第九話『再会と約束と・・・』 (視点・藤井理奈)

 

 まず、私が初めて彼女と会ったときの・・・

 その話をしようかしらね。

 ・・・面白くなかったら、ほんと、ごめんなさいね。



 彼女と初めて会ったのは、兄さんのスタジオ・・・『緒方英二』が所有するスタジオのレコーディング室のことだった。そう、ちょうど私が『sound of destiny』の作詞に取りかかっていた時期ね。

 ・・・あの曲の作詞には、まだ会って間もないころの冬弥くんにも関わってくれていたのだし・・・

 ・・・少し懐かしいかしら。

 何故、唐突に『sound of destiny』のことを思い出してしまったか、といえば、やはり先日にお会いできた、『冬馬かずさ』との邂逅があったからでしょうね。



 ・・・・。

 そして・・・そんなときに兄さんが連れてきた女の子が・・・それが『森川由綺』だった。見た目は普通の可愛い素朴な女の子。経歴を見ただけでも、本当に 普通の娘だったわ。

 ただし・・・私とは正反対の、だけど。

 私の場合、兄さんの意向によって半強制的に高校を中退させられて、自分だけの時間というものが失われた。まぁ、高校に通って、好きなこと・・・特にやり たいことがあったわけじゃなかったし、それは恋愛にだって興味はあったけど・・・当時はまだ、特定の男性もいなかったことだしね。



 勿論、アイドルになるためのレッスンは、

 決して苦ではなかったの。



 ただ・・・由綺とはあらゆる意味で、私とは違った。

 由綺は・・・

 素朴で純情・・・アイドルとしての素質はあったし、本当に屈託なく笑う、可愛い娘で、高校を卒業して大学に通いながら・・・そして『藤井冬弥』という、 素敵な恋人もありながら、音楽芸能業界の世界に飛び込んできた。



 兄さんに見出されて歌手としてデビューすれば、たちまち数多の観衆を魅了して、『white album』の一曲だけで、『クリスマスライブ』を決行 し、たったの一年目で音楽芸能業界の祭典、『音楽祭』にまで選出されてしまっていた。



 ・・・正直、嫉妬したわよ。

 なんで・・・私とはこんなにも違うのよ、とね。

 私は頑張ったわ。

 周囲の期待に・・・兄さんの期待に応えよう、と。

 それこそ懸命に・・・

 無駄な自由の時間を全て削ぎ落として、

 アイドルになるためだけのレッスンだけに明け暮れて、

 ただひたすらに、『緒方理奈』というアイドルを・・・

 懸命に演じていたのだから。



 でも、由綺は・・・

 自由な時間は大学に通って・・・

 素敵な恋人と恋をして・・・

 そして兄さんや数多の観衆を魅了して。



 ・・・これが素質の差、だというの?

 私の努力や頑張りは・・・その由綺の前には無力なの?

