「入りなッ!・・・」
クリスは手綱を引き絞ると、苦しげに喘ぐ静音を、彼女の元いた奥の部屋へ乱暴に押し込んだ。
「し、静音ッ!・・・」
思わず後を追おうとする恵麻里を、クリスは素早く身をひるがえして抱き留め、
「あわてるんじゃないわよ。心配しなくても、お前にもタップリと見せてやる。あの娘がどうなるのかをね。さあッ!・・・」
「あッ!・・・」
背中を突き飛ばされ、恵麻里は中腰のまま、のめるように奥の室内へと足を踏み込む。
・・・そこは六畳分くらいの、インテリアも何も無い、ごく小さな部屋だった。
照明も灯されておらず、天井近くにある明かり取りから弱々しく日が射し込んでいるだけで、室内はひどく薄暗い。
恵麻里の目の前・・・部屋のほぼ中央には静音がうつ伏せに倒れていたが、目を凝らすと、その前方にさらにもう一人、床に横たわっている人影が見える。
「?・・・・」
人影の正体が分からず、恵麻里が前進をためらっていると、続いて室内に入ってきたクリスがパチンと明かりを付けた。
「あッ!・・・」
思わず目を見開き、驚愕の叫びを洩らす。室内灯に照らし出された人物を、恵麻里は知っていたからだ。
(あの娘だわ!確か、遠山深雪ちゃん!・・・・)
・・・そう、それは、恵麻里がこの「サンクチュアリ」を訪れたそもそもの目的・・・つい数時間前に立体映像で見た、あのさらわれた女子高生だったのだ!
「フン、知ってるわよ。お前たちはこの娘を救い出すためにここへやって来たのよねェ?・・・だけど獲物(ゲーム)同士として巡り会うなんて皮肉なこと・・・」
つかつかと部屋の奥へ進みながら、クリスが嘲るように言った。
「可哀想だけど、この深雪という娘はもう二度と父親の元へ帰ることはないわ。さあ、起きなッ!」
床に伏せている少女を、荒々しく髪をつかんで引き起こす。クリスは完全に理性の歯止めを失っていた。
「うァ・・・・」
弱々しく喘ぎ、上体を持ち上げた少女は、恵麻里たち同様に全裸に剥かれ、両手を後ろに縛られている。
口元には静音の物と同じ型の轡がはめられ、溢れ出た涎や、そして涙の痕が、黒い染みとなって顔のあちこちを隈取っていた。
この組織に囚われてから約一日、散々に身体と精神をなぶり抜かれていたのだろう。オドオドとクリスを見上げる瞳には、屠殺寸前の家畜さながら、強い怯えと絶望しきったような色が浮かんでいる。
「この娘はね、私たちの業界用語で言えば、『砕けちまう』一歩手前にまで追い込んであるのさ。ホラ、見てごらん」
クリスが言い、少女の身体を仰向けにすると、閉じ合わせていた両脚を乱暴にかき広げた。
「!・・・・」
思わず恵麻里が息を呑む。
少女の内股は、自らが流した淫らな汗によってベトベトに汚れていた。
むき出しにされ、大きく反り返って、内側の襞模様をあからさまに見せている媚肉の縁。怒張しきってフードを押しのけ、ツヤツヤと血の色に光りながら屹立しているクリット。収縮を繰り返し、間断なく新たな涎を噴きこぼしている膣口・・・・。それらの構造全体が、まるで獲物を誘い込む食虫植物のようにヒクヒクと大きく蠢いている。
溢れ出た愛液は驚くほど多量で、床の上にも所々粘い溜まりが出来ていた。
「フフフ、無様だろう?膣にバイオチップを植え付けた上に、ゾニアンを限界スレスレにまで投与してあるのさ。つい昨日まではスカした名門校に通う箱入り娘だったかもしれないけれど、今じゃ汚い汁を垂れ流しの淫売嬢ってワケ。しかも・・・」
恵麻里に向かって言いながら、クリスはスーツのポケットからゾニアンの注入器を取り出した。
「この上さらにゾニアンを投与してやればどうなるか、そこでじっくり見物するといいわ!」
「うくゥーッ!ムーッ!・・・」
少女が轡の奥でくぐもった悲鳴を上げ、クリスの腕から逃れようと必死に身をもがき始めた。
涙の溜まった両目が、極限の恐怖のため一杯に見開かれている。その忌まわしい薬をこれ以上打ち込まれたらどうなるのか、彼女は本能的に悟っているようであった。
「おいおいクリス、短気はつまらんぞ。その娘は高く売れる。砕いちまってはブチ壊しじゃ!」
ドアの隙間から顔を突き出し、やれやれという調子でなだめにかかったアゲットに、クリスは怒気鋭い目を向け、
「あんたは引っ込んでなよアゲット!今度こそ、この強情な小娘どもに思い知らせてやるんだ。どんなに血の巡りが悪い身の程知らずでも、これを見れば一発で気が変わるだろうからね。さあ、いくよッ!」
言うが早いか、クリスは注入器を少女の右の乳房の上に押し当て、グイと力を込める。
「んッグゥゥゥゥゥーッ!・・・・」
恵麻里たちが思わずビクリと背をすくませたほど、まるで獣さながらの唸り声を轡の奥で上げ、少女は汗に濡れた裸身を強く弓なりにした。
「ああっ、ホントにやっちまった!・・・」
アゲットが叫ぶように言い、思わず室内に身を乗り出す。
硬直したまま瘧(おこり)のようにブルブルと痙攣していた少女の裸身は、数秒もすると急速に弛緩を始め、やがてクリスの腕の中でダラリと伸びきった。
「うァ・・ァアあ・・・」
くぐもった呻き声が洩れ、見開いた目の端から涙がこぼれ落ちる。その瞳は一瞬の間に、まるで霞がかかったかのように輝きを無くしていた。
