最終章・光と闇の彼方- 

 洞窟の最深部にあるやや広めの寝所に、その密やかな、囁くような声が次第にハッキリと伝わってきた時、ベスマはすでに目を覚まして、しとねの上に半身を起こしていた。
 深紫のドレスを今はまとっておらず、股間の異物をも隠さずむき出しにした全裸の姿である。
 あれほど深く全身を抉っていた傷は、驚いたことに残らず塞がっており、無傷な部分と全く見分けがつかないほど、白く滑らかな肌が復活していた。
 モニカに切り飛ばされた右手の指も、やや短く細めではあるが元通りに生え揃って、邪悪な爪を蝋燭の明かりに濡れ濡れと光らせている。
 なんとも底知れない、闇の魔物の生命力であった。


 「ふむ・・・」
 再生した手指を、その調子を試すかのように握り開きしながら、ベスマは声のする方向に目をこらした。
 「・・・どうか・・・・下さい・・・・」
 「・・・早く・・・・恥を・・・・家畜が・・・・」
 伝わってくるのは二人の人物が低く言い争うような声で、ややあってその声の主・・・アイーシャとモニカが、部屋の入り口付近の闇の中から、滲み出すように朦朧と現れた。
 アイーシャは一糸まとわぬ淫らな姿のままで、黒々とした暗黒のシミを、変わらずに下腹部に浮き出させている。
 全裸のままなのはモニカも同じだが、両脚を大股開きに固定していた縄が外され、後ろに取られた手も重ね合わせて軽く二巻きほど縛められているだけで、ヨチヨチとだが歩くことも出来るようになっていた。


 しかし、モニカの様子が以前と違うのはそれだけではない。
 まず首には、かつてマグダレナにもはめられていた緑色の首輪が回し留められ、そこから伸びる肉の縄の端を、アイーシャがまさしく家畜を連れ回す様にガッチリと握りしめている。
 そしてさらにその乳房!
 頼りなげな歩みに合わせてユサユサと波を打っている豊満な果実の先端には、悪鬼と化した妹に突き通された闇のアクセサリーが、一つではなく、右に三つ、左に二つも、キラキラと銀の光を放っているではないか!
 これほど惨たらしい肉体への処刑が完了するまでに、どれだけモニカの悲鳴が闇に木霊し、涙が岩床に吸い込まれていったのか、見当もつかなかった。
 悄然と頭を垂れ、哀しげに目を伏せているその様子が、何か漂白しきったような、モニカの虚ろな内面を表していて哀れであった。


 「お目覚めですか、ベスマ様?」
 入り口から二、三歩歩み入った所でアイーシャは足を止め、奥を眇(すがめ)で見ると畏まった声を出した。
 「ああ、とっくにね・・・」
 とベスマはしとねの上で居住まいを正しながら、
 「ご覧よ。元通りにピカピカの綺麗な身体をさ・・・」
 腕を広げ、傷一つ無く回復した肉体を誇示するように左右に捻ってみせる。
 その不死身ぶりに、アイーシャは感嘆の声を洩らし、モニカは愕然としてうなだれた。
 決死の思いで負わせた肉弾の傷も、この怪物にとっては、一眠りで塞がってしまう掠り傷程度のものらしい。


 「・・・お前の方は相当に楽しんだようじゃないか、ええ?」
 モニカの無惨な乳首に目をやり、ベスマはニヤニヤと薄笑いを浮かべながらアイーシャに向かって顎をしゃくる。
 アイーシャは、モニカに対するのとは打って変わったへりくだった口調で、
 「獲物に勝手に傷を付けて申し訳ありません。なにぶんにも物覚えの悪い女でして、こうでもしてやらないと、行儀の一つも満足に覚えないのです」
 「フン、構わないさ・・・」
 言いながらベスマは、次第に目の光を強くして、
 「それで、“仕込み”は終わったんだろうね?」
 「はい、それはもう・・・」
 アイーシャは、萎縮しきったように内股をすり合わせて立っているモニカにチラリと目をやって、
 「いつでもベスマ様のモノを受け入れられるよう、中までジュクジュクに溶かしほぐしてあります。さっそく味をみてやってください。・・・さあ、ボヤッとしてないでこっちへ来るんだよッ!」
 怒鳴りつけるように言うと、モニカの首輪に繋がれた肉色の縄を乱暴に手繰り寄せる。


