第零話【 発端 】


 既に見慣れ、飽きてもいた帰路の光景。
 俺は何度、この光景を見せられるのであろう?
 そして後何回、この光景を見続けなければならないのだろうか?
 ・・・・。

「ふん、何をバカなことを・・・・」
 誰かいるわけでもなく、俺は自らの思考に独白する。
 そう、バカなことだった。
 俺が社会人であり、そして今の会社に雇われているその限り、この日常は変わらないことだろう。
 若いころは頑固に固執する性格が災いし、無能者と烙印を押された。
 こんな不景気極まる世の中で、リストラされた経験もある。
 夢を抱いていた当時は若かったが、そこそこの実績しか築けなかっただけに、そのリストラという処分も致し方がなかったかもしれない。
 もっとも・・・・そのリストラされた経緯があって、現在は自分でも驚くほどの大手出版企業に滑り込むことができたのだから、人生は面白いものだ。

 今の俺の役職は、課長。
 四十代前半で課長、というのも年齢的に考えれば遅いものだが、勤続年数からみれば、そう悪い境遇でもないだろう。
 幸い、課の部下たちの受けも悪くはない。
 事務の女の子たちからの評判も、まぁ、そこそこ・・・・
 ジャーナリストとしての名声こそ得られなかったものの、堅実に着実に今の地歩を固めてきた。
 完全週休二日制でありながら、給与に至っては、前の会社とを比較するのも阿呆らしい、雲泥の差である。


 現状の職場に不満など・・・・有り様はずがなかった。
 そう、不満など・・・・

 愛車のハンドルを握りながら、俺は自問自答を繰り返す。
 特にここ最近、この問答をする時間が顕著だった。
 確かに恵まれた環境、だとは思う。
 だが・・・・何かが足りない!?
 漠然とした不信感が、俺の心境に影を指す。
 バックミラーに写る自分の顔を・・・・老いを自覚せずにはいられない容姿に、ただ焦燥感だけを募らせていくのだった。


 俺は内藤仁。
 年齢は四十一・・・・今年の夏で、もう四十二になる。
 大過なく大学を卒業すると同時に、中学時代から交際のあった女性と結婚。積極的な行動性に欠け、要領が良かったというわけでもなく、取り立てて外見も良かったというわけでもなかったから、よくもまぁ、八年間近い交際を続けながら、彼女との結婚まで漕ぎ着けられたものだ、と我ながら感心に思う。
 もっとも、それまで順風だった人生も、僅か三年も維持することができなかったのだが・・・・
 二十五歳のとき、リストラの対象にされたのは、華々しい実績などに恵まれなかったこともあるが、何より、入社当時から自分の立ち位置を見失っていたような気がしてならない。
 それまでの蓄えや退職金、俺の両親が他界した際の保険金もあって、とりあえず当座の生活には問題はなかったはずであったが、不況の最中もあって定職にありつけない俺の状況に、妻は耐えられなかったのだろう。
 早々、俺の未来に見切りをつけ、俺よりも若い愛人へと走っていった。
 大学に進学した当時から、これといって人生の明確なビジョンを抱いていなかったそのツケが、この時に襲ってきたようなものだった。


「まぁ、それ以前から、妻とは疎遠だったよなぁ・・・・」
 それ以来、妻だった彼女とは会ったことはなく、また今更に会いたいとも思わなかった。
 名作とも思えるオカズ用のアダルトDVDさえあれば、性欲はこと足りる。それだけならば、離婚や別れなどもない。
 また経済的にも余裕はあり、クラブやソープにも毎日通おうと思えば、それも不可能ではない。(ハハッ、さすがに毎日は厳しいか・・・・)
 妻帯者という生活の牢獄から解放され、理想的な再就職先が見つかり、自由気ままなこの生活の日々を、それはそれで俺は気に入っている。
「・・・・」
 それなのに・・・・
 何かが足りない?


