聖プリンセス・メローラ


 
大陸の中央に位置する巨大国家・神聖ファーラーン王国。その王城の前に設けられた式典の会場には国の貴族から民衆まで数百もの人々で埋め尽くされている。今宵はファーラーン王国の王女、メローラ姫の誕生祭であった。 
会場のざわめきが落ち着き、群集の視線がステージの奥へと集中する。楽団の盛大なファンファーレが鳴り響く。
 そして・・・不思議な静寂が辺りを包む。その場の誰もが息をのんだ。月明かりに照らされた、清浄な光を放つ美少女がステージに姿を現した。神聖ファーラーン王国の第一王位継承権を持つ、メローラ=クルス=ファーラーン、その人である。
現国王にして、かつて豪胆な戦士だったラグナ王でさえ、自分の娘の美しさに見とれてしまっていた。ごく優雅にステージ中央の講壇まで歩を進めるメローラ。その広場にいる全ての人間はこの間、メローラから目を外すことはできなかった。

 「美しい」 
 人々の頭にはもうその言葉しか浮かんでこない。
 それほどまでに今夜のメローラ姫は輝いていた。
 月の光に映えるその清らかな美貌はいつにもまして魅力的だ。鮮やかに流れるストレートの髪は腰まで届く。わずかな曇りも穢れもない、サファイアのように蒼く澄んだ瞳。秀でた知性をあらわす額。鼻梁はすっきりと通り、形よく整っている。そして真珠を砕いて塗料にしたような輝く白無垢の肌に、そこだけ命あるもののように存在感を示す紅い唇がなんともいえず悩ましい。
 極上のシルクを使い、国中の腕利きの職人が何ヶ月もかけて仕上げたハイウエスト細身仕立ての純白のイブニングドレスに身を包み、宵闇が雪白の肌を浮かび上がらせ、宝石をちりばめたプリンセスクラウンが頭上できらめき、乙女の美しさを際立たせている。大粒の真珠のネックレスに飾られた首は儚いまでに細く、ドレスの上からでもその豊麗なプロポーションがはっきりと見てとれた。女の魅惑に満ちた麗しい肢体は、まだ幼い表情を残す可憐な顔立ちとは対照的だ。
 壇上にたたずむ、神秘的なまでに美しい乙女が口を開く。

「今夜は私のために盛大なお祝いをありがとうございます。これからも国のため、みなさんのために尽力してゆくつもりです。今夜は本当にありがとう」

涼やかな、それでいて父親譲りの威厳をのぞかせる凛とした美声が人々の胸に響く。割れんばかりの拍手が広場を包む。ラグナも、教会の最高権力者、大神官グルファムも目を細めその光景にみいっている。国民から絶大な人気を誇る姫。美しい外見だけでなく、慈悲にあふれる心、聡明な知性、国をおもう責任感の強さなど内なる輝きが民の信頼と羨望のまなざしを得ているのである。そんな美姫を皆、尊敬の念を込め、純白の姫君・ホワイトプリンセスと讃えていた。また、教会の聖職者や敬虔な信者たちからは、聖女の降臨『ファーラーンの聖なる乙女』と崇められる、王国の繁栄の象徴ともいえる少女がこのメローラ姫であった。
「メローラ姫ばんざい!」
「我らが『聖女』に幸多からんことを!」
人々が口々に歓声を上げる。メローラ姫もそれに答え、笑顔で手を振っている。
そして、この少女はある重大な使命を帯びていた。メローラが生を受けた今から16年前の今日、王国中のあらゆる神殿、教会に神託が下ったのだ。
−この世界の平和は、王女として生まれる子に託される。この少女の心の在り方が、世界の秩序、繁栄、平和を司るであろう−
そう、神はメローラと世界とを同調させたのだ。皆、最初は半信半疑であったがメローラが健やかに、そして穢れない清らかな乙女に成長してゆくこれまでの間、世界が豊かで穏やかな平和に包まれてきたことを振り返ると、あの時の神託は確かに神の下した聖断であったと喜びあった。
メローラは王国の守護者であり、本当の意味で『聖女』であった。彼女自身もグルファムから幾度となくそのことを聞かされており、いかなることがあろうと世界を、民を守ってゆこうと固く心に誓っていた。

だが今夜、そんな乙女の、世界の運命を狂わす邪悪なる意思が近づいていたのである・・。
宴も進み、人々の談笑する声がそこかしこから聞こえる中、それはやってきた。
ドオオオォォ〜〜〜〜ンンッッッ!!!!
突然、なにかの衝突音が闇を切り裂き大地を震わせる。王城の裏手側の山中に、今で言う隕石、が落下したようであった。
調査のために何人かの兵士が山に入ったが別段不審なものもなく、皆なんだったのだろうと首を傾げてはいたが数日もすると、この事はすっかり忘れ去られていた。
しかしそれから一週間ほどたったある日・・周辺の村落などで異様な事件が頻発するようになった。その事件とは、老人や幼い子供を除く村の住民全員が、まるで理性をなくしてしまったかのように、昼夜問わず性交にふけっているというのだ。すでに国中のいくつかの町や村でそのような異常な事態となっており、王国宮殿の城下町のかたすみでもそんな光景が見られた。治安回復と調査のためにおもむく兵団までも、その村に入ると住民同様となってしまい誰一人戻る者がなかった。
そんな中で人々が最も心配したのがメローラ姫のことであった。これまで国中に豊かな恵みを与え続けてきた平和の象徴である。人々がもしや姫様の身に何かあったのでは、と思うのは当然であった。
「う・・」
重い頭を振り苦しげに呻くメローラ。、
「メローラ姫、しっかりなされよ」
グルファムが少女を気遣う。確かにここ数日、メローラは原因不明の体調の不良に悩まされていた。頭がボーっとなり、常に熱にうかされたいるようなのだ。だがそれはあの事件が発生した後・・。グルファムは確信していた。今回の異常事態はメローラがもたらしたものではなく、逆にメローラの身体の異変こそ、世界のほうが少女に与えている影響なのだと。
「大神官様・・身体が・・あついんです・・それに頭も重くて・・これは、一体・・?」
上気した顔でメローラが苦しげに呻く。
(邪悪な気が国中に満ちている・・何が起こっているのだ・・)
グルファムが思案をめぐらすもその怪異の正体はようとしてしれず、ただ時間ばかりが過ぎていった。
さらに1週間が過ぎ、国の人間全てが淫らな行為を行い、あろうことか国王ラグナや大神官グルファムまでもが城内の侍女たちとともにセックスにふけりだしたのだ。

そして、王国を侵略せんと、この異常な事態を引き起こした邪悪なる存在が、最後の獲物・・メローラ姫に忍び寄る・・。
強大な闇の力は今まさに、王国の守護者『ファーラーンの聖なる乙女』に襲いかからんとしていた。


→進む

美姫陵辱のトップへ