 「あッ!・・イヤですッ・・・ダメッ!」
 モニカは哀しげな悲鳴を上げ、今立っている場所から動きたくないというように腰を曲げ、足を突っ張ったが、しょせん闇の使徒と化したアイーシャの強力に抗える訳がない。
 背を丸め、首を前方に引きずられる様な格好で、ヨチヨチと二、三歩小走りに足を送った所で、 
 「ああーッ!・・・」
 絶望のこもった、しかし切なげな絶叫と共に、モニカは極端な内股の姿勢のまま、その場にクタクタとしゃがみこんでしまったのである。
 「うッ・・・くくッ・・くッ・・・」
 ひざまずいた格好で上体を深く折り、堅く目を閉じたモニカの食いしばった口元から、か細いすすり泣きの音が嫋々と洩れ出してくる。
 高く持ち上げられたヒップがヒクヒクと痙攣し、その下にやわやわと花開いている濡れそぼった雌しべから、透明な愛の汗が太股の裏にツーッと糸を引いた。
 モニカの秘貝には前もって、あの闇の媚薬がタップリと塗り込められていたのである。
 この部屋に引かれてくる間にも、その魔力によって何度も気が爆ぜそうになり、その度に立ち止まってくれるよう、アイーシャに懇願していたモニカである。それが今、わずかにでも早足を強いられたことによって、一気に女体の芯が刺激され、火を噴いてしまったのだ。もちろん、そうなることを見越しての、アイーシャの卑劣な演出であった。


 「うッ・・・ううう・・・」
 耐え難い屈辱、そしてオルガの強烈な余韻のために、立ち上がることも出来ずにただ嗚咽しているモニカを、アイーシャは背後から髪を鷲掴みにして仰のかせた。
 「恥を知りなよ、この淫売めがッ!ベスマ様の御前でそんなザマをさらして、みっともないとは思わないのかいッ!」
 「あッ・・・」
 モニカは怒張した乳房をブルンブルンと震わせながら、
 「お許し下さいッ!淫らな私を・・・どうか・・・お許しィヒィイ・・・・」
 最後はしゃくりあげるようなむせび泣きに変わっていく・・・。
 「この通り、どうしようもなく淫乱な売女です。どうかベスマ様のお情けを・・・」
 真面目くさって言うアイーシャを、ベスマは笑いをかみ殺すような表情で見つめていたが、やがて傷の癒えた右手を招くように打ち振った。
 「ククククク・・・なかなか上手く仕付けてあるじゃないか。・・・いいだろう、そいつをここへ・・・」
 「はいッ」
 アイーシャは、引き絞った手綱で半ば首を吊るようにして強引にモニカを立ち上がらせると、苦しげに喘ぐ姉をさらに引き据えて、ベスマの指差したしとねの上に乱暴に放り出した。


