第一話【 成立 】


 春。
 それは一年の始まり、というわけではない。
 だが、ある年代の少年少女にとっては、確かに、大きな季節の変わり目を感じさせる、特別な季節であっただろう。
 ある都内では、【新春会】というものが催され、一人の前途ある若者と過酷な運命に翻弄される令嬢が出会いを遂げていた。

 そして、この桜花市においても・・・・


 神露ベルヴェディアが初めて、立花道雪に接触してきたのも、この春のことであった。
「この娘の名前は、篤川明日香」
 テーブルに数枚の写真が並べられる。ハニーブロンドの髪に均整の取れた、あどけない顔立ち。少し天然さが窺えるものの、十分に美少女と呼ばれるだけの資格があるだろう。
「ほう、これは中々の上玉だな・・・・」

 契約者となるその少女の名は、自らをシンルと名乗った。
 立花が恐らくは偽名だろうと、思ったのも無理はない。そもそも「立花道雪」という名前も当然のことだが、偽名である。この業界で本名を名乗ることは、ある意味において自殺行為に等しい。
 少なくても売春・買春の仲介人である彼にとっては・・・・

「まだ中学二年生になったばっかりの、十四歳」
 シンルとは同じ女子寮の同室ということだった。
「すると、もしかして処女か?」
「勿論、処女・・・・」
 シンルは率直に尋ねてきた。
「この娘の処女、と・・・・卵子を売るとしたら、いくらぐらいで買ってくれるのかしら?」

 そう、立花は一般的な売春・買春の斡旋のそれ以外に、もう一つ、一見変わった商法を手がけている。【友卵会(ともらんかい)】(もしくは友卵買と書く)と呼ばれる、それである。
 少女が身体を売る、という意味では、従来の売春・買春と同様ではあるが、少女が【友卵会】に売るのは自分の身体ではなく、友達の身体(正確には、その友達が排卵期を迎えた卵子)であることだろう。
 つまり、その【友卵会】と契約者となるシンルには、自分の身体を少しも汚すことなく、他人の身体で、より多くのお金を稼ぐことができるのである。
 実際、この友卵会に多くの少女が友達を売り、より多くの男たちが、数の限られた膣内出し権を求めてくるのだ。



 契約者に排卵日を迎える少女(卵子提供者)を紹介され、立花はそれを運営するサイトに、写真と契約書の二枚目(提供者のプロフィール)を掲載する。
 サイトを閲覧してくる【友卵会】の会員メンバーが、その少女の容姿と身体、そして少女の卵子を気に入れば「膣内出し権」を買い求める。
 この「膣内出し権」を競り落とすことができた男は、高額の順番に従って、少女の膣内に膣内出しすることができるのである。
 だが、掲載された少女には「膣内出し権」の公募枠と、締め切り時間(基本的にその少女が生理を迎えた日)が設けられており、男たちはその数の限りがある「膣内出し権」を、その期間中に確保し続けていなければならない。無論、このときに一人で公募枠を買い占めれば、その少女の身体を独占、十二時間もの間、自由にできる寸法である。

 卵子提供者の少女が排卵日を迎える頃、契約者の手によって、特殊な薬物を盛られる。この日を開催日、もしくは決行日という。その日の期間中、「膣内出し権」を抑えることができた男たちによって、その提供者を十二時間に渡って輪姦し続ける。
 無論、権の名前が如く、生挿入による膣内出しの連続である。
 卵子提供者の少女が受胎することは、ほぼ間違いないことだろう。




 例えば、高嶺の花と思えていた美少女が、契約者から立花に紹介されるとしよう。立花はその紹介された卵子提供者の容姿、詳しいデータを友卵会のサイトに掲載する。
 その美少女が排卵日に、親しい契約者から薬を盛られ、契約者の手引きによって男たちが部屋に招かれる。そして誰に怪しまれることなく美少女を犯し、卵子に受精させることができるのである。
 確かに受胎できた胤が、自分のものではないかもしれない。
 だが、その美少女が妊娠するのは確実であり、出産する可能性も非常に高い。
 その美少女が目覚める前に、契約者の手によって証拠は隠滅。
 目覚めたとき、何事もなかったように振舞われ、美少女の記憶にも残ることはない。ただ膣内出しされた身体だけは、着実に・・・・その美少女は知らず知らずのうちに、妊娠していくのである。

