第六章 競売




                1

 辻々に最後の振舞い酒が出され、芸人や吟遊詩人が最後の一稼ぎと芸技を競う。
 暮れ行く日と共に、王都の人々は心地よい疲労感に身を任せ、三々五々に家や宿の寝台に足を向けて行った。
 盛大に賑わった祭は終わり、明日からはまた日々の暮らしが始まるのだ。明日はこれまでより少しだけ良い日になるという、淡い期待感が人々の胸を満たしていた。その期待は、新たに即位した王に向けられたものだ。
 スカリーは即位前から、他の王族よりも民衆寄りの姿勢を示し、その軍略の才もあって、兵や民の信望が高かった。母親の身分が低かったために、王室や貴族の間では軽んじられていたが、逆に下々には人気があったのだ。それ故、そのスカリーが王位に就いた今、今までのまつりごとよりも民に親身な善政を敷いてくれるのではないかと言う希望が生まれていた。
 結果として兄を押し退けて簒奪を果たしたことになるスカリーとしては、この期待感を裏切ることだけはしてはならなかった。実力で対抗者を排除して王位に就いたとはいえ、まだまだ敵は多い。ここで民の支持を失い、付け入られる隙を作るわけにはいかないのである。
 だが、単純に民の期待に応えるためには、障害が山積していた。
 その最大のものは、財貨である。
 長く内乱が続いたアルファース王国では、国土が荒廃し、商業が滞って、国庫は空の状態だった。戦費を賄うために、各陣営に所属していた貴族達の個人資産も多く吐き出されている。今後国の態勢を建て直し、様々な改革を推し進めるにしても、何をするにも金が必要である。だがその先立つものがないのだった。
 今しも、新たに財務大臣を拝した男が、まさにその件について新王と会談をしている最中だった。
「で、どうだ。反乱貴族の財貨目録は」
 王は立てた肘の先に顎を乗せ、やや不機嫌そうに問いかけた。
「は。やはり、流動資産はあまりありませぬ。戦争で食い潰してしまったのはお互い様のようで。残っているのは美術品ですが、兵の略奪や破壊によって失われたものも多いようです。こちらで押さえられたものはそう多くありませんな。一番確実なものと言えば、土地屋敷ですが」
 勝利したスカリーが最初にしたことの一つが、敗者に与していた貴族達の資産を総て没収し、国庫に収めさせる命令を発することだった。彼としては基本的に貴族連中に対する手を緩めてやる必然性をまったく感じていなかったのだが、中途で投降した者には最低限の私財だけは残してやる必要があったし、中立を保った者に対しては敵の縁者であっても必要以上に追求はしなかった。スカリーは大抵の貴族――特に、根拠のない選民思想に毒された者達――を嫌っていたが、無闇に敵視するものでもない。味方についたものに対しては、王位に就いた今、褒賞さえも考えていた。その褒賞としても美術品や領土などが必要である。
「ふむ、いざとなれば土地を担保に金を借りる手もあるが……今借りるとなると相当高利をつけられそうだな」
「まさしくそうです。何人かの金貸しにそれとなく打診してみましたが、現状では足元を見られてお話にならないようで」
「……この目録では、手に入った美術品を売り払っても一年は持たんな」
「さすがに、それだけで国庫を支えるのは無理です。せいぜい二ヶ月持てばいいところでしょう。その間に諸外国の動きを押さえながら、何か目覚ましい成果を上げなければ、金貸し共の財布の紐は緩まぬでしょうな」
 その困難さを思って、財務大臣は頭痛をこらえるような渋面になった。彼としては元々武闘大会の開催にも反対していたのだ。
「外交の方は、とりあえずは大丈夫だ。そのためにわざわざ、ない金をはたいて、こんな大がかりな大会を開いたのだからな」
 今回の武闘大会は、民衆に「この国はもう大丈夫だ」と思わせて明日への活力を養い、諸外国にまだこれだけの催しを開催する力があることを見せて牽制すると共に、各国の要人を招いて会談し少なくとも数年は国境を安堵する、と、いくつもの思惑を絡めたイベントであり、そのほぼすべてが成功した、結果だけを見れば優れた政略ではあったものの――正直、その開催費用で、ほとんどなかった財貨はほぼゼロになったと言ってよかった。賭けの胴元の上がりなどで多少は利益が出てはいたが、出費と照らし併せればトントンか、下手をすればマイナスである。大会の合間には閲兵式なども行なわれ、内乱で図らずも鍛え上げられた精悍な兵力を招待客に見せつけ、威嚇してみたりはしたものの、現状ではその精兵を運用する資金がない。実際、今他国の侵略を受けたらひとたまりもないのだ。招待客としてもその辺を調べ出す間諜の役割を負っている者も多かったはずだが、まあそこは化かし合いである。幸いスカリーの幕下には、情報戦においては悪魔的な才覚を発揮する男が一人いた。スカリーはその男の能力には全幅の信頼を置いている。任せておいて間違いはなかった。
「ではまあそちらはよいとしても、やはり資金が足りませぬな。荒廃した国土を建て直すにしたところで、具体的に効果が現れるのには最低でも半年はかかるものと。どうしようもなくなれば、高利を承知で金を借りるしかないでしょうな」
「どうしようもなくなれば、な。少し待て。多少は臨時収入の当てがあるのでな。それで当座は凌げる…はずだ」
 スカリーは唇を歪め、冷ややかな微笑を作った。それを目にした財務大臣の背中に、ぞくりと戦慄が走る。
 何か、かなり真っ当でない手段で得られる収入であるのは想像に難くなかったが、そこまで口を挟む権限も、新王に敢えて異を唱える気概も彼にはなかった。要はアルファースの財政が立て直せればよいのだ……そう己に言い聞かせ、大臣は王との謁見を終え、立ち去った。