 充足感を得たい、と思っているのに、そのための原因不明な障害などは甚だ気分が悪い。
 独白しながら煙草を吸おうとして、手にしたそれが空箱だったことに気付く。ついていない時は、とことんついていないらしい。
「ちっ、切らしていたんだっけ・・・・」
 信号を確認しつつ、交差点の手前にあるコンビニの駐車場へ停車する。
 そして愛車から降り立った際、突然、隣に停車していた車の窓から煙草の吸殻が足元に落ちた。
「!!!」
「あ、悪りぃなぁ!」
 俺は呆れつつも、相手を睨みつけていた。
 今時、捨て煙草かよぉ・・・・マナーの悪い奴だな!
 こんな奴がいるから、年々、喫煙者の立場は悪化していくのではないか。
 更に不機嫌になった心境は否めず、俺はコンビニの方に歩きながら、入店間際で足を止め・・・・ゆっくりと振り返った。
 なんとなくではあったが、見覚えのあるような顔だったのだ。
 向こうの相手も口元に手を当て、こちらに困惑の表情を向けている。
「もしかして・・・・あ、天野かぁ?」
「あ、やっぱり・・・・内藤なわけ?」

 天野智樹。
 もはや中学時代の面影も残っていなかったが、当時は一番の仲良しだった間柄であった。親友・・・・いや、一番の悪友と言っても過言ではないだろう。
 中学を卒業後、それぞれ異なる高校に進学し、その中学校の卒業式以来の再会であったため、すぐには思い出せなかったが・・・・
 まぁ、それは向こうも似たようなものか。

 久しぶりの再会。
 かつては若さに身を任して、心を許しあった間柄。
 交信が途絶えてから、色々なことがあり、そして色々なことがあったことだろう・・・・
 そういう経緯もあって、俺たちは久しく意気投合して、夜にかけて飲み明かしていくことになった。

「中学卒業以来だから、約二十六年ぶりか?」
「成人式のときに、同窓会をやっただろうがぁ!」
「あ、俺、それパスしているんだわぁ」
 そうだったか? と、俺は首を傾げる。が、もう二十年以上も前の出来事の記憶など曖昧に過ぎて、誰が出席し、誰が欠席したのかでさえ、思い出すのも困難であった。
(そもそも中学校のクラスメイトなんて、もう半分以上忘れてしまっているなぁ・・・・)
「まぁ、懐かしいことに変わりはねぇやぁ」
「それだけ、互いに歳を取った・・・・って、ことだろう」
 違ぇねぇや、と共に、ゲラゲラと苦笑する。


「今日はたまたま仕事の都合でね・・・・」
 天野は高校を卒業した後、関西のほうに引っ越し、そこで結婚。息子と娘の四人暮らしとのことだった。俺とは違って、しっかりとした人生を歩んでいる。
 今の自由気ままな生活を気に入っている、と言っても、やはりこうしてかつての旧友と会えば、それが自分に言い聞かせている、言い訳のように思えなくもなかった。
「なぁ・・・・お前の奥さん、やけに若くねぇ?」
 特にその家族一家の写真を見せて貰って、無性に腹立たしく思えてしまった。
「で、お前のほうはどうよ?」
「何が?」
「結婚だよ、結婚」
 ウイスキーをロックで割りながら、天野が尋ねてくる。
「女子マネだった片瀬と付き合っていたのは、薄々気付いていたし」
「な、なぁ・・・・」
 当時は懸命に隠していた者としては、大雑把な性格のはずの天野にまで知られていたとは、少しショッキングなことであった。
 中学のような若い年代では・・・・まして交際相手が、部活内では一番の人気者だった彼女、とあっては、何かと秘密にしておきたかった当時であった。
「風の便りに彼女と結婚した、とも聞いたような・・・・」
「前の会社をリストラされたときに・・・・逃げられたよ」
 俺は隠すこともなく、正直に答えた。
「慰謝料代わりにか、借金の借用書と離婚届を残していってな・・・・」
「・・・・そっか」
 天野は煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。
「悪かったな、変なことを聞いて」
 いや、と頭を振る。
 もう十年以上も前の出来事であり、この手の質問にも慣れていた。そもそも逃げた妻にそれほどの愛情があったのかも、今では疑問である。

「うちは近くだから、少し寄っていかねえか?」
 およそ二十七年ぶりの再会だったということもあって、会計の際に俺は天野に振り返る。
「まだまだ飲み足りないだろ?」
「そうだな・・・・」
 代行業者に車の移動を手配しつつ、天野はこちらに振り返った。
「明後日には、またあっち(関西)に戻らなきゃならんけど・・・・明日はオフやし、それも悪くはないなぁ」

