(エピローグとプロローグ)


 epilogue from "Alice in the devilish cage" is opened...


 ――ガチャリ。
 扉が開き、屋敷の主人が姿を見せた。
「ヒヒ。お待たせしましたな」
 実際に待たされたのか、ソファに座って仕立てのよい衣装をまとった恰幅のいい男は不機嫌な表情を隠さない。だが、険の強い造作をさらに強める薄い唇から苦情が洩れることはなかった。
 屋敷の主人――ローブをまとった小男がすっと横に動き、その背後に従っていた、二つの白い影が客の目に入ったのだ。
「……お…」
 口を半開きにして男が見入るのは、二人の美しい娘だった。真っ直ぐな黒髪を長く伸ばした清楚な少女と、波打つ赤毛を長く伸ばした勝気そうな少女。黒髪の娘は細身、赤毛の娘はやや大柄だが、二人とも非の打ち所のない魅惑的なプロポーションである。それがわかるのは、まともな衣服を着ていないからだった。
 首輪を嵌め、裸身をロープで淫らに彩っている。両手は背中に回され、形よい乳房も、そこだけは縄掛けされていない秘所も露になっていた。恥丘を覆う飾り毛は一本もなく、二人のたっぷりと蜜を含んで淫らに開いた牝花は、隠すものなくさらされている。
「フヒヒ。そら、お前達。お客様にごあいさつしないか」
 小男が鎖を引くと、黒髪の娘は恥ずかしげに、赤毛の娘は悔しげに、上気した美貌を歪めて欲情に潤んだ瞳を来客に向けた。
 男の手の中には細く華奢な金鎖が二本握られ、その先は少女達の股間に伸びている。見れば、先端は金のリングに繋がり、そのリングは二人のもっとも敏感な肉芽を貫いていた。さらに観察すれば、同様のリングは彼女達の両乳首でも揺れている。
 重ねて鎖を引かれ、女の急所を嬲られる美少女達の表情には、苦痛よりも被虐陶酔の色が濃い。
 二人は架空のドレスの裾を摘み、片足を引いて屈んで、優雅に一礼した。――そう、その手は拘束されてはいなかった。今まで、自ら逆の肘を掴んで背中で組んでいたのだった。
「いらっしゃいませ、お客様。牝奴隷の……アリシエルと申します」
「ティアリスですわ。――殿方に快楽を与えるためにだけ生きる、性交用の家畜でございます」
 羞恥と屈辱に震えながらも従順に名乗った二人の名と高貴な美貌が、客の記憶を刺激した。
「……もしやこの二人……」
 客の驚きと疑いの眼差しに、主人は薄笑いを返す。
「ヒッヒヒ。さて、どうでしょうかな。早速ですが、ご用件をうかがいましょうか――大臣閣下?」
 大臣と呼ばれた男は、向かいのソファに座った小男の両脇に控えた奴隷装束の美姫達を見比べて唸った。注視を浴びて切なげに身をよじると、裸身を縛めるロープがギチュッ、と濡れた軋みを上げる。
 ――いや、それはロープではなかった。よく見れば、ぬめった肉状の質感を持つそれは、美少女達の性感帯に絡みついて自ら微動し、二人に微妙な、だが無視できない淫悦を与え続けている。牝奴隷達を強制的に発情状態に留め置く、縄状の触手生物。アリシエルとティアリスが「着て」いるのはそれだった。
 羞恥と欲情に深い呼吸を繰り返すたびに、触手にかしめられた美乳が上下して否応なく拘束感を煽り、乳首の先端で揺れるリングピアスの微細な刺激を何十倍にも増幅して着用者に伝える。
「――ううむ。どうやら、どんな女でも奴隷に堕とせるという噂は、大げさではないようだな」
「ヒヒ、恐れ入ります。ですが、ただそれだけではございませんぞ。我々の工房が仕上げる奴隷の品質の高さも、是非知っていただきたいですな」
 主人が小声で命令するのに頷き、美しい奴隷達は淫らながらも優雅さを残す足取りで左右から客人に歩み寄った。
「お客様……ご奉仕させていただきます……」
「――失礼致しますわ、お客様」
 男の足元に跪いた二人は手を伸ばし、細く白い指でベルトを緩め、下穿きのボタンを外し、肌着の中からまだ力ない逸物を引き出す。手慣れた動作だが、彼女達の瞳にはそれを恥じる色が多く残っていた。が、牡の象徴を目の前にして、羞恥を上回る陶酔がかつての美姫達の脳裡を埋め尽くしていく。
