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……身体の上を蛇か虫が這いまわっている……。

そんなおぞましい感触で わたしは意識を取り戻した。
酷く気だるく 頭がボーっとしている。
まるで重い時の「あの日」みたいだ。

身体を起こそうとするが まるで動いてくれない。
やがて 頭の中にかかっていた靄が晴れて行くにつれて 何故思うように身体が動かないのか判ってきた。
動かないのではない。動かせないのだ。
わたしの身体は M字開脚と言う屈辱的な体勢を取らされたまま 鎖で拘束され 宙吊りにされていた。
鎖! このわたしがチェーンで その身体を戒められるなんて皮肉もいいところだわ。

そう わたしは愛野美奈子 セーラーヴィーナス……。


わたしたちは 三日前から行方不明になっているレイちゃんを探していた。
失踪したその日に レイちゃんがガラの悪いチーマーたちとトラぶっていたという話を聞いたわたしは 件のチーマーたちを見つけて その後を密かに尾行けていた。
奴らは何も知らずに 溜まり場にしているらしい廃ビルの中に消えて行く。
隠れて中を覗き込んだ私の眼に 散々陵辱されてぐったりと倒れ臥しているレイちゃんの姿が飛び込んできた。
遅かった! もっと早くこいつらのことを聞きつけていたら!
怒りに燃えるわたしの目の前で 奴らはさらに鬼畜な言葉を吐き続ける。
この女をヤクザに売り飛ばし クスリ漬けにした上でソープやデリヘルで働かせるだとか何とか……。
こんな人間のクズみたいな連中 絶対 絶対許さないんだから!

その時 一台の派手なバンが音楽 というよりもうただの騒音に近い を撒き散らせながらやって来てビルの中に乗り入れた。
わたしは慌てて身を隠す。どうやら中の奴の仲間らしい……。
車から降りてきたリーダーらしき男の指示で 奴らはぐったりしたままのレイちゃんを抱きかかえると 車の方へ運んでいく。

みんなを待っている暇は ないわね……。
わたしは覚悟を決めて一人で中に乗り込んで レイちゃんを救出することにした。
相手の数は多いけど 大丈夫 メイクアップすれば ただの人間なんて物の数じゃないわ。

「ヴィーナス パワー メイクアップ!」

オレンジ色の光の渦に包まれて わたしはセーラーヴィーナスに変身 そしてビルの中に飛び込んでいった。


実際 気の毒なくらいにあっけ無かった。
十人以上いた男たちは皆 あっさりと床にのびて転がっている。
わたしは気を失ったままのレイちゃんを抱き起こす。制服には 泥と 男たちがぶっ掛けた精液がこびりついていて 嫌な臭いを放っている。

「レイちゃん! しっかりして! もう大丈夫よ!」

わたしの言葉に レイちゃんはゆっくりと目を開き そのまま虚ろな瞳でわたしの顔を見つめる。そして わたしの頭を抱えると わたしの顔を確かめるかのように ぐっ と自分の方へと引き寄せた。

「レ レイちゃん 一体どうしたの?」

予想外の反応に驚くわたしに レイちゃんはさらに意外な行動をとった。わたしの顔めがけて ふっ と息を吹きかけてきたのだ。

「ちょ! レイちゃん なにを! あ あれっ?」

その不思議な香りの息をかいだ瞬間 世界が傾いた。いや 傾いたのは自分の身体の方だ。そう気付いた時にはもう わたしの身体はコンクリートの床に転がっていた。指一本も動かせないまま意識が遠のいていくわたしを レイちゃんが笑いながら見下ろしている。その顔が次第に 見たことも無い女の顔に変化してゆく。

「 よ 妖魔……」

まんまと罠に嵌められた事に半ば呆れながら わたしの意識は闇で塗りつぶされていった……。


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