「一丁上がり・・・」
声もなく見つめる恵麻里に向かってクリスが酷薄な調子で言い、少女の身体を縛めている拘束具を外し始めた。
ジットリと湿った手枷、足枷、そして棒状の轡が次々と取り外され、床の上に置かれたが、少女は自由になったはずの身体をピクリとももがこうとしない。まるで壊れたマリオネットのように、目を虚ろに開いたままクリスのなすがままになっていた。
「これが許容量を超えたゾニアンを注入された者の末路・・・つまり『砕けちまった』状態さ・・・」
クリスが少女の短髪を撫でつけながら言った。
「聞いたことがあるだろう?ゾニアンには、いっぺんに多量を投与すれば脳障害を起こす作用があるんだよ。・・・この娘のおつむはこれで一生クルクルパーさ。どんな治療を施してももう治らない。セックスのことしか考えないし考えられない、獣以下の卑しい生き物になったのさ!」
「そ、そんな・・・まさか・・・・」
あまりの事態に声を震わせる恵麻里に、少女はぼんやりと焦点の定まらない視線を向けた。その表情からは、クリスの言葉通り、人間らしい知性の色がすっぽりと欠落している。
「うふァ・・・・」
口元に薄笑いが浮かび、同時に驚くほど大量のよだれが溢れ出して、顎から胸元をベトベトに汚してゆく。少女は完全に痴呆状態になっていた。
「これほどの美形を砕いちまうのはもったいなかったけれど、この際仕方がないわ。こういう商品が『お好み』だという変わった客もいるから、まあ売れないこともないでしょう。・・・さて・・・・」
クリスは少女を床に寝かせると、すぐ側にうずくまっている静音を振り返る。
「!・・・・」
静音はクリスの視線にハッと身をすくませ、あわてて部屋の隅へと後ずさろうとしたが、たちまち首輪に繋がれた紐で手繰り寄せられ、背後から抱え込まれてしまった。
「今度はお前の番だね。覚悟はいいかい?ええ、静音ちゃん?・・・」
押し殺したような声音で言い、クリスは右手に持ったゾニアンの注入器をヒラヒラと振って見せた。
注入器にはすでに新たなアンプルが差し込まれ、注入量の調節ダイアルが最大の位置に回されている。
「むッ、むァァァァーッ!・・・・」
静音が轡の奥で激しい悲鳴を上げ、狂ったようにその裸身をもがき始めた。
何とかクリスの腕の中から逃れようとするのだが、縛められ、薬に冒された無力な身体ではどうにもならない。逆にガッチリと抱きすくめられ、首筋に注入器を押し当てられてしまった。
「ジタバタするんじゃないよ!さっきまでの勇ましさはどうしたんだい?何をされようが耐え抜く覚悟だったんだろう?その意地を通して『砕け散る』んなら本望じゃないか」
「むァッ、むふァーッ!・・・」
クリスの揶揄に、静音の絶叫が一段と激しくなる。
どんな仕打ちにも音を上げないという彼女の決意は、今や脆くも崩れさっていた。人が一瞬にして廃人と化す様を目の当たりに見せつけられたのだからそれも無理はない。
(次には自分もこうされるのだ!)
という凄絶な恐怖感が、静音を完全なパニック状態に陥れていたのである。
「やッ、やめてェーッ!」
堪りかねたように、恵麻里が悲痛な叫び声を上げた。
「静音を放してあげて!それ以上薬を打ったりしないでッ!」
「やかましいね!今さら何だい?」
クリスはフンと鼻を鳴らし、
「マヌケめが。お前はそこでじっくりと見物していればいいんだよ。つまらない意地を張った代償が、どれ程高価く付くのかをね・・・」
注入器を握る手に力がこもる。
「最大量の8目盛り・・・。一息にこれだけのゾニアンを投与されれば、脳の配線はズタズタさ。イカレちまった頭で存分に後悔するといいわ」
「むファアア・・・・」
絶望に満ちた泣き声を洩らし、静音が溺れる寸前の人のように頭を仰かせた。
大量の新たな涙、よだれ、そして鼻水がはしたなく溢れ出て、白く美しい顔をドロドロに汚してゆく。大きな灰色の瞳は、恐怖のあまり今や小さく縮みきったようになっていた。
「やめて!お願いだからッ!」
最愛の友が死よりも恐ろしい地獄へと落とされかかっているのを眼前にして、恵麻里の哀訴は金切り声に近くなった。たとえ自分はどうなっても、これ以上静音を恐怖の縁に置くわけにはいかなかった。
「私があなたたちの言うことを聞けばいいんでしょう?聞くわ!何でも言うことを聞くから!・・・」
股間の淫靡な感覚も忘れ、前のめりの上体を狂おしく揺すりながら、ついに心底からの服従の叫びが口をつく。我知らずのうちにひざが折れてゆき、恵麻里はいつしか這いつくばって床に頭をこすりつけていた。
「こ、この通りです!どんなことでもやります!非合法な仕事を手伝えと言うならそうしますッ!だから・・・お願い・・・どうか静音をォオ・・・・」
言葉の最後は、絞り出すような嗚咽に変わってゆく。
「ほほォー・・・・」
振り向いたクリスの顔に、あの勝ち誇ったような嬌笑が再びゆっくりと広がってゆくのを、恵麻里は見た。その笑顔は再び溢れだした涙の中で大きく歪み、ユラユラと幻灯のように揺らめいていた・・・・。
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