(フン、何てこった・・・)
アイーシャを背に森の中を進むモニカの身体の奥底で、不穏な気配が身じろぎをする。
(・・・あたしとしたことが、とんだ体たらくだよ。こんなチンピラに二度までもしてやられるとはね・・・・)
自嘲しつつ、しかしどこか余裕のあるその気配は、まさに滅びたはずの暗黒の魔女、ベスマ・アムピトリーテのものであった!
(・・・だが、あたしはまだまだこんなことではくたばらないよ。クククク・・・千年以上も殺し合いだけに明け暮れて、それでも負け知らずで生き長らえてきたあたしだ。まあ、たまにはこんな余興がなければ、張り合いがないってものさ・・・)
・・・モニカの体内に隠されていた神宝に触れた瞬間、異常を感じとったベスマは、自らの意識のコピーを、全身の細胞へと無数に分散させた。そしてその組織の一片を、肉体が溶かし滅ぼされる一瞬前に、モニカの子宮の内壁へと、どうにか潜り込ませたのである!
百戦錬磨の魔物にして、まさに恐るべき生への執着、執念であった。
(まあ当分は、このままここで様子を見るしかないね。だが・・・)
目では見えないほどの微少な肉片と化し、魔力のほとんどを使い果たしながらも、ベスマはしかし反撃の可能性に余裕しゃくしゃくだった。
(・・・相当に時間はかかるだろうが、この女の魂を体内から次第次第に闇に染め上げ、やがて完全に意識を乗っ取ってやる。・・・この女が一度味わった闇の快楽を忘れない限り、その無意識の淫らな心が、あたしに栄養をあたえるのだ。ククククク・・・そうとも、あれだけ身体に染み込まされた暗黒の味を、絶対に忘れることなんか出来やしないさ・・・・・)
不気味に忍び笑いながら、ベスマの意識を託された細胞は、さらにモニカの子宮の奥深くへ潜り込もうと身をのたうつ。
我が身を犠牲にまでして神敵を滅ぼした聖女の身体の内奥で、新たな闇との戦いが、その幕を再び静かに開けようとしていた・・・・。
(終わり)
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