第序話【 発覚 】


 光りがあれば、また闇もある。
 かつて某ゲームでも語られた、名言でもある。
 その名言に偽りはない。
 どんな煌びやかな街といっても、必ず荒んだ部分はあるように。

 そして何時の世も、未成年者の性犯罪が途絶えることない。
 少女は僅かな小遣い欲しさに、身体を売り・・・・
 その未成熟な身体に性欲を満たす、大人たち・・・・

 だが、一度でもそれが発覚すれば、どちらの末路も悲惨である。
 少女は学校関係から腫れ物扱いされ、大人は社会から抹殺される。
 ただ一時の過ちのために・・・・
 だが、それでも性犯罪が途絶えたことはない。


「立花さん・・・・いい娘、いませんかね?」
「ハハッ・・・・そうですね、まずご希望とされる年齢層は?」
 そこは何の変哲のない事務所。そして受け答えする男の名を立花道雪。売春及び買春の仲介人である。
 2mを越える長身の厳つい男で、決して二枚目ではない。盛り上がった筋肉、鍛え上げられた肉体だけが、この男における外見の、唯一の美点であったろう。
 無論、好き好みは大きく分かれるだろうが・・・・

 何時の世も性犯罪が途絶えないご時世ではある。だが、発覚したときのリスクは余りにも大きい。
「なるほど、女子高生ですか」
 特に相手が未成年者、ともなると、どんな大人たちも安全性を金銭で買えるものなら・・・・という要望もあって、立花のようなプロの仲介人が存在するのである。
「ご希望が、清楚で可憐・・・・ふふふっ、贅沢ですな」
「お恥ずかしい限りで・・・・」
「いやいや、決して恥ずかしがることではありませんよ。金銭を出して若い娘を抱くとすれば、やはり妥協はしたくはありませんものね」
 少なくても、立花と彼は同類の人間であるらしかった。

 パソコンのデータバンクから、希望候補を絞っていく。
 リストに載っている少女たちは、登録料(千円)を支払って掲載されている。無論、このリストを閲覧できるのは立花だけで、買春に訪れた男には、如何なることがあっても見せない原則である。
 掲載期間は一ヶ月。
 立花の呼び出しに応じられる場合にのみ、表示が待機中となる。
 その間に男たちが待機中の彼女を買えば、立花からの呼び出しの連絡がされる寸法である。
「とりあえず七万円と、三万円からという娘がいますが、三万円からのほうは生での挿入、膣内出しは厳禁です」
「七万円のほうは生でも、出していいのですか?」
「ええ。最近、彼氏と喧嘩別れしてしまったらしく、半分、自暴自棄になっていますね」
 パソコン画面の右下には、彼女のデータの追記事項に日付があり、この少女は一週間前に生理を迎えている。
「しかも、今日が・・・・中り(あたり)ですよ」
「 ! 」
 仲介人を介しての買春メリットの一つに、互いに直接、連絡を取らないことから、後腐れがないということだろう。例え今日、紹介した彼女が懐妊しても、この男に連絡の取りようがないのである。
 しかも彼女は今、待機中。立花からの呼び出しを待っている状態。

《はい、もしもし》
「立花だ。購入者が現れた。密界のレストランの裏十一番に、島田という名前で抑えておく」
 無論、この少女も、少女を買った男も「島田」という名前ではない。
《解かりました。一時間以内に向かいます》
 立花は男から半額の金額を紹介料として受け取り、
「頑張って孕ませろよ・・・・」
 これまでに何人もの美少女を孕ませてきた先駆者として、激励した。


「さて、と・・・・」
 今日はこの後に買春者の予定はない。
《 pluuu・・・・ 》
 携帯が唐突に鳴る。相手の着信、発信記録にも残らない。通信探知機も遮断する特殊な携帯が・・・・
「さしずめ、買春者の電話かな?」
 職業柄上、携帯は複数所持しており、唐突に見も知らぬ人物からの連絡も日常茶飯事の出来事である。
 もっとも今回の連絡してきた相手は、携帯メモリーに予め登録表記されてあった。
 それは即ち、過去に接触のあった人物、ということである。
 んん・・・・シンル?
 だが、それでもそれが誰であったか、など、容易に思い出すことは困難なことであった。確かに客商売とはいえ、一々、一人の客名を覚えてなどいられない。それでなくても、一日に何件と連絡が入ってくるのだから。

《もしもし、立花さん?》
 若い女の声であった。
「そうだが・・・・」
 偽名とはいえ、立花の名前を知り、この携帯に登録されてある以上、過去に顧客であった可能性は非常に高い。
 既に立ち上がっているパソコンに、斡旋の過去の記録を検索する。
 シンル、という、珍しい登録名ということもあり、該当する件数は一件だけであった。そのおかげで検索に要する時間は非常に短い。

 【契約者】シンル 【提供者】篤川明日香

 写真付きの画面になって、やっと立花は、相手の素性を完全に思い出すことに成功した。
 篤川明日香・・・・
 およそ七ヶ月前、立花が三日間に渡って破瓜レイプした美少女。
 そして、最後にシンルから連絡があったのは、およそ四ヶ月前。
「明日香、妊娠の傾向、あり・・・・」
 たった、それだけだ。
 それ以前にも、またそれ以降にも、立花は多くの美少女たちを破瓜レイプし、孕ませてきたこともあって、この最高に具合の良かった逸材を記憶から埋没させてしまっていた。

