第一章 悪意のるつぼ・メガトキオ-2

 地球が新しい世紀を迎えてから、既に40年近くが過ぎていた。
 有名な予言にあったような世界の破滅こそ起こらなかったものの、かといって無論、新世紀が光に満ちたユートピアという訳ではなかった。むしろ、混乱と退廃が世界中を覆う、陰鬱な世紀といえた。


 東洋の小さな島国・・・新世紀の日本においても、人々の心は鉛色に澱んでいた。
 その大きな原因の一つは、何と言っても、2022年にこの国を襲った巨大な地震であった。


 東海全域から関東にかけて破滅的な打撃をもたらした大地震・・・それは後に「太平洋大震災」と呼ばれることになる未曾有の大災害だった。
 首都東京は壊滅を免れたものの、被害の大きかった周辺各県からは大量の被災者や失業者が流れ込み、都心周辺は急速にスラム化していった。


 かつて栄華を誇った者ほど、一度落ちぶれれば、再び立ち上がる気力を奮い起こせないことがある。「メガトキオ」と名を変えた震災後の東京が、まさにそれであった。
 復興への熱意が一向に高まらないまま、人々は無気力に日々を生きた。そしてその無気力を吸い上げて養分とするかのように、様々な犯罪組織が縦横に根を張った。
 怪しげな風俗店が軒を連ねる旧都心部では、麻薬や非合法銃器が当たり前に取引され、白昼堂々の殺人や誘拐も、もはや日常的な景色となりつつある。
 メガトキオはかつてのロスアンゼルス以上に、闇の力が支配する悪意の密林と化していたのである・・・。


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