第五章 奈落での邂逅・・・2

 「驚いた?フフフ・・・そう、あなたのお友達、静音ちゃんよ。この娘も私たちの捕虜になったの・・・」
 クリスが言い、ロープを手繰って、静音の身体を乱暴に手元へと引き寄せる。
 「こっちのお嬢ちゃんはワシが捕まえたんじゃ」
 自慢げに鼻を鳴らしながら、奥の部屋からアゲットが再び現れ、元通りにドアを閉めた。
 「この娘が『サンクチュアリ』の裏口から侵入しようとしたところを、すかさず近くにあったスタンシステムで失神させたんじゃよ。この娘は物騒な銃を持っとったし、年寄りにはいささか過ぎたバイオレンスじゃったが、人手不足なんで仕方がないわい。・・・ここは実質的に、ワシとクリスの二人だけで運営しとる組織じゃからなぁ・・・」


 静音も恵麻里同様、着ていたものを全てむしり取られた上に、両手を後ろに束ねられ、バンドで拘束されていた。
 しかも口元には樹脂製らしい黒色の円柱が横ぐわえにさせられ、その両端から伸びる革紐が後頭部でガッチリと括られている。この轡状の器具が、静音から自由な発声までをも奪っていたのだ。
 「うゥゥむぅう・・・・」
 哀しげな呻き声と共に、透明な涎が口元から溢れ出して顎を伝った。
 表情は激しい恐怖と羞恥のためにこわばり、乾いた涙の痕が眼鏡のレンズを所々白く汚している。気弱で物静かなこの少女が、つい最前まで、身体と心を(恐らくはクリスによって)手ひどくなぶり苛まれていたことは明らかだった。


 「静音ッ!・・・」
 思わず歩み寄ろうとした恵麻里を、クリスが開いた掌を振って押し止める。
 「それ以上近寄っちゃダメよ!捕まった獲物同士に、気楽に口を利く自由なんかあるわけがないでしょう?ほら、近寄ればこの娘の息が詰まるわよ・・・」
 クリスは静音を後ろから抱き回し、首輪に繋がれたロープをグイと引き絞った。
 「うくゥうーッ!・・・」
 首を吊られるような格好になった静音が、喉の奥からこもった悲鳴を絞り出す。
 「や、やめて!その娘にひどい事しないでッ!」
 叫ぶ恵麻里に、クリスはゾッとするほど酷薄な笑みを向け、
 「それはあなたの、これからの態度次第よ。身の程をわきまえて素直に私たちに協力するというのなら、これ以上この娘には何もしないわ。でもそうでないなら、何の保証も出来ないわね・・・」


 クリスの左手が、はち切れんばかりに豊かな静音の裸身をいやらしくまさぐり始めた。
 素晴らしいボリュームで、しかし型くずれなく前を向いているバストをピシャリと叩くようにして揺らし、掌にあふれる量感を確かめながら、頂点へ向かって柔々と絞り上げる。次いでその指先は、品良く丸みを帯びた下腹部へと滑り降り、淫靡に蠢きながら、薄く頼りなげな下生えを左右にかき分けてゆく・・・。
 「うくッ!・・・」
 静音が小さく呻き、裸身をギクッとこわばらせる。
 チュッ・・・ピチュッ・・・・。
 淫らな音が響き、クリスの指先はたちまち透明な粘液にまみれ、輝き始めた。
 「むッ・・ふあッ!・・・」
 静音は必死に身体をよじり、太股を出来るだけ固く閉じ合わせようとするのだが、秘裂をなぞるように這い込んでくる魔女の白い指をかわすことは不可能だった。
 口を塞がれているために許しを乞う声すら上げられず、鼻腔から洩れる哀しげな息も、次第に絶望のこもった弱々しいすすり泣きに変わっていく・・・。


 「この娘にも恵麻里ちゃんと同様、ゾニアンの素晴らしい効果を『お試し』させてあげたのよ。だからほら、まだバージンのくせにすっかり身体がエッチになっちゃってるでしょう?・・・今やこの娘も、大事なところをちょっと弄られただけで、浅ましくよがり狂っちゃう牝犬に過ぎないってワケ。・・・ねェ、そうでしょう、静音ちゃん?・・・」
 静音の肩越しに首を突き出して意地悪くささやきながら、クリスはこじ開けた媚肉の奥をまさぐるように指先を蠢かした。
 「さあ、とびきりの顔をして気をやるところを、恵麻里ちゃんに見てもらいなさい・・・」
 「くンうゥゥーッ!・・・」
 瞬間、目を見開き、静音ははじかれたように白い裸身を仰け反らせた!
 肌一面に浮いていた汗がパッと宙にしぶく。熱く膨れ上がり、固く縦長に尖った乳房が、ヒクヒクと痙攣しながら天井を指した。