 天野の近況報告を聞いて、一番にびっくりしたのは、大雑把な性格だったこいつが、関西の私立探偵として探偵事務所を営んでいる、ということだったろう。
 勿論、探偵という職務に性格は余り関係がないのかもしれないが、それでもあの探偵である。時には迷宮入り難事件を解明したり、時には誰にも見つけられない伝説の至宝などを発見したりもする、推理力と洞察力などが備えていなければならない職業の・・・・
「内藤、それはドラマの見過ぎやぁ・・・・」
 天野は苦笑する。
「素行・浮気調査。人探しに猫探し。個人や法人の信用調査なんかが殆どなんよ・・・・」
 尾行に聞き込みに張り込み。
「別に国家資格が必要とかじゃないから、根気さえあれば、誰にでもなれる職業なんだよ・・・・一応ね」
 無論、信用される探偵になるには、実績と能力が問われるわけだが。
 その辺はジャーナリストと似て通じるものがあるかもしれない。

 その天野も俺の住むマンションまで来て、その構造設備に唖然とせずにはいられなかったようだ。
 最新の防犯システムに伴い、入館規制は非常に厳しく、住人が持つセキュリティカードか、滞在中の住人が発行する即席カードが取得できない限り、建物の中に入ることさえ不可能である。
「凄いところに住んでいるなぁ・・・・」
 メインゲートをセキュリティカードで開け、建物の中心部にあるエレベーターを呼び出す。このエレベーターに至っても、セキュリティカードないし、即席カードを差し込むことによって作動する仕組みになっている。行き先を指定する必要もなく、コンピューターが差し込んであるカードから情報を読み取り、自動的に目的地へと運んでくれるわけである。
「便利なのは、確かに便利なのだけどね・・・・」
 確かに防犯対策としては、ほぼ完璧に近い防衛力を誇っているのだろうが、例えばセキュリティカードを紛失してしまった場合、管理人か、不動産屋と連絡がつかない限り、自宅に戻ることもできない。
 また住人同士の繋がりが全くなく、ここに二十年近く滞在している自分ではあるが、隣人がどんな人たちなのかさえ解からない状態である。
 防犯思想の徹底も考えものではないかと思う。
「しかし、一人暮らしで4LDKって・・・・どうなんよ?」
「まぁ、俺の場合・・・・単に引っ越すのが面倒だった、ってわけもあるけど・・・・」
 高給でありながら独身であり、親が他界した際に遺産の相続、その保険金もあって、経済的には余り不自由していない現状であった。


 冷蔵庫から新しい缶ビールを出し、かつての親友に投げ渡す。
 明日は土曜日(休日)で、俺にはこれといって予定はない。
 明後日には関西に戻るという天野には悪いが、今夜はとことん飲み明かすつもりであった。
「しかし、内藤がブン屋とはねぇ・・・・」
「うちが発行しているのは新聞じゃなくて、雑誌だけどなぁ」
 俺は名刺を突き出しながら、もう片方の手で缶ビールを傾ける。
「まぁ、今は前線を退いて、主にアンカーマンとしての役割を任されているけどな」
「アンカーマン?」
 天野が怪訝そうな表情を見せ、俺はゆっくりと頷いた。
 ジャーナリストと一口に言っても、それは一つの職種の総称である。
 まず大きく異なるのが、俺のように組織に属して聴取した情報を報道するものと、あくまで個人のみで行動し、報道機関に垂れ込みをする、通称フリーのジャーナリストとある。
 また組織に属する側にも、役割に応じた名称がある。
 実際に現場に赴き、聞き込み、情報を聴取する「データーマン」と、その彼らが得てきた情報を吟味し、調整する立場を「アンカーマン」というのである。
「まぁ、そのおかげで誌面を騒がすようなスキャンダルや実績には、もはや無縁の身となってしまったけどなぁ・・・・」
「スキャンダルねぇ・・・・」

