その2

 カイルは自分の執務室で書類を眺めていた。
 それは、かつてのリーフシュタイン王国であった場所の政情調査をまとめたものだった。
 戦いは短期で終わったため、予想外にかつての王家の重臣達が生き残っている。
 本来なら粛正、弾圧、追放などをするべきなのだが……
 ガリウスは一切そういうことはせず、ただアリシアを籠絡し、婚姻を結んだだけだった。
「確かに、血縁を結び仲間に引き入れるというのも一つの手段だけどね」
 批判的な口調でつぶやくカイル。
「明確に反乱の意志を持ってるところまで捨て置くなんていうのは、間違ってるんじゃないかな?」
 カイルはリーフシュタインの地図を取り出し、情勢を書き加えた。
「ずいぶん兵士を集めている。やはり、反乱を企てているな」
 渋い顔で地図を見つめるカイル。
 しばし、そのままの表情で考え込んでいる。
『カイル様、ローザ、お呼びにより参上致しました』
 その時、扉の向こうからハスキーな声が響き渡る。
「ローザか? 入ってくれ」
『失礼します』
 扉が開き、一人の妖艶な美女が部屋に入ってきた。
 燃えるような赤い髪に、邪悪な何かを宿した紅い瞳。
 豊満な胸にくびれた腰、そしてたわわな尻。
 女性の性的な魅力を凝縮したかのような躰からは、えもいわれぬ匂いが漂っていた。
「お召しにより、参上致しました」
「よく来てくれた」
 冷静な表情で席を勧めるカイル。
 優雅な動作でローザは椅子に腰掛けた。
「ローザ、お前を呼んだ理由がわかるか?」
「おおよそは……」
 そういった後で、舌なめずりをするローザ。
「あの、可憐で可愛い花を、散らす相談ですわね?」
「そうだ」
 邪悪な笑みを浮かべるカイル。
「お前の腕を見込んでの頼みだ」
 カイルの言葉に、くすりと笑うローザ。
「お任せ下さい。白い花びらほど、赤く染まりやすいもの。たっぷりと染め上げて、カイル様にかしずく極上の肉奴隷にしてみせますわ!」
 ローザは、歓喜の表情をその顔に浮かべていた。
「……ただ、大きな問題がある」
 椅子から立ち上がりローザの側に近づくと、その耳元で囁くカイル。
「まあっ?! まさかそんなっ?」
 思わず驚きの声をあげるローザ。
「……出来るか?」
 問いかけるカイル。
「出来はしますけど、まさか、あの可憐な花が……ふぅ、意外でしたわ」
 かすかに首を振るローザ。
「わかりました。その手の準備を整えますわ。数人でよってたかって輪姦すれば……」
「ローザ! 初物は僕が頂くし、本番はすべて僕がする」
「……えっ?」
 ローザは意表をつかれた表情を浮かべた。
「し、しかし……それで本当にいいのですか? いえ、わたしごときが意見をすることではありませんが……」
「ふふっ、あれにはまだいっぱい使い途があるからね。とりあえず、僕に向かって尻を振る姿を見せつければ、反乱はおさまるだろうし」
「そう、ですか? しかし……いえ、わかりました。ご期待に添えるように、準備を始めますわ。で、いつから始められます?」
「一週間以内に。すでに準備は始めている。細部は後ほど話し合おう」
「わかりましたわ」
 席を立つローザ。
「それでは、次の連絡をお待ちしております」
「よろしく頼むよ」
 カイルの言葉に、ローザは深く頭を下げたのだった。


