その1

 最初の父様のことで覚えているのは、最後の瞬間だけ。
 当時、わたしは五歳だった。
 それでも、周囲のただならぬ雰囲気には気がついていた。
 大勢の人が恐い顔で走り回り、大声で叫んでいた。
 血まみれの人が担ぎ込まれ、入れ替わるように、別の人が出て行った。
 かあさまの隣で震えていたわたし。
 最後にとおさまが出て行って、その後でかあさまは泣き崩れていた。

 その後で、最初のとうさまの城、リーフシュタイン城は落城した。
 でも、そのことについては記憶がない。
 次に覚えているのは、今のとうさまがわたしの顔を興味深そうに見つめているのと、
 その隣に、わたしと同じくらいの男の子がわたしを厳しい顔で見つめていることだった。

 わたしの名前は、ミレル。
 かつては征服された国の王族で、いまでは征服した王族の一族に連なるもの。


 その日、城は騒然としていた。
 ラフランドへ遠征にいっていた王国軍第一連隊が帰ってきたのだ。
 先駆けが走り、勝利の報をあちこちに伝えている。
「……にいさま、勝ったんだ」
 その声を聞き、ホッとため息をつくミレル。
「ご無事であればいいんだけど……」
 心配そうな口調で呟くミレル。
 輝かんばかりの艶やかな金髪を掻き上げる。
 憂いを含んだサファイアグリーンの瞳が深い感情を湛える。
 ミレルはふと気がついて、あわてて自分の純白のドレスに目をやった。
「ドレス、汚れてないよね」
 鏡台の前に駆け寄り、こんどは全身を鏡で確認するミレル。
「……よかった」
 安堵のため息をつくミレル。
「はしたないと言われるかもしれないけど、……にいさまを迎えに行こう」
 ミレルは小走りに、自分の部屋から去っていった。


「にいさま!」
 ミレルは王座の間に入ってくるカイルに声をかけた。
「ミレル、久しぶり」
 落ち着いたダークグリーンの瞳でミレルを見つめるカイル。
 淡い緑色の髪がすこしほつれていた。
 しかしそれ以外は一部の隙もない正装を身にまとって立っている。
「あっ、その、……おにいさまのご無事のご帰還、お祝いいたします……」
 あわてて、しどろもどろに挨拶をするミレル。
「ありがとう。でも僕としてはいつものミレルの挨拶に期待していたんだけどな」
 ちゃめっけを込めて囁くカイル。
「あっ、……お帰りなさい、おにいさま」
 ミレルは顔を赤らめた後で、カイルの頬にキスをした。
「ミレル、はしたない真似はやめなさい!」
 すかさず王妃アリシアの声が飛ぶ。
「は、はいっ……」
 か細い声で答えるミレル。
「これはこれはアリシア義母さま、お久しぶりです」
 アリシアに対して一礼するカイル。
「アリシア義母さま、そうミレルを責めないでください。僕が望んだことですし」
 あざ笑うかのような視線でアリシアを見つめるカイル。
 ミレルと同じサファイアグリーンの瞳の瞳におびえがはしる。
 無意識に、その金髪の髪に手をやるアリシア。
「ここは僕に免じて、ミレルを許してやってくれませんか?」
「許すも何も、別に、ミレルを罰しようとしたわけではありませんわ」
 怯んだ瞳でカイルを見つめるアリシア。
「それよりも、無事のご帰還おめでとうございます。戦にも勝利されたようで、なによりなことです」
「ありがとうございます、アリシア義母さま。そう言って頂けると、何よりの励みになります」
 ミレルに対するのとは違い、わざとらしい態度で一礼するカイル。
「それでは、そろそろお暇させて頂きます。正直、疲れてますし」
「おいおい……」
 アリシアの隣に座る緑色の髪をした巨魁が、あきれた口調でカイルに話しかける。
「相変わらずだな、我が息子よ。せめて戦況報告ぐらいせんか。まったく、父を何だと思っている?」
 あきれた口調でいうドレッド王ガリウス。
「まあ、早くミレルの手料理にありつきたいという気持ちはわかるがな。うわっはっはっはっ……」
 豪快な声で笑うガリウス。
「べ、べつにそんな訳じゃあ……」
 思わず顔を赤らめ、動揺を顔に浮かべるカイル。
「わかった、報告は明日聞こう。今日はミレルの手料理でも食べて、鋭気を養うがよい!」
 ガリウスの言葉に、周囲から失笑が漏れる。
「えっと、その、別にミレルの手料理を食べるなんて……」
「えっ?! 食べられないのですか?」
 瞳に動揺を浮かべ、問いかけるミレル。
「今日はにいさまがお好きな鶏の香草蒸しや、三日かけて煮込んだミレルの特製スープ、それにデザートも、蜂蜜をふんだんに使った……」
 とうとうとメニューを述べ立てていくミレル。
「えっと、食べないなんて、一言も言ってないし、えっと、……行こうか?」
 その言葉に、安堵の表情を浮かべるミレル。
「たくさん召し上がってくださいね。あっ」
 次の瞬間、凶悪な視線で見つめているアリシアに気がつくミレル。
「かあさま、はしたない振る舞い、申し訳ありません……」
 ミレルの言葉に微かにうなずくアリシア。
「まあよいではないか。それにしても、話を聞くだけでもうまそうだな。果報者め、まったく、うわっはっはっは……」
 豪快に笑い飛ばすガリウス。
「それにしても、なんか腹が減ってきたぞ。わしらも少し早いが飯にするか」
 玉座を立ち上がる。
 圧倒的な威圧感を漂わせ、歩き始めるガリウス。
 お付きのものが、あわてて駆け寄った。
「アリシアよ、食べにいくぞ!」
「はい……」
 微かに頷くと、ガリウスと一緒になって玉座の間を退出するアリシア。
 その後ろ姿を凶悪な視線で射抜くカイル。
「……おにいさま」
 声をかけるミレル。
 カイルは思わずハッとなった。
「ミレル……」
「かあさまはわたしと違って、前のとうさまの事が忘れられないみたい。でも、今のとうさまを嫌ってるってことはないと思う」
「……ミレル、お前」
 驚きの表情でミレルを見つめるカイル。
「わたしは、……おにいさまの事が、好きだから」
 最後の方は、小声で呟く。
「えっと、準備してるの、食べに来て」
 カイルの手を引っ張るミレル。
「うん、実は、ずっと楽しみにしていたんだ」
 その顔に笑顔を浮かべるカイル。
「そう言ってくれると、嬉しい」
 カイルの言葉にミレルは、優しげに微笑んだ。