 まず健全な男なら、好みの少女を孕ませたいものであろう。

「そうだな・・・・」
 無論、この立花とて例外ではない。
 いや、むしろ、立花の孕ませ願望は非常に強い。
「四十・・・・いや、五十万、出してやってもいい・・・・」
 手にした明日香の写真を眺め、舌なめずりをする。

 既に立花の頭の中には、明日香の卵子を売り出す気はなかった。無論、膣内出し権を販売できない以上、契約者に支払う契約金は全額、ポケットマネーで賄わなければならない。
 だが、それでもこれだけの美少女の、しかも処女とあっては、他人に譲る気が失せるのも無理からぬことであった。

「ご、五十万!」
 神露はこれまでに持ったことさえない、大金に目を輝かせる。
 その中には部屋代から、後処理の手間賃も含まれていたが、それでも学生の身分で、他人の身体で手に入れられる金額としては、多額といっても過言ではない。



  【 友卵会 売買契約書 】


 この契約書は必ず二通、複写作成し、契約者と創始者が所持する。


 契約者「 シンル 」は、創始者「立花 道雪」に対して、卵子提供者「 篤川 明日香 」の卵子を提供するものとする。
 ※尚、卵子提供者の同意は、不要。


 創始者「立花 道雪」は、提供された卵子に対し、契約した契約者に交渉された契約金「 五十 」萬を支払う義務を負うものとする。
 尚、契約者は開催時間中(約十二時間)、その部屋を創始者に提供するものとする。
 ※万一、卵子提供者が排卵中でなければ、契約金の十分の一の金額で、提供者の身体を提供するものとする。


 契約者は開催終了時刻までに室内へ戻り、部屋の後始末(室内の換気、室内の掃除、提供者の衣服の乱れ)を全て請け負うこととする。


 更に契約者は、それ以降の提供した卵子を監督する義務が発生し、定期的に卵子状態を創始者に報告するものとする。
 (未受胎・傾向・発覚・堕胎・流産・出産など、簡潔でも可)


 契約者は極力、提供者の出産することに尽力するものとする。


 契約者と創始者とで交わされた契約は神聖なものとして、
 契約内容、及び、これに関するものは一切、口外しないものとする。



  《 契約書 二枚目 》


 卵子提供者に関する必要事項。
 ※交渉に使われた写真は創始者のものとし、友卵会のサイトに掲載されることを容認するものとする。
 尚、写メ・プリクラなどでも、代用は可能とする。


【 提供者の名前 】  篤川 明日香
【 ふりがな 】      トクガワ アスカ
【 提供者の年齢 】  14 ※遅生まれ
【 提供者の出身 】  京都府 ※詳しくは不明
【 提供者の学校 】  桜花中学 二年
【 提供者の売り  】  処女
       
       
【 提供者の趣味 】  園芸 散策 チョーカー 帽子集め
       
【 提供者の特技 】  媚を売ること
       
【 提供者の夢  】   桜花学園(高等部)入学

【 提供者は? 】  ○処女○   非処女   不明

【 出産経験 】     有り     ○無し○   不明


【 契約者から膣内出し権を購入された方に希望することがあれば、

 絶対にこの娘を妊娠させてあげて欲しい。
 一晩でも、二晩でも延長は可。
 たっぷり、可愛がってあげてね!

 最後に・・・・契約者は、契約書を見直し、極力、嘘偽りのない表記を確認し、ここにサインするものとする。】
                      創始者  立花 道雪
                      契約者  神露


「これで契約成立だな!」
「ええ」
 最後に神露のサインで締め、複写式の契約書は、契約者である彼女と、友卵会の創設者である立花が、それぞれ所持することになる。

 この瞬間、立花と神露の間には、一つの揺るぎない契約が結ばれた。

「それで・・・・具体的にどうすればいいの?」
 まだ友卵会の仕組みを知らない神露が尋ねるのは、当然のことだろう。
「まず、提供者が生理を迎えたら、俺の携帯に一報してくれ」
 今回の件はともかく、友卵会の趣旨としては、処女やSEXの快楽はその副産物でしかなく、主商品はあくまで、その提供者の卵子である。
「基本的に排卵日には個人差があるが、だいたい生理を迎えてから、一週間後(正確には六日後)とされている」
 決行日に神露は、契約遂行中、自分の部屋を明け渡さなければならない。その辺の事情を踏まえて、決行日は契約者が決める手筈である。