 現にそんな由綺に傾倒していった、

 兄さんは、もう・・・私のことなんか・・・



 ・・・正直、泣きたくなったわよ。

 私はレッスンだけに時間を費やした。

 由綺には負けない、とばかりに・・・

 ただひたすらに、がむしゃらに・・・

 周りが見えないほどに、それこそ死にもの狂いになって。



 だから・・・なのかもしれない。

『だから・・・伝えて欲しいんだ・・・』

 彼の優しさが・・・とても、嬉しくて。

『俺が、理奈ちゃんを心配している、って・・・』

『つ、伝えて・・・いいの?』

『・・・うん』



 誰も・・・

 それこそずっと一緒にいたはずの兄さんでさえも。

 気付いてくれていなかった私の心境を・・・

 私の状況を察してくれた、その一言が・・・



 ・・・『藤井冬弥』

 彼は由綺の恋人だった。

 何故、由綺があれほどまでに冬弥くんを好きだったのか、

 どうして彼を好きになったのか・・・

 良く解からされてしまった一日だった。

 ・・・そして、私も・・・





 後日、私は冬弥くんに約束を取り付けた。

 恐らくその時点で・・・

 私は二つの可能性を予測していたのだろう。

 彼が私ではなく、やはり恋人の由綺を選ぶ可能性と。

 その優しさが、私を選んでしまう、そんな可能性を。

 ・・・・。

 そして比率としては、後者に分があることにも・・・

 由綺から彼を取り上げてしまうことになることにも。

 約束を取り付けた時点で、

 ・・・私は確信してしまっていたのだから。



『由綺のとこに・・・戻ってあげて・・・』

 私は大丈夫だから、と懸命に嘘を吐く。

 アイドルでありながら、とても演技が下手だった・・・

 そう、私は彼の優しさに付け込んだのだ。

『これ以上、優しくされたら・・・』

 これ以上、私の心に踏み込まれたら・・・

 もう・・・止まれない。

 もう止まれないのよ。

『私、絶対に冬弥くんを恋人にしてしまうんだから!!』



 そして・・・女の涙を、武器に使ってしまっていた。

 ・・・本当に、最低な女よね。



 そしてあの『音楽祭』の予行演習(リハーサル)での、一幕だった。

 由綺を呼び止めて、私は冬弥くんへの想いを・・・

 彼との関係を打ち明けてしまっていた。

 勿論、彼女から恋人を取り上げてしまったのだから、

 どんな罵倒でも非難でも受け入れるつもりだった。

 勿論、暴力でも・・・

 本当に叩かれたのは、意外でもあったのだけれど。

 でも、それ以上に驚きだったのは・・・私の暴走だった。

 ・・・止まらなかった。

 甘んじて受け入れるつもりだったのに・・・

 気が付いたら、私も由綺の頬を張っていたのだから。

 ・・・どんな性悪なのかしらね、私。

『・・・・』

 由綺が羨ましかった。

 私と違って、色んなことに時間を費やしながら、

 アイドルとして大成していく、そんな彼女が・・・

 兄さんを魅了して止まない、由綺が・・・

 そして、冬弥くんを恋人にしていた彼女が。





 音楽芸能業界に引退を表明した後・・・

 私はすぐに冬弥くんとの絆を強化して、

 彼の大学卒業を待つことなく、すぐに結婚に迫ったわ。

 由綺に奪い返されるのが、とても怖くて・・・

 初めて人を好きになったからかしらね・・・

 本当に・・・臆病になってしまったのだろう。



 人を好きになる、っていうことは・・・

 人を強くするのと同時に、

 人を臆病にするのかもしれないわね。

 少なくとも・・・私は。



 ・・・一つ、大きな計算違いがあったとしたら・・・それは誰もが『森川由綺』という、彼女の存在を見誤っていたことでしょうね。

 確かに由綺には・・・アイドルとしての才能を有していた。それは兄さんだけでなく、私でさえも認める稀有な才能の持ち主だった。

 ただし、それは・・・あくまで『藤井冬弥』という彼に依存して、初めて眩しく輝く・・・まるで合わせ鏡みたいな存在だったんだもの。

 酷く滑稽なものね。

 兄さんも弥生さんも、アイドルとしてのスキャンダルを恐れて、冬弥くんとの逢瀬を制限することで、逆に由綺の輝きを曇らせようとしていたのだから。

 まして、その合間に・・・

 ・・・私が冬弥くんを奪ってしまっていたのだから。



 私と冬弥くんの関係を知った由綺は、

 それからゆっくりと輝きを喪失させていった。

 それこそ・・・彼を奪った当事者の私でさえも、

 心配してしまいたくなるほどに・・・



 彼は偶然、街中で由綺と再会したらしかった。

 由綺直筆のサインが入った『Powder snow』