                2

 はっ、はっ、はっ……。
 荒い息遣いが地下通路に反響する。
 素足が床を踏む音は、厚い絨毯が吸い込んでいく。
 裸身を淫らに縄化粧され、金の首輪をはめた少女は、首輪に繋がれた金の鎖で通路を牽かれていきながら、拒む言葉を一切口にせず、従順に歩を進める。黒い革の目隠しで目元を覆われ、視界を奪われて、ただ鎖を引く動作に導かれてよろめき歩く。ふわふわと柔らかそうな栗色の髪の頂には、精緻な彫刻を施された金のティアラが飾られている。注意して観察すれば、金の輝きは少女の胸と股間にも見出せた。両の乳首と陰核を貫いて、細い金のリングがきらきらと光を弾き、誇らしげに揺れている。肌を淫らに食い締める縄は少女の両手首を背中で拘束し、乳房も秘部も隠すことはできない。
 清楚可憐な美姫と近隣諸国に知られたメディア姫の、無残に変わり果てた姿だった。抗議の言葉は言わないのではなく言えないのだ。特殊な魔法薬で声帯を灼き潰され、今の彼女は二度と声を出すことはかなわない。
 息が荒いのは、目を塞がれている不安のためと言うよりは、1歩踏み出すたびに、巧妙に打たれた縄が乳房を揺すり上げ、股間を擦り立てるためだったろう。その証拠に、王女の内股は分泌された欲情の証で濡れそぼり、足首まで垂れ落ちている。肌はうっすらと赤みを帯び、時折、適温の外気にそぐわない汗が伝う。視覚を遮断されていることが、かえって他の感覚への集中をもたらし、性感を増幅しているようだった。金の装身具が貫通した3箇所の肉の芽は、体動に、リングの揺れに、空気の流れに、自らの血流にすらも敏感に反応し、表皮が弾けそうなほど膨れ上がってふるふると震える。今のメディアは、ただ目隠しされて歩くだけで、全身に緩やかな愛撫を受けているのに等しかった。
 軽そうな――言い替えれば「脆そうな」金属音を立てて鎖が鳴る。軽い牽引。だが、思いきり踏ん張れば切れてしまいそうな鎖の、その引きに逆らうことなく、少女は無言の命令に従って精一杯歩速を上げた。目が見えず、欲情に膝が笑う現状でできる範囲でのことではあるが。
「さあ…着いたぞ、メディア」
 淫らに拘束した異母妹を鎖に繋いで牽いていたスカリーは、楽しげに妹王女に呼びかけた。ぴくっと身を震わせ、不安げな顔をするメディア。今までの経験から、スカリーの楽しみは彼女自身の淫虐とイコールで結ばれる確率が非常に高いことを、メディアは否応なく学んでいた。
 だがそれでも、促す鎖の動きに逆らわず、栗色の髪の少女はスカリーの望む方向へ歩き出す。スカリーに逆らうことの絶大なる恐怖――それこそが、彼女がもっとも骨身に染みて学び取った絶対の真実であるからだ。
 そうして数歩前に出ると、空気が変わるのを少女は感じた。歩いてきた通路ではない、広い空間の気配。「着いた」のだ――でも、何処に?
 広い空間内に完全に少女を引き出してしまうと、スカリーは1歩横に外れ、メディアの背に手を当てて、自分よりも前に押し出してしまう。
「お集まりの諸君。わが妹姫にして、先日の反乱軍の一方の旗頭であった、王女メディアを紹介しよう」
 スカリーの声が朗々と響き渡り、その言葉の意味が頭の中に染み込むと、メディアはぎくりと身を固くした。ざわめきや息遣い、人の気配と言ったものは感じ取れないが……スカリーがそう言った途端、誰とも知れない無数の視線が淫靡に飾り立てられた裸身に突き刺さってくるのが感じられた気がする。縄にくびり出されて強調された女の曲線に、乳首と陰核を貫いて輝く金のリングに、そして――恥丘にくっきりと焼き付けられた、奴隷の紋章に……。
 はあああぁぁ……っ。
 メディアの唇から長い、悩ましい吐息が洩れた。裸よりも淫猥な姿を他人に見られている、と思うと、たまらない恥ずかしさに体がかーっと熱くなる。そしてそれはすぐに、あふれる牝蜜となって体の外に現れた。
「どうした、メディア。急に愛液が垂れてきたぞ? 見られて感じているのか」
 見逃さず、スカリーが指摘する。さらに羞恥心を刺激され、慌てて首をぶるぶる左右に振るが、羞恥の熱気が肉欲の熱にあまさず変換されていくのは、どうにも否定のしようがなかった。さらに妹の恥辱を煽るべく、スカリーは声を高めた。
「諸君、ご覧のように、わが妹は、あられもない姿を衆目に曝すだけで欲情して蜜を垂らす、こらえ性のない露出狂の変態王女だ。どうか、この淫乱な体の隅々まで見てやって欲しい」
 内乱の間は戦の陣で号令を発していたスカリーの声は、よく鍛えられ、通りがいい。メディアはいや増す羞恥に身悶え、腿をすり合わせて少しでも恥態を隠そうとするが、それさえも無慈悲な異母兄は許さない。
「――足を開け、メディア」
 肩を抱き、耳元に囁かれる簡潔な命令。それに逆らうことは、彼女には不可能だった。
 真っ赤に染まった頬を、目隠しの下からあふれる羞恥の涙が伝う。震える膝はひどくゆっくり、だが確実に間隔を開けていった。肩幅よりやや広い位置まで広げたところで、スカリーの許しが出る。スカリーは妹の腰の後ろに手を伸ばし、股縄の結び目を解いた。外れ易く仕掛けられていたものらしく、それだけでぱらりと落ちる。メディアの下半身は、いまや隠すものなくさらされていた。
 腿が弛められ、腰を前に押し出すような姿勢を取らされたため、王女の秘唇はぱっくりと口を開き、淡いピンク色の肉襞をあらわにしていた。当然、今まで以上にとろとろと牝の粘液が垂れ落ちていく。
「みんな、見ているぞ」
 甘い、囁き。
 ぞくっ――。
 背筋に慄きが走るのが、見ているスカリーにもはっきりわかった。
「さあ……何もかも、見せてやるがいい」
 妹姫の背後に立った兄王は、メディアの体を抱くようにして両の腕を前に回す。縄に絞り出され、興奮に張り詰めた乳房を柔らかく揉み立てられて、甘美な戦慄にメディアは身をよじった。が、開かれ、突き出された股間はそのままの姿勢を保つ。スカリーは今日までの淫虐ですっかり柔らかくなった乳房の感触を確かめるように、ぐにぐにと強めに揉みしだいた。どれだけ柔軟に変形するのかを、周囲に見せつけているかのようだ。そしてさらに、まだ色素の薄い乳首を貫く金のリングを誇示するかのごとく、指先で弾いて何度も揺らして見せる。敏感な部分に強い刺激を受け、メディアは自力で立っていられなくなったのか、スカリーに寄りかかるような姿勢で喘いだ。見ようによっては、それは甘えて擦り寄っているようにも見える。半開きの唇からは熱気を帯びた吐息が洩れ、しきりに唇を噛んだり舐めたりする様が艶っぽい。