 「ああッ!・・・」
 仰向けに転がされ、脱力しきった両脚を何とか閉じ合わせようともがくモニカを、アイーシャは後ろから抱きすくめるように抱え起こし、脚をMの字に展開した姿勢で羽交い締めにしてしまった。
 「あッ、許してくださいッ!」
 媚薬に侵され、露を含んだ果肉がこぼれ出るように蠢いている秘部が、成す術もなくベスマの鼻先にあからさまにされ、モニカは屈辱と羞恥に全身を震わせた。
 そんなモニカの耳元にアイーシャは吸いつくように赤い唇を寄せると、闇の気を含んだ吐息と共に、ささやき声で淫らな命令を下す。
 「さあ、偉大なベスマ様にご挨拶をおし。さっき教えてやった通り、一語一句間違えずにね・・・」
 「・・・お願い・・・助けてください・・・」
 ベスマの股間にグネグネとのたうっている忌まわしい闇の蛇を一目見て、それが何のための器官であるのかを理解したらしい。モニカは全身を堅く竦ませ、震える声で許しを乞い願うのだった。
 「言ったことが聞こえなかったのかい?ご挨拶を申し上げるんだよ!」
 苛立たしげに言いながら、アイーシャはモニカの惨めに押し開かれた下腹に指先を這わせ、恥門の縁をずり動かすようにめくりあげていく。
 「あうッ!・・・」
 思わず呻いて、後ろ手にされた上半身をくねらせるモニカに、アイーシャのさらなる叱責が叩きつけるように降ってくる。
 「早くおしッ!あたしに恥をかかせるつもりかい!」
 「あッ、許してッ!・・・申し上げます!ご挨拶を申し上げますから!・・・・」
 充血し、蜜にまみれて反り返っている花びらをヌルヌルとこじり割ってくる指の動きに堪えかね、モニカは絞り出すような声で哀願した。
 内股の筋肉がピクピクとひきつれ、その動きに合わせて、透明な樹液が花奥から滲み出るように湧いてくる。それ以上わずかでも刺激されれば、再び気をやらされてしまいそうな危うい感覚であった。


 「泣いてないでさっさとお言い。うんとイヤらしくね・・・」
 「・・・はい・・・」
 アイーシャにうながされ、モニカは首を深く折ったまま、屈辱に満ちた言辞を、言いつけられたままに暗唱し始める。
 「・・・偉大なる・・・暗黒の使い・・・ベスマ・アムピトリーテ様・・・・私はモニカ・エランツォと申します。・・・私は・・私は・・・ああ・・・・」
 思わず言いよどみかけるのを、アイーシャが濡れた指先をからかうように動かしただけで、観念したようにうなだれ、
 「・・・私は・・・い、イヤらしいことが大好きな・・・変態の・・・淫売女です・・・。どうか・・・偉大なベスマ様のお情けを・・・私の・・・汚らしい肉の穴に・・・お恵みくださいませ・・・うッ・・ううッ・・・・」
 聖女にあるまじき淫らなことを、身を揉むような仕草と共に乞い願う。あふれ出た涙がみるみる頬を流れ伝い、顎の先からポタポタとこぼれ落ちた。


 「ほーお・・・」
 ベスマは大げさに感心した声を出すと、ツイと手を伸ばして、無惨に飾られたモニカの乳首をつまみ上げた。
 可憐な桃色だった乳首は今やどす黒く充血し、貫通された何本もの銀環によって、所々が醜いこぶのように盛り上がっている。根本近くに、傷口からの出血が錆び色に固まってこびり付いているのが何とも哀れであった。
 「お前はここに来たとき光の聖女だ何だと能書きを言ってたが、闇に宗旨替えをするって言うんだね?」
 「はッ、はいベスマ様。私を・・・闇の使徒の末席に・・・お加えください・・・」
 奇妙な節くれだった形に変形された乳首をクリクリと揉み込まれ、モニカは上体を突き出すようにしながら苦しげに哀訴する。


 ベスマは股間の触手をヌルヌルとしごいてみせて、
 「こいつが欲しくて仕方ないんだね?お前の薄汚い穴へブチ込んで欲しいんだね?淫売のモニカお嬢ちゃん・・・」
 「はい・・・私は薄汚い淫売婦です・・・どうか・・・ベスマ様の・・・お情けを・・・ううッ・・・」
 あとは言葉にならず、全てに絶望したように泣き崩れるモニカを満足げに眺め回すと、ベスマは座ったままの姿勢で尻をずり動かして身体を前に送った。
 「よしよし、たっぷりと情けを施してやるよ。妹と同様、心が暗黒に染まってしまうまでね・・・」
 モニカをベスマとの間に挟み込むようにして羽交い締めにしているアイーシャも、ニタニタと楽しげな顔を前に向けて、
 「まずは存分に、闇を身体に染み込ませてやってください。その上で、もし使えるようならば、あたしに続いてネラ様の種を・・・」
 「クククク・・・分かっているさ」
 ベスマは息がかかるほどにモニカににじり寄り、その震えるおとがいを手のひらで持ち上げた。
 「うあうッ・・うう・・・あうッ・・・」
 性の断頭台に乗せられた聖女は、今や辺りをはばからずに激しくしゃくりあげ、はしたなく歪めた顔を涙と鼻水でドロドロに汚していた。
 いよいよその清らかな肉体に暗黒の楔を突き通され、光の世界に別れを告げる時が来たのだ!