 私と由綺による、最初で最後となってしまったコラボレーションアルバムのそれが・・・なによりの証拠だった。

『理奈ちゃんに、謝っていたよ・・・

 ぶった、からって・・・』



 由綺が謝罪する必要なんて、全くなかった。

 と、いうのにね・・・

 そして同時に・・・恐れも抱いてしまっていた。

 由綺が彼を奪り返しにくるのではないか、と。

 そして、そんな由綺に少なからず、未練がある彼が・・・

 由綺のところに帰ってしまう、のではないか、と。

 冬弥くんの優しさは、私との一件からでも解かるように。



 もし、その彼が由綺の憔悴ぶりを知ってしまったら・・・

 しかもそれが冬弥くん自身に原因がある、って知れたら。

 ・・・・。

 だから、私は彼との関係を深めた。

 その関係の楔になるように、と、彼の子供を身籠り・・・

 彼の在学中にも、求婚されることを求めていた。



 私が由綺の音信不通を知らされたのは、祝言を挙げて、

 その二週間後の・・・

 新婚旅行のお土産を兄さんに届けたときのことだった。



 由綺は姿を消してしまった。

 私や冬弥くんには無論、

 メディアの画面からも、完全に・・・

 一応、兄さんは療養中のため、と取り繕ってはいたけど・・・そんな兄さんや弥生さんでも連絡が取れない・・・完全に由綺は消息不明となってしまっていた のだった。



 私はとうとう、それを冬弥くんに伝えられなかった。

『・・・・』

 それを兄さんから伝えられてしまったとき、冬弥くんの心境は決して穏やかなものじゃなかったでしょうね。でも、彼は決して私を責めなかった。消息を絶っ た由綺が気がかりだったはずなのに、ただ私の手前では、そんな素振りさえ見せようともしなかったけど・・・不審に思われないように微笑む、そんな冬弥くん の心境が痛いほどに理解できてしまっていた。

 そしてそれが、ただの彼の優しさからだけじゃ・・・

 それだけじゃなかったことも・・・



 ・・・だから私は、懸命に彼だけに尽くした。

 この十五年間の『緒方理奈』は・・・

 『藤井里奈』は、紛れもなく一人の男性のために・・・

 『藤井冬弥』のためだけに存在するのだと。



 でも、彼は決して由綺を忘れてくれなかった。

 ううん、忘れられないんじゃなくて・・・きっともう『森川由綺』という存在は、冬弥くんの一部だったんでしょうね。だから、私はその現実を受け入れるこ とだけしかできなかった。

 そんな由綺を大切に想う、冬弥くんでも・・・

 私は彼が欲しかったのだから・・・

 他には何もいらない、って思えるほどに。

 そんな冬弥くんが・・・





 ・・・でも、もう見ていられなかった。



 久しく彼が聞いてしまった、『white album』

 『峰城大付属軽音楽同好会』による『SETSUNA』の『white album』によって・・・

 彼は・・・

 冬弥くんは・・・







 かずささんから教えてもらったホテルから、私は由綺の所在を得ることができた私は、マネージャに(本当に)無理を言って、一日だけのオフをお願いして、 その日のうちに北海道へと向かっていた。



「ここが、由綺の・・・今の職場・・・」

 支配人の話によると、ここで由綺は一日に一時間、ピアノを演奏しているとのことだった。確かにホテルは一流どころだし、豪勢な装飾と展望台付きのレスト ランではあったのだけど、かつては彗星の如くデビューして、全国の観衆を魅了した、あの『森川由綺』というアイドルの戦場というには少し寂しい、似ても似 つかない職場だっただろう。



 折角だから、ということでディナー(由綺の演奏時間)の予約を入れる。

「っ・・・」

 でも・・・正直、由綺に会うことは躊躇われた。

 会って、どうしよう・・・というのだ、と。

 確かに私は、由綺ともう一度だけ・・・最後に『音楽祭』で戦いたかった。

 そしてできれば・・・由綺が新しい恋をしていて、幸せになっていて貰いたかった。そうすれば、私は安心して、冬弥くんを自分だけのものにできる。

 それだったら、冬弥くんもきっと・・・



「っ・・・う、嘘・・・」

 私は由綺の姿を見て、思わず絶句した。



 私はこの時になって、何故、かずささんがあれほどまでに、由綺との偶然の出会いを話し辛かったのか、を理解した。いいえ、理解せざるをえなかった。

 だって由綺は・・・変わっていなかった。

 身に纏う雰囲気こそ違えても、その姿は・・・

 十五年が過ぎても、尚・・・

 その彼女の姿は、あの当時のままだったのだから。



 し、心的外傷後・・・ストレス障害!?