「やはり気に食わぬか、自分の娘がワシの息子と仲がよくなることに?」
 廊下を歩いていたガリウスが突然アリシアに問いかける。
「えっ?!」
 思わず動揺を浮かべるアリシア。
「お前にとっては忘れ形見、思い出でもある。それが汚されるのが嫌なのであろう?」
「そうかも……しれません」
 ガリウスの言葉に、考え深げにつぶやくアリシア。
「この身はすでに、あなたに幾度も愛されて屈していても、心はまだ……」
「そうであろうな」
 アリシアの言葉にうなずくガリウス。
「まあよい、いずれはその違和感も無くなろう。閨で何度も何度もワシに抱かれるうちに、そなたは心の奥底までワシの妻となる」
「そ、それは……」
 思わずおののくアリシア。
「ククク、抗っても無駄よ。お前の躰はすでに、ワシのイチモツの味を覚え込んでしまっておる。もはや、お前はワシなくしては生きていけぬのだ」
 ガリウスの言葉に沈黙するアリシア。
「その事を確認する意味も込めて、今夜もたっぷりと可愛がってやろうぞ」
「あっ……」
 思わず俯くアリシア。
「濡れたか? ククク、やはりお前には、淫らな牝奴隷の素質がある」
「そ、そんな……」
 ガリウスの言葉に、微かに首を振るアリシア。
「たっぷりと時間をかけて、それをわからせてやるからな。ククク」
 ガリウスの言葉に、アリシアは顔を赤らめた。


