第序話【 駒姫 】
安土桃山時代・・・・それは将軍家の足利家の衰退から、日本全土に渡って繰り広げられた、群雄割拠の戦国時代であった。
そしてこの戦国の時代は数多の英雄、名将や勇将を輩出する。
桶狭間から天下布武を貫いた稀代の覇王、織田信長。
甲斐の虎とも称された戦国最強の名将、武田信玄。
越後の龍と称され、信玄と激戦を繰り拡げた、上杉謙信。
内政に外交、全てに卆なく最高の名将と謳われた、北条氏康。
百姓から天下人までに立身していった、豊臣秀吉。
待ちに待ち、耐えに耐えて、天下を手中にした、徳川家康。
最高の智将にして、三人の息子に後事を託した毛利元就。
齢十八歳にして奥州を席捲した独眼竜、伊達政宗。
各地で繰り広げられた戦場は、確かに男たちの祭典であり、その名将たる彼らの表舞台であっただろう。刀に甲冑。力に技に智。矢と銃弾が飛び交い、鋭い槍が突き出される・・・・
弱肉強食・・・・誰もが天下を狙って、覇を競い合った。
だが、その一方で当時の女性たちもまた、その戦国の時代を彩る存在ではあっただろう。いや、大きく歴史に介入した女性も、決して少なくはない。
信長に嫁ぎ、さすがは蝮の娘と称された、帰蝶(濃姫)
京一番の美女。浅井長政に嫁いだ、織田のお市。
秀吉に尽くし、天下まで支えた、お寧。
利家に嫁ぎ、最終的には加賀百万石を護った、お松。
秀吉を狂わせ、豊臣を滅ぼす一因ともなった、茶々(淀姫)
夫に嫉妬されるほどに美しいとされた、玉(細川ガラシャ)
どのいずれの時代にも、美しい女性たちが歴史を彩っていた。
そしてここにもう一人。東国一の姫君と評され、悲劇の美少女とも謳われた人物が、この戦国の時代に存在していた。
名を「駒姫」。別名「伊満(いま)」
父に出羽の雄、最上義光の二女(三女という説も)として、天正七年(1581)この世に生を受けた。謀将として恐れられ、あの独眼竜の伊達政宗でさえ警戒を怠らなかったという義光ほどの男が、目に入れても痛くないほどに溺愛した美少女である。
その東国一の美少女、駒姫は、僅か十五年という短い生涯の中で、彼女の一生に関わる重大事が発生する。
九戸政実の乱に発する奥州征伐につき、その全軍の総大将となった豊臣秀次(豊臣秀吉の甥)である。その秀次は最上義光の居城、山形城の城中において、駒姫の類稀なる余りの可憐さに、一目で心を奪われてしまったのだ。
即座に秀次は義光に対面して、駒姫の身柄を求めた。
※二人の出逢いは後々に創作された可能性もあり、単に噂を聞きつけた秀次が、義光に詰め寄って差し出させた説が定説ではある。
当時、駒姫はまだ幼く、義光はこの要求を断る・・・・いや、断りきりたかったのに違いない。
最終的に受け入れざるを得なかったのは、秀次が最高位の関白であり、彼の激しい熱意の賜物であったことであろう。また駒姫自身、豊臣政権下の父親の厳しい立場を良く理解していたからではないだろうか。
「十五歳になれば、秀次殿に輿入れさせる」
この条件を受け入れて、秀次は駒姫との縁談を纏めた。
こうして縁談が決められた駒姫のほうも、その嫁ぐまでの歳月を数え、最上義光の娘として恥ずかしくないよう、些事に作法、学問に至るまで、自分に厳しく律する日々を送るのだった。
だが・・・・
文禄四年(1595年)のこと。
天下人の秀吉の後継者として目されていた秀次ではあったが、秀吉の実子である、捨丸(豊臣秀頼)の誕生によって、情勢は一変してしまう。
秀頼が成人した暁には、秀次に譲った関白の地位を譲らせる、そのために秀次の娘と婚約をさせておくなど、それまでにも様々な計らいが二人の間で行われたが・・・・最終的には、外出時に太刀を所持していた理由で秀吉に対する反逆の容疑をかけられてしまう。
(※罪状は別説あり)
いっぽうの駒姫は、輿入れのために京へ上洛を開始したのであったが、既にそのとき、秀次は高野山に追放されており、駒姫は嫁ぐはずの秀次に会うことさえもできなかったのである。
そして駒姫の上洛から二日後、秀次の切腹が行われた。(享年28)
駒姫は秀次に触れるどころか、その目に見ることも叶わなかったのである。
だが、秀次に詰め腹を斬らせただけでは満足できず、また、この一件の逆恨みを恐れた秀吉は、秀次の妻子の全員を処刑すると宣言。その罪科の中には、未だ実質的な側室にもなっていなかった駒姫までにも及んだのである。
処刑者の中に娘の名をあったことで唖然とした義光であったが、あらゆる手段を用いて、豊臣政権下でも揺るぎない立場にあった徳川家康、長年の宿敵でもあった、甥の伊達政宗に頭を下げてまで娘の助命を懇願した。
(実際にこれより後、義光は、東北における打倒豊臣政権の急先鋒にもなっている)
だが、家康や政宗の働きかけも、遂に間に合わず・・・・
罪なき身も世の曇りにさへられて、ともに冥土に趣かば、
五常の罪も滅びなんと思ひて 伊満(いま)十五歳
罪を切る弥陀の剣にかかる身の
なにか五つのさわりあるべき
(罪なき私の身も、世間の邪な動きに邪魔されて、共に冥土に逝けたのなら、五つの罪も滅びることでしょう。
罪を斬る阿弥陀(あみだ)様の剣に掛かる身。私にも五つの罪がきっとあるのでしょうから)
駒姫は遂に蕾みのままに散った。
まさに蕾める花の如き姫君であった、とは、処刑を見届けた者たちが揃えて口にしたものである。無論、時の権力者の耳を恐れて、声高に、とはいかなかったであろうが・・・・
そして秀次に会い、輿入れが果たされていた後なら、まだ救いはあったことだろう。少なくとも縁談が決まってからの精進が報われた、その結末であったのだから。
かくして駒姫は、十五歳にしてこの世を去った。
自身を熱烈に求婚した、秀次とも会うこともなく・・・・そして求婚されたがために、この世を辞することになってまで。
生きていれば花も実もあろう、可憐な姿そのままに。
そして時は現代・・・・
一人の美少女が、都内の高校に進学するために上京する。
サラサラの長い黒髪。身長は高くもないが低くもなく、身体の発育も、まぁ、そこそこ・・・・だが、彼女が一度でも微笑めば、誰もが思わず魅入ってしまうだろう、絶世の美少女であった。
彼女の名を、琴乃初音。
年齢は、前世の駒姫がこの世を辞した・・・・十五歳であった。
→進む
→戻る
→孕ませこそ男の浪漫よ!のトップへ
|