 だが、王女の甘い陶酔を打ち砕くように、金のリングがぐっと捻られた。びくん、と仰け反るメディア。嫌がるように体をくねらせるが、スカリーの指から逃れるほどの動きではない。どんな目に遭っても、スカリーの行動を阻むことは許されざる禁忌として、無意識の領域にまで刷り込まれていた。
 捻り上げたままの乳首のリングを、乳房を伸ばすかのように、前方やや上に引っ張り上げるスカリー。実際に、球形に近かった柔肉はテンションと共に変形し、釣鐘のような形状になる。メディアは苦痛を和らげようとしてか爪先立ちになり、結果としていっそう全身をさらけ出すような姿勢を取らされた。急所を襲う激痛に左右に首を揺るメディアだが、同時に、ぞくっ、ぞくっと強い波が少女の背筋を駆け上っていくのが、密着したスカリーにはつぶさに感じられる。スカリーは唇に酷薄な笑みを刻んだ。乳首への虐待をはっきり快感と感じているメディアを、嘲るかのように。それとも、自らの苛烈な調教の成果を愉しんでいるのか。
 スカリーが急にリングを解放すると、柔らかさと共に備えた弾力を証すように、乳房は上下に弾み、互いにぶつかり合って跳ねた。突然苦痛がなくなって快美感が増幅されたのか、メディアは一瞬、かくんと腰を落としかける。が、何とかこらえ、姿勢を保つ。
 しかし次の瞬間、今度は本当に腰が砕けかけた。乳首のリングを離したスカリーの指が、間を置かずに陰核のリングを捻り上げたのである。――だが、今度も耐える。一瞬腰を落としただけで、耐えがたい鋭痛が敏感極まる局所を襲ったのだ。メディアは必死に震える膝を伸ばし、態勢を立て直すしかなかった。
 哀願するように振り返る、目隠しの下の脅えた瞳に微笑を返し、だが、取り合わずにリズムをつけてリングを引っ張り上げるスカリー。もはや完全にスカリーに体重を預け、引かれるリングに操られるように、メディアは秘所を思いきり前に突き出していく。限界まで腰を前に釣り出すと、スカリーはその姿勢を保たせるべく妹姫の腰の裏に膝を当てた。いっそう不安定な態勢を強いられ、メディアの膝の震えが増す。
 ようやくスカリーはリングを手放した。安堵の吐息をつくメディア。スカリーはそのまま彼女の秘唇に左右の手をかけると、ぐっと開いて見せる。
 はあ……っ。
 悩ましく悶える美少女。見えない視線がぱっくり開かれた粘膜と、陰核のリングと、恥丘の烙印に突き刺さってくる心地が、彼女をどうしようもなく発情させていく。
 兄王の宣告通り、何もかもを見られている――。肌色をベースに、薄桃色と金と黒のコントラストが鮮やかな彩りを見せる。曝された膣口から、とめどなく淫蜜があふれ出し、腿を伝って流れ落ちていった。
 ぞくぞくっとひときわ強い痙攣が少女の背を震わせると同時に、ついに王女はかくんと膝を折った。恥辱に耐え切れず、絶頂に達したのだ。
「イったのか。本物の変態だな、メディアは」
 揶揄する内容に比して、口調は意外なほど優しい。膝の萎えた妹を支えながら、スカリーはメディアの髪を撫でてやった。被虐の悦びに浸り込むことを認め、褒めるように。安心したようにスカリーに身を預けて喘ぐメディア。
「さて――それでは、着席するとしようか。行くぞ、メディア」
 首輪の鎖を引かれ、言うことを聞かない足を操ってよろよろと歩く。毛足の長い絨毯に足を取られかけるが、淫縛の少女は必死になって鎖の導きに従った。
「さあ、メディア、ここにかけるがいい」
 少し歩いて『席』のところに来たものか、スカリーはメディアの膝裏と背に手を回して軽々と抱き上げる。メディアが細身で軽いこともあるが、将としてはもちろん、一人の戦士としても鍛え上げられたスカリーにとっては、少女一人の体重など片手でも支えられる。メディアは兄王の力強さに心地よい陶酔感を覚え、どこか甘い溜息をついた。
 ひぅ。
 溜息が、鋭く息を呑む音に変わる。馴染み深い感触。
 秘門と菊門――王女の二つの性器に、ごつごつと固い先端が押し当てられている。ほぼ垂直に屹立したそこに、メディアはまっすぐ下ろされようとしていた。
 スカリーに囚われてからの日々は、これを入れられていない時間を思い出す方が難しい。彼女にとっては既に日常的な感覚だった。絶え間ない調教と淫虐の日々は、メディアの秘所を、初々しい色合いを残しながらもこなれ切った、アンバランスな器官へと造り変えてしまった。腰を落とされると、潤滑液にまみれた肉穴を何の苦もなく野太い擬似男根が貫いていく。
 ふっ…ふぅ…。
 ごりっ――と、体の奥で音が鳴った気がした。行き止まりまで胎内を埋め尽くされ、さらに深く、内臓を歪めてねじ込まれて発する、肉の軋む音。
 メディアが座らされた『席』は、どうやら、椅子の座面がなく、代わりに縦に一本革ベルトを渡しただけの代物のようだった。そしてそのベルトに、2本の大きくいびつな張型が取り付けられている。メディア自身の体重が自身を苛む仕掛けであり、その点だけ見れば、これまで長いこと乗せられてきた三角木馬とさして変わるところはなかった。違いは股を割り開かれていないことで――だが、そのために、体の中いっぱいを満たした異物を、自分から食い締めていくような態勢になってしまっていた。
 スカリーが、メディアの下腹を押さえ、ぐっと掴んだ。
 びくっと跳ねるメディア。張型の形状が、下腹にくっきりと浮き出ていることがそれで実感できる。スカリーは掌と人造性器に挟まれた少女の肉をぐにぐにと揉みしだく。くはあぁ、とたまらなさそうな吐息をついて、メディアは甘い痛撃に耐えかね、身をよじった。
 人の悪い笑みを浮かべ、スカリーは懐から巻いた糸を取り出す。無論メディアにそれと知る術はない。スカリーはメディアの足を椅子の下に折り込むようにすると、足首に巻き付く革ベルトの金具に糸を結び、陰核のリングを通してから、反対側の足首の金具に繋いだ。――両足とも、爪先立ちの高さにした上で。
 ――!
 スカリーが足から手を離し、持ち上げられていた足首を下ろしかけたメディアは、引き千切られるような激痛で自分の身に施された仕打ちを知った。唇が悲鳴を上げる形に開かれ、反り返った背中がびくびくと震える。この瞬間、またイってしまったらしい。
「……またイったな。変態マゾ王女殿」
 見透かして宣告するスカリーの声は、多分に笑みを含んでいた。スカリーが指を鳴らすと、踵を降ろすことを禁じられて震えながら喘ぐメディアに、いくつかの手が延ばされた。スカリーのものではない複数の手の感触に一瞬身を固くするメディアだが、すぐにそれが女性の手であることに気付き、力を抜く。侍女などに肌に触れられるのには慣れている。
 肌を上質の布が取り巻いていく感覚。どうやら服を着せられているようだ。
 後ろ手に拘束していた部分の縄が解かれ、両手を前に伸ばした状態で袖を通される。首の後ろと背中、腰の裏の三箇所で止め紐が縛られ、服が固定される。袖つきのエプロンか、割烹着という趣きの服であるようだ。
 目隠しが外された。
 メディアの視界が回復する。
 眩しさに目を細め、少しして明るさに慣れると、メディアは、自分がカーテンに囲まれた狭い空間にいることを知った。――目の前には、鏡がある。ごく軽量で、極めて高価な「魔法の鏡」だ。機能は通常の鏡とそう違わない。ただ、実際に存在するのは鏡の枠だけで、「ものを映す」のは何もない空間なのだ。「枠で囲まれた空間に光を反射する面を形成する」魔法がかけられた鏡というわけだった。だからこれは、厳密には鏡ではなく、「魔法の枠」とでも呼ぶべきかもしれない。通常の鏡面を為す部分が存在しないため、非常に軽量で、倒れても割れず、磨かなくても曇らず、おまけに鏡像には一切の歪みがないという、理想的な鏡である。
 その「鏡ではない、究極の鏡」が鮮明に映し出す鏡像を、メディアはのぞき込んだ。
 上気した頬。潤んだ瞳。それを除けば、数ヶ月前とそう変わりのない自分の姿がそこにあった。エプロンのような構造のドレスも、座面のない椅子も、正面から見る限りは通常のものと異なる様子は目に付かない。唯一目立つのは、首に巻かれた金色の首輪だろうか。アクセサリーと強弁するにはごつすぎるそれにさえ目をつぶれば、金のティアラ、絹のドレス、柔らかい栗色の髪とけぶるような美貌――と、非の打ち所のない王女のいでたちだった。いや、見ようによってはその首輪さえ、虜囚の悲哀を醸し出し、少女の欲情に崩れた面持ちを憂愁故のものと見せる働きがあったかもしれない。
 囚われた、憂いに満ちた王女――。下着の代わりにドレスの下で淫らに縄を打たれ、乳首と陰核にリングを通され、無毛の恥丘に奴隷の烙印を捺され、前後の秘裂で野太い張形を食い締め、足首と陰核のリングを糸で繋がれ、そしてその無残な淫ら責めでどうしようもなく発情しきって愛液を垂れ流しているのだと、その外観から推し量ることはできない。
 だがこの「一見して普通の姿」こそが陰湿な羞恥責めであることに、メディアはまだ気付かなかった。
 すぐ隣の椅子にはスカリーが腰掛けていた。造りはほぼ同じだが、こちらは普通に、サテン張りの座面がある。スカリーが合図すると、メディアにドレスを着せつけた侍女達――こちらも黒革の首輪以外は普通のお仕着せ姿だ――は頷き、ぱたぱたと鏡を片付け、二つの椅子を包み込むように引かれていたカーテンを開いた。何らかの魔法が働いているのか、衣擦れもレールを滑る音も立てず、全くの無音だった。
(お集まりの諸君――)
 先程のスカリーの言葉が思い出され、身を硬くするメディア。カーテンの向こうには、無数の観衆が――。
 ――いなかった。
 絨毯に覆われ、魔力の光を灯したシャンデリアに明るく照らされた、窓のない広い空間。侍女達が立ち去った今、そこはスカリーとメディアだけしかいない無人の広間だった。
 スカリーのあの言葉は、妹を辱めるための言葉責めだったのだ――。
 そう解釈して、メディアは深い吐息をついた。欲情のためだけではない桜色に頬を染め、傍らの兄王に恥ずかしげな笑みを向ける。変わらず淫虐の限りを尽くされてはいるものの、自分がスカリーに大事にされているような、そんな気がした。スカリー本人はどんな責めも辱めも与えるが、他の者には見せることすらしない――スカリー専用の、大切な玩具。そう扱われているように思える。
 自分はスカリーの…スカリー「だけ」のモノなのだ――初めて、そういう自己認識が芽生えた。同時に、強烈な帰属意識が目覚める。突然、自分が兄王の所有物であることに、誇らしささえも感じ始めていた。子宮を突き上げる異物や、陰核を責める糸にまで、それがスカリーの施した仕掛けであるというだけで、奇妙な愛おしさを覚える。
 と、急に、メディアの体を貫いて、これまでに倍する快感が走った。
 刺激自体は変化していない。変わったのはメディアの方だった。彼女を苛む淫ら責め、その受け止め方が――受け入れ方が、と言うべきか――大きく方向性を変えていたのだ。
 今までは受動的にただ責めに耐えていたものが、積極的に受け入れ始めていた。
 は……、ふ……。
 鼻にかかった吐息をつき、わずかに腰をこねるような、落ち着かない動きを見せるメディア。我知らず、二本の張型を律動的に食い締めていく。その度に甘い痺れが下腹部から全身に広がり、どうにもじっとしていられない。余分な体動は肉芽の針痛で報われる。
 その自分の進退かなわぬ有様を、スカリーが横目で観察し、愉しんでいるのがメディアにはわかった。自分の痴態がスカリーを愉しませているのだと思うと、たまらない充足感が、堕ちた王女の心に満ちる。今のメディアには、兄王の視線が実体をともなった愛撫のごとくに感じられた。
 黒髪の若い王の口元に刻まれた冷笑は、メディアの心と体の動きを何もかも見通しているかのようだった。
 しばし妹姫の淫らな身じろぎと、媚びるような、すがるような眼差しを堪能してから、スカリーは手を差し上げ、音高く指を鳴らした。右手後方の大扉が開き、数人の侍女達と侍従達が、サテン張りの椅子を抱えて現れる。きびきびした動作で椅子を並べては、扉の向こうに戻ってまた椅子を持ってくる。あらかじめ配置は決められていたらしく、あっという間に広間には数十脚の椅子が並べられていった。どれも、メディア達から見て横向きに置かれている。左手に正面を向ける形だ。
 メディアは初めて、左手の奥が一段高く設えられていることに気付いた。そう意識して見ると、この広間の用途の一つが理解できた。左手を舞台として、小劇場として使えるように作られているらしい。実際、椅子が並べられてみると、この広間は劇場にしか見えなくなっていた。彼女達がいる場所は、舞台ほどではないが、椅子が並べられた床面よりは一段高くなっている。どうやら貴賓席と言った趣のようだ。
 これから、何が始まるのだろう――。
 羞恥と快楽に翻弄されていたメディアの胸に、初めて好奇心が湧いた。何か悪いことが起こるのではないかと言う不安は、拭い難くつきまとっていたが…。
 椅子を並べ終わって使用人達が退出すると、ほどなく右手正面の大扉が開かれ、客と思しき者達が悠然と現れ始めた。贅を尽くした装いは、一目で彼等が貴族か、それに匹敵する資産を有する大商人の類いと知らしめる。だが、彼等を判別することはできなかった。顔を仮面で覆っていたからである。服装もゆったりしたものを着用している者が多く、体型を見て取ることも難しい。
 仮面の客達はスカリーとメディアに向けてそれぞれ一礼し、三々五々椅子に腰掛けていった。椅子同士はかなり余裕を持って置かれており、窮屈さはない。スカリーは彼等の礼に頷きだけで応え、口を開くことはなかった。
 客達がすべて腰を下ろすと、大扉が閉じられる。誰も喋らない。数十人の沈黙が発する、重苦しい静寂が広間を満たした。
 と――ほのかなざわめきが生じた。いつの間にか壇上に、男が一人現れていたのだ。
 彼は胸に手を当てて一礼し、厳かに宣言した。
「お集まりの皆様。これよりオークションを開催いたします」