 ミレルの部屋で、料理を堪能するカイル。
 テーブルの上の皿は、空になっていた。
「ああ、おいしかった」
「よかった、喜んでくれて」
 カイルの言葉にクスリと笑うミレル。
「まったく、上手だよな、ミレルは。料理も裁縫も」
 カイルの問いかけに、照れた笑いを浮かべるミレル。
「まったく、本当に……」
「本当に、なに?」
 語尾を濁したカイルに、訝しげな表情を浮かべるミレル。
「なんでもない。あっ、デザートをもらおうか」
「? 変なにいさま」
 疑問を持ちつつも、それでもデザートを取りに行くミレル。
 その後ろ姿を眺め、邪悪な笑みを浮かべるカイル。
「まったく、本当に信じられないな。まあいい、どっちにしてもミレルを……」
 含み笑いを浮かべるカイル。
 そこに、デザートを持ったミレルが帰ってきた。
「にいさま、何を笑ってらっしゃるのです?」
 不思議そうに問いかけるミレル。
「いや、ミレルもだいぶん成長したなと思って」
「もう!」
 ぷっと顔を膨らませ、顔を赤らめるミレル。
「にいさまのエッチ!」
「なにしろ、父上の息子だからね僕は」
 ミレルの言葉に苦笑で応えるカイル。
「君の母上と、僕の父上が、毎晩、何をしているのか、知らない訳じゃあないだろう?」
 その言葉に、茹でタコのように、顔を赤らめるミレル。
「知ってるんだね?」
「だっ、だって! 声が……」
「声が?」
「聞こえるようにするんですもん。もう……」
 恥ずかしげに俯くミレル。
「でもよかったです。とうさまとかあさまが仲良しで」
 恥ずかしがりながらも、嬉しそうに微笑むミレル。
「本当に、嬉しいです」
「そうか」
 ミレルの言葉にカイルはうなずいた。


 夜、アリシアはガリウスに、激しく蹂躙されていた。
「ああっ、ひいっ、だめぇ」
 悲鳴を上げてのたうつアリシア。
「何が駄目なものか。お前のここはほれ、ワシのものをしっかりと締め付けておるわ、わっはっは」
 激しく腰を突き上げるガリウス。
 あまりにも長大で堅い肉棒で責められ、快楽の嗚咽を漏らすアリシア。
 左足を天に届けとばかりに持ち上げられ、大きく割られた股間にそのイチモツを割り込ませるガリウス。
 内臓深くまでえぐられるようなその感覚に、アリシアは泣いた。
「どうじゃ、よかろう? 深く挿入されているのがわかるであろう?」
「ああっ!」
 ガリウスの言葉に、淫らな嬌声を上げるアリシア。
 横倒しの体制で、激しく腰を突かれていた。
 七年前までは、アリシアは正常位によるセックスしか知らなかった。
 それから二年、ガリウスを拒み続けたアリシア。
 しかし五年前、アリシアはついに結婚に同意した。
 それ以来、アリシアはガリウスの手で、セックス漬けの日々を送っていた。
 アリシアの知らないセックスの技巧を使い、悦楽をその躰に刻み込んでいくガリウス。
 いつしかアリシアは、ガリウスの前で腰を振る女へと変えられていた。
「わかるであろう、アリシア。お前はもうこの快感には逆らえん牝なのじゃ。ほれほれ!」
「ああっ!! あっ……」
 がっくりと首を折るアリシア。
 全身か弛緩していく……
「ククク、イッたか? だがワシはまだいっておらんぞ! ほれほれ……」
 さらに腰を突きまくるガリウス。
「ひいっ、あっ、お許しを……」
 されるがままに、反射的に再び腰を振り始めるアリシア。
 それは一国の女王というよりも、牝奴隷という言葉に相応しかった。
「ああっ、ご主人さまぁ……」
「そうじゃ、認めよ! お前はワシの牝奴隷じゃと。さすれは、グッと楽になるぞ! ククク」
「ああっ、そうです、わたしはあなたの牝奴隷です! ああっ、またイクっ、いっちゃうっ!!」
 淫らな声をあげて、再び絶頂に駈け上がるアリシア。
 もはやアリシアは、ガリウスの為すがままだった。



「わたし、は……」
 シーツをつかむアリシア。
「もう、ダメ……」
 隣で寝息を立てながら、眠っているガリウスを見つめる。
「もう、肉体の快楽に、抵抗できない……」
 アリシアは、セックスの快楽の余韻に浸っていた。
 魔的なセックスの快感はアリシアの精神を蝕み、ガリウスに対する反抗心をすっかり削ぎ落としていた。
 今では反抗するどころか、積極的にガリウスの牝奴隷として、喜んで奉仕するまでになっている。
「わたしは、もう、ダメ。でも、あの子だけは……」
 必死につぶやくアリシア。
「ごめんなさい、あなた……」
 さらに、今は無き夫に対してつぶやく。
 アリシアの瞳から、透明な滴が一滴、流れ落ちた。


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