「んっ……」
「はぁあ……」
 黒髪と赤毛の美少女達は、頬を染めてペニスにしゃぶりついていった。巧みで熱のこもった愛戯に、男の肉棒はたちまち力感を増し、グンと反り返る。ぴちゃぴちゃと淫靡な二重奏が鳴り響いた。
「う、む。おおっ……これは」
 使い込まれ黒光りした肉竿を持つ男の唇から、感嘆の呻きが洩れる。高貴な美貌の少女二人がかりの口唇奉仕は、高級娼婦にも見劣りしない技巧で圧倒的な肉悦を彼に与えた。それでいて、精神的充足度はこちらの方が上だった。積極的に動きながらも、常に男の様子を気にかけ、彼の意に沿うように細心の注意を払っているのが伝わってくる。男は座って動かずに奉仕を受け、奴隷少女達は熱心に愛戯を施す。行動としては一方的に能動的である娘達は、だが、その意志においてはこれ以上ないほどに受動的だった。
 征服欲と支配欲を強烈に揺さぶられ、男は歪んだ満足感を口の端に刻んだ。
 アリシエルとティアリスは、献身的な奉仕を続けながら、男性に従属する存在に貶められた自分自身にたまらない被虐陶酔を感じていた。触手生物が彼女達の性感を否応なく煽り立てるが、淫欲を深めるばかりで満たしてはくれない。だが、調教されきった今の二人には、その中途半端なお預けの状態さえもが、甘美な焦らし責めとしての効力を発揮した。
 子宮が体も心も魂も屈服させ、かつての王女を一個の性器に堕とす。少女達は思考を放棄し、過酷な調教で骨の髄まで染み込んだ牝奴隷の本能だけに従って行動した。奴隷は主人に快楽を与えるために存在する。主人を差し置いて悦楽を貪ってはならない。主人の命令には絶対的に服従すべし。
 奴隷の規範に従うことが、彼女達を自己陶酔と破滅願望が溶け合う被虐快楽に導いていくのだった。
 思考しないまま奉仕を続け、思考しないままテーブルに手をついてお尻を高く掲げ、思考しないまま貫かれた。
「――きぁあああああっ!」
「ひぁうぅううううんっ!」
 甘美な悲鳴を上げて牝奴隷達の意識が覚醒する。至近で顔を寄せ合いながら、アリシエルは主人の小男に、ティアリスは客人に後背位で犯されていた。疣だらけの魁偉な逸物に膣襞をこそがれ、黒髪の美少女は自分達の飼い主に甘えた声音で呼びかける。
「はぁあああんっ! 御主人様ぁっ……御主人様の、おチ○ポぉっ……はぁあん、素敵っ……やっぱり、御主人ひゃまが……一番、気持ちいいですぅ……きゃぅうんっ!」
 バシィン! と情け容赦ない平手が美姫の白い尻に打ち下ろされる。
「ヒヒ。お前が気持ちいいかどうかなど、関係ないのだよ。自分の存在する意味と言うものを、もっと考えたらどうだ」
 アリシエルは艶やかな黒髪を振り乱し、膝を揺らし腰を捻り膣肉を微妙に蠢かせ始めた。
「お許しください、御主人ひゃまぁ……アリシエルはぁ……御主人様を……楽しませるためだけに、存在する……淫らな、牝奴隷ですぅう……!」
「よしよし、フヒヒ。それを忘れてはならんぞ。その気持ちさえ忘れねば、お前は一級品の性奴隷なのだからな」
 叩かれ、紅くなった尻肌を優しく撫でる。その行為と褒め言葉とに、アリシエルは胸が詰まりそうなたまらない幸福感を覚えていた。
(御主人様が褒めてくださった。御主人様が撫でてくださった。嬉しい……!)
 もっともっと奉仕しよう。もっともっと、御主人様に気持ちよくなってもらおう。黒髪の牝奴隷の胸の中に、熱い奉仕欲求が湧き上がる。それは調教によって植え付けられ、方向付けられてきた隷従心の発露だった。あるいはこの瞬間にこそ、アリシエルは真に牝奴隷として完成を迎えたのかもしれない。
 潤んだ瞳で前を見ると、勝気さが抜けきらず、客人の巨根の暴力的な抽送に躾られている赤毛の牝奴隷がよがり泣いていた。アリシエルは思わずティアリスの唇を奪う。
「んぶっ……むぶぅううう〜〜〜っ!」
「んっ……ふっ……ん、んっ……」
 ぴちゃぴちゃと舌を絡め合いながら、膣肉は別の生き物のように男根を揉み搾り、快楽を与えている。ティアリスは年下の少女の舌の動きに操られるように、仕込まれた技巧を自分を犯す肉の凶器に向けていった。