                3
 その、少し前。
「――お集まりの諸君。わが妹姫にして、先日の反乱軍の一方の旗頭であった、王女メディアを紹介しよう」
 スカリー王が、見せつけるように押し出した少女の姿に、どよめきが生じた。開場前の余興、と言われて集まった仮面を着けた男達は、予想もしなかった光景を前に、驚愕と興奮を隠せなかったのだ。
 黒い革の目隠しをした、栗色の髪の少女。全裸と言っていいその裸身は、透けるような白い肌、充分なふくらみとくびれを兼ね備えた柔らかい体のラインを備え、この年頃の少女特有の、若すぎも熟れすぎもしていない危うい美しさを見せる。目元を覆う黒革も、整った目鼻立ちを隠し切ることはできず、その可憐な美貌ははっきりと見て取れた。
 ほっそりした四肢と白磁の肌は、少女の、温室で大切に育てられた花のような暮らしを示し、顔立ちには長い年月を重ねて血統を保ってきた高貴さがにじんでいる。
 申し分なく美しい、気品にあふれた少女の裸身を彩って、縄が幾重にも取り巻き、乳房を絞り出し、くびれをより細くし、股間に食い入って、少女を責め立てつつ淫らに飾り上げていた。絞り出された乳房の先端の、淡い桜色の突起はぴんと尖り、その隆起した肉の蕾を横一文字に貫いて、金のリングが光を反射して輝いている。一回り小さい輝きが、少女の股間にも見えた。勃起した陰核に施されたリングピアスが、少女がよろめく度に揺れているのだ。これを隠さないよう、股縄も工夫され、Y字を描いて打たれている。そして、無毛の恥丘には、奴隷の烙印がくっきりと焼き付けられていた。
 首に通常の革ベルトではなく、金の首輪がはめられてはいるものの、どこから見ても、それは一匹の牝奴隷の姿でしかなかった。
 ただ一点――髪を飾る、金の冠の存在さえなければ。
 清楚可憐な美貌で知られた王女が、一介の性奴隷として淫靡な見世物と化している。そこが唯一にして最大の、強烈に刺激的な部分だった。
 スカリーは股縄を解いてから乳首と陰核のピアスをあちこちに捻り上げ、この仕打ちすら快感に変えている妹姫の淫らに仕込まれた肉体を衆目に曝した。兄王の指が少女の秘唇を開いてみせると、せき止められていたものが溢れたように、大量の淫蜜が零れて内股を伝い落ち、濡れ光る肌にぬめりを上塗りして、元々濡れ光っていたそれが汗ではないことを証し立てる。開かれ、曝し上げられた淡い色の粘膜に突き刺さる数十の視線を物理的衝撃と感じたかのように、少女は喉を反らし、膝を震わせてぎゅっと身を固くした。
 明らかに、絶頂していた――ただ、見られているだけで。
 肌を桜色に上気させ、極まりの余韻に喘ぐ王女の放恣な表情は、目隠しの上からでも目が離せなくなるほど艶やかだった。示し合わせたように、仮面の男達は無言でメディア姫の媚態に見入る。細かく震える三つの金のリングが、たとえようもなく扇情的に見えた。
 スカリーがメディアの鎖を牽き、壁際の、カーテンで四角く区切られた一角に導いていく。黒髪の王が無造作に片手でカーテンを払うと、カーテンはほぼ自動的に、音もなく左右に別れて開き、内側を露にした。
 再び、嘆声が洩れた。
 一段高くなったそこには、二脚の椅子が置かれていた。玉座を模したような、簡素だが優美な作りの椅子。だが嘆声の理由はそこではない。その椅子は、一脚は普通だが、もう一脚は普通ではなかったのだ。
 座るべき座面が四角く抜け落ち、代わりに、縦に1本革帯が渡されている。そしてその帯には、いびつな形状の棒状の物体が2本取り付けられ、垂直にそそり立っていた。1本は男根を模してはいるが、その太さと長さ、亀頭部のカリのエラの張りなどは凶悪の一語に尽きる。全体は瘤やイボで覆われ、外見をいっそう恐ろしげなものにしていた。その影に隠れるよう取り付けられたもう1本は、大小様々な球体を連ねた形で、ぐねぐねと曲がりよじれて自立している。が、故意に固定を甘く作ってあるらしく、開放されたカーテンが起こした風に揺られ、ゆらゆらと曲がり具合やよじれの方向を変えていた。太さは1本目ほどはないが、その代わりに長い。1本目の向こう側で頭一つ突き出たその表面は不自然にぬめ光っており、粘性を帯びた液体が塗られているものと思われた。
 スカリーは目隠しされたままの妹を抱き上げ、優しげにも思える仕草で、少女の体をその異様な椅子に座らせた。野太い責め棒が華奢な少女の体に苦もなく飲み込まれていく様は、強い違和感をも覚えさせられる。胎内をぎちぎちと押し広げられる感触に、少女が鋭く息を呑む音が聞こえる。男達は、それが聞こえるほどに、息をすることも忘れて、目にしていながら信じるのが困難な、魔法のようなその光景に見入っていた。
 責め椅子に深く腰掛けた少女は、二つの肉孔を目一杯広げ、責め具を根元まで咥え込んでしまった。傍らのスカリーが、膨れ上がった下腹部をぐっと押し込むと、喉を曝して切なそうに身をよじる。その表情に苦痛は見られない。
 妹の足首を椅子の下に折り込み、スカリーは取り出した糸を、陰核のリングを通してから両の足首に繋いでしまう。自分の足首に敏感な肉芽をきつく引かれ、少女は栗色の髪を揺らしてびくんと震えた。…よく見れば、この目的のためだろう、座面のベルトの一部は1本目の張型のすぐ前で、革ではなく、金属環になっていた。そのため、ベルトに邪魔されることなく女芯を苛むことが可能なのだ。
 限界まで異物を咥え込まされ、陰核を引き絞られて、壊れそうなほど苛烈な責めに遭いながら、王女は断末魔のごとき痙攣に見舞われていた。だが、張りを増した乳房の頂上でくっきり尖り立つ乳首が、糸を伝って流れ落ちる大量の蜜が、それが苦悶ではなく快楽の絶頂のためであることを明らかにしていた。
 短時間のうちに二度の極まりを示した少女の傍らへ、いつの間にか数人の侍女が歩み寄っていた。それぞれに畳んだ布や脚のある枠などを手にしている。一人が、後ろ手にカーテンを閉じた。
 何人かが、呼吸を思い出したように深く息をついた。「――では、準備をいたしますので、一度控えの間の方へ」
 ずっと背後に控えていた女魔術士に促され、男達はどこか酔ったような足取りで広間を後にした。男達が全員出て行ってから、鋭い美貌の女魔術士は左右の色の違う切れ長の瞳を閉じられたカーテンに走らせ、どこか気怠げな所作で手を振って――今まで『貴賓席』との物音を一方通行にしていた、風の結界を解いた。
 魔術士ゼルダは、しばしカーテンを透かし見るように視線を当てていたが、すぐに身を翻して広間を背にした。触れる者もなく、大扉が音もなく閉じる。
 カーテンの外側は無人の場に戻った。
 目隠しを外されたメディア姫がこの場を目にするのは、この少し後のことだった。

