0:いかにして勇者パーティーが魔王に敗れたか?


 魔王が復活した。
 魔王軍の侵略に人々が苦しむ中、一人の少女が立ち上がった。
 少女の名前は、フレア、かつて魔王を封じた勇者の血をひく少女だ。
「お姉ちゃん、やっぱり止めた方がいいよ。俺も後一年をすれば、16になって勇者の力が発現するからさ」
 そう止めるのは、弟のアポロだった。
 彼等の姉弟は、16で勇者の力に目覚める。
 一つ年上のフレアが先にその力に目覚めた。
 だが少女であることからアポロの覚醒を待つべきだと言う声も多い。
 しかし、フレアの決意は、変わらなかった。
「今も多くの人達が魔王に苦しめられているわ。少しでも早く魔王を封印しないといけないのよ」
「だけど……」
 それでもアポロは、納得出来なかった。
 そんなアポロを抱き締めフレアが願う。
「あたしが倒れてもあたしが作った道が残るわ」
 アポロがこぼれ落ちる涙をぬぐい、頷くのであった。


 その後、フレアは、王より戦闘経験豊富な19の女戦士ガイアを旅のともと託され旅立った。
 旅の途中、色々と経験豊富な17のくの一、ローズ、13の天才少女魔術師、エアロ、18の聖女、マリン、15で伝説になった女武道家金(キン)を仲間にして、幾多の困難の後、魔王の城に到着するのであった。


「ようやく着いたのね……」
 感慨深げに言うフレア。
「お前の努力の成果だ」
 年長者の貫禄で告げるガイア。
「色んな男が居たわね」
 色っぽく言うローズに眉をひそめるマリン。
「貴女は、旅が終わったら私の教会に来てください。つつしみを身に付けさせてみせます」
 ローズが苦笑する。
「魔王を倒せたらね」
 重苦しい空気が流れたが、エアロがジャンプして主張する。
「エアロにかかれば魔王なんて一発だよ!」
 微笑み合うパーティー。
 金が淡々と告げる。
「魔王には、勇者の封印しか通じない。私達がすべきは、フレアを魔王の前に無傷で送る事だ」
 それにフレア以外が頷き、プレッシャーを感じながらもフレアが誓う。
「絶対に魔王を封印してみせる」
 こうして、勇者フレアパーティー最後の戦いが始まる。


 突入したパーティーを待っていたのは、莫大な数のオークであった。
「エアロにお任せ!」
 エアロの放った突風の魔法がオーク達を吹き飛ばし道を作る。
 出来た道を駆け出す。
「あそこに扉があるわ!」
 フレアがそう叫び、五人が扉を通り抜けた。
 ガイアが向こう側から扉を閉じたのだ。
「ガイア、何をしているの!」
 扉の向こうからガイアが告げる。
「このままオークを背後にしながら進むのは、危険だ。あたしが足止めをする」
 フレアが叫ぶ。
「こんな数を相手に勝てるわけがないわ!」
「時間稼ぎにはなる。あたしが作る時間を無駄にしないでくれ!」
 ガイアが返事をしている間も、戦闘の音が響き続けていた。
 金がフレアの肩を掴む。
「ガイアの決意を無駄にしないでくれ」
 フレアが走り出す。
「あたしは、諦めない! 一刻も早く魔王を封印して、助けに戻るからね!」


 パーティーの前には様々なトラップが立ち塞がったがローズの前では、全てが無力だった。
 そんな中、不可解な五つ路があった。
「四つは、罠ね。二つまで絞り込めた。更に絞り込むには……」
 言葉を濁すローズ。
 時間を掛ければ絞り込む自信があった。
 しかし、それはガイアを助かる可能性を低くする事を意味する。
 皆が無事に戻る為にローズが賭けに出た。
 独りで通路に入った。
 そして、賭けに負けた。
 転送のトラップが発動する。
 手を伸ばそうとするフレアにローズが笑顔で告げる。
「隣の道が正解よ。魔王を封印した後に探しに来てね」
 そのまま消えていくローズ。
 パーティーは、後ろ髪を引かれながらも、ローズが伝えた正しい道を進んでいく。


