第初話『 プロローグ 』

 
 『近代学園都市』とも呼ばれる、千葉県房総地区の海上に建造された、広大な人工島。総体面積はおよそ千葉県全土に匹敵する広大な敷地を誇っている。

 その学園都市に「房総大学」の名を冠した四つの学区。

 「東条」「西条」「南条」「北条」の四つの学区に、日本本土と学園都市を唯一に繋ぐ中枢の中央地区。近代学園都市は、この五つの区画によって構成されていた。



 そんな学園都市も、いよいよ年末に近づき・・・



 聖夜・年末ともなれば、中央地区はまるで眠らないのではないか、と思わせるほどのイルミネーションに満ち溢れて、その中央地区に及ばないまでも、他の四つの学区もそれぞれに飾り付けられていた。





「「「「「   3   」」」」」





「「「「「   2   」」」」」





「「「「「   1   」」」」」





 誰もが新年の到来に浮かれていた。

 そしてそれは何時の時代も・・・

 決して変わらないのかもしれない。





「……っ……」

 だが、房総東条大学付属・東条高等部一年の『井伊真由』は涙をなくして、この年末を迎えることはできなかった。

 中央地区、別名『セントラル』と呼ばれる建物の、そんな綺麗な夜景を見下ろせる非常に豪勢な部屋に、非常に豪奢なまでのベッドの上で。

「…うっ、ううっ……」

 新年を告げるカウントダウン。

 それを男は意図的に腰の動きと合わせた。

「……っ……」

 真由はその新年の瞬間に、男の夥しいばかりの精液による膣内射精を子宮に受けて迎えていた。





 井伊真由は現在、十五歳。

 東条高等部の一年生にして、昨年末の『ミス房総大付コンテスト』(四条学区・付属校全体)の準優勝者。僅差で優勝を逃したほどの、容姿が非常に優れた超絶級美少女だ。

 長く艶やかな黒髪。非常に整った顔立ち。均整の取れたスタイル。括れのある腰。健康的な太腿からの華麗な脚線美。

 彼女が地元の中学時代に『東海の至宝』とも称されていたその美貌にも、なるほどと頷けるものであっただろう。



「…………」

 夜景を映していた虚ろな瞳。

 もはや枯れたような涙の痕・・・



 確かに『ミス房総大付』とはいえ、僅差の差で優勝という栄誉を逃したのは、真由にとっても残念な結果である。地元の持て囃された中学時代を鑑みれば、悔しくはない、と言えば嘘にもなるだろう。

 それでも優勝した彼女・・・『ミス房総大付コンテスト』を五連覇した彼女の美しさは、真由自身からして認めるところであり、そんな彼女と僅差まで競れたという結末は、彼女の誇りにも成り得たのだ。



 だが・・・

「っ……」

 ベッドの上に残されたのは、真由の身体。

 乱雑に放置された下着。



 そして・・・破瓜された鮮血の痕・・・だった。



 ベッドのそれが、真由の処女喪失を物語っている。

 傍から見た目では、これは合意の上での性交に見えたことだろう。聖夜の夜に開かれた祝勝会。男の部屋に赴き、事前に『性交同意書』に記入して、自らの意思でベッドに男を迎え入れた・・・ようにしか見えない。

 だが・・・真実は違う。

 真由はレイプされたのだ。

 あの時の自分は正気じゃなかった。

 上手くは説明できない。

 現状でも、真由自身が酷く混乱している。

 だが・・・



 危険日にも関わらず、避妊具なしからの膣内射精を求めるなど、およそ一女学生にとっては正気の沙汰ではない。





 先ほどから呆然と握り締めているのは『携帯端末・ミーティア』。四条学区の学生にはもはや必須アイテムとなっているそれは、所有者の体調を把握することができる。

 画面には『受精卵形成』となっている。

「………」

 当然ではあろうか。

 聖夜の夜に危険日を迎えた真由は、祝勝会の後に男の部屋に赴き、新年を迎えるまでの一週間をこの男の部屋で、休まずに性交を繰り広げたのだ。

 男は一度として避妊具を付けることはなかったし、当時の真由も妊娠など全く恐れる素振りを見せなかった。





 それでも『受精卵形成』の表示から『着床(妊娠)中』になるのか、それとも『未着床』になるのか。

 真由の学園生活・・・・いや、人生そのものを左右すると言って過言ではないだろう。

 携帯端末を強く握り締める。

「……っ……」

 まるで・・・祈るように。



 相手の男の姓名は解かっている。その立場も。だが、男を訴えることはできない。事前に記載した『性交同意書』とはそういうものなのだ。

 正規の手順を踏んで真由自身が作成した以上、あの同意書は効力を発揮する。故に、仮にあれをレイプだと立証できたとしても、結果的には合法的な性交と認められてしまう。

 散らされた純潔も・・・諦めるしかない。

 いや、簡単に諦められるものではないが、ここで悔やんだところで時間が巻き戻ってくれるわけでもない。



 だから、今・・・これからを・・・

 これからを・・・



 せめて、と強く祈った。

 学生の身でありながら、妊娠だけは避けたかった。まして望まない男の胤をその身に宿すことなど・・・



 せめて、それだけは・・・と。





 そのように思ってしまっている時点で、既に彼女の思考は繰り人の思惑に誘導されていた。

 井伊真由、現在十六歳。

 『東海の至宝』とも呼ばれた、東条の美姫。





 既に彼女はこの学園都市の闇に囚われていた。


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