                4

「――それでは、競りを締め切らせていただきます。物件11番は、A列5番の方の落札となります」
 メイド姿の少女が、トレイに物件番号と落札金額が書かれた番号札を乗せ、落札者に運んでいく。競売後、別室にて番号札と代金を商品と交換する仕組みだ。客の正体が判らない状況のために取られた方法である。短時間での偽造などあるとは思われないが、一応、番号札は割符も兼ねている。
「次の物件をご紹介します」
 進行役が合図をすると、舞台の袖の扉が開き、人影が二つ現れた。黒い頭巾で頭部をすっぽり覆った男と、金の髪と小麦色の肌の娘。娘の肩には、ずっしりと重そうな木の枷が乗っている。彼女の両手は半端に伸びをするときのように両肩の少し外側に置かれ、同じ木の枷に縛められていた。首と手首の大きさに半円をくりぬいた木板に、前後から挟み込まれた格好である。ギロチンの罪人を据える部分だけ取り出したような板の厚みは3ヤッチ(4.8センチ)ほどもあり、手首よりさらに外側に伸びた枷は、いかにも頑丈そうなコの字形の鉄の楔を打ち込んで固定されている。自力でこれを外すのは、どう見ても不可能そうだ。
 頭巾の男は手にしたロープをぐっと引き、娘を舞台の中央へ導く。客達の視線が娘の肢体に集中した。首枷の他に、娘は何も身に着けていなかった。木枠の前後には金属環が取り付けられており、男が手にしたロープは、一旦前側の環を通り、女の股をくぐってから後ろ側の環に留められていた。ロープを引かれると股間が引き絞られ、荒い繊維が剥き出しの肉の合わせ目を擦り上げる仕掛けだった。敏感な粘膜を襲う強すぎる擦過を抑えるためには、引かれる方向へ動いてロープの張りを緩めるしかない。結果、彼女は牽引に逆らえずに歩を進める。
 肩に重荷を載せているために常時緊張している筋肉が、歩くたびに褐色の肌の下でしなやかな伸縮を見せる。この目的のために、彼女の拘束具にこの重苦しい代物が選ばれたのだと思われた。汗ばんだ裸身に浮き上がる鍛え上げられた筋繊維は、しなやかで強靭な機能美を見るものに感じさせる。
 舞台の真ん中に引き出され、娘は客席と向き合わされた。
「く…」
 数十に及ぶ視線を改めて意識させられ、娘は唇を噛んで目を伏せる。よく日に焼けた肌は、乳房の下側と脚の付け根のすぐ上だけ、やや色素が薄い。普段から肌着も同然の格好で動き回っているのだ。そんな彼女だったが、一糸まとわぬ姿を注視されるとなると、その羞恥は格別だった。無数の視線が脳に直接突き刺さり、ぐちゃぐちゃに掻き回していく錯覚に、娘の頬が恥じらいの赤味を増す。気の強さが窺える、野性味の強い容貌は、普段の鋭い眼差しを失い、目尻に涙を光らせて、恨みがましいようにも、媚びるようにも見える視線を客席に向けている。まだ以前の気概の形骸が、そこにはほのかに残っていた。
「皆様、大会をご覧になられて既にご承知のことと思いますが、改めて紹介します」
 定型の台詞を前置きする進行役。
「物件12番、ラクーナ。剣闘士ラクーナと言えば、ご存知の方は多いことでしょう。こと一対一の勝負となれば、彼女に及ぶ使い手は数えるほど。メルキア各地の剣闘大会で勇名を馳せた強者です。
 さて、剣士ラクーナと言えば、その不敵極まるキャラクターでも有名です。そこで今回我々は、あえてその反抗的な性格を矯正しきらずに調教いたしました。ですがその分、主人への服従だけは徹底的に仕込んでありますので、ご安心ください。気の強い女を自らの手で屈服させていきたい方に、特にお勧めの物件です。
 肉体開発度Aランク、精神調教度Cランク、従属度Aランク、技巧Bランク、完全調教済みのBランク性交奴隷です」
 進行役は、流暢に物件の紹介をすると、女戦士を引き出してきた男に頷いて見せた。頭巾の男はこれ見よがしに指を三本まとめると、褐色の肌の娘の腰の後ろに回す。それを見て、女は顔色を変えた。
「やっ、やめろ! それは、それはダメ、あうっ!!」

 重量物を肩に載せているため、指から逃れる機敏な動作はできない。男の指は、三本まとめてラクーナの菊門にねじ込まれていた。
「ああっ……やめ、ひいぃっ!」
 男は指を鉤状に曲げ、ぐいっと上に引き上げた。釣られてラクーナの腰が引け、膝がぴんと伸びる。前屈みになったラクーナを水平に回すように、男はそのまま指を横に引いた。
「あがぁっ!」
 慌てて腰を横に回す。重心を軸に半回転させられ、ラクーナは客席に尻を突き出す姿勢を取らされた。
「ラクーナは主にアナル奴隷として調教を加えており、ご覧のように、いきなり指を三本咥え込んでも平気です」
 進行役の口上に合わせ、男は三本指を激しくこじり、抽送してみせる。
「あひっ! ひっ! くあぁあああん…っ!」
 がくがくと膝を震わせて喘ぐラクーナの声には、次第に甘いものが混じり始めた。噴き出す腸液と愛液が腿を濡らしていく。
「んあああ、ふあああっ! ダメ、イく、イっちゃうぅ…!」
 過激なまでのアナル責めを受けながら、たちまち絶頂間際に追い詰められるラクーナ。
 だが――。
「イくな」
 進行役が冷酷に告げる。
「ひッ!?」
 びくん、と女戦士の尻が跳ねた。指責めは変わらず続いているのに、体がそれ以上昇りつめるのを拒んでいた。
「あああ…こんな、こんなぁ…イヤ、だぁ……くぅう…」
 耐え切れず、自ら尻を振り始め、排泄器官への刺激を強める。抉り取られそうな刺激と、強烈な擬似排泄感とが目くるめく快楽となってラクーナの脳を満たす。触れられていない牝穴が、栓の抜けた樽のようにとめどなくとろみのある濃縮液を噴き出している。絶頂寸前なのは誰の目にも明らかだった。
 だが――それでも、ラクーナはイけなかった。
「あああっ! イヤぁあああッ!! イかせてぇ―――!!」
 悲痛な絶叫が響く。
 絶頂を阻むものなど何もない。なのにイけない。不可思議な現象が起こっていた。
 女の極まりを押し留めているのはただ一つ、それを禁じる簡潔な命令だけだった。
 ラクーナの肉体は、本人の意思とは無関係に主人の命令に逆らえないように調教されてしまっていたのである。
 頭巾の男がラクーナの肛門から指を引き抜く。再び反転して客席に向けられたラクーナの顔は、涙と涎に汚れ、わずかな間に欲情と苦悶による憔悴を見せていた。
「お前をイかせることができるのは、新しい飼い主だけだ。さあ、お集まりの皆様にお願いしてみるがいい」
「……お願いです……どうか、淫乱奴隷のラクーナを…お買い上げになって、御主人様に…なってください……」
 言われるままに哀訴を紡ぐが、本気の言葉ではないことはすぐわかった。嫌々ながらと言う雰囲気が濃厚に漂っている。が、進行役もそれを咎め立てはしない。ラクーナの場合、その反抗的な部分が附加価値となっているからだ。そのくせ、命令には決して逆らえないことが実証されたのであるから、これ以上のデモンストレーションは必要ない。
「体も鍛え上げられており、耐久力は抜群。どんなハードな責めでも簡単には壊れません。ラクーナを責め上げて屈服させたい方は、是非ご落札ください。それでは競りを始めます」
 進行役がさっと手を挙げた。いくつか指が折りたたまれた独特のサインが示されている。
 すぐに、客達の間からも手が挙げられた。こちらも別のハンドサイン。
 ――オークションは極めて静かに進行していた。
 最初の提示金額、上乗せ額、それらすべてはハンドサインによって示され、誰も声を発しない。声から客の正体を明かさないよう配慮されているのだ。
 やがて、一人の手を残して、他の手が挙がらなくなる。
「――それでは、競りを締め切らせていただきます。物件12番は、D列2番の方の落札となります」
 席の並び方で落札者の確認を取り、ラクーナの首枷に席番号の札がつけられた。ラクーナは舞台の袖に引いて行かれ、広間から連れ出される。顔を隠した新たな主人に向けて、ラクーナは最後に複雑な視線を投げた。不満、困惑、不安、脅え、諦め、そして微かな期待――。様々な感情が入り混じった眼だった。
「次の物件をご紹介します」
 進行役はそれに気付いてもまったく注意を払うことなく、競売を進めていった。売れた奴隷にはもはや興味などない、と言わんばかりの態度だった。

