初めそれは、鏡の様な湖の水面に落ちた、雨の一滴(ひとしずく)のような感覚だった。
かすかな波紋が広がり、すぐに消える。しかし間を置かずに落ちてきた次の滴が新たな波紋を広げ、やがて多数の波紋同士がお互いに響き合って、水面を次第にざわつかせ始める・・・・。
(こッ、これは何?・・・)
麻酔の効果は急速に薄れてきつつあるが、それと反比例するように、恵麻里の下半身はその異様な感覚に支配されつつあった。
むず痒いような、ヒリヒリするような、何とも言えない感触。それがまさに波紋のように、身体の奥から繰り返し強く起こってくるのだ。
「どうじゃな?少しづつ感じてきたじゃろう?」
もじもじと身体を揺らし始めた恵麻里を眺め降ろしながら、アゲットは言った。
「・・・ゾ、ゾニアンね?私が失神している間に、またあの汚らわしい薬を使ったのね!」
奇妙な感覚が次第に女体の中心へと集まりつつあることを悟り、恵麻里は呻くように言った。
つい先程、無理矢理味合わされたばかりのおぞましいエクスタシー・・・。
今、自分の身体に渦巻いている感覚はまさにそれと同じものであり、麻酔が完全に切れた時に一気に牙を剥いて襲いかかってくるのだという、暗い予感があった。
「ゾニアンじゃと?あんな無粋な物をワシが使うものか。あれはクリスの専門じゃよ」
アゲットはフンと鼻を鳴らし、
「そもそも、『獲物』を薬漬けにして商品化するなんて、美意識の欠片もないやり方だとは思わんか?そんなことは、薬さえあれば素人にだって出来るわい。しかしワシは一流のプロじゃ。素人には真似の出来ない、プロの技術ってやつがあるんじゃよ」
「プロの・・・技術?・・・」
「そう、それがつまり、チョイとした手術って訳じゃ。ワシはお前さんを、野暮な薬の助けを借りなくとも、のべつ性の快楽に悶え狂う身体に改造してやったんじゃよ」
「な、何ですって、まさか、そんな!・・・」
恐るべき宣告に息を呑み、恵麻里は信じられないというように小さく首を振った。 しかしアゲットの言葉を裏付けるかのように、下半身の疼きは一秒ごとに激しさを増してくる。
「そんな手術など不可能だと思うかね?どっこい可能なんじゃ。もっともそれが出来るのは、世界広しと言えどもこのワシ一人だけじゃがな・・・」
アゲットは側のスチールデスクの上から封印されたシャーレを持ち上げ、恵麻里に示すように振ってみせた。
シャーレの中には何かドロリとしたゲル状の液体が入っていて、室内灯をキラキラと反射している。
「『バイオチップ』というのを知っているじゃろう?ワシの手術にはそれを利用するんじゃ。このシャーレの中には、ワシが独自に創り出したオリジナルのバイオチップが入っとる。そいつを、お前さんの女性器にチョイと埋め込んでやった訳じゃ・・・」
・・・バイオチップとは、新世紀の生体工学によって生み出された、一種の人工細胞である。人体内に入ると、周囲の細胞と同化しながら爆発的に増殖を始め、プログラムされた生体組織を再構成するのだ。
皮膚や耳の鼓膜、そして手足の指など、簡単な器官なら数時間で再生出来るので、傷病者の治療用に重宝されていた。しかし今、恵麻里の体内に植え付けられた物は!・・・・
「うッ・・・」
寒気のような感覚が脊髄を駆け上がり、恵麻里は思わず胸を反らせる。すっかり汗の引いていた全身が、また徐々に火照り初めていた。
「フォフォ・・・良くなってきたじゃろう?・・・そう、ワシの作ったバイオチップは、女体の性感を極限にまで高めるのじゃ。お前さんの膣の壁や陰核は、既にそうやって造り替えられとるんじゃよ・・・」
「そ、そんなこと・・・」
恐怖と驚愕で声を震わせつつ、恵麻里は得々と語るアゲットを睨み据えた。
「あ、あなたは完全にイカレているわ!そんな汚らわしい発明は、役に立たない自分のモノにでも使っていればいいのよ!」
「言われなくとも、真っ先に試したわい」