 正確な名称は定かではないけど・・・

 ドラマとかならともかく、由綺がまさか・・・

 強すぎる衝撃的な出来事が原因で、著しい苦痛、もしくは身体機能の障害をもたらすという。



 それほどまでに、由綺には・・・

 相当なショックな出来事だったのだろう。

 到底に受け入れられる現実ではなかったのだろう。

 私と、冬弥くんの結婚を・・・



 その精神的ショックによって、由綺は・・・心身共に時を止めてしまう、それほどまでに。



「ひ、久しぶりね・・・由綺・・・」

 私はピアノの演奏が終わった際、気が付いたら・・・

 由綺のところまで足を運んでしまっていた。

「・・・・」

「ゆ、由綺・・・?」

「・・・り、理奈、ちゃん・・・?」

 虚ろな瞳に変わりはなかったが、

 そこに僅かながらの意思が灯っていた。

「・・・と、とりあえず、席に座りましょう」

「う、うん・・・」

 テーブルの向こうに由綺が座ると、

 私は適当に注文して、再び彼女に向き直る。

 由綺と一緒に食事をすることになるなんて、

 一体、何年ぶりのことなんだろう。

 恐らく最後は『エコーズ』での、軽食が・・・



「「・・・・」」



 でも、だからといって、会話が弾むはずもなかった。

 ここに座っているのは、かつて恋人を奪ったものと、奪われたものの相席である。まして由綺は・・・心身共に時を止めていて、それだけに心は、まだあの当 時のままであったのだから。