                5

 はぁっ…はぁっ…はっ。
 呼吸と鼓動の乱れを自覚しながら、彼女はそれを整えることはできなかった。
 目の前で、美しい女達が奴隷として――性の家畜として次々に売られていく。目が眩むような思いで、メディア姫はその一部始終を眺めていた。
 ずっと立てたままの爪先が、時折摩擦を失ってぬるぬる滑る。毛足の長い絨毯でさえも、絶え間なく糸を伝い落ちる愛液で、ぐっしょり濡れそぼってしまっているのだろう。
 そう――メディアは目の前の情景に、まぎれもなく欲情していた。
 王族として育てられたメディアは、大陸の情勢や各国の要職にある者達などの情報にこそ詳しいが、下々の間での噂や伝聞には疎い。誰もが、命あるうちからサーガに謳われるような英雄ではないのだ。そんなメディアでも名を聞いた覚えのある、高名な女騎士、女戦士、女魔術士達が、今、知性や人格を、品位や矜持を、目指していた目標、積んできた研鑚、手にしていたもの、手に入れるはずだったもの――それら、人生のすべてを否定され、一個の牝、ただ性器にしか過ぎないものへと貶められている。
 その破滅的な、冒涜的な、許されざる背徳の光景を前にして――メディアは、おぞましくも蠱惑的な、戦慄にも似た官能のざわめきが脊椎をじわじわ侵食していくのを、はっきりと自覚していた。新雪に足跡を刻むような、神聖なものが穢されていく感覚が――たまらなく刺激的だった。
 女の中心を貫く二本の剛直が熱を放ち、内側からメディアの淫欲を煽り立てる。さらには、勝手にぐねぐね蠢いて肉襞を刺激しているようだった。特に排泄口を埋める、球体を連ねた張型は激しくよじれ回転して、菊門の性感帯のすべてを掻き回し、裏側から膣と子宮を押し揉んで、破滅的なまでの快美感を掻き立てていく。
 必死に平静を装いながら、メディアは何度も絶頂に達していた。
 ――だが実は、張型はまったく動いてなどいない。動いているのはメディア自身の方だった。淫靡極まる舞台の見世物を前に、メディアの腰は無意識のうちに捏ねるような動きを見せ、媚肉は貪欲に空隙を埋めている淫具に絡みつき、自ら咀嚼していた。意のままにならない肉の収縮が、メディアに、張型の方が動いているような錯覚を与えている。
 スカリーの調教によって淫らに開発されてしまった肉体が、意思の制御を離れて暴走しているのだった。下端をベルトで支えられた淫靡な遊具は、今まで咥えさせられてきたものと違って固定されておらず、圧される方向に応じて前後左右、容易に角度を変え、牝肉を抉り回す。その不慣れな感触が、メディアの錯覚を助長していた。
 が、実のところ、どっちが動いているのかなど、メディアにはどうでもよかっただろう。そのどちらであったとしても、彼女自身が止めたくても止めることはできない。重要なのは、それが与える無上の快楽の方だ。
 ――そう、それこそが重大事だった。たまらなく刺激的な背徳劇と、下半身を襲う快感の激震とが、メディアを否応なく淫楽の淵に追い落とす。だが、肉欲に溺れ切ることは許されない。一見「王女らしい」今の装いが、メディアの心を固く縛めていた。

 王族として育ったメディアは、常に他人の目を意識して振る舞うことを幼少時より覚え込まされてきた。王女として相応しい言動、服装、教養、立居振る舞いの全て――アルファースの姫として恥ずかしくない行動を常に義務付けられ、それはもはやメディアの本能にまで刷り込まれていると言っていい。見方によってはそれは、王女の椅子にがんじがらめに縛られ、「王女」の鋳型に押し込められていたとも言える。それ故に、今までの自分を跡形もなく破壊されることの圧倒的な解放感の虜となり、王女の殻を破壊し尽くしてくれた――それが奴隷に堕とすことだったとしても――スカリーに、今や無制限の依存心を抱くまでに至ったわけだが――。
 それでも、刷り込まれた「王女としての」自己は強固だった。何しろ、生まれてからつい先頃まで、ずっと「それ」なしの暮らしを想像したことすらなかったのだ。「王女の仮面」を被らされると、メディアには自らそれを外すことは不可能だった。
 競売の最中でも、今の物件に興味がない者、既に競りから降りた者達の視線が、時折投げかけられるのをメディアは肌で感じていた。その視線がメディアに、快楽への没頭を許さない。欲情していることを見透かされたくない、そうと知らないものに奴隷に堕ちた自分を見せたくない、と言うごく真っ当な少女らしい羞恥心も無論あった。
 王女としての戒めが、少女としての恥じらいが、メディアに平常を装うことを強制していた。
 絶えず極度の欲情の波に襲われ翻弄されながらも、我を忘れて溺れることは許されない。一呼吸毎、心臓の一拍毎に小さな絶頂に曝されつつ、真の満足は得られない。
 ――拷問だった。
 一秒ごとに興奮が高まる。激しい鼓動に心臓が破れそうな感覚。張型が、内臓を突き破り腹を裂いて現れそうなほど、強烈に体内を掻き回している。陰核のリングにかかるテンションが、甘い痺れを全身に広げた。乳首のリングが、呼吸と共に膨らむ乳肉と服の間で擦れ揺れるのが怖いくらいはっきり感じられ、疼くような快感を乳房全体に行き渡らせる。――信じられないほどに触感が増幅されている。
 全身が性器になってしまったような錯覚にメディアは囚われていた。
 熱く疼く一個の性器。それが自分だ、とメディアは思う。それを満たし、埋めることができるのはただ一人。傍らに座る、彼女の飼い主――唯一絶対の主人のみ。メディアは体内で吹き荒れる嵐のごとくに圧倒的な性感に翻弄されながら、すぐ横の席につく兄王子に縋るような眼差しを向けた。
 今彼女が陥っている悶焦地獄が、彼本人が仕掛けた意地の悪い苦役であることも知らずに。
 もっとも底意地が悪い点は――メディアの外面を取り繕う努力が、まったくの徒労であるというところだった。メディアは、自分の痴態のすべてが眼前の客達に最初から知られているなどとは、思いもしていない。
 まったく意味のない、困難極まる自制を必死で保つ妹姫の姿に、スカリーは口の端に人の悪い笑みが浮かぶのを抑え切れなかった。
 競売は半ばまで進んでいた。
 進行役は物件の紹介を途切らせ、客席に向き直る。
「さて――この辺りで皆様に、最初の目玉商品をご紹介いたしましょう」
 さっと両手を上げると、最初から舞台の最奥にかかっていた幕が静々と左右に分かれていく。単なる背景だと思っていた客達が、微かな嘆声を洩らした。
 幕の向こう側には――いずれ劣らぬ美女達が、横一列に並んでいた。その数七人。中央に位置する赤毛の娘と、右端に立つ銀髪の娘の美貌は、中でも特に抜きん出ている。嘆声は小声の歓声に変わった。
 首輪以外は全裸の奴隷の装いだが、首輪は他の奴隷のように単なる革ベルトではなく、宝石で装飾されている。ルビー、サファイア、エメラルド、黒真珠、オパール、キャッツアイ、ダイヤモンド。それはウルフレンドの神々を象徴する宝石であり、それらを守護する任を帯びた光の騎士達の象徴でもあった。
 そう――彼女達は、闇の勢力に対する最先鋒――ここ数十年というもの大きな活動はないが――ソフィア聖堂の頂点に位置する、七人の宝石守護騎士。俗にソフィア聖騎士と称せられる娘達だった。ソフィア聖堂に属する騎士達はみな若い女性であり、七人の聖騎士は優れた美貌と実力を兼ね備えていることで衆に知られていた。
 何の合図もなく、七人は同時に右手を伸ばし、天に高く掲げた。よく見ると彼女達は一列ではなく、微妙に弧を描いて立っている。ぴたりと静止した指先を延ばしていけば、宙の一点で重なることだろう。
「我らが心は淫欲に屈し、我らが肉は快楽に屈したり。主への隷属が我らの使命。我ら、性の家畜なり」
 その声も見事に重なり、広間に響き渡った。
 それは名高いソフィアの聖なる誓いを無残に改竄した、哀れなる性奴隷の誓句だった。聖騎士の誇りを踏みにじられ、彼女達の目には一様に苦渋の色が浮かんでいるが、赤らんだ頬と内股を伝う淫蜜が、屈辱をも欲情の糧とする被虐の悦びを、苛烈な調教によって骨の髄まで叩き込まれてしまっていることを証してしまっていた。
「改めて紹介するまでもないでしょう。
 ルビーの聖騎士カサンドラ。
 サファイアの聖騎士ピア。
 エメラルドの聖騎士イライザ。
 黒真珠の聖騎士ジュリエール。
 オパールの聖騎士オルカナ。
 キャッツアイの聖騎士シャーナ。
 ダイヤモンドの聖騎士ロクサーヌ。
 ソフィア聖騎士の七人です」
 進行役が、無残な口上を強いられた女達を一人ずつ指して名を呼ぶ。「さて――ここで皆様に、お尋ねしたいことがございます。このいずれ劣らぬ美女七人。皆様、バラ売りとセット売り、どちらがお好みでしょうか? 聖騎士全員を手に入れればその価値は計り知れませんが、手に入れられるのはどなたかお一人。それよりは、一人でも聖騎士を入手できる機会を多く設けた方がよろしいでしょうか? ――それを今から、皆様に決めていただきます」
 進行役が合図すると、客席後方の扉が開いた。何人かの盆を捧げ持った侍女と、四つん這いの奴隷が一匹現れる。侍女達は客席を回り、客達一人一人に何かを手渡していった。
 進行役はいつの間にか、銅貨程度の大きさの球体を手にしていた。
「ただいま皆様のお手元に、これと同じガラス球をお配りいたしました。これから皆様の元を、あの奴隷が回ります。バラ売りをお望みの方は牝の穴に、セット売りをお望みの方は尻の穴に、お手元のガラス球をお入れください。数が多い方のやり方で競売を行ないます」
 進行役が示す奴隷を何気なく見遣ってから、客達の何人かはぎょっとしたようにその奴隷を見直した。
 豪奢な金髪を結い上げ、切れ長の瞳と、尖った耳が特徴的な美貌の娘。エルフである。エルフにしては例外的なほど豊満な体つきで、這い進むたびに乳房や尻が重そうに揺れる。乳首には金のリングが貫通しており、よく観察すれば陰核をも一回り小さなリングが貫いているのがわかる。
 首輪の他には、手足にそれぞれ袋のようなものを被せられているだけだった。最初は、手足を折りたたんで固定されているように見えたが――違った。どう見ても、袋には二の腕と腿の太さしかない。つまり……肘と膝の先が、なかった。
 進行役は敢えて何の注釈も加えなかった。
 貴賓席では、メディアが身を苛む苦悶をも寸時忘れ、無残な有様の奴隷仲間――サーラの姿に見入っていた。蒼然とスカリーを振り返る。その瞳には激しい恐怖と恐慌が揺れていた。
 スカリーは苦笑して、妹の耳元に顔を寄せ囁いた。
「――別に手足を切断したわけではない。あの袋に魔法の仕掛けがあってな。ないように見える部分は、『どこか別の場所』に『隠されている』んだそうだ。袋から抜けば元通りになる。安心したか?」
 見る見る安堵の色が浮かぶメディアの表情は、次の兄王の言葉で凍りついた。
「もっとも、私に逆らうようなら、本当に切り飛ばしてやってもかまわないが。メディア、お前はどうかな? ――私に、逆らってみるか?」
 引きつった顔で、ぶんぶんと首を左右に振った。脅えた視線で、必死に恭順の意を示そうとする。
「ふふ、まあいいさ。逆らったら、本当にああなる。それを忘れるなよ?」
 今度は縦に首を振る。縋る眼差し。実際、今のメディアにはスカリー以外に縋るべき相手はいないのだ。