アゲットは自虐的な笑みを洩らし、
「元々このバイオチップは、ワシが自分の治療用に開発した物じゃからな。・・・しかし原因は分からんが、ワシのイチモツにはどうしても効果が現れなんだ。・・・だが、まあいい。今のワシには、このチップで性器を改造された女どもが、悶え狂って堕ちていくのを眺める事が、何よりの楽しみなんじゃから・・・」
言いながらアゲットは、大きく展開された恵麻里の双脚の正面に腰をかがめた。
「どれ・・・では仕上がり具合を点検させてもらおうかの。そろそろここが、嬉し涙をこぼし始めているじゃろう?・・・」
「あッ、ダメッ、見ないでッ!・・・」
老医師の視線から何とか局所をかばおうとして、恵麻里は激しく腰をよじった。自分のその部分が、彼の言うとおりに、熱い蜜をネットリと湛え始めていることに気付いていたからだ。
麻酔はもうほとんどその効力を失っていたが、固定された四肢の不自由さは変わらない。無駄とは知りつつも必死に脚を閉じ合わせようとする恵麻里の股間に、アゲットの節くれだった指先が無遠慮に這い込んできた。
「うッ!・・・」
湿った繊毛をかき分けられる感覚に、思わず呻き、身をこわばらせる。
「フォフォ・・・案の定、すっかりトロけてきとるわい・・・」
アゲットの指が、媚肉の縁をずり動かすようにくつろげた瞬間、身体の奥から粘い物がドッと溢れ出てくるのが感じられた。そしてその潤いが、恵麻里の作り替えられた肉体の感覚を、ますます鋭敏に覚醒させてゆく・・・。
「イヤッ!触らないでッ!・・・」
「何を言っとるか。触診せにゃあ、手術が上手くいったかどうか確認出来んじゃないか。もう生娘でもあるまいし、そう大袈裟に騒ぎなさんなよ・・・」
「そ、そんな・・・ああッ!・・・」
指先が、貫き破られたばかりの秘奥にヌルヌルとこすり込まれてくる。同時にその部分が、まるで沸き立ったかのように強烈な官能を発生するのだった。
「イイじゃろう?・・・フォフォ、ヒクヒク蠢いとるぞ」
「ダメ!・・・うッ、やめてッ!・・・」
「まるでツブツブが吸い付いてくるような感じじゃよ。フォフォ、こりゃあ、お嬢ちゃんのここは、キッチリ仕込めば相当な男泣かせになりそうじゃのう・・・」
「あうッ!・・・」
差し込まれた指が二本になり、濡れて柔らかくなった膣の径を、更に拡げようとするように蠢いた。同時に恵麻里の脳天に、まるで殴りつけるような激しい快感が突き上げてくる。
ゾニアンのそれとはまた少し違う、いやむしろ、より強烈で押し殺しがたい、新たなエクスタシーの味であった。
(・・・イヤ・・どうしてこんな・・・私の身体・・・本当に作り替えられてしまったの?・・・うッ、ダメッ!・・・・)
思わず嬌声がこぼれそうになり、グッと歯を食いしばる。必死に踏みとどまろうとする理性と裏腹に、火のついた若い女体の方はさらなる刺激を催促するかのように波打ち、蜜にまみれた鮮紅色の内臓を自らさらけ出してゆくのだった。
今日まで毫も知らなかった、獣じみた感覚と欲求・・・。自分の中に潜んでいた思いも寄らないものを次々引きずり出され、その屈辱と恐怖に打ち震えながら、もはやとても肉体の裏切りをこらえ切れそうもないと、心のどこかで絶望がささやき始めていた。
「フォフォ、手術は大成功じゃな。膣の壁はほとんど細胞変異が終わっておる。組織の色が・・・おお、そうじゃ!・・・・」
恵麻里の股間にほとんどのめり込むようにして見入っていたアゲットは、不意に何かに気付いたように顔を上げ、頓狂な声を出した。
「ワシの手術がどれほど芸術的な成果を上げているか、お嬢ちゃんにも見せてあげよう。きっと感動するぞォ・・・」
せわしく言いながら、恵麻里の寝かされた診察台の側面に回り込む。そこには小さな操作盤が付いていて、アゲットはそれをゴソゴソといじり始めた。
と・・・・。
ブゥゥーン・・・・。