 きっかけはほんの些細なことからだった。

「そういえば、と・・・・」
 缶を飲み干した天野が鞄から光学用メモリースティックを差し出した。
「面白いモンが手に入ったんだ・・・・酒の肴にでもして見てみるか?」
 光学用メモリースティックとは、鮮明な三次元映像を可能とさせた、映像再生技術の最新機器である。つまり、再生された映像をあらゆる角度から眺めることができ、それはまさに現場の再現の視聴を可能とさせる。

 《 友卵会主催・美少女中学生 昏睡処女喪失妊娠レイプ 無修正 》
 受け取ったメモリースティックのタイトルを見て、俺は唖然とした。

 先にも触れたように、光学用メモリースティックは、あらゆる角度からの視聴を可能とする映像で、それだけに映像には後から手を加えることは現状、不可能である。
 確かにアダルト系のメモリースティックも市販されてはいるが、無修正で、しかもレイプ膣内出し物ともなると、俺でも一、二本程度しか見かけたことしかない。希少価値が高く、それだけに値が張り、流通させにくい、という側面もあるが。

 冒頭は二組の学生カップルが街中でデートをしている、その様子を隠し撮りしているものであろう。いずれも若々しく、年齢を詐称している様子もない。
「ん?」
 特にこの美少女の学生の一人に・・・・俺は見覚えがあった。
 天野も俺の反応を見て、微笑を深めているようだった。
 はて・・・・誰だ?
 その学生カップルの一組がデート中に眠らされ、ホテルの一室に運び込まれると、画像はいよいよ三次元映像に展開する。

 自分の部屋そのものが、そのホテルの一室になったような錯覚を覚えるのは、光学用メモリースティックの三次元機能の恩恵であろう。
 俺は映像の男たちよりも前に進み、ベッドの上で昏睡する美少女の容姿を確認して、思わず凝視せずにはいられなかった。
「ま、まさか・・・・この娘は・・・・」
 (kto!?)
 天野も頷く。
 既にアイドルと呼ぶよりも、名女優とも言うべき「kto」だが、現在の芸能界でも圧倒的な人気を誇り、数多の男性を魅了する数多の表情は尚も健在である。
 その「kto」の本名を青山恵都!
 俺の知る全盛期の頃よりも若く、また幾分にも幼い感じではあるが、確かにそれは、あの青山恵都であった。
 《 間違いありませんね 》
 主催者側の一人がそう呟くと、手にしていた端末を操作し、壁に設置されてあった大型ビジョンに眼を奪われる。
 画面に映し出されたのは、今、昏睡している青山恵都の卵管・・・・そしてその卵管には、まさに排卵されたばかりの・・・・
 《 ご苦労だったな、これは約束の金銭だ・・・・ 》
 もう一組のカップルが主催者の一人から封筒のような物を受け取る。
 恐らく封筒の中に入っているのは札束であり、青山恵都は彼らに売られたのであろう。
 メモリースティックのタイトル通りであれば、この後、青山恵都は昏睡させられたまま、処女喪失を余儀なくされ、妊娠させられることになるのだろう。
 だが、まさか・・・・
「あのktoが・・・・?」
「ん? お前もジャーナリストの端くれなら、以前に耳にしたことぐらいはあったろう?」
 俺は頷く。
 青山恵都(中学時代)の・・・・輪姦レイプによる妊娠疑惑!


 実際にこれから展開された映像にも、青山恵都は苦悶の表情を浮かべながら破瓜されて、たっぷりと大量の膣内射精を余儀なくされた。
 次々と代わる代わる、膣内出しによって果てていく男たち。
 眠りながら犯されていく、当時の学生トップアイドル。
 様々な男たちに射精され、満たされていく・・・・排卵された卵子が待つ子宮・・・・
 そんな恵都の手を握り締めながら、彼女が孕ませていくのを余儀なくされた昏睡する彼氏。

 大型ビジョンでは卵管に辿り着いた精子たちが、いよいよ一個の卵子に群がっていく様子が見受けられる。青山恵都の受精はもはや避けようがない確実なものとなろう。
 これは過去に起きた現実であり、改竄も許されない光学用メモリースティックによる、その決定的な瞬間の記録でもあった。