 「身から出た錆とあきらめるんだね、モニカ。お前が傷つけたこの指の代償は、お前の魂で払ってもらう。だが安心するがいい。すぐにイヴァンの事など思い出せない、淫らな、妹とお揃いの身体に作り替えてやるからねェ・・・」
 一瞬すさまじい、巨大な肉食獣の様な血に飢えた表情を見せると、闇の魔物はモニカに覆い被さった。
 「あッ!・・・」
 哀れな声を上げ、弱々しく身をもがく聖女の尻に、アイーシャが後ろからすかさずグッと手を押し当てる。
 いきおい突き出すような格好になったモニカの下腹部に、ぶくぶくと醜くふくれた闇の蛇が、吸い付くように襲いかかった!
 ジュルルルルッ!・・・・・
 金色の目を光らせた生きた生殖器は、その先端から粘液と共にぬめり出たオレンジ色の触手をザワザワと蠢かせ、モニカのしとどに濡れた恥門を探り当てると、一気にそこを蹴破って花奥へと押し入った!
 「イギャアアアアアーッ!」
 すさまじい絶叫を迸らせ、モニカはアイーシャの腕の中で、縛められた身体を三日月のように反り返らせた。
 見開いて暗い天井を仰いだ大きな目に、止めどなく新たな涙が盛り上がってくる。
 グチッ、グチッ、グチッ・・・
 おぞましい生きた器官が、濡れた肉襞をかき分けるようにして這い上ってくるのが知覚され、モニカの弓なりの裸身は、それにつれてピクピクと痙攣した。
 「あ・・・あゥあ・・・・」
 暗黒の棒杭を体内に打ち込まれ、今まさに光の力の源を破壊されていく聖女の、哀しい断末魔だった。


 「ク・・・クククククク・・・・」
 「フフフ・・・フフフフ・・・・」
 瀕死の生け贄を挟んで向かい合う二人の魔女の口元から、邪悪な嬌笑が、まるで申し合わせたかのように流れだした。
 ベスマのそれは、光の姉妹への処刑を完了し、来るべき暗黒の子の時代へと思いを馳せる、満足げな笑い。
 一方アイーシャのそれは、愛し、そして憎んでいた姉を存分に辱め、これからは共に闇の使徒として生きられるという、喜びに満ちた笑いである。
 洞窟中に、二人の暗い至福感が膨れ上がっていくようであった。
 「ククククク・・・さあて・・・」
 ベスマは、薄く目を開けて力無く身体を波打たせているモニカを、アイーシャから受け取るようにかき抱くと、長大な触手をさらに奥まで突き込もうと、腰の位置をずり動かした。
 と、その時・・・・。


 「・・・・?」
 かすかな異物感を覚え、ベスマは怪訝そうな顔つきになって、生け贄と自分の肉体とが繋がり合った部分に目を落とした。
 「むう?・・・」
 突き通した瞬間から、何か分からない、妙な違和感を感じてはいた。
 今の今まで、性の交わりを経験したことのない処女の肉体である。いかに媚薬によって淫らに濡れ、膣が柔らかく径を広げていたとしても、あまりにもその抵抗感が薄弱だったような気がしたのだ。
 その不審の正体が、今ベスマの前に立ちはだかろうとしていた。
 モニカの肉壺の、その最奥まで這い進もうとしていた闇の触手は、全く思いもかけない障害に突き当たったのである。
 丸く尖った聖女の子宮孔は、もうすでに何物かをガッチリとくわえ込んでいたのだ!
 しかもそれは、ベスマにとっては致命的とも言える、恐るべき何物かであった!