「お、お……くぅううっ……何と、素晴らしい味わい……! これも、調教の成果……なのですかな……!」
「まさしくそうです、ヒヒヒヒ。如何です、楽しみになってまいりますでしょう」
「うむぅっ……全くです。あの小娘どもが……男に最高の快楽を与える肉具に堕ちるのだと思うと……うむっ、たまらんな」
 アリシエルの肉を楽しむ腰の律動を緩めぬまま、小男はテーブルに置かれた水晶球に視線を落とした。
「それだけでは、ございませんでしょう。我々は最高の仕事を致します。青い果実も、熟れた果実も、あなた様のものになりましょう。無論、相応の報酬はいただく所存でございますが」
「払うとも……これほどのものが、我が手に入るのであればな! 何が惜しかろうか!」
 高らかに吼えながら、男はティアリスの胎内にしたたかに精を放った。
「あああっ! あっひぁああああ〜〜〜ッ!!」
 敏感な牝肉が、子宮に奔騰する白蜜の熱さに呼応して絶頂する。
 客人と調子を合わせるように、小男もアリシエルの膣奥に射精した。主人が快楽の頂点に達したのを感得して、黒髪の美少女も淫悦の極まりへの道を駆け上がった。主人より先にイってはならない。主人の射精と同時にイかなければならない。体機能より優先される奴隷の本能が絶頂を許諾し、アリシエルは強烈なエクスタシーに打たれてぎゅうっと仰け反った。
「あっああああ〜〜〜〜〜ッ!! イくっ……アリス、イっちゃうぅううううう〜〜〜〜ッ!!!」
 ぶるぶるぶるっ、と痙攣し、奴隷美少女はがくりとテーブルに突っ伏した。
 思考を漂白され、虚ろな視線を宙に彷徨わせるかつての王女達の瞳が、一点に収束する。
 テーブルに置かれた水晶球。
 その中では、やんちゃそうな金髪の少女、ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべたそれと全く同じ顔の金髪の少女、知的で冷静そうで、その上包容力も感じさせる金髪美女の三人が楽しげに語らっている。いずれも隠しきれない高貴な物腰を、オーラのようにまとっていた。以前のアリシエル、ティアリスらのように。彼女達の頭頂には、宝石をふんだんにちりばめた、精緻で華麗な黄金の冠が載せられていた――。
 奴隷の快楽に浸りきっていたアリシエルは、彼女達を抱く合間に主人と客人の間で交わされていた商談をまったく意識に留めてはいなかった。だが、はっきりわかることが一つだけある。この水晶球の女達には、本人達の預かり知らぬところで、魔辱に堕ちる運命が不可避的に決定付けられたのだ、と。
 この幸せそうな女達の映像をじっと見つめて、可憐な黒髪の牝奴隷は、ふっとほの昏い笑みを淡く浮かべた。


...and, prologue for "Fairy twins in the prison castle" is closed.


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