『 聖魔大戦概要 』
【 光輝の結合儀式 】
それは何とも異様な光景であっただろう。
そこは王宮の、地下の祭壇。
祭壇の前には王侯から諸侯、多くの廷臣たち。
仲間である部隊の兵士も詰めかけている。
その後ろには、神都ブリュンヒルトの住民。見渡す限りに、人、人、人である。最後列なんて、もう豆のような頭でしかない。それでも会場に収容しきれない
ほどの人数が尚も殺到しており、ある者は祈りを捧げ、ある者はこれから行われる儀式を心待ちにしているような、邪な者まで存在した。
・・・。
ど、どうしよう・・・
心から敬服するバニングス隊長に振り返った。
困ったことがあるとすぐに人を頼る、それは自分の悪い癖だと良く指摘されるところだった。だが、今回に限り、「折角の機会だ。存分に楽しんで来い!」と、煽られる始末。
・・・当然ではあろう。
この役目を変われるものなれば、きっと誰もが喜んで、引き受ける役目には違いないのだから。
で、でも・・・
ほ、本当に・・・困ったな。
それは三日前の、非番の夜のことだった。
その敬服する隊長に伴われて、王宮に足を踏み入れた。行く先は持ち場である城壁ではなく、城兵らの待機する詰め所でもない。初めて王宮の内部に足を踏み入れ、多くの廷臣らが居並ぶ謁見の間であった。
既にこの時点で、自分の想像外の出来事だよ・・・
これまでにも謁見の間なんて、自分なんかが立ち入ったことなんてある訳がない。とても偉そうな廷臣たち。絹服を身に纏った貴族たちに囲まれて、自分はとてつもなく、居心地の悪い思いをしなければならなかった。
「陛下だ・・・サンチェス、頭を下げろ・・・」
わわっ、
少し前に控える隊長に倣って、自分も頭を下げた。
その「神王」(神国ブリュンヒルトにおける国王の敬称)には、両手を掴まれて、「世界を頼む」と託された。
・・・・。
これまでに、さりとて大きな功績を挙げたわけでもない、これといって特技や特性があるわけでもない、平凡なまでの自分に・・・
正直、意味が解からないよ?
「神王妃」(神王の妃)には、号泣されながらも、「娘を頼みます」と告げられた。
これまでに女性から見向きもされなかった、そんな自分に。
正直、意味ガ解カラナイヨ!!?
確かに「神王」と「神王妃」の間には一人の娘である・・・王女様がいる。とっても、とっても美しいお姫様。勿論、自分なんかに声をかけて貰ったことはない、まさに雲の上の住人の世界。常に遠くから眺められるだけの、そんな存在のはずだった。
それだけで満足。
まさに高嶺の花だった。
それに引き替え、重ねていく年齢と共に情けなく弛むお腹。
これは齢五十を目前とする自分だけに、良く解かるというもの。
自分の名は「サンチェス」
年齢は今年で四十七歳となる、ごく平凡な中年だった。勿論、貴族のような家名もないから、名前はあっても性はなく、生家は田舎で農園を営む三男坊だった。
顔立ちも決して良くはない。いや、たぶん・・・ブ男。童貞こそ捨てられたけど、それも租税に困った幼馴染の家に貸しを作り、その代価として幼馴染の身体に迫った上でのこと。
処女だった彼女は、「絶対に許さないから」と号泣された、っけ・・・
そして食べていくためだけに、自分は城門を叩いた。
最初に所属したのは、第二突撃中隊。バニングス隊長とは、それからの長い付き合いとなる。ある日を境に、自分の所属する中隊は、部隊ごと城兵異動となる。比較的安全ということもあって、部隊の仲間はこの人事に喜び、何故か全く貢献していないはずの自分を賞賛した。
決して悪くない俸給で、それ以降は、神都サンパレスで娼婦を買ったりもしたが、あの幼馴染と同様、自分には酷い嫌悪感を示された。お金を貰って性欲を晴らすことが生業の彼女らに、自分はそのつど謝罪をした。
一か月分の俸給に値する大金を払って、ただ一緒に寝るだけで、肌の接触を禁じられた娼婦の数も決して少なくない。
・・・・
ショックだけど、これが現実。
それが異性から見た、率直な僕の存在なのだろう。
『魔王』の前では、きっと、ちっぽけな存在。
それは・・・『光巫女』である、御姫様も同様であるはずだった。
あれはお姫様が・・・シノン様が十歳を迎えた誕生祭のこと。『光巫女』であるお姫様の姿を一目見ようと多くの民衆が、王宮のバルコニーに集まった。城兵である自分は無論、非番の仲間たちも城壁に集って眺めたものだった。
自分も自身の職務と立場を弁えず、その神々しいお姿に心を奪われたものである。うん、ただ遠くから眺めて見るだけなら、自分のような存在でも嫌悪感を示されずに、許されるよね・・・?