 その日、ミレルは自室を隅々まで清掃していた。
「ふぅっ、まだ半分ね」
 額の汗を拭うミレル。
 本来、敗残国の姫であるミレルには、召使いどころか使用人の一人も側についていなかった。
 カイルには溺愛されていたが、それが直接地位や生活の向上には直結しない。
 ミレルはあくまで敗残国の姫としての扱いを受けていた。
 そういうところは、ドレッド国は非常に厳格だった。
 もしミレルがドレッド王国の姫としての扱いを望むのならば、母親であるアリシアと同じくドレッドの王族と結婚する以外に道はない。 
 もっとも、ミレルはそんな待遇に不満を感じたことはない。
 むしろ積極的に家事をこなし、楽しみながら日々を送っていた。
 いまのミレルの最大の喜びは、カイルに自分の手作りの料理を食べてもらうこと。
 今日もミレルの部屋を訪れるカイルの為に、すでに材料を仕入れていた。
 せっせと部屋の清掃をするミレル。
 その顔は喜びで輝いていた。
「にいさま、待っててね。今日もミレルがおいしい料理を……」
 ミレルのつぶやき、それは途中で途切れてしまう。
「……あれ?」
 耳を澄ますミレル。
 ……キーィ、
 かすかに廊下が軋む音がする。
「誰か来たのかしら?」
 あわてて扉に駆け寄るミレル。
 バンッ!
 いきなり扉が開くと、黒人の大男がミレルの前に現れた。
「な、なに?!」
 驚きの声を上げるミレル。
 男はニヤッと笑うと、その逞しい腕をミレルの躰に向けて伸ばしてきた!
 刹那、ミレルはドレス姿とは思えない驚異的な動作で、黒人の腕を回避する。
 男の顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
「何者っ!! ここをミレル・リーフシュタインの部屋と知っての狼藉かっ!」
 叫びながら、華麗なステップで後方に下がっていくミレル。
「衛兵! 衛兵!!」
「コイツ……」
 黒人の大男は、ミレルを捕まえるべく、部屋に乱入した。
 それを上回る動きで、台所に転がり込むミレル。
 男が次にミレルを見たときには、ミレルはしっかりと細身の包丁を握りしめ、台所の流し台を背に立ちつくしていた。
「さがるがよい、下郎!」
 気迫に満ちたミレルの言葉に、男はそれ以上近づくことが出来ずに、動揺をその顔に浮かべていた。
「ドジ!」
 男の背後から、鋭い言葉が飛んでくる。
 それは、ハスキーな女性の声だった。
「ス、スマナイ……」
「まあいいわ。このお嬢ちゃんが思ったより手強かった、ということでしょうから」
 さらに黒人の大男を二人引き連れて、妖艶な美女がその場に現れる。
 ミレルの表情が絶望に染まった。
 包丁の刃先を喉元に突きつけるミレル。
「……にいさま」
「ち、ちょっと待ちなさい! いきなり自殺するんじゃあないわよっ!!」
 あわてて言い募る赤毛の女性。
「そうだ、自殺は許さないぞ、ミレル!」
 女性の背後から、さらに現れる一人の男。
「……にいさま?」
 そう、それはミレルの義兄であるカイルだった。
「にいさま、これはいったい……」
「ミレル、お前には王国に対する反逆容疑がかかった」
「……えっ?!」
 思わず動揺を浮かべるミレル。
「は、反逆って?」
「僕は悲しいよ。妹同然のミレルが僕を殺そうと狙っていたなんて……」
 声に悲哀を込め、語りかけるカイル。
「うそ……うそよっ! ミレル、そんなことしてないっ!!」
 ミレルは叫んだ。
「嘘かどうかはすぐわかる。さあ包丁を捨てるんだミレル」
 カイルの言葉に、ミレルの腕が自然に下がっていく。
 好機と見て、取り押さえようとする黒人の大男達を、目線で制止する妖艶な美女。
「どうしたんだ、なぜ包丁を捨てない?」
「待って、にいさま……納得できないわ! そもそもこの人たちは何なのっ?」
「お前の無実を証明してくれる者だ」
 したり顔で、ミレルに語りかけるカイル。
「えっ?!」
「彼らは拷問のスペシャリストだ。こんな手段は使いたくないのだけどね」
「ご、拷問……」
 ミレルの顔が引きつる。
「もし身の潔白を証明したいのなら、彼らに身を任せるんだ。それが出来ないのなら……」
「待って! このわたしを、拷問にかけるというの……にいさま」
 冷静な面持ちでカイルに問いかけるミレル。
「そうだ。僕にはそれしかミレルの潔白を証明する方法がない」
 悲しみの表情でミレルを見つめるカイル。
「そうしなければ、ミレル、君は問答無用で処刑されるだろう。最悪、僕はそれだけは避けたいと思ってる」
 その言葉を聞き、ミレルは納得したかのような表情を浮かべた。
「……わかりました、にいさま」
 とさっ、
 ミレルの手から包丁が滑り落ち、軽い音を立てて床に突き刺さる。
 完全に無防備になったミレルを見て、ほくそ笑む五人。
「初めまして。わたしの名前はローザといいます。これから長いつき合いになると思いますので、お見知りおきを」
「…………」
 ローザの挨拶を、血の気の失った顔で聞くミレル。
「それでは、そのお体を拘束させて頂きますが、よろしいでしょうか?」
 口元に邪悪な笑みを浮かべ、猫なで声で問いかけるローザ。
「……好きにするがいい……」
 次の瞬間、ミレルのか細い躰に、三人の黒人の大男が襲いかかっていた。