 サーラはよたよたと客席の間を這い回っていた。客達がねじ込むガラス球を、元からの生殖器と作り変えられた生殖器とが共に苦もなく呑み込んでいく。絨毯の毛足が、巨乳の先端を擦り立て、刺激していた。さらには、次第に数を増していくガラス球は、先夜ナーダが舞踏会で仕込まれていたものと同じく、共鳴振動しやすい作りのものだった。膣内で、あるいは腸内で接触するたびに、澄んだ音を立てて相互に震える。サーラの歩みはいっそう遅くならざるを得なかった。
 客席をすべて回ると、サーラはぎくしゃくした動きで貴賓席へ向かった。
「……?」
 不審そうな表情のメディアの眼前で止まる。
「では――投票の結果を確かめるために、メディア殿下にご協力いただきましょう」
 舞台上の進行役の言葉に、ますます怪訝そうに首を傾げるメディア。
 メディアの左右半ヤーム(約80センチ)ほどのところに、ロープが2本降りてくる。先端にはフックが下がっていた。
 貴賓席の前にいつの間にか頭巾を被った男が二人現れ、王と王妹に一礼すると、サーラの『後ろ足』を掴んで持ち上げた。見るとサーラの手足を覆う袋の端近くには金具が付いている。男達は掴んだ足の金具にフックを引っ掛け、立ち去った。ロープはするすると引き上げられ、サーラは足を持ち上げられて、逆立ちの姿勢を強いられる。『前足』が床を離れるほどには引き上げられていないが、ロープは上に行くほど間隔を広くしており、当然サーラはある程度の開脚を強いられた。サーラの恥丘に黒々と焼き付いた、上下逆さまになった奴隷の紋章が衆目に曝される。
 書類入れのような箱を捧げ持った侍女が二人現れ、メディアの左右に控える。
 ――ようやく仕儀が飲み込めた。
「ではお願いいたします、殿下」
 戸惑った視線を横に投げると、スカリーが進行役の言葉を認めて頷く。拒むことは許されないようだった。メディアは熱い吐息をついて、繊手を目の前に据えられたエルフ奴隷の股間に伸ばした。
 まずはメディアから見て向こう側、膣口に指を入れる。泉のように愛蜜を溢れさせるそこは、触れただけでぐちゅっといやらしい音を立てた。指を二本差し込むと、すぐにつるつるしたガラスの感触があった。牝蜜にぬめって捉まえにくいそれをそっと引き出そうとする。わずかな刺激に過敏に反応したサーラが逆立ちした体をくねらせる。充血した襞が離したくないと言うように絡みつき、吸いついてくるのを引き剥がすと、ちゅぽっと濡れた吸盤を取る時のような音がした。この吸着感が、滑るガラス球を落とさないで済んだ理由らしい。粘液に濡れ光るガラス球を右側の侍女の持つ箱に入れる。
 メディアは次に目の前の窄まりに指先を向けた。人差し指を突き入れると、いともあっさり呑み込んでいく。また指先にガラスの感触。掬い出そうとするが、指一本では上手く行かない。菊孔をこじるようなメディアの指の動きに、エルフ奴隷は甘い吐息をつく。どうも取れなくて、やむなくメディアは指を二本に増やした。サーラの排泄口は、やはり苦もなくそれを受け入れる。先端を鉤状に曲げ、指と指の隙間に引っ掛けてガラス球を引きずり出す。ガラス球の下に指先を入れようとしてくいっくいっと動かすと、サーラは背を反らし、きゅうっと菊門を締め付けてきた。牝汁の分泌量が増し、奴隷の紋章の上を伝い落ちていく。動かしにくくなった指を無理やり引き抜くメディア。びくん、とサーラの内腿が震え、ふっと脱力した。何とか取り出したガラス球を、メディアは左の侍女の持つ箱に入れる。
 たった2個のガラス球を取り出されただけで、最初の絶頂に達して荒い息をつくサーラ。
 ――メディアの吐息も、それに劣らず深く熱くなっていた。震える指先を再びサーラの膣口に伸ばす。今度は両手を使い、片手で膣口を広げておいてからガラス球をつまみ出した。後ろの方も同じようにする。サーラの淫孔は驚くほど柔軟に口を開いた。
 5個、6個と取り出していくと、次第にガラス球が取りにくくなっていった。サーラの体内深くに収まってしまっているのももちろんだが、逆さまになっているのも影響しているようだ。重力に逆らって引き上げねばならない。当然、いっそう深く指を沈めねばならないし、滑るガラス球を捉まえるのも困難になる。ガラス球が減るほどに体内深くを激しく掻き回されるという、普通に考えれば逆の状況に置かれているサーラは、立て続けの絶頂に襲われ、緊張と弛緩を繰り返していた。
 メディアは困惑していた。ガラス球が奥まで入り過ぎて、指をいっぱいに差し込んでも、指先は触れるのだが取り出すことができない。一方サーラは押し揉まれてくにくに動くガラス球に子宮口を捏ね回され、奥底の快感に震え、喘いでいる。
 どうすればいいのかわからず往生するメディアに、隣席から立ち上がったスカリーが声をかけた。
「メディア。そんな手つきでは奥の球が取れないだろう? 早く取り出さねば、お集まりの諸君に悪い。ほら、こうするのだ。――指を5本まとめて尖らせてみるがいい」
 ほとんど反射的に命令に従ったメディアの手首を兄王が掴む。先端をひくひく開閉するサーラの膣口に押し当て……一気に押し込んだ。
「!!!」
 ぐじゅうっ、と粘着音を立てて、メディアの五指がサーラの括約筋を押し広げる。体を支えていた腕が崩れ、ロープにぶら下がる格好になったサーラはびくびくと痙攣している。
 あっさりと手首近くまでサーラの膣内に埋まった自分の手を見て、メディアは息を呑んだ。
「さあ、これで取れるだろう」
 冷笑を浮かべ、手を離すスカリー。はっとしてガラス球を探る。…が、ぎゅうぎゅうと締め付けられ、手が上手く動かせない。もうちょっと何とか緩めてもらえないものかと思うが、呼びかける声をメディアは持たないし、サーラの顔は向こう側にあり、目線で訴えることもできない。
 サーラの中は熱く、複雑に蠢いていた。それはいっぱいに頬張ったメディアの手をねぶり、味わい、咀嚼するかのような動きだった。手は意外に敏感な感覚器官でもある。サーラの牝肉の反応を手で味わい、メディアはきゅうっと子宮が収縮する心地を覚えた。
 快感に耐えつつ何とか指を伸ばして押し広げ、ガラス球を探る。つるつる滑って捉まえにくいそれを、何度も失敗しながらかろうじて指の間に挟み込み、手を引き上げていく。一番太い部分が引っかかるようにして、膣の襞を引き伸ばし、めくり上げていく。いっそう締め付けがきつくなり、サーラがばたばたと暴れ始めた。おかげで何度かガラス球を逃がしてしまうが、数回やり直して完全に捉まえることができた。あとは引き抜くだけだ。
 半ば無理やり引っ張る。失禁したかのように溢れ出す大量の愛液に助けられ、ずるずるとメディアの手がサーラの中から現れた。指の付け根の関節がごりごり膣粘膜を抉り上げるのがメディアにも実感できた。ぴったりと密着する淫肉を引き剥がして、ようやくメディアは手を引き抜いた。濁った色の粘液が流れ落ち、サーラに帰っていく。指の間には濡れたガラス球があった。
 メディアは激しい運動をした後のように荒い息をついた。苦労して取り出したガラス球を侍女の持つ箱に入れる。
 ――膣は今のやり方でいいとしても、後ろの方は……。
 悩むメディアに、スカリーは無慈悲に指示を出した。
「今のでやり方はわかったろう? そっちも同じだ」
 愕然と振り仰ぐ。まさか、と思った。だが、兄王は促すように顎先でサーラを示した。
 ためらいながら、王女は尖らせた指先を後ろの窄まりに押し当てる。
 まさか、入るわけが……。
 そう思いつつも、飼い主の無言の命令に逆らえず、揃えた指先を沈めていく。幸い――かどうか、メディアの手はサーラの愛液にこれ以上ないほど濡れていたため、指先を入れていくに従い、ぬるぬると潤滑しつつ菊皺を伸ばして排泄口の直径を広げていく。2本目、3本目までは楽に入る。4本目ではややきつい感じ。小指の第一関節まで沈め――そこからは急激に手の太さが増す。案の定つっかえたように入らなくなった。サーラの様子はと見ると、呼吸を深くして耐えている様子だが、暴れるでもなくおとなしくしている。あまり苦しくはないのだろうか。ならばと、メディアは既に収まっている指先をやや広げ、ちょっとこじるようにして手を進めてみた。菊孔がきしむような感触と共にサーラがびくっと反応するが、そのときにはもう、親指の付け根まで手が入り込んでいた。
 まさかここまで入るなんて……。
 メディアは目を瞠りつつも、一度指の付け根辺りまで手を引き戻し、親指を折りたたんで、再度ねじ込んでみた。ずるっ、と親指の根元までまた収まる。そこで引っかかった。メディアは四指と親指を交互に反らし、尺取虫のような感じでちょっとずつ手を進める。さすがにサーラが暴れるが、今にも裂けそうなほど広げられ張り詰めたサーラの肛門は、暴挙に耐えて徐々にメディアの手を深く受け入れていった。
 何処まで行けるのか。メディアは強烈な探究心に突き動かされ、奴隷仲間のアナルに過激な掘削を加え続けた。
 突然、決着がついた。急に抵抗を失い、メディアの手は手首まですっぽりと、サーラの体内に収まっていた。
 一時の狂熱から醒め、呆然とこの光景を見詰めるメディア。ぎゅうぎゅうに食い締めていた膣内とは違い、少しは楽に動かせる指にごろごろとガラス球が触れる。すべきことを思い出して、メディアはそれを掻き集めるような動きで腸内を掻き回した。一掻き毎にサーラの体がびくびくと痙攣した。メディア自身がやっていることとは言え、一体どれほどの苦悶を味わっているのか見当もつかない。だが、同時に目が眩むほどの被虐の絶頂を味わい尽くしているのは、想像に難くなかった。
 それにしても本当に手首が入ってしまうなんて。
 痺れるような気分で、メディアは背筋に悪寒を走らせていた。これがスカリーによる淫虐の成果であるのは明らかである。そして、メディア自身も、サーラ以上に長い間スカリーの責めを受け続けてきたのだった。
 すなわち。サーラにできることは、無論のこと、メディアにも可能なのだ……。
 今宵は、彼女自身がスカリーに「これ」をされるのかも知れない――。
 ガラス球を腸孔から引き出しながら、メディアは目の前に据えられている肢体が自分自身のものであるかのような錯覚に捕われ、我知らず股間の責め具を食い締めていってしまった。鮮烈な快感と被虐の想念が背筋を貫き、メディアは背中を震わせ、無言の嬌声を放って、奈落のごとく深い絶頂に沈んでいった。
 濃密な牝の匂いがする。それがサーラのものか自分のものなのか、メディアにはわからなかった。