だが、そのシノン様とふと目が合う。
あ、いけない・・・と、ばかりに視線を逸らした。それは悲しいかな、これまでの自分に対する嫌悪感に、ほとんど条件反射してしまった習性であった。
だが、再びシノン様に視線を戻すと、意外なことにお姫様は顔を真っ赤にして俯いていた。
まさか、自分に?
と、自惚れるほどにも、自分には容姿に全く自信がなかった。
邪魔しちゃいけないな・・・と、自分はその場を譲った。
自分の近くには、敬愛すべきバニングス隊長が居たのだ。長身にして細身な褐色肌。男の自分から見ても、頼りになる上官であり、神都ブリュンヒルトでも「ナイスミドル」と噂される人物でもある。
・・・・それだけに。
少なくとも、ここは・・・自分なんかが立てるような、許されるような場所ではなかった、と思わずには居られなかった。
王宮の地下に用意された祭壇場。
厚めの真っ白なカーテンによって隠された天蓋式の寝台があり、そこには王侯貴族を始めとする諸侯や廷臣だけでなく、城兵までもが所狭しに詰めかけていた。
祭壇の上から、父親に・・・「神王」に一礼する絶世の美少女。
既に祈りを捧げている姿もあった。祭壇に立つ王女に惚けている者も居た。或いは、これから行われる儀式に、邪な想いに馳せている、そんな不届き者も居たことだろう。
再び、姿勢を正す美少女。
今宵、十三となる彼女の美しさに、その類を見ない可憐さには、その場に居る誰もが息を詰まらせる思いであった。
それはこれまでに彼らが生命掛けで護ってきた姫君であり、王家に残された一粒の王女であり、人類に残された希望の光でもあったのだから。
アリストリア大陸を創造し、そのアリストリアに文明をもたらせ、このアリストリアの未来のために、アリストリアの番人が最後に遣わせた究極の巫女。
それを光の巫女・・・『光巫女』という。
『光巫女』
それはアリストリアの美しさの象徴。
アリストリアの至宝であり、
アリストリアの最後の希望でもあった。
それだけに美しく、異性でなくても全ての人間を魅了する。
「「おおおっ・・・」」
「「姫めぇぇ・・・」」
屈強なる男の兵士たちが熱狂した。
彼らが類に稀ない美少女であり、『光巫女』を慕うのは解かる。ましてや王族であり、この国における唯一の姫君でもある。そう、彼らが忠誠を誓うべき対象であり、男であるのならば誰もが抱く、当然の感情であっただろう。
姫君が愛おしい。
彼女を護りたい。
微笑んで欲しい。
できれば・・・抱きたい。
そして・・・許されるのなら、穢したい・・・と。
その最後の想いは、ともかく。
この自分のように・・・誰もが敬愛していた。
それだけに戸惑いを・・・困惑せずには居られない。
仲間の城兵に激励される。
次々に背中を叩かれ(少し痛い)
お姫様が待つ祭壇へと押しやられる。
その絶対的な美の象徴が頬を染めて、祭壇の上に上り詰めた一兵卒に過ぎない自分に微笑む。
嬉しい、と・・・
その麗しい瞳に涙を浮かべるほどに・・・
誰もが愛おしく想う姫君。
例えこの生命に変えても、彼女だけは護りたい。
それは儀式に詰めかけた異性が(父親も含めて)抱いた素直な感情であっただろう。その想いだけならば、自分は誰よりも強いと自負できる。彼女が微笑んでくれるのなら、自分は喜んで戦死しよう。
それが・・・
この日の姫の姿は特に綺麗だった。白銀のティアラを身に付け、腰まで届きそうな長い髪は黄金色に光り輝いている。思わず護ってしまいたくなる、小柄な身体が、純白のドレスによって包まれていた。
儀式の概要は、以前に聞かれさていた。
本当に自分でいいのか、と周囲を見渡す。
だが、可憐な『光巫女』と平凡なまでの自分が揃ったことで、祭壇には特殊な結界が施される。それは『光巫女』のシノン様が妊娠するまで、決して解かれることがない強力な結界。その間、誰一人として結界内に入ることも、出ることも許されない。
そして、その結界内には『光巫女』の姫君と、自分だけ・・・
姫はお願いします、と自分なんかに頭に下げる。声をかけて貰えるだけでも光栄だった。まして・・・
まして、その姫と子を成すことが許されるなんて・・・
その後のことは自分でも、よく覚えていない。
自分は小柄な姫の身体を抱えると、視界を遮るカーテンの奥に連れ込み、小柄な身体に覆い被さっていた。密かに憧れてさえいた姫。
これが・・・姫の匂い。
まともに体を洗うことができない、自分たちとは完全に異なる香り。
姫のほうから唇を求めてきた。
年齢の半分にも満たない、姫のほうから、自分のような者の唇を・・・
ドレスをまさぐり、露わにする姫の箇所。
儀式に備えて、下着は穿かれていなかった。
自分の目の前で晒された姫様の象徴、次世代への系譜となる器。
これが・・・姫の味!?