かすかにモーターの唸る音がして、恵麻里の顔の脇からマジックハンドがせり上がってきた。
「?・・・・」
マジックハンドの先端には10インチ程の液晶モニターが取り付けられていて、それが恵麻里の顔の正面で止まる。画面には、何かが映し出されていた。
「あッ!・・・」
それが大写しになった自らの局部であることに気付き、恵麻里は悲鳴を上げて顔を背ける。
診察台の脚側からも、もう一本のマジックハンドが伸び、その先端に仕込まれたマイクロビデオカメラが、彼女の股間を至近距離から撮影していたのだ。眼前のモニターには、そこから送られた映像がリアルタイムで映し出されているのだった。
「ひどいッ!そんなの見せないでッ!・・・」
「そんなのって、自分の持ち物じゃろうが。ほれ、拡げてやるからよく見るんじゃよ」
「あッ、やッ、恥ずかしいッ!・・・」
ギュッと目を閉じ、頑なに横を向く恵麻里に、アゲットは次第に焦れたような声音になって、
「こんなに美しい物を何で見たがらないんじゃ?ほれッ、目を開けんかッ!」
「むうッ!・・・」
恥門の上端部をグリッと揉み込まれ、恵麻里は堪らずに大きく目を見開く。
濡れた突起はすでにたぎった血で硬くしこり、破裂しそうにボリュームを増している・・・いや、本当に破裂してしまうのではないかと思うほど、異様としか言いようのない快感が、その内部一杯に渦を巻いていた。アゲットの指の動きは、今や恵麻里にとって、それだけで真に狂気へと導かれてしまいそうな、恐怖以外の何ものでもなかった。
「目の前のモニターを見るんじゃよ!ほれ、ほれほれッ!・・・」
「あくッ!・・やめてッ、・・・見るわ!見るからッ!・・・指を、やめ・・・ああッ!・・・」
抵抗をあきらめ、悲壮な面もちで哀訴する恵麻里の髪を、アゲットは乱暴につかむと、念押しするように揺さぶった。
「ほれ、ラビア全体が大きく口を開いとるのが見えるじゃろう?どうじゃ?ん?」
「み、見えるわ・・・」
あえぎ、すすり上げながら、蚊の鳴くような声で恵麻里が答える。
「・・・この小陰唇をめくって・・・これが尿道口、そして膣の入り口じゃ。見とるかね?え?返事をせんかッ!」
「みッ、見てるわ!・・・あッ!乱暴にしないで!お願い、ちゃんと見てるからッ!どうか・・・」
次第に凶暴な本性をあらわにし始めた老医師の容赦ない指の呵責に、恵麻里の声は思わずすがるような調子になった。
「ほほう、大分口の利き方が素直になってきたのう。感心感心。商品として売られていこうって女は、やはり身の程ってものをわきまえとかなきゃならんからな・・・」
クリスと似たような事を言ってみせながら、アゲットは膣口にグイと指をねじ入れる。
「あうッ!・・・」
「痛くはないじゃろう?ほれ、ここを見なさい」
「う・・・・」
気の狂いそうな快感と恥ずかしさ・・・しかし目を閉じれば、アゲットの指がどんな仕打ちを加えてくるか分からない。やむなく見開いた目に、涙がみるみる盛り上がってくるのが感じられた。
「肉の襞が輪状に見えておるじゃろう?これがお前さんの膣の内部って訳じゃ。ほれ、組織の色が変わっているのが分かるかの?」
「あ・・・」
ビデオカメラと共にマジックハンドに取り付けられているライトが、破瓜されたばかりの女体の秘奥を惨たらしく照らし出している。
自分のそんな部分をつぶさに眺めたことなどもちろん無い恵麻里だが、濡れてヒクヒクと脈打っている内臓が、淫らな細胞にすっかり乗っ取られつつあることが本能で感じられた。
「・・・表面の粘膜が少しオレンジがかった色になって、所々が白い粒子に覆われているじゃろう?フォッフォッ・・・これがワシのバイオチップに冒され、再構成された、膣内細胞の特徴じゃよ。ほれ、具合はどうじゃ?」
「ああッ!・・・」
えぐり込むように、指がグルリと回される。指の腹に揉みつぶされた襞という襞が官能の悲鳴を上げ、大きな波となって、恵麻里の脳髄を突き上げてきた!