                6

 薄闇の中で呻き声が響いていた。
 饐えた臭気が鼻を突く。
 鼻を鳴らす音。濡れた音。
 豚小屋だった。
 淡い桃色の髪の、神秘的とも言える美貌の娘――ヴィシュナスは、この日も、その美の結晶のような肢体の価値を完全に否定され、豚の餌箱の中に据え付けられていた。滑らかな白い細身の上には豚の餌がぶちまけられ、豚達は争ってそれを舐め取っていく。箱の底はかなり深く、畜舎の床面よりかなり低い。そのためヴィシュナスは宙に固定されているような格好だった。当然豚達は、ヴィシュナスの体に引っかかった分の餌しか食べられない。ヴィシュナスの一級の磁気のような肌は、余さず豚の舌の洗礼を受けた。餌が舐め取られるのを見計らったように、再びヴィシュナスの裸身に豚の餌が浴びせられる。豚の舌の蹂躙が止むことはなかった。
 もう一つ以前と異なるのは、頭部もがっちりと固定されていたことだろうか。口は大きく開いたまま金具で固定され、時間を置いて直上から半流動体の豚の餌が注がれる。否応なく口の中には豚の餌が満たされた。この餌はどうやら特に豚達の好物らしく、注がれると群がる豚達が我先に舌をヴィシュナスの口中にねじ込んでくる。
「うむぅうう! ぶぅむううううっ!!」
 豚とのディープキスを強いられ、ヴィシュナスは泣き呻く。頭を動かせないヴィシュナスには避ける術がなかった。
 豚達の舌に全身を汚し尽くされ、それでも――いやむしろそれだからこそ、ヴィシュナスの肉体は極上の快楽を味わっていた。貶められ、辱められて湧き上がる汚辱の悦楽。淫楽に蝕まれたヴィシュナスはそれから逃れることはできない。
「んひぃ! ひぅううううっ!」
 尖り立った乳首、充血しきった淫核を豚に舐められ、快感の電流がヴィシュナスの脊椎を駆け上る。もう何度豚にイかされたかわからない。家畜の舌にひとたまりもなく欲情の極限を抉り出されてしまう。ヴィシュナスは自分の淫乱な肉体が情けなく、恨めしかった。恥辱の涙が絶え間なく流れ、同時に劣情の淫蜜がとめどなく溢れる。
 固定されたヴィシュナスの視界に、一抱えもある水晶球が置かれていた。そこには、家畜のように売られていく美しい女達の姿が映し出されていた。競売場の様子が中継されているのだ。
 映像は、落札前のパフォーマンスを見せられている波打った紫の髪の少女をヴィシュナスに見せつけた。
「うううっ! うむぅう――――っ!」
 くぐもった絶叫。だが、その声が届くはずもなく、着々と競売は進む。いよいよ競りに移り、何人かが静かに激しく競り合った後、落札者が決定する。少女の首輪に番号札が下げられた。少女は他の奴隷と同様に、脅えと媚びが混じった視線を新たな飼い主に投げた。
 この瞬間、ヴィシュナスの愛妹――ルフィーアは、奴隷として売られて行ったのだ。
 それを見ながらどうすることもできない自分に苦悩し、ただ絶望の涙を流し続けるヴィシュナス。そしてこの瞬間にも、肌を這う豚の舌に悪寒と快感を同時に掻き立てられ、淫辱の霞に思考を侵され肉体を支配されていく自分自身が、彼女の絶望をいっそう深めていく。
(ルフィーア……ごめんなさい……守って…あげられなかった。……無力な姉さんを…許してね……。私も、もう…ダメかもしれない。……きっとすぐ、あなたと同じになるわ。肉の悦びに逆らえない、女の姿をした性の家畜。……一匹の、淫らな牝奴隷に………)
 諦めがヴィシュナスの高潔な魂を黒く塗り潰していく。届くことのない独白を、おそらく二度とは会えない妹に告げ、ヴィシュナスは涙の溢れる瞳をそっと閉じ、浅ましい家畜の舌がもたらす淫悦に身を委ねていった――。


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