 「ふくゥ・・・・うッ、うッ、うッ、うッ・・・・」
 クリスの指戯によって他愛もなく絶頂へと導かれてしまったらしい静音は、やがて華奢な首をガックリと前に折り、全身を羞恥に震わせながら嗚咽し始めた。
 新たな涙が大量にあふれ出て頬を伝い、口元の涎と混じり合って、顎の先からポタポタとこぼれ落ちる。
 滑らかな体液が二筋、三筋と粘く跡を付けている内股を、少しでも人目から覆い隠したいのか、ぎこちなく腿をすり合わせようとする様が何とも哀れであった。


 (ああ、静音!・・・・)
 パートナーの無惨な様子に、恵麻里は思わず唇を噛んで目を伏せた。そして、静音が恵麻里を見捨てて逃げ出したのではないかと、たとえ一瞬でも疑ったことを後悔した。
 逃げ出すどころか、静音はやはり、律儀に自分の任務を果たそうとしていたのである。しかし抜け目のない「新世界準備会」の魔の手に、彼女もまた捕らわれていたのだ!
 ・・・そう、恵麻里の正体と目的が彼らに筒抜けだった以上、相棒の静音のこともまた、敵に知られているのは当たり前であった。そして彼らが、静音の動きに備えて、抜かりなく罠を用意していることも・・・。
 (・・・当然気が付くべきだったのに・・・。許して、静音・・・私が迂闊だったばっかりに・・・)
 自らの余りの間抜けさ、不甲斐なさに、恵麻里の心に張り裂けそうな自責の念が渦を巻いた。


 「さあ、どうするの恵麻里ちゃん?私たちの仕事に手を貸す?」
 クリスが、静音の身体に腕を巻き付けたまま言った。
 「言っておくけど、この娘にはまだ軽〜くゾニアンを味わってもらっただけよ。・・・本当はこの後でじっくりと処女を破いてやって、あなた同様にバイオチップを移植する予定だったの。その後で、あなた達二人を変わり果てた姿同士でご対面させるあげるつもりだったのよ」
 キラ、とクリスの瞳が残忍な光を放ち、
 「でも予定は変更よ。あなたがあくまで私たちに逆らうというのなら、今すぐにこの娘の処女を奪い、バイオチップを植え付けてやるわ。今ここで、あなたの見ている目の前でねッ!」
 「やッ、やめて!いくら何でもそんなッ・・・」
 「フフフフ、そうよね、そんな可哀想な場面、見るに忍びないわよねェ。・・・だったら言うことを聞きなさい!ケチなプライドを捨てて、私たちに手を貸すのよッ!!」
 叩きつけるようなクリスの宣告を、恵麻里は悄然とうなだれて聞いた。
 ・・・これ以上の抵抗は、とても叶いそうになかった。自分一人だけならばともかく、静音までが地獄に堕ちる様を見せつけられては・・・・。


 「わ、分かったわ・・・・」
 意を決してそう言いかけた時、すすり泣いていた静音が不意に顔を上げ、恵麻里を見つめた。
 一杯に涙を溜めた目には、何か決然とした光が宿っている。彼女は上気しきった顔を小さく左右に振った。
 (し、静音、あなた!・・・)
 ハッとなって、恵麻里は相棒の顔を見返した。静音の悲壮な決意が、その一瞬にハッキリと伝わってきたからだ。


 「ひゃあ、こりゃ驚いた!」
 二人の表情をめざとく見て取り、アゲットが頓狂な声を上げてみせた。
 「そっちの眼鏡のお嬢ちゃんも、何をされようと辛抱をし通すつもりだぞ。・・・二人そろって、実に見上げた根性じゃなぁ・・・」
 ・・・そう、静音は、恵麻里が敵の言いなりになることをあくまで押し止めようとしたのだ。そのために、たとえ自らの肉体に惨たらしい呵責が加えられるとしても・・・。
 二年間、助手として救出業務に携わってきたことで、彼女の中にもS・Tとしての強い自負と意地が芽生えていたらしい。


 (静音・・・・)
 か弱かった親友の思わぬ成長ぶりに再び勇気づけられながらも、同時に恵麻里の心中には、これまで以上の強い迷いが生じていた。
 (・・・静音がそこまで覚悟を決めているのなら、その思いに応えて、クリスの要求をはねつけてやりたい!・・・でも、そのために彼女が目の前で陵辱されるなんて・・・・)
 ・・・恵麻里のその煩悶に決着を付けるかのように、ヒステリックなクリスの怒声が響き渡った。


 「見上げた根性?信頼で固く結ばれた二人ってわけ?ハン、笑わせんじゃないよ!」
 クリスの目は吊り上がり、口元は苛立ちに醜く歪んでいる。
 屈服させたつもりの二人の捕虜が、実はまだまだ観念していないことが分かり、彼女は完全にキレてしまったらしい。野獣がついにその邪(よこしま)な本性をむき出したかのように、口調までが蓮っ葉に変わってしまっていた。
 「よぉーく分かったよ。お前たちのように身の程知らずのクソ虫には、本当の絶望ってヤツを見せつけてやらなきゃならないってことがね!!・・・・」


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