 契約書に記された、神露のコメントを指差す。
「期間は・・・・三日間でいいか?」
 期間を三日に区切った理由には、いくらロストで提供者に記憶が残らないとはいえ、その期間にも限度がある。また立花自身にも従来の仕事や、友卵会の運営もある。
「不満なら、宿泊代とその分の延長料金、別途で支給するが?」
「そんなのいいわ・・・・むしろ、わたしのほうからお願いしたいくらいですもの」
 神露は期限の延長の申し出を快諾する。
「三日間、ぜひ、明日香の身体で愉しんであげてよ」
「決まったな・・・・」
 絶対にこの美少女を孕ませてやる、と立花は心に誓う。
 その誓いを胸にしまい、また懐から小さな小瓶を取り出す。いつかは現れるであろう、と思って取って置いた特製である。
 神露は小瓶を手に取り、小瓶を掲げた。何のラベルもなく、鶉の卵なみの大きさ。中身は透き通るほどの透明な液体。
「これは・・・・?」
「その薬物に正式な名前はつけられていないが、俺たちはロストと呼んでいる」
「ロスト・・・・」

 【ロスト】は、立花がアメリカに滞在していたころに所属していた組織、【ナイトメア・ガーディアン】が密かに製作していた試作品の一つで、今やその【ロスト】の製造法も、立花のみが知るだけである。

 これまでレイプドラッグと呼ばれた薬品は多々とある。その中から選んだものだけはあって、様々なところで友卵会の方針に合っている。
 まず服用させる手段として、あらゆる飲料水に溶け込み、もしくは料理に振り掛けるだけでもいい。ロストは無味無臭で、その味覚には全く干渉しないのだ。
 服用すると、数分後に発熱を自覚し、立っていることさえもままならなくなる。一時、昏睡状態にまで陥るが、あくまで一時期的なもの。しばらくすると意識が次第に回復する。ただし発熱は続いているので、思考力は激減。また意識回復後の記憶が完全に抜け落ちることになる。
 普段、友卵会で使用しているロストの効力は、約二十四時間。最後の数時間は発熱中でも記憶には残ることになる。

「手渡したそいつは、中でも特別製でな・・・・」
 神露に手渡したロストの純度は、従来の三倍。三日間の発熱は余儀なくされる。
「これを決行日に、明日香に飲ませればいいのね?」
「ああ、服用の仕方は自由だ」
「死には・・・・しないよね?」
 発熱による抵抗値は、確かに個人差がある。神露がロストによる発熱の危険性を危惧したのも当然のものであったかもしれない。
「当然だ」
 ロストは確かに発熱を催さすが、あくまで人体の抵抗値ギリギリで必ずリバウンドするのである。また、人体を損なうような薬品では、友卵会の趣旨にも沿わない。
「それから、契約者は提供者を部屋に残し、俺たちに部屋を明け渡すことになる」
 原則として部屋から立ち去らなければならない、という規則はない。これまでにも親友である提供者が犯される光景を目撃したい、という人物は少なくない。
 だが、できることなら立花は、この美少女と二人だけの濃密な時間を共有したい、という思いがあった。
「そして三日目には、提供者が目を覚ますことになる」
 ロストの発熱から気だるさが先行し、膣内出しされた身体の違和感、それどころか、破瓜された痛みさえも、気だるさが覆い隠してしまう。
「契約者はそれまでには部屋に戻り、男たちの残した処理を終えておかなければならない。そして残った時間で、身体を張った提供者の看病でもしておくといいさ」
「そうね・・・・」
 神露は一方の契約書とロストを大切にしまった。
「そのときには、明日香、受胎しているのだもの。喜んでわたしは看病をするわよ」
 神露は快諾する。
 勿論、そのお腹の子供を、看病するつもりで・・・・


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