「ダメッ!・・・やッ、ァああああーッ!・・・・」
磔にされた裸身が、熱く張り切った乳房を頂点に一瞬ブルリと震え、大きく弓なりになる。
両手を握りしめ、足の指を内側に強く巻いて、恵麻里は自分の理性の断末魔を味わった。無数に浮いていた汗の粒が流れにまとまって肌を伝い、虚ろに見開かれた両目の端から、こらえていた涙が一息にあふれ出る。
(もうダメ・・・・私の身体・・・本当に、内側から・・・狂わされてしまった・・・・)
強制的に味あわされる絶頂は、今日だけでもう四度目だが、それが人体改造という手段でもたらされたことが、恵麻里の心にいい知れないショックを与えていた。
あらゆる感覚が全くままならず、汚れた召還犯罪者の導くままに痴態をさらけ出すしかない我が身は、もはやS・Tとしての資格も能力も完全に奪い取られてしまったのではないか・・・・そんな恐怖感が、心を黒々と覆ってくるのをとどめようもない。
「おや、もう気をやっちまったのかい。フォフォ・・・だが焦って絶頂を貪ることはないぞ。ワシのバイオチップがお前さんの身体に同化している限り、その快感はいつでも、いくらでも味わえるのじゃ。たとえお前さんが望まなくてもな・・・・」
狂気じみた光で目を爛々と輝かせながら、アゲットは言った。
「そしてバイオチップの寿命は、ほぼ半永久的じゃ。分かるかの?つまりお前さんの身体は、もう二度とお前さんの思い通りにはならん。お前さんは死ぬまで、その素晴らしい快楽と共に暮らすのじゃよ!」
「そ、そんな・・・嘘・・・・」
「嘘だものか。ほれ、ここはすぐにもお代わりが出来そうに、次から次と涎をこぼしておるわい」
「やッ!・・・あうッ!・・・」
肉唇の裏側をこじるようになぞり込まれ、汗にまみれた裸身がまるで感電したかのように反り身になる。
「完全に麻酔が切れたらしいのう。フォフォフォ・・・ほれ、遠慮はいらんぞ。新しい身体の使い心地を、心ゆくまで堪能するがいいわい・・・」
「お、お願い、もう許し・・・ひッ、ああーッ!・・・・」
アゲットの言葉通り、間を置かずに新たなオルガが襲ってくる。恵麻里の哀訴は、ヒイヒイというかすれた泣き声に変わりつつあった。
身体の芯が丸ごと溶けて流れ出してしまいそうなその感覚は、こじ開けられたばかりの若い女体にとって、もはや快楽よりも恐怖と苦しみの方が勝っていたからである。
少しでも脚を閉じ合わせようと膝頭に力を込めるが、繋ぎ留められた金具はビクともしない。内股の筋肉だけが、キューッと引きつれるように緊張するのが哀れであった。
「フォッフォッ、改造された身体は素晴らしいじゃろう?これからは一生ずっと、立ったりしゃがんだり、用を足したりする度に、その部分が刺激されて天国を味わえるんじゃ。いや、ただ歩いているだけでも、目眩がするほどの快感を覚えるはずじゃよ。フォッフォッ、フォーッフォッフォッフォッ・・・・」
自らの仕事の完璧な成果に、今や完全に狂騒状態におちいりながら、アゲットは全身を揺すって笑い声を立てた。
「クリスから聞いとるじゃろうが、お前さんたち商品は『マーメイド(人魚)』と呼ばれるんじゃ。今まさに、ワシのバイオチップで、お前さんは『人魚』に生まれ変わりつつあるんじゃよ。おとぎ話の人魚は魔法で人間になったが、ワシは逆に、人間を人魚にする魔法を持っているってワケじゃ。お前さんはもう、陸(おか)には上がれん。まともな世界には戻れないのじゃ。美しい人魚として、海の底を泳ぎ回ることしか出来ん。裏の社会という、闇に満ちた海の底をな・・・」
「そ、そんな・・・イヤ・・・。助けて・・・お願い、誰か助けに来てェエエーッ!・・・」
恵麻里は激しく泣き悶え、当てのない助けを空しく請い叫びながら、吹き出した汗と涙に光る裸身を波打たせ続ける。
そこにはもう、誇りと自信に満ちた新進気鋭のS・Tはいなかった。肉体を淫らな細胞に冒され、おびえ、絶望にあえぐ、無力な生贄の少女が一人いるだけであった。
ギシギシと診察台の軋む音、魔法医師の甲高い笑い声、そして呪いをかけられた哀れな人魚姫のすすり泣きが、絡まり合うように、嫋々と室内に響きわたっていった・・・・。
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