「それじゃあ、早速始めましょうね・・・」
クリスは言うと、ジャケットの内ポケットからシガレットケース様の物を取り出した。
「な、何をする気なの?・・・」
思わず不安げな声を出す恵麻里に、クリスはケースの蓋を開いて見せ、
「言ったでしょう?あなたはうちの商品になるのよ。そのためにはそれなりの仕込みをして、お客様の気に入っていただかないとね。・・・ほら、これが何だか知っているでしょう?」
ケースの中には、所々に穴のあいた銀色の平たい直方体、ノズル状のアタッチメント、薄緑の液体が充填されたアンプル数本、その他細かい金具類が整然と収納されている。
それは確かに、恵麻里も何度か目にしたことのある、忌まわしい非合法アイテムだった。
「ゾ、ゾニアン!・・・」
「そうよ。自分で使ったことはないの?」
「当たり前よ!誰がそんな物ッ!・・・」
見るも汚らわしいとばかりに顔を背ける恵麻里の瞳には、しかし急速に、強い恐怖の色が浮かび始める。
「ゾニアン」とは、十年ほど前にメキシコで初めて合成された薬物で、付近の住民を指す言葉が、いつの間にか俗称になったらしい。
非常に強力な催淫性を持つことで知られており、一般の使用や販売を認めている国は建前上一国も無いので、その流通はもっぱら地下組織に依っていた。
習慣性は無いと言われているが、あまりの快感に大抵の者は病み付きになってしまうし、多量を一度に用いれば脳機能に障害を及ぼすことも実証されていたからだ。
逆に「召喚」犯罪を生業とする組織にとっては、これほど便利な薬もない。捕らえた女性を短期間に「商品」・・・即ち性の奴隷の様な、人格破綻者に仕上げられるからである。
恵麻里が過去に助け出した女性の中にも、この薬のために廃人同然になってしまっていたり、その快楽を忘れられず、囚われていた組織に自ら身を売りに戻ったりする者がいた。その恐るべき魔の媚薬が、今自分の身体に試されようとしているのだ!
「うちでは普通、商品を薬だけで仕上げることはしないのよ・・・」
銀の直方体にノズルその他の金具をはめ込みながら、クリスが歌うように言った。
「他の組織には真似の出来ない、うち独特の商品製造法があるの。だけど捕らえた獲物にまずリラックスしてもらうためには、やっぱりこの薬が重宝するからね。・・・さあ、準備が出来たわ・・・」
クリスが最後にアンプルを差し込むと、ケースの中の部品は、点眼液の容器を大きくしたような形に組み上がった。
この器具は、アンプル内に満たされた薬液、つまり「ゾニアン」を皮下に強制注入するための物なのだ。
「とっても高価い薬だから、まずは一目盛り分だけ打ってあげるわ。だけど未経験者は普通半目盛りだけで天国へ行けるから、これでも相当楽しめるわよ」
注入量の調節ダイアルを回すクリスから少しでも遠ざかろうと、恵麻里は不自由な身体をよじる。
「い、イヤッ!そんな薬いらないッ!」
「自分で使ったこともないくせに、そう毛嫌いする事はないでしょう?一度この快楽を味わえば、きっと病みつきになるわよ」
「冗談じゃないわ、汚らわしいッ!」
「フフフ・・・」
クリスは笑顔のままソファに片膝を付き、必死にもがく恵麻里の頭をグッと鷲掴みに押さえつけた。
その思わぬ強力(ごうりき)に、勢い仰け反るような姿勢になった恵麻里の首筋に、素早く注入器が押し当てられる。
シュッ!という乾いた音と共に、その部位がまるでドライアイスに触れたように冷たくなるのが分かった。
「ヒッ!・・・」
思わず怯えた声を上げて身をすくませた恵麻里の頬に手を当て、クリスは優しく落ち着かせるかのように、二度三度と愛撫を繰り返す。
「さあ注入完了よ。どのくらいの間イキ狂わずに辛抱できるか楽しみね。超即効性だから、素人だと二分ともたないでしょうけれど・・・」
「だッ、誰がそんな・・・こんな薬に迷わされたりするものですか!」
激しく言い募りながら、しかし恵麻里の内心には不安が黒々と膨れ上がってゆく・・・。
18才の彼女は、未だその身体に男性を迎え入れたことが無かった。それどころか、自ら慰めることすら、知識として知ってはいても、実際に試したことは無かったのである。
それは青井慎也との別離以来、他の男性を近づける気になれなかったことや、S・Tという仕事柄、人の淫らな営みをのべつ見せつけられてきたことが原因と言えた。
恵麻里は自分でもそれと気付かぬうちに、「性」というものを恐れ、必要以上に嫌悪するようになっていたのだ。
それだけに、これから強制的に味あわされるかもしれない官能は、彼女にとっては忌むべき未知の世界と言えるのだった。
そしてその未知の感覚は、クリスの言った通り、ほんの十秒も経たないうちに、恵麻里の若い肉体をみるみる侵し始めた!
「うぅ、うッ?・・・」
何かやるせないような切なさが、身体の芯から繰り返し沸き起こり、全身を熱く火照らせてゆく。
乳房の頂点から、微電流のような痺れが、次第に強く、波紋のように広がり、そこを誰かに思いきり揉みしだいてもらいたいという、信じられないような淫らな欲求が、理性を暗く覆い始める。
(う、ウソ・・・こ、こんなこと・・・うッ!・・・)
脊髄を駆けのぼる異様な戦慄に思わず胸を反らせた途端、すでに硬く充血しているらしい両の乳首が下着に激しく擦れ、そこからほとばしる電撃のような疼きに、たまらず上体を逆に折る。
「くぅッ!・・・」
食いしばった口元から、押し殺したような呻きが吹きこぼれた。
(こ、これが・・・死者すら歓喜に狂わせると言われる・・・ゾニアンの・・魔力なの?・・・)
これまで微塵も知らなかった感覚にとまどい、怯え、恵麻里は縛められた身体を震わせる。端正な顔は今やすっかり桃色に上気し、細かい汗の粒が一面に吹き出しつつあった。
「汚らわしい薬の感想はどうお、ご清潔なS・Tさん?・・・フフフ、天にも昇る気分でしょう?・・・」
あざ笑うように言い、クリスは横たわった恵麻里の上に覆い被さった。
「今もぉっと良くしてあげるからね。本当に天に昇ってしまうまで。フフフフフフ・・・」
「な、何を・・・あッ!・・・」
胸元から、大きく結んだ黄色のリボンがサッと引き抜かれる。さらにクリスは、凶暴な笑みを浮かべながら、恵麻里のジャケット、そしてブラウスの前ボタンを手際よくはずし始めた。
「ダメッ!そんなッ!・・・」
狼狽え、上体を激しくよじった瞬間に、最後のボタン、そしてブラジャーのフロントホックまでがはずされ、豊かな両の乳房がまるで弾けるようにブルンとこぼれ出る。
それは熱くたぎった血流によってすでにパンパンに腫れ、吹き出た歓喜の汗で艶やかに照り輝いていた。
「フフフ・・・なんて可愛らしいの・・・」
感じ入ったようにクリスが言い、硬く尖って上を向いている可憐なピンク色の乳首をつまみ上げた時、恵麻里は初めて心底からの恐怖を込めて絶叫した。
「い、イヤーッ、触らないでーッ!」
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