「・・・でも、こうして理奈ちゃんに偶然、逢えたのなら、

 冬弥くんに逢いたかった、かな・・・」

「っ・・・ご、ごめんなさいね・・・か、彼・・・」

「ううん。でもダメだよね・・・」



 由綺は無表情のまま・・・

 ただ淡々と告げる。



「今の私だと・・・

 きっと理奈ちゃんから、奪っちゃうから・・・」



 思わず背筋が《ゾッ》、とした。

 そしてそれが実現していれば・・・間違いなく、

 起きていたことであろうことを悟らざるをえなかった。

 ・・・っ。

 今の由綺に冬弥くんを会わせれば・・・

 ・・・きっと、間違いなく。



「そ、そういえばこの前、冬馬さんに会ったわよ?」

 話題を転じようとして、私は先日、

 かずささんに会ったことを告げる。

「・・・誰、それ?」

「国際ピアニストの冬馬かずささん・・・

 『峰城大付属軽音楽同好会』の。

 由綺とも先週、会ったって彼女から聞いたわよ?」



 だから、この由綺との再会が偶然ではなく、

 私にとっては必然だったのだと暗に語りかける。



「・・・憶えてない、よ・・・」

 だが・・・

 由綺の反応は恐ろしく素っ気がないものだった。

「たぶん・・・、

 由綺の『white album』のことで・・・」

「・・・『white album』・・・?」

 途端に由綺の顔が沈んだ。

「ゆ、由綺・・・?」

「・・・あんな嘘っぱちな歌なんか・・・

 どうでもいいよ、もう・・・」



 かつての自身のデビューソングにして、

 現在では冬の定番曲としても定着している、

 その思い出の一曲を・・・

 ・・・まるで忌まわしい記憶のように。

 まるでゴミをゴミ箱に捨てるか、のように・・・

 由綺は・・・彼女は捨て去っていた。



「っ・・・」

 冬弥くんを奪った私を非難している、

 というわけでもなかった。

 ただ、この世の全てに絶望して、

 全てを呪っている怨念めいた感情だけが・・・

 そんな感情だけがそこにあった。

「・・・・」

 今の彼女にあるのは、ただ一つ・・・

 かつての恋人だった冬弥くんとの思い出だけ。

 その先にあったはずの、

 二人の未来を奪ってしまったのは・・・

 紛れもなく、私自身であったのだから。



「ゆ、由綺・・・私ね、

 次の『音楽祭』で・・・引退するつもりなの」

「そう・・・」

 まるで今の音楽芸能業界に興味がないように反芻する。

 きっと・・・本当に興味がない、のだろう。

 今の由綺には・・・

「だから、私はもう一度・・・

 由綺と『音楽祭』で争いたい、って思っているの」

「・・・・」

「今度こそ、本当の・・・本来の由綺と、ね・・・」



 それは弥生さんにも語ったこともある、

 由綺との再会を望んでいた表向きの理由。

 でも、それも紛れもなく私の本音でもあったのだ。

「無理だよ・・・」

「由綺・・・」



 ・・・確かに現時点で、

 次の『音楽祭』に出場するのには厳しいだろう。

 ほぼ絶望的、と言っても過言ではない。

 でも、由綺ならば・・・

 普通の努力だけでも全国の観衆を魅了した、

 魅了することができた、彼女なら・・・

 その当時と全く変わらない容姿でいる、

 あの『森川由綺』なら、それも不可能ではない、

 と、思えてしまう。



「私、なんで・・・アイドルなんて、

 そんなものになろうとしたんだろう・・・」

「っ・・・由綺・・・」

「私、そんなこと、で・・・」



 初めて由綺の表情が崩れていった。

 そしてその瞳からは大粒な涙が零れていく。



「ただ冬弥くんを奪られる、だけ・・・だった、なのに、

 なんで・・・アイドルになんかになろう、って、

 ・・・なんて思っちゃったんだろう・・・」

「由綺・・・」



 かつてのように叩かれたわけでもないのに、

 胸が締め付けられるような思いであった。

 まして奪ってしまった側の私には・・・

 彼女にかける言葉の資格がないことも。

 だから、私は・・・



 だから、私は携帯を取り出して・・・

 今、彼女が一番に望むであろう人物に委ねた。



『理奈ちゃん・・・』

「突然に電話してごめんなさいね、冬弥くん・・・」



 彼の名前に瞳を大きくする由綺。

 彼女にも通話先の相手が誰だか解かった瞬間だった。



「一つお願いがあるの・・・これからする約束の、

 その証人になってくれないかしら?」

『ん・・・証人?』

「うん、そう・・・私との約束の証人ね」

 私は再び視線を唖然としている由綺に向ける。

「もし、次の『音楽祭』に・・・

 私の最後となる『音楽祭』に由綺が出てきたら、

 由綺に冬弥くんを逢わせる、・・・って」



「えっ?」『えっ?』

 と、目の前と通話口から驚きの声が聞こえた。



 ・・・むぅ。

 全く・・・妬けるぐらいに、

 そっくりなところは変わらないのね。



「それから二ヶ月間、

 二人の間に何があっても黙認するわ・・・どう?」



 それは通話先の冬弥くんにではなく、

 目の前の彼女に向けた言葉であった。



『ど、どうって・・・り、理奈ちゃん・・・

 ま、まさか・・・も、もしかして、今、そこに・・・』

「ええ、今、代わるわよ・・・」



 私は携帯を由綺に差し出す。

 彼女は恐る恐る、

 まるでそれを不審物のように受け取ると、

 ・・・ゆっくりと話しかけた。



「と、冬弥・・・くん?」

『ゆ、由綺・・・』



 それ以降、二人の間に会話が全くなかった。



 恐らく二人の間に流れた時間があまりにも永過ぎていたせいであろうか。きっと何を話していいのか、何を話すべきなのか、全く口にできていなかった。



 でも・・・一つだけ分かったことがあった。



 由綺の瞳の色が・・・

 再会したばかりの、そんな絶望に縁どられていたときのものではなく、その瞳は火が点いたものの・・・私の良く知る『森川由綺』のものであったのだから。



 そう、あの『森川由綺』の・・・


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