《思い出させていただけたかしら?》
「ああ、明日香の身体を紹介してくれた、確か、部屋の相方だったな」
《そうそう》
 ・・・・あった。
 特別顧客NO.271・・・・【 篤川明日香 】
 ハニーブロンドのあどけない、可憐な顔立ち。
 およそ七ヶ月前の春ごろ、シンルと契約を交わし、立花が彼女たちの部屋で、処女であった明日香を破瓜し・・・・三日間に渡って受精させ続けてやった、美少女中学生であった。
 運動はだめ。成績は平凡。料理は壊滅的・・・・何の取り得もない、という契約者の言葉ではあったが、中学生という若さもあって、その身体の具合の良さは、今思い出すだけでも、立花の股間を熱くさせてしまうぐらいである。
《その、明日香のことでね。ぜひ立花さんにお願いしたいことがあるんだけど?》
「ん、なんだ?」
《ん、〜〜電話では、ちょっとね・・・・》
 幸い、今日の残っている仕事は、立花が運営するサイトを確認するぐらいで、これといって予定はない。
「解かった。一時間後、例の店で二十一番、俺の名前で取っておく」

 桜花市の広大なショッピングモールの一角に、主に密談を目的とさせた食事処【密界のレストラン】というものがある。もう少し砕けた言い方をすれば、《貸し部屋食事処》に分類されるだろう。
 店舗は来客ごとに個室の部屋を提供し、盗聴や盗撮の類を受け付けない仕組みになっている。
 ただこの店舗には、もう一つの裏の顔がある。本来は存在しないはずの「裏数字」の部屋で、内装はほぼラブホテルと何ら変わるところはない。この部屋を予約することができるのは、ごく一部の人間のみだけで、立花もその一人であった。職業柄、立花はここの常連であり、彼専用の部屋が用意されてあることなど、店主にも顔が利く。
 この業界では、人を信じることほど愚かなことはない。
 だが、立花が立花である限り、彼らは絶対に彼を裏切らない。

 薄暗い店舗の一室。立花専用の部屋は、表裏に一室ずつ用意されてあるが、今回待ち合わせに使用したのは、表の部屋である。
 そしてその部屋では既に、かつて立花の契約者であった神露(シンル)ベルヴェディアが、彼の入室を待っていた。
「久しぶりだな・・・・少し、大人びたかな?」
 神露は中学二年生。確か誕生日を迎えたばかりの十五歳で、確かに今が成長期を迎えた充実期であろう。
「本当に久しぶりね。でも、立花さんは相変わらず」
 大きい、と言いたいのだろう。
 立花道雪は身長2mを越す、巨漢である。初対面の人間が初めて見れば、誰もが立花の存在に圧倒されるだろう。ましてただ背が高いだけでなく、筋肉の隅々が隆起し、はちきれんばかりの体躯である。
「それで、明日香のことでお願いとは?」
 まさか、出産費用を払え・・・・ということではないだろう。
「うん、まずは報告。電話で言った段階で薄々、立花さんにも解かったと思うけど・・・・」
 神露は注文しておいたミルクティーに視線を落とし、ミルクと砂糖をたっぷり落とす。肥満にはならない自信があるのだろう。
「明日香の妊娠、発覚したの」
「ほぉ・・・・」
「でも、まぁ、発覚が遅すぎたこともあって、もう結局は、出産するしかないわけだけどね・・・・」
 明日香の親友であるはずの、神露の声は明るい。
 彼女はこうなるであろうことを解かっていて、明日香の身体を立花に売ったのである。正確には、明日香の卵子を・・・・

 美少女中学生、明日香の初出産。無論、その子供の父親は、明日香を破瓜した立花である。
 立花にとっては何人目の子供になるのか、もはや数えることも不可能ではあったが、それでも特に入れ込んでいた明日香が、自分の子供を出産することに、十分な達成感に満たされていた。

「でも・・・・あの娘ね、ほら、経済的な問題で・・・・」
 立花は当時に記録した、篤川明日香に関するデータを思い出す。
 両親は生まれたときに死去しており、残された唯一の血縁は、三つ上の義兄が一人。これは確かに明日香が出産することも、これから赤子を抱えて、食っていくことにも厳しい状況だろう。
「まして、ほら。お義兄さんにも言えないだろうし・・・・」
 ミルクティーを掻き回しながら、ゆっくりと啜る神露。
「いつの間にか、妊娠していて・・・・もう手遅れなんですって、ね」
 無理もない。
 明日香には、立花に破瓜膣内出しレイプされ続けた、あの三日間。
 彼女は全く覚えていないのだから・・・・

 そのため、唯一の家族である義兄に相談する時間もなく、今更に相談できるような内容でもなかったのだ。
 だが、お腹に宿している生命の誕生、出産予定日は確実に迫ってくる。
 明日香としては、この思わぬ事態に途方に暮れるしかない。
「だから、わたし・・・・そんな明日香に助け舟を出してあげることにしたの」
 微笑を絶やさぬ神露。
 ときに少女は残酷にも、非情にもなるものだ。
「そこで立花さんに相談なんだけど・・・・」
「俺に出産費用を出せ、ってか?」
 まさか、こんなくだらない話で呼び寄せたのか、と思ったものである。
 確かに明日香をレイプし、妊娠させたのは立花である。だが、あくまでも立花が契約したのは、神露なのである。明日香の妊娠の責は、彼女が負うべきものであろう。
 だが、立花が立ち上がらなかったのは、やはり自分が出産費用を出してでも、明日香に自分の子供を産ませてみたかった。
 それだけの価値が、確かに明日香の身体にはあったのだ。
「勿論、それなりに見返りはあるわよ」
「その見返りとは?」
「あの娘の身体と、あの娘の一生・・・・」

 それはまさに悪魔のような少女が、魔界の魔王のような存在に、天使のような少女を捧げた、その瞬間であった。

「あの娘が立花さんの子供を出産できるために、立花さん。明日香の身体を買わない?」
 答えは口にするまでもない。
 神露も返答を聞くことはない。


「勿論、格安で・・・・」


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