 俺は無言のまま、光学用メモリースティックの映像を記録保存する。
「・・・・お前、こういうのが好きなん?」
「ん、んなわけ、ねぇーだろう!」
 俺は表向き、道徳的に不謹慎だ、と取り繕っていたが、その内心ではある種の羨望を抱いていたことには間違いなかった。また今の映像を保存してしまった時点で、何を言っても説得力に欠けること甚だしい。
「まぁ、いいけどにゃぁ・・・・」
 天野は苦笑しつつ、それでも釘を刺してきた。
「さすがにこれを報道に利用するのは、簡便なぁ・・・・入手経路は個人的にだが、一応守秘義務が課せられているし・・・・何よりも・・・・」
「ああ、解かっているよ」
 俺は天野の釘を刺す、その意味を正確に理解していた。
 確かにこの光学用メモリースティックを報道すれば、一大スキャンダルどころか、日本を揺るがすような大事件に発展することは間違いないことだろう。だが、それを行ってしまった場合、いくら俺の勤務する会社が大手とはいえ、取り潰されることは間違いなく、俺のような存在は、即刻に抹殺されることも間違いないだろう。
 この時に妊娠させられた青山恵都のこと、「kto」が、後に後ろ盾に得た人物は、この経済大国の日本においても、もはや敵う者がいない、とさえ言われた一大人物である。

「誰にも見せないと約束するし・・・・」
 報道に使えないことを差し引いても、オカズとしてなら、この映像には価値がある。
「あくまでも個人的な観賞用として・・・・その、認めるよ」
 そりゃ、俺だって男だ。
 まして映像の彼女は、当時の学生トップアイドルである。
 もうすぐ四十二にもなろうが、身体は至って健全そのもの。
 一生を誓い合ったはずの妻は、以前の会社からリストラされた途端、家を空けるようになり、若くて将来性のある愛人のもとへと走っていった。
 妻との間に子供ができなかったのが、唯一の幸いであろうか?
 それから暫くして、就職活動から戻った家には、無人の空間と一枚の離婚届、慰謝料代わりの借用書だけが残されていた。
 笑いたければ笑えばいいさ・・・・
 その当時の俺自身、笑うしかなかったのだから・・・・
 だが、それ以来、俺の中で孕ませ願望が強くなっていった。
 抱ける女には事欠かなかったが、生の膣内出しを容認するような、酔狂な女性は皆無であった。
 まぁ・・・・当然ではあろう。
 それだけに、次第に俺の中で孕ませ願望だけをより募らせていく。
 歳月を重ねるごとに・・・・
 時間が経過していくごとに・・・・強く、強く・・・・


 《 翌日 》

 酔っていたからか、悪酔いし過ぎたのか?
 何をどこまで天野に話したのか、翌朝になっても思い出せなかった。
 確か二時か、三時頃。
 また連絡するよ、と天野は帰っていった・・・・ような。
 ただ保存しておいた映像が、天野との再会を現実的にする。
 映像の中に、昏睡する彼女の卵管がある。
 排卵されていた卵子は、ゆっくりと誰かの精子を受け入れ、受精卵へと形成されていく。間違いなく青山恵都が受胎させられた、その瞬間的光景であった。
 その映像を何度も繰り返させる。
「卵管・・・・卵子・・・・子宮・・・・じゅ、受精・・・・」
 映像は、青山恵都の膣内であり、突き入れる誰かのペニスであろう。
 だが、この映像に限り、誰かの膣内、俺のペニスであってもおかしくはないだろう。
 少なくとも、俺の想像する範疇の中だけであれば・・・・

 さすがに天野の前では自重していたが、今一人となって俺は、股間に手を伸ばして、硬くなった愚息を握り締め曝け出す。
 そして画像の挿入に合わせて、俺のペニスも・・・・

 誰かの子宮・・・・
 俺に孕ませられる子宮・・・・
 俺によって受精させられる卵子・・・・
 俺が受精させる卵子!!!

「ぐうっ!」
 激しい俺の憤りにも似た主張の迸りは、まさに天井にも届かんばかりの凄まじい勢いであった。


 今の職場に不満などはない。
 だが、俺自身に・・・・今の俺の生き方に不満があったのだ。

 そう、俺も誰かを・・・・
 誰かを!!!


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