 「べ、ベスマ様?」
 その場の異様な雰囲気にアイーシャが思わず不安な声を上げた時、すでにベスマは獣のような咆哮と共に大きく仰け反っていた。
 「グワアアアーッ!」
 弾かれたように後ろに飛びすさり、嬲り辱めていたモニカから、何故か必死に距離を取ろうとする。それにつれて、聖女の体内に埋め込まれていた闇の男根が、ズルズルとのたうつように長大な姿を現した。
 「こ、これは一体?・・・」
 アイーシャが狼狽えきった声で叫んだのも無理はない。醜い男根が次第に引き抜かれるのと同時に、モニカの股間からは、目の眩むような目映い閃光がほとばしり出てきたではないか!
 そしてその光の源は、今や完全にモニカの体外に抜き出された闇の触手の先端がしっかりとくわえ込んでいた。
 ・・・いや、くわえているのではない。光の塊のように見えるその小さな物体が、まるで触手の組織を侵食するかのように、自ら食い込んでいるのだ!


 「あ、あれは!・・・」
 閃光の源を一目見て、アイーシャは驚愕に目を見開いた。
 小さな楕円球を五つほど数珠につないだその物体は・・・。
 「こ、降臨遺物!」


 そう、それはアイーシャも良く見知っている、光の神宝であった。
 「降臨遺物」とは、「イヴァンの掌」と呼ばれるこの森が作られた際に、同時に天から天下ったと伝えられる六つの秘宝のことで、それぞれ壺や剣、あるいは法衣等と形は様々だが、どれも一様に強い光の法力を秘めているといわれていた。
 内の一つを代々の神官長が、残りの四つを(一つは現在所在が不明である。)東西南北それぞれの礎の長が管理する慣わしであり、当然モニカもその大任を仰せつかっていたのである。
 今、ベスマの生殖器を強烈な光の波で侵し滅ぼしていくその物体こそ、西の礎の長であるモニカが守り携える「降臨遺物」の一つ・・・数個の空色をしたジュエルを縦に並べ繋いだ、「妖精の吐息」と呼ばれる神宝であった!
 モニカはあるまいことか、その聖なる遺物によって自らの純潔を貫き破り、女体の奥深くへと埋伏していたのだ!
 そしてそれこそがモニカの並ならぬ覚悟の表れであり、彼女の最後の切り札であった!


 「うッ・・・グオオオーッ!」
 今やベスマは、光輝く神宝に生殖器の大半を溶かし崩され、床上を転げ回って苦悶の絶叫を上げていた。
 「おッ、おのれッ!おのれェええーッ!」 仰向けになり、触手の先端から何とか神宝を取り外そうと、震える両手を持ち上げる。
 「グワッ!」
 一際強烈にほとばしった神の光が、差し伸べられたベスマの両腕の肘から先を吹き飛ばし、塵のように空中に散逸させた。
 まるで森の木々の影が、地平より射し込む朝日に奪われていくように、闇の魔物は聖なる光線になす術もない。


 「ベッ、ベスマ様ーッ!」
 狼狽と怒りの相半ばした叫びを上げ、アイーシャは思わず立ち上がってベスマに駆け寄ろうとした。
 その身体に、今や魔女の下半身をすっかり覆い尽くすまでにふくれあがった光の壁が、まるで意志ある者のように襲いかかり、猛然と弾き飛ばす!
 「ギャアアアアーッ!」
 血の凍るような凄まじい叫喚と共に、アイーシャは背中から勢い良く岩壁に叩きつけられ、前のめりに昏倒した。
 「う・・・うお・・・」
 急速に遠ざかる意識の中で、アイーシャは、彼女を打ち倒したその同じ光の波が、モニカを縛めていた首輪、そして手の縄を、まるでもろい粘土細工ででもあるかのように、悠々と千切り飛ばすのを見た。
 閃光の中で、再びその目に強い闘志の色を蘇らせて立ち上がりつつある姉の裸身は、この世のものとも思えぬほど美しく光輝いていた。さながら戦いの女神のごとくに気高く、そして雄々しく・・・。
 神の遺物の放つ聖なる光芒は、今や完全にベスマの肉体を呑み込んで散滅し尽くし、なおも闇という闇を照らし出さんとするかのように、その輝きを増しながら、洞窟内に満ちあふれていった・・・・。


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