このままでは状況は良くならないでしょう。せめて、戦力を増強できれば…」
「なら、さっき通した向こうからの商人を護衛していた傭兵部隊を雇えばよかったんじゃないですか?」
「だめよ」

 トーマスの提案をピシャリと却下するミディア。

「あの傭兵部隊は、すでにこちら側にクライアントがいると言っていたわ。それに、あの部隊を…」

 ミディアは紅茶を一気に飲み干すと、立ち上がり様に言った。

「彼女達を通したのは、まずかったと思えて仕方ないのよ」


7、
語り カチュア

「おじゃましてよろしいかしら?」

 優雅に微笑みながらそう尋ねるエリス様。もちろん、断る理由はない。

「どうぞ、少し、散らかしてしまいましたが…椅子に腰掛けて下さい」
「気にしないで。ふふ、失礼するわね」

 マルス様の姉君であられるエリス様。その青い髪や醸し出す優しい雰囲気が、マルス様によく似ている。私が思わずぼーっと見とれている間、エリス様は部屋に入ってこられた。

「どうしたの?カチュアさん」
「はっ!?い、いえ、何でもございません、です。はい」

 エリス様のお声にはっとなる私。エリス様に促されるままに、私も椅子に腰掛けた。

「して、エリス様。お話というのは?」
「ああ、マルスやシーダ姫からは何も聞いていないのね」

 はて?マルス様はわかる。けど、シーダ様が?なぜ、シーダ様が絡んでくるのだろう。あの方は基本的に軍備についてはノータッチのはずだけど…。

「まず何から話せばいいのかしら…そうね、カチュアさんは、私やシーダ姫に直属部隊が割り当てられていることをご存知かしら?」
「はい。お二人がマルス様の次に…ジェイガン参謀長やハーディン騎士団長を超える権限で指揮できる混成部隊ですよね」

 つまり、お二人のボディガードみたいなものだ。たしか、戦争終結後に集められた新人兵士が部隊の大半を占めていると聞いている。

「そう。正式名称”統一アリティア軍第11混成部隊”。かっこいいでしょう?」
「は、はあ…」

 ちなみに、統一アリティアに混成部隊は幾つもあるけれど、ナンバリングされているものはひとつも無い(いや、私がバレンシアに行っている間に名称変更があったら知らないけど)。

「その部隊にね…言いにくいのだけれど…今夜中に補給物資と指令書を運んでもらいたいの」
「今夜中に、ですか?」
「ええ…あなたの乗ってきた上級天馬…ファルコンのことは存じています。飛竜に匹敵する馬力を持ち、飛竜以上のスピードを誇ると。その協力を得られれば、どれだけ心強いことか…」
「…それで、運ぶ物資と場所、そして私以外の人員は?それを聞いておかないといけません」
「運ぶ物資は食料と武具、そして金貨10万枚。人員は…」

 その時だった。窓から差していた月明かりが不意に消え、飛竜が羽ばたく音が聞こえたのは。

「あなたとミネルバ参謀補佐、シーダ姫、そして私。場所は旧マケドニア南方の国境基地です。引き受けてもらえませんか?」

 影になったエリス様のお顔が、少し曇って見えたのは気のせいではないと、この時の私にはまだわからなかった。


その序
『それでもまだ許されたいと思うのか』 終わり

次回 Prease fight! My Knight.
第1部 騎士の帰還編
第1章
『第11混成部隊の夜』 に続く

炎の御旗。悪魔の剣はその明(あか)を受けて煌くか?


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