 ミレルの両腕は後ろ手に回され、黒い革製の腕輪で繋ぎ止められる。
 そのほっそりとした足首には、同じく黒い革の足輪がはめられた。
『ククク……』
 笑い声を上げる黒人の男達。
 それはまさしく、獲物をしとめた笑いだった。
 すでに抵抗力を失ったミレルの目の前に、黒くて細い革紐を見せつける男達。
「な、なに?」
 ミレルがそれを確認した後で、男達はミレルの躰に巧みに縄がけしていく。
「な、なにを……」
 訝しげな声を上げるミレル。
 しかし次の瞬間、ミレルは男達の邪悪な意図に気がついた。
「なにをするのっ! ああっ……」
「ククク」
「ヒヒヒ」
「ハハハ」
 ミレルの言葉に馬鹿にした笑いを浮かべる男達。
 男達はミレルの躰に革紐を通し、きっちりと縛っていく。
「うふふ、いい格好ですわね、ミレル」
 完全に緊縛されたミレルを見て、満足げに微笑むローザ。
 強調するように縛りあげられた胸。
 絞り込むように縛りあげられたウエスト。
 盛り上がるように縛りあげられた尻。
 ミレルがロングのドレスを着ていなければ、おそらく股間も縛りあげられていたであろう。
 キッとした表情でローザを睨みつけるミレル。
「何をするつもり? 不埒な真似をするつもりなら、わたしにも覚悟がありますっ!」
 その言葉に、肩をすくめるローザ。
「見かけによらず、けっこう骨があるじゃない、この娘?」
「だからこそ、No1のお前に頼んだんだ。それなのに、この不手際……」
「申し訳ありません、カイル様」
「まあよい」
 神妙に頭を下げるローザに対し、軽く手を振るカイル。
 カイルはミレルの前に立ち、ミレルの顔を覗き込んだ。
「ふふっ、それにしても、……本当にいい格好だ」
 次の瞬間、羞恥で顔を赤らめ、思わず顔をそむけるミレル。
 黒人の男達の手で立たされたミレルを、カイルはじっくりと鑑賞した。
 その後でミレルを抱きしめるカイル。
「に、にいさま? ……ふぐっ……」
 ミレルの唇はやわらかいもので塞がれた。
 ミレルの唇を奪うカイル。
 それだけではなく、強引に舌を挿入し、ミレルの舌に絡めていく。
 驚きで目を見開くミレル。
 しかし、初めは硬直していたミレルも、やがておずおずと舌を絡めていった。
 ミレルの唾液を啜るカイル。
 それと同時に、巧みにミレルの息を抜き取っていく。
 次第に、意識が朦朧となっていくミレル。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ……
 卑猥な音が、ミレルの躰を駆け抜ける。

 ああっ、な、なに? わたし、いったいなにを……してるんだろう。にいさまとキス?でも、これってまるで……
 躰の奥が、熱くとろけ堕ちていく感覚に身悶えするミレル。
 ああっ、意識が、遠くなっていく……
 思わず唇を放し、喘ぐミレル。
 そんなミレルをわずかの間見つめたあと、カイルは周囲の黒人に目で合図した。
「あっ……」
 三つの手が、左右、後ろからミレルの頭をしっかりと固定する。
 そして、前からは再びカイルの唇……
「はぐっ?!」
 もはや逃れ得ないミレルの唇を、思うがままに蹂躙するカイル。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ……
 再び卑猥な音が、ミレルの躰を駆け抜け始める。
 あうっ、遠くなる……意識が、息が……できない……にいさま……
 次第に暗闇に覆われていくミレル。
 ……やがてミレルは、カイルの腕の中で意識を手放していた。
「うふふ、容赦のないキスですこと。見てるこちらがやっかみたくなりますわ」
「ローザ……」
 かすかに顔を赤らめるカイル。
「へんなことを言わないでくれ。お前達が下手を打ったから僕が……」
「まあ、そういうことにしておきましょう」
 そう言うとローザは懐から小さな瓶を取り出した。
 ミレルの口元に近づけると、慎重に蓋を開ける。
 しばらくして、蓋を閉めるローザ。
「これで、丸一日は眠り続けますわ。さあ、わたしの娼館へ連れて行きましょう」
 目線で指図するローザ。
 男達は頷くと、細身の衣装ケースを空にして、その中にミレルを押し込んだ。
「さて、お楽しみの始まりですわね、うふふふ……」
 ローザは満足げに微笑んだのだった。


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