まるで理性が解けて、異常なまでに興奮だけが高まっていく。
『ずぶりっ!』と盛大に響き、夥しいばかりの鮮血。
直後、結界外の歓声が一段と高まった。『光巫女』の身体はその特殊性から、破瓜された際の衝撃は周囲にも響き渡り、会場全体に隠しようがない事実であった。
硬直させて懸命に激痛に耐える姫・・・
だが、姫の内なる美肉は、自分の思いを嘲笑うかのように自分を翻弄する。
これまでに関係できた女性と比べること自体からして間違っている。
これは明らかに、次元の異なるもの・・・
もっと味わいたい!
もっと深くまで、姫を貫きたい!
その翻弄されるがまま、深々と突き刺した状態で射精する。
夥しいばかりの精が、姫の膣内に・・・子宮に送られた。
終わった、と思った。
これで自分の役目は終わり・・・
これは一夜の、まさに夢・・・と。
だが、姫は言った。
まだ結界は解かれていません、と。
更に・・・
ずっと、貴方にお慕いしていました。
物心がついてから、今日まで、ずっと・・・
貴方に抱かれたい。
これからも・・・ずっと。
貴方だけに・・・
こうして、姫の妊娠をより確実なものするため。
再度、姫の膣内に挿入が許された自分の存在。
『ずぶりっ!』と炸裂する衝撃。
会場の人間たちにも、二度目の性交が始まったことを知る。
再び、夥しいばかりの鮮血だった。
『光巫女』の身体は性交するごとに、生娘の身体へと戻る。
それ故に『光巫女』の身体は、決して性交に慣れることはない。
そしてその身体は、あらゆる男を翻弄する。
そう、全ての男を虜にしていく。
それはまさに『究極の名器』。
『光巫女』だけが持つ、男の願望器である。それを前にしては、『聖巫女』の持つ『極上の名器』でさえも到底にして及ばない。
そう、あらゆる男性を満足させるという、『聖巫女』の「極上名器」を持ってしても・・・
アリストリア大陸において、人類初めての『光巫女』となる、シノン・ファリスの存在が歴史書に登場するのは、神国ブリュンヒルトの単一国家体制が確立して、およそ900年の歳月が経過しよう、としていたころのことである。
当時のアリストリア大陸は、遥か北に・・・大海を隔てた向こうに存在する『グリス魔大陸』を拠点とした、「闇夜の眷属」による『魔王軍』の襲来によって、まさに暗黒の時代を迎えていた。
アリストリアの大陸の民には、無限に続くような塗炭の苦しみと、永遠の闇によって包まれたような絶望的な日々を、ただ生き続けることだけしか許されなかったのである。
まだ「闇夜の眷属」からなる、『魔王軍』とだけなら、アリストリアの民にも戦いがあっただろう。まだ文明こそ発展途上であり、人口に至っても最盛期の半分にも満たしていなかった時代であったが、彼らには優秀な騎士団があり、勇猛果敢な戦士たちを従えてもいた。
そして数だけにおいてなら、人間の方が遥かに多かったのだから。
だが、『魔王』と呼ばれた存在に関しては、その限りではなかった。
圧倒的だった。
まさに別格だった。
そう、まともな戦いにすら、ならなかったのである。それは一方的なまでの虐殺であり、それでも数多くの騎士たちが『魔王』に挑んでいく。
ある高名な戦士が戦斧で渾身の一撃を放った。
『魔王』は微笑したまま、その一撃を「魔剣」で軽々と弾く。
ある高名な騎士は、その隙を突いて長槍で鋭い一撃を見舞った。
だが、長槍の穂先は『魔王』に触れることさえ許さない。
射手たちがあらぬ限りの矢を放つ。
だが、矢では『魔王』の肉体に刺さることすら許されなかった。
魔王の存在を一言に表すには、まさに「無双」である。
圧倒的な魔剣の破壊力、研ぎ澄まされた剣技による斬撃、驚異的なまでの身体速度、優れた身のこなし、超絶した耐久力。
その段違いの存在を前には、これまでに『聖巫女』たちが誕生させた卓越の騎士たちでさえ、歯が立たなかったのである。
『魔王』の前には、滅びゆくのみ。
蹂躙と破壊と絶望は、『魔王』の特権であり、その象徴であった。
故に人々は祈る。救世主による救済を。
それだけに切望した。未来の希望の光を・・・
それから十数余年。人々はひたすらに耐え続けた。そしてその辛酸なまでの辛苦の苦労が遂に報われようとしていた。
アリストリアの番人が託した、大陸最後の希望である『光巫女』
その『光巫女』が出産した、愛の結晶。
この『魔王』と激戦を繰り広げ、その果てに打倒(公式記録では相討ち)することになる若者を、アリストリアの民は、尊敬と畏敬と崇拝を込めて、『伝説の勇者』と称えることになる。
こうして、神国ブリュンヒルトのファリス王家の血脈が繋げる『光巫女』と『聖巫女』・・・そして『伝説の勇者』の伝説が、代々として伝わっていった。
→進む
→戻る
→アリストリア戦記・外伝のトップへ
|