 次にパーティーの行く手を阻んだのは、スライムの壁だった。
 魔王への道は、スライムの壁の先にしか無かった。
「このスライム嫌い! いくら倒しても直ぐに復活するんだもん」
 口を膨らませるエアロ。
「しかし、通用しない訳じゃない。強い魔法で道を作れば……」
 フレアの案にマリンが首を振る。
「それで道を作っても通り抜ける前にふさがってしまいます」
「しかし、こうやって手をこまねいている間もガイアやローズは、独りで戦って居るんだ!」
 焦るフレアを見てエアロが胸を叩く。
「エアロにお任せ、すごい魔法で道を作ってみせるよ!」
「本当か?」
 フレアの問いにエアロは、若干の間を置いて頷く。
 それを見てマリンと金は、察したがフレアは、仲間を救いたい思いから見逃してしまう。
『ダウントルネイド』
 エアロの魔法の突風で包まれた道が生み出される。
 駆け出すパーティー。
 スライムの壁を通過した所でフレアが振り返る。
「やった! 皆、大丈夫?」
 しかし、その視界の先、スライムの壁の向こうにエアロの姿があった。
「どうして……」
 戸惑うフレアにマリンが説明する。
「あの道を維持するためには、エアロが動く事が出来なかったのよ」
「エアロは、一番年下なのよ! 残していけない!」
 半透明のスライムの壁の先でエアロが胸を張る。
「エアロは、大丈夫だよ。だから、フレアは、先に行って! ここで帰ってくるの待ってる!」
 不安そうな顔で無理やり作った笑顔が痛々しい。
「行くぞ。ここで躊躇したら、エアロの決意を無駄にしたことになる」
「直ぐに魔王を封印して戻って来るから!」
 駆け出しながら悔し涙を流すフレア。
「あたしは、馬鹿だ。エアロにまであんな真似をさせてしまったんだから……」


 半分になったパーティーの前に現れたのは、女性パーティーの天敵、触手チンポまで生やすインキュパスだった。
『女の身で我が魔力に抗えるかな?』
 余裕綽々のインキュパスの魔力は、まだ男も知らないフレア達すら疼きを覚えさせた。
「こんな事で負けてられないのに……」
 体の熱さに呻くフレア。
『アンドロメダの鎖』
 マリンの呪文ともにフレアと金がインキュパスの魔力から解放された。
 それとは、対象的にマリンが顔を真っ赤にし、激しい衝動を抑える様に体を押さえつける。
「私が我慢出来るうちに行ってください……」
『自己犠牲の魔法か、しかし、何時まで保つかな?』
 下品な笑みを浮かべるインキュパス。
「今のうちインキュパスを倒せば!」
 剣を抜こうとするフレアを止める金。
「魔属の中でもトップクラスの生命力を誇るインキュパス、倒す前にマリンの限界が来る。先に進み、魔王を封印するしかない」
 金に引っ張られ先に進むフレア。


 そしてフレアは、魔王のいる部屋の扉の前に立っていた。
 しかしその前には、扉を護るケロベロスが居た。
「早くこいつを倒さないと」
 気がせいるフレアは、後ろから吹き飛ばされる。
「何をするの?」
 困惑するフレアとケロベロスの間に駆け込み金が言う。
「奴の不意を突き、お前を扉の前に行かせた。後は、任せて先に行くのだ!」
「馬鹿を言わないで、ケロベロスの相手を独りで出来るわけない!」
 フレアの叫びに金が真剣な顔で答える。
「お前が扉に入るまで保てば良い。私が最初に勇者を無傷で魔王の前に送ると言った。仲間は、それ言葉に従って自らを犠牲にした。ここで私が命を惜しむなど私の誇りが許さない。私の誇りの為にも行ってくれ」
 唇を噛み締めフレアが扉に向かって駆け出した。
 そして最後の扉が開いた。


 フレアが扉を抜けると勝手に閉じ、扉越しに金とケロベロスの激戦の様子が伝わってくる。
「直ぐに魔王を封印して助けに戻るからそれまで頑張って」
 玉座に座る魔王。
 神に抗い魔界に堕ちた者。
 人間には、刹那の抵抗をさせる事を許さない膨大な魔力。
 数多の魔を従わせる能力。
 その魔王を唯一封印する力、フレアは、神が与えた奇跡の力を発動しようとした。
『その力を使っても良いのか?』
 魔王は、尋ねた。
「当然よ! その為に長い旅をして、仲間を置いてきたんだから!」
 強い決意を見せるフレア。
 魔王がその魔力で空中に仲間の現状を映し出す。
「……酷すぎる」
 女として死んだ方がましな状況を見てフレアは、愕然とした。
『あやつらには、殺すなと命令してあるが、もしも我が封印されたらどうなるかな?』
 フレアの苦悩する様を楽しむ魔王。
 フレアの脳裏に仲間との思い出が蘇る。
 そして見続けるのも苦痛な現状の姿。
 長い葛藤の後、フレアが涙ながらに呟く。
「アポロ、ごめんなさい。あたしの代わりに皆を助けて」
 封印の力を発動させられなかった瞬間、勇者